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『万引きの文化史』(レイチェル・シュタイア、黒川由美:翻訳) [読書(教養)]

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 2000年から2004年には、スリや自転車泥棒など、ほかの窃盗件数は減ったのに、万引きだけは11.7パーセントも増加した。(中略)2009年の万引き件数は前年比で8パーセント近く増えた。
--------(中略)
万引き犯罪の検挙者数は2700万人にのぼり、総人口の9パーセントを占める。(中略)万引き経験のある人は11パーセントで、10パーセントの人々が生涯、万引きをやめられないと答えた。
--------(中略)
 さらには、実際の万引きがもっと多い可能性もある。NASPの報告書は、店の警備で万引きが発見される割合は48回に1回、警察へ通報される割合は50回に1回だと推定している。
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単行本p.12、13


 それは犯罪なのか、窃盗症(クレプトマニア)という病気なのか、それともカウンターカルチャー運動の一種なのだろうか。最も広く普及している窃盗行為である万引き。その歴史と現状を明らかにする一冊。単行本(太田出版)出版は2012年10月です。


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 犯罪と病気との線引きが曖昧なために、万引きはさらに誤解を受けやすい。万引き犯が“窃盗症”患者である割合は0~8パーセントというのが一般的な見解であるが、患者数はそれよりはるかに多いとする専門家もいる。その一方で、窃盗症と呼ばれている人はすべて、いわゆる“万引き依存症”にすぎないとする意見もある。
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単行本p.14


 驚くほど蔓延しているにも関わらず、誤解が多い犯罪。万引きについて様々な角度から探求してゆく本です。万引き犯、警備員を含む多数の人々への直接取材により、万引きの歴史と現状が明らかになってゆきます。

 まず、そもそも万引き犯というと、どんなイメージが浮かぶでしょうか。性別は? 人種は? 収入は?

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 万引きはいっこうに減らない。黒人も白人も万引きをする。移民であれ生粋のアメリカ人であれ、男でも女でも、若者でも高齢者でも、さらには、金持ちでも貧民でも、信仰があってもなくても万引きをする。
--------(中略)
 しかし、本論で述べるように、富裕層と貧困層、黒人と白人とでは、同じ罪に対して下される判決の違いには根強い偏見があることがわかるだろう。
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単行本p.17、18

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 万引きには500年以上もの歴史があるが、疾病とみなすにしろ犯罪とみなすにしろ、近年まではおもに女性がするものと考えられていた。ところが1980年代から事情が変わってきた。男性万引き犯が増えた一方で、窃盗症と診断される女性も増えているのだ。
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単行本p.114

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アンケートに回答した万引き経験者は若者と白人が圧倒的に多かったのに対し、裁判記録にある万引き犯は、非常に高齢か非常に若いヒスパニック系とアフリカ系の男性が多かった。
--------(中略)
〈メーシーズ〉百貨店は州検事総長事務局に60万ドルの制裁金を支払った。捜査の結果、この百貨店では多くの州の大多数の店舗と同様、“非白人”の顧客の割合は全体の10~12パーセントにすぎないのに、拘留された万引き犯の75パーセントが非白人だったことが判明したからだ。
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単行本p.125


 まず万引き犯の性別や人種、社会階層によって、そもそも警察に突き出すか否かの判断が違ってくるようにも思われます。「根強い偏見」がそこにはあるのでしょう。

 万引きは、生活が苦しくてやってしまう犯罪なのでしょうか。本書に登場する万引き犯には、元ミスアメリカの美人女優や、大統領補佐官の地位にあったアフリカ系アメリカ人など、少なくとも経済的には、万引きに手を出す必要などまるでない裕福な人々もいます。

 その一方、万引きした商品の転売で生活する職業的万引き犯(ブースター)も登場します。

 世界中で最も多く万引きされているのはヒゲソリの替え刃、キリスト教信仰の篤い地域(バイブル・ベルト)でもっとも多く万引きされているのは聖書、など万引きのターゲットになりやすい商品(ホット・プロダクト)に関する意外な情報も。

 万引きが激増している原因については、様々なことが言われて来ました。


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 1960年~70年代までは万引きはおもに若者の反逆行為とみなされていたが、このころから女性解放運動に非難の矛先が向けられるようになった。マスコミはマイヤーソンを、「フェミニズムの影響で専業主婦の幸福をつかみそこね、その埋め合わせに万引きへ走った更年期女」と酷評した。こうした報道は、窃盗症を欲求不満解消のために盗みに走る女性の病気とした19世紀の古い決まり文句を復活させる。
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単行本p.198


 「社会に不満を持つ若者の反逆」「フェミニズムの弊害」「欲求不満の年増の腹いせ」など、万引き増加の原因について目茶苦茶なことが言われていたというのはショックです。まあ、いつだって……。

 実際の万引き犯にインタビューした部分は本書の読み所の一つで、その生々しい証言には強い印象を受けます。


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 よくないことをしているという実感と、店主や店員をだしぬく優越感がたまらなかった。歳を重ね、腕をあげればあげるほど、もっと高価な物、もっと難しい物を盗まずにはいられなかった……より大きな快感を得るにはそうするしかなかったからだ。
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単行本p.174

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気持ちが浮きたってぞくぞくした。晴れ晴れして……何年も感じたことのない満ち足りた気分になれた
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単行本p.176

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心臓がどきどきする。顔がほてる。万引きすれば興奮が鎮まるとわかっているから、鎮めたくてたまらなくなる。実際に万引きする何時間も前から興奮状態になるときもあれば、思いついてほんの数分で何も手につかなくなり、店へ行ってしまうときもある。
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単行本p.180

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自分が本当の自分とつながったみたいで、戦慄が走る。“これをください”と言って買ったのではパワーが弱まってしまうわ。盗むからこそ、自分が実際よりえらくなったような、やっと本当の自分になったような気分になれるのよ。盗む行為と盗みそのものに取り憑かれてしまうのね。時間がたてば盗んだ物の価値が薄れるから、またやらずにはいられなくなるけれど
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単行本p.184

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自分がどれほど激しくこの衝動に翻弄されているか、発言していかなくてはなりません。この衝動がどんなに恐ろしく、どんなに強力で、どれほど私たちの人生をめちゃくちゃにし、どんなに破壊的なものか、そしてこれをまったくコントロール不能だと感じている絶望感を人々に伝えていかなければならないのです
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単行本p.292


 窃盗症(クレプトマニア)とは別に、万引き依存症(ショップリフティング・アディクト)という分類が提唱されたのもよく分かる強烈な証言の数々。

 こうして万引き犯は、アマチュア、プロ(ブースター)、窃盗症、万引き依存症、という四つのカテゴリに分類されることになります。

 万引き依存症治療のための団体、LPエージェント(昔でいう警備員)と万引き犯との「戦争」激化(しばしば実際に死者が出る)、監視カメラや盗難防止タグなど万引き対策技術の発展、ついには「店の多数の監視カメラ映像をリアルタイムにインターネットに流し、万引き行為を見つけて通報した視聴者には謝礼金を出す」といった対策まで、万引きをめぐる最近の状況についても詳しく紹介されます。

 万引きという「ささいな」犯罪が、店にどれほどの経済的ダメージを与えるか、また犯人の人生を破滅させてしまうか、その悪影響の大きさには驚くばかり。全米総人口の9パーセントが手を出す犯罪を、他人事だと見なしたり、社会問題として大袈裟に語る必要はないと思ったりするのは、危険な間違いだということが分かります。

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かつてタブーとされてきた話題を率直に書いたり語ったりするのは大胆で勇気があるとみなされる現代にあっても、日用品を店から盗むのは依然として言葉にできないほど恥ずかしい行為だと考えられている。それなのに、いまだになくならずに残っているのが万引きなのかもしれない。それは、誰もが口を閉ざそうとすることで増殖する静かなる伝染病である。
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単行本p.299


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『SFマガジン2014年11月号 特集:30年目のサイバーパンク』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年11月号はサイバーパンク特集ということで、海外短篇を3篇、翻訳掲載してくれました。


『パパの楽園』(ウォルター・ジョン・ウイリアムズ、酒井昭伸訳)

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「この計画はね、莫大な利益につながる可能性があるのよ。世の中の人々は完璧な子供を育てたいの。悪い影響から隔離して、暴力と無縁の状態で育てたいの」
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SFマガジン2014年11月号p.32

 おとぎの国めいた無邪気な世界で家族と一緒に楽しく暮らしている少年。だが、次第に「妹」の様子がおかしくなってゆく。外見は変わらないのに、自分より早く成長してゆくように思えるのだ。

 徹底的に無害化された生育環境に閉じ込められた子供の悲劇。極端な育児パターナリズムがサイバーテクノロジーと結びついたときに引き起こされる事態を風刺した短篇です。


『水』(ラメズ・ナム、中原尚哉訳)

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 まわりからはその他さまざまな広告が、通行人たちのネットワーク化された脳に働きかけている。(中略)利益獲得可能性の最大化は、現代のミネラルウォーターのボトルにとってつねに最優先の課題なのだ。
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SFマガジン2014年11月号p.40、44

 身辺のあらゆるモノがセンサと無線アクセス機能を備え、自らを売り込むスマート商品と化した社会。脳インプラントには全感覚没入タイプの広告が絶え間なく流れ込み、人々の欲望をひたすら刺激し続ける。広告を遮断するためには、莫大なお金を払わなければならないのだ。

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なにかまちがってると思わない? インプラントを安価に手にいれるために、脳に広告を挿入することを承諾するなんて
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SFマガジン2014年11月号p.38

 IoT技術によるスパム広告に支配された未来社会を描く短篇。メガコーポに対して攻撃を仕掛けるスーパーハッカーというプロットは古めかしいサイバーパンクそのものですが、現代的な問題意識と軽快なノリで大いに楽しめます。今回の翻訳作品のうちでは個人的に最もお気に入り。


『戦争3.01』(キース・ブルック、鳴庭真人訳)

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 その時、戦争ははじまった。そしてその時終わった。
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SFマガジン2014年11月号p.55

 勃発から終戦までわずか数ミリ秒で完結した現代の「戦争」。しかし、それは誰にとっての戦争なのか。本当に私たちは敗北したのだろうか。

 誰もが高度にパーソナライズされた拡張現実を生きている時代の「戦争」のあり方を通じて、フィルタリングされた情報のみに接することからくる現実感覚の希薄化や偏見の先鋭化といった現代の病理を風刺した短篇。


タグ:SFマガジン
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『魔女の世界史』(海野弘) [読書(オカルト)]

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 20世紀の新しい魔女の運動が大きな大きな波となるのは、1970年代である。ニューエイジ、フェミニズム、ネオペイガニズム(新異教主義)などの中で、新しい魔女のカルト、結社が活発に動きはじめる。
 新しい魔女運動は、パンク・ロック、ゴシック、ファッション、SF、コミックなどへと波及し、サブカルチャー、カウンター・カルチャーの世界をつくり上げる。
--------(中略)
 それらのさまざまな現象は、これまでばらばらに扱われてきた。私はそれを〈魔女カルチャー〉として一つにくくってとらえてみたい。
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Kindle版No.169、174


 19世紀末に現れた新しい魔女のイメージは、フェミニズムやニューエイジ、近代オカルティズムとも連動しながら、70年代に新魔女運動(ネオペイガニズム)として花開いた。その影響は〈ゴス〉文化を通じて現代にも息づいている。現代〈魔女カルチャー〉の起源と変遷を追った一冊。新書版(朝日新聞出版)出版は2014年7月、Kindle版配信は2014年9月です。


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 かつて魔女はおぞましい、醜悪なイメージをして描かれていた、それはある紋切り型の姿の繰り返しにすぎなかった。だが〈世紀末〉は、そのおぞましさを描きながらも、誘惑的で、魅惑的な姿として登場してくるのだ。
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Kindle版No.164


 近代オカルティズム、ニューエイジ思想、フェミニズム運動、ネオペイガニズム、SFファンダム、パンクロック、〈ゴス〉カルチャー。これまで個別に(そしてしばしば男性中心に)語られてきた様々なサブカルチャー、カウンターカルチャーの歴史を、それらを相互に結びつけてきた女性中心の異端運動〈魔女カルチャー〉を中心に眺めてみる力作。

 全体は4つの章から構成されています。

 最初の「第一章 世紀末----魔女の図像学の集成」では、19世紀末に魔女の図像学が形成されたことを解説します。ここに現代〈魔女カルチャー〉の起源が置かれるのです。


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写真という複製的、視覚的メディアと汽車、汽船といった交通技術によって、世界中の、あらゆる時代のもののイメージを集めることが可能となった。
--------(中略)
 それによって、19世紀末に、魔女の図像学が形成された。そのことがなにを意味するかというと、世界中の魔女のイメージを、画家やデザイナーが自在に引用して使えるようになり、〈魔女〉は、世界の共通の視覚言語として表現できるようになったのである。
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Kindle版No.338、342


 画一的で紋切り型の古くさい森の老婆から、例えば男を誘惑して破滅させる美女といった新しいイメージへ。様々な芸術や文学に題材として取り上げられた新しい魔女のイメージは、やがてキリスト教文化圏においてそれまで抑圧され無視されてきた女性たちが、自らを解放するための武器となってゆきます。

 続く「第二章 新しい魔女運動」は本書の中核となるパートで、1970年代の新魔女運動の大きな流れを解説します。

 まず、フェミニズム、魔女研究、近代アートという三本の糸が合わさって下地が作られてゆき、やがてウーマン・リブ(女性解放運動)が新しい魔女を生み出してゆきます。


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60年代の反体制運動、ビート・ジェネレーション、学生の反乱、ヒッピー運動の中でフェミニズムが点火され、魔女が目覚めるのである。
--------(中略)
1970年代の〈魔女〉はフェミニズム(政治的で、社会に働きかけ、オープンである)と新魔女運動(閉鎖的な信仰グループ)の両極とその中間という三つのグループに大別される。中間グループは学術、芸術を通して両者をつないでいる。
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Kindle版No.1222、1310


 これまで別々の文脈で語られてきたフェミニズム運動と新魔女運動。両者の間にフェミニストアートを置いてみると二つの運動が切り離せないほど密接につながっていることが明らかになる、という指摘には強い説得力が感じられます。

 そしてまた、新魔女運動とサブカルチャーとの結びつきについても解説されます。


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 歴史的に暴力による傷(肉体的であり精神的である)に悩んできた女性は、〈癒し〉を求めていたのである。
 かつてそのような〈傷〉は、古代の女神、中世の魔女によって癒されてきた。そして〈ニューエイジ〉において、魔術的な癒しの復活が望まれたのである。
--------(中略)
〈ニューエイジ〉は、1960~70年代のドラッグ・カルチャー、サイケデリック・アートなどのサブカルチャー、アングラ文化と重なっている。この雑多で曖昧なくくり方は、1970年代の魔女カルチャーがフェミニズムに接しつつ、もう一方でサブカルチャーに深く根を下ろしていることを明らかにしてくれる。〈魔女〉はサブカルチャーの中を縦横に飛びまわり、独自のカルチャーを形成していく。
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Kindle版No.1329、1336


 こうして、70年代には様々な魔女カルトが台頭します。それらの母体となったのは、近代オカルティズム秘密結社でした。


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 19世紀末の英国を中心とした秘密結社“黄金の夜明け団”はフリーメーソンや薔薇十字会など古くからの秘密結社の統一または混合であった。そしてここからさまざまなグループが分かれてゆく。最も過激なアレイスター・クロウリーは、ジェラルド・ガードナーに大きな影響を与え、ガードナーは新魔女運動(ネオペイガニズムまたはウィッカ)の先駆者となった。
--------(中略)
ウィッカのグループは〈ニューフォレスト・カヴン〉といわれ、第二次大戦下でひそかにつづけられていた。
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Kindle版No.1430、1455

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 もう一つの別なルートを開いたのはダイアン・フォーチュン(ヴァイオレット・ファース)であった。
--------(中略)
 1922年、ダイアン・フォーチュンは〈フラタニティ・オブ・インナー・ライト〉、内なる光の同胞団(内光協会)をつくった。このグループはイギリスでかなり大きくなり、いくつかに分裂した。その一つは〈ペイガン〉を名乗った。
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Kindle版No.1433、1438

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コ・メーソンズも新魔女術運動の起源の一つとなった。女性も入れるメーソンはアニー・ベザントによってフランスからイギリスにもたらされた。神智学にいたアニーは、ブラバツキー夫人の後継を争って、C.W.リードビーターに敗れたので、コ・メーソンズで活動した。
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Kindle版No.1441


 新魔女運動、ネオペイガンを中心に近代オカルト史を再整理してみると、これまでのオカルト史がいかに男性中心主義にとらわれていたかが痛感されます。

 個人的には、ネオペイガニズムとSFとの関係について、興味深く読みました。


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 SF文学の発達は、新魔女運動への大きな刺激となった。なぜなら、地球上の今の生活だけでなく、さまざまな別世界、パラレル・ワールドについて想像することは、今の生活のルールが絶対的ではなく、相対的であることを考えやすくしたからである。それは現実に縛りつけられていた想像力を解放した。
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Kindle版No.1600


 SFファンダムから実際に異端教会が作られ、それが新魔女運動の様々なグループを結びつけていた、といった話には、どきどきさせられます。


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最初はSFマニアの集まりだったが、1968年、ゼルたちは、ガードナー派のボビー・ケネディ、キャロライン・クラークなどに出会い、クラフトのシステムを学び、ウィッカとハインラインのリバタリアン哲学を結びつけ、勢力を広めた。彼らの関係誌“グリーン・エッグ”は1971年から76年にかけて、ネオペイガンの交流誌として読まれた。
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Kindle版No.1576


 ウィッカとハインラインという組み合わせにはびっくり。新魔女運動があらゆる周辺文化を吸収してゆくそのパワーが印象的です。こうして、巨石遺跡を崇めるドルイド復興運動、北欧神話のオーディンを崇拝するオーディニストなど北方ゲルマン系ネオペイガン、といった具合に、どんどん「習合」して多様性の幅を広げてゆきます。


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 ネオペイガンは、あくまで、ヨーロッパ、アメリカを枠づけてきたキリスト教神学への反抗であった。
 ルイスが指摘しているのは、1970年代のネオペイガンは、自分の派以外の、反キリスト教勢力の組織と連帯する道を開いたことである。それまでの薔薇十字やフリーメーソンなどのオカルト派は、それぞれ孤立し、連帯することはなかった。
--------(中略)
〈ニューエイジ〉の時代には、さまざまな団体、組織、グループがあらわれたが、メンバーはかなり重なっていた。つまり一人であちこちの会に入っているケースが多かったのである。
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Kindle版No.1679、1684


 複数の秘密結社やカルトを掛け持ち活動してもOK、というかむしろそれが普通。その緩さというか、おおらかさというか、コミュニティと連帯を重視する姿勢には驚かされます。

 その後、シャーマニズム(託宣、憑依、チャネリング)が加わり、またヴードゥーなど南米民間宗教が取り入れられたりと、新魔女運動は発展というか混沌を深めてゆくのですが、このあたりで次の章の紹介に進みたいと思います。

 「第三章 ゴス----現代の魔女カルチャー」では、現代の魔女カルチャーとしての〈ゴス〉に焦点が当てられます。


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 21世紀には、〈ゴス〉といわれる、雲のように曖昧なサブカルチャーが漂っている。それは私の考える〈魔女カルチャー〉の核ともいえる現象なのである。
--------(中略)
私は〈ゴス〉を、新魔女運動が、サブカルチャー、さらにはポップ・カルチャーに展開されたものと考えている。
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Kindle版No.1783、1946


 現代の新魔女運動、〈ゴス〉はどのような歴史を持っているのでしょうか。


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 グラム・ロックは、セックスとジェンダーの常識を覆えそうとした。〈ゴス〉は、パンクの中でも、グラムのその点に強く反応した部分であり、その意味で、1970年代の新魔女運動の中にあったのである。
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Kindle版No.1868

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〈ゴス〉は、1970年代のパンクから出発するが、一旦消えかけて、1990年代後半からインターネットというニューメディアの時代の中で復活するのだ。
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Kindle版No.1847

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〈ゴス〉は雲のように輪郭が曖昧で、掴みどころがない。融通無碍でなんでも吸収できる。その特徴によって、一方では、サブカルチャー的、アングラ的で、反主流的なところがある。たとえば、性の区別も曖昧で、両性的、同性的、倒錯的で、妖しい魅力を放っている。しかしその一方、サブカルチャーであるのに、商業化、大衆化されて、メインストリームと対抗するような一般的人気を博す面もある。
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Kindle版No.1850

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それでも〈ゴス〉は反体制的なサブカルチャーであることを深く意識している。なぜなら〈ゴス〉は魔女の文化であり、男性中心のメインストリームへの反抗の姿勢を持っている。
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Kindle版No.1859


 こうして、インターネットを利用して復活した現代の新魔女運動である〈ゴス〉は、カウンター・カルチャーでありながら大衆文化に強い影響を与えて広がってゆきます。新魔女運動は消えたのではなく、今もなお発展し続けているのです。

 最終章「第四章 新魔女100シーン」では、文学、アート、ファッション、ゴスなど、様々なカルチャーを代表する世界中の「現代の魔女」を100名取り上げて紹介します。本書を読んで〈魔女カルチャー〉に興味を持った方は、ここを出発点にして学んでゆくとよいでしょう。

 なお、100名のうち、人形作家として取り上げられているのは一人だけです。


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〈人形〉はゴスの重要なアイテムの一つである。人の形をした人でないものは、西洋人形からロボットまで、超自然的なものへの想像をかきたてる。可愛いが怖い人形が夢魔のように彷徨っている。パラボリカ・ビスで開かれた林美登利個展でもそのような異形人形が見られた。あどけない女の子の唇が針金で閉じられている。「ドリーム・チャイルド」と題されている。
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Kindle版No.2306


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『病気になるサプリ 危険な健康食品』(左巻健男) [読書(教養)]

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 本書に書かれているような情報は、今までほとんど消費者の目に触れることはありませんでした。私は日本のサプリメントが問題ばかりだといっているわけではありません。広告情報からだけでは見えない情報がたくさんあります。まずはそのことを知っていただきたいと思っています。
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Kindle版No.1719


 今や年間売り上げ規模2兆円に迫る巨大産業と化し、50代以上の約3割が「ほぼ毎日摂取している」というサプリなどの健康食品。しかし、それらに効果があるという証拠はなく、逆に健康被害は確実に起きている。サプリや健康食品業界の危険な内幕を明らかにする一冊。新書版(幻冬舎)出版は2014年7月、Kindle版配信は2014年9月です。

 サプリや健康食品の危険性を明らかにする本。全体は7つの章から構成されています。

 まず最初の「第1章 健康食品・サプリが人を殺す」では、サプリや健康食品による健康被害の事例が紹介されます。


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 世間には「健康食品・サプリは薬ではなく食品だから安全」というイメージが浸透しているようですが、実際には数多くの健康障害報告があります。
 一般に安全とされているサプリであっても、適切な摂取量が守られていなけれは健康障害が起こる可能性があります。
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Kindle版No.138


 「必須アミノ酸の過剰摂取で死者38名、被害者6000人」「半年で58人が死亡したダイエット飲料」「カプセル状サプリで急性肝炎29人」などの見出しがずらずらと並び、背筋が寒くなります。

 意外なのは、健康被害報告数で最も多いのが、馴染み深いクロレラやウコンだという事実。摂取している人が多いためでしょう。健康食品やサプリは、どんなに有名で普及しているものであっても、決して安全とは言えないことが分かります。


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 健康食品・サプリ・民間薬でもっとも多く報告される健康被害は、肝機能障害です。異物を分解、解毒する肝臓のはたらきが影響を受けるのです。
 原因物質としてはやせ薬の被害が多いのですが、単一の成分としての報告は、俗に「肝臓によい」といわれるウコンが一番多いのです。
 1994~2003年に日本で発生した、やせ薬以外の健康食品・民間薬による薬剤性肝機能障害の4分の1を占めています。
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Kindle版No.241


 続く「第2章 なぜ健康食品・サプリは危ないのか」では、サプリ等についてはそもそも安全性を保証する仕組みがないことが解説されます。


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 健康食品・サプリも、保健機能食品も、法的にはあくまで食品のなかまであって医薬品ではありません。
 つまり、有効性と安全性の科学的な根拠がなくても、販売できてしまうのです。
 また医薬品と違い、健康食品・サプリは、品質の均一性、再現性、客観性、純度が保証されていません。
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Kindle版No.338

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 多くのメーカーは自前の工場をもっておらず、健康によさそうなイメージのある成分を委託先の工場につくらせます。次に医学博士号をもった健康評論家先生にそれをもち上げる原稿を書かせます。それを健康雑誌や女性誌、テレビが取り上げるようにもっていきます。
--------(中略)
 国内で、健康食品・サプリをつくっている工場は4000~5000か所あるようですが、そのうちGMP(医薬品レベルに準じた管理基準)で製造している工場は120か所程度しかありません。
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Kindle版No.373、395


 安全性の保証がなく、効果・効用を保証する必要もない。本やTV番組を使って流行を作り出し、広告だけで売ってしまう。こうしたサプリや健康食品の危ない実態には、不安を禁じ得ません。

 続く「第3章 恐怖のダイエットサプリ」「第4章 間違いだらけのアンチエイジング」「第5章 抗がん健康食品・サプリの罠」では、それぞれのカテゴリに分類されるサプリ・健康食品・健康法を具体的に取り上げ、それぞれ効果はない(あるという証拠がない)のに危険性は高い、ということを明らかにしてゆきます。

 「第6章 健康食品・サプリの正しい選び方」では、何を頼りにしてサプリや健康食品を選べばいいのかを考えてゆきます。「体験談」や「バイブル本」はまったく信用できない、「トクホ」に期待するな、など。また、気をつけるべきキーワードが示されます。


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「好転反応」に科学的根拠はありませんので、商品説明の表現として好転反応をうたうものには十分注意しましょう。
--------(中略)
 毒になる健康食品・サプリがあり、肝機能障害やアレルギーなどの健康障害が起きる場合もありますから、摂取していて体調が悪くなった場合には、すぐに使用を中止すべきです。
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Kindle版No.1183、1187


 「第7章 健康常識のウソ・ホント」では、健康食品やサプリから少し外れて、世間に広まっている信用できない健康商品をやり玉にあげてゆきます。

 取り上げられているのは、マイナスイオン、波動商法、経皮毒、ゲルマニウム、岩盤浴、デトックス、リノール酸、酸性食品・アルカリ性食品、栄養ドリンク、ニンニク注射、など。さらには有機農作物や国産作物の安全性、白砂糖有害論、コーラを飲むと骨が弱くなる説、などの俗説についても解説されます。

 付録として、医者から見たサプリメント情報の問題点を指摘する特別寄稿、そして人気サプリの評価(グルコサミン、コラーゲン、各種ビタミン、青汁、カルシウム、ヒアルロン酸、DHA、ローヤルゼリー、ブルーベリー、コエンザイムQ10、食物繊維、乳酸菌、ニンニク、ウコン、黒酢、亜鉛、アミノ酸、葉酸、EPA、ルテイン、プラセンタ、マグネシウム、イチョウ葉、鉄、パントテン酸、大豆イソフラボン)が掲載されていますので、自身が摂取または気になっているサプリ成分について確認してみるとよいでしょう。

 結論は簡単です。栄養バランスのよい食事と適度な運動を心掛け、身体が不調になれば医者にかかる、というのが最も信頼性と効果の高い健康法であり、医者の指示がない限りサプリや健康食品に手を出すべきではない。当たり前のことです。しかし、人の心は弱いもの。この当たり前のことを守るのが難しいわけです。

 というわけで、サプリや健康食品に頼る前に、せめてその問題や危険性については知っておくべきではないでしょうか。


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『土漠の花』(月村了衛) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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通信手段はすべて奪われている。敵の急襲に連絡する暇さえなかった。真相は闇の中だ。相手は全部計算の上でこの国際的暴挙を実行したのだ。
--------(中略)
 武器は残弾数九の89式小銃一挺のみ。ナイフの一本もない。通信機も携帯端末もすべて取り上げられた。しかもいつまた敵が襲ってくるか分からない。
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単行本p.23、36


 『機龍警察』シリーズを始めとして、『一刀流無想剣 斬』『黒警』『コルトM1851 残月』など痛快娯楽小説を次々に発表している著者による、ソマリアで紛争に巻き込まれた自衛隊員の壮絶な戦いを描いた長篇。単行本(幻冬舎)出版は、2014年9月です。


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 それがアフリカの現実だ。最早他人事でもなんでもない。自分はこの地で、彼らと同じく、大切な人々を失った。皮肉なことに自分は----日本の自衛隊は、今初めて彼らの痛みを共有した。逆に言うと、分かっているつもりでいながら、これまではすべてが他人事でしかなかったのだ。
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単行本p.168


 紛争地ソマリアで捜索救助任務についていた自衛隊の分隊が、偶然に現地の女性を保護したことから猛烈な攻撃を受ける。急襲を生き延びたわずか数名の隊員は、女性を連れたまま逃避行を続けるはめに。なぜ、どうして救援が来ないのか。このまま自力で拠点まで辿り着かなければならないのか。


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 もしや----もしや自衛隊は自分達を見捨てたのではないだろうか。もしくは、見捨てざるを得ない理由があるのか。
 自分達の知る由もないどこかで、そんな決定が下されている----想像するだに恐ろしかった。
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単行本p.108


 つのる疑心暗鬼。だが思い悩む余裕もなく、背後から、口封じのために彼らを殲滅する必要がある敵兵たちが追ってくる。執拗な攻撃、その圧倒的な戦力差。通信手段も、移動手段も、武器も、水も食糧も医薬品もない彼らの前に無情に広がる土漠。

 「土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える」

 自衛隊がはじめて直面する実戦という極限状況の中で、全員の覚悟が試されようとしていた……。

 というわけで、いつもの通り、圧倒的な面白さを誇るジェットコースター小説です。とにかく展開がスピーディで、始まって10ページ進まないうちに事件が起き、すぐに銃撃戦、格闘戦、カーチェイス、爆発。終わらない危機また危機。薬莢地を埋め尽くし、砲撃大地を揺るがす。はたして徒手空拳の彼らに、この地獄を生き残るすべはあるのか。


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できれば実行せずに済ませたかった危険な賭けだ。しかし最悪をはるかに通り越した現在の状況下では他に手はない。 
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単行本p.263

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何かを躊躇していたら死ぬ。それだけは確信できた。
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単行本p.251、


 ぎりぎりまで追いつめられたわずか数名の自衛隊員が、ソマリア民兵と国際テロ組織戦闘員から構成された敵の大集団を、真正面から迎え撃つ。

 どう考えたって荒唐無稽、しらけてしまいかねない展開なのに、ツボを心得たキャラクター造形、巧みに張られた伏線、滑らかな視点移動などのテクニックを駆使して、そうと感じさせないまま、先へ先へと駆り立ててゆく手腕には舌を巻きます。すごい。

 ここぞという場面で繰り返される「土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える」という言葉が、ラストシーンで、別の、もっと大きな意味を与えられたときには、熱い感動が読者を包むことに。

 というわけで、集団的自衛権の行使容認により自衛隊が海外で実戦に参加する可能性が高まっている現在、これまでもハズレのない面白さで読者を確実に満足させてきた月村了衛さんがタイムリーな題材に挑んだ長篇です。話題の『機龍警察』シリーズが気に入った方はもちろん、痛快な軍事アクション小説を求めている方すべてにお勧めします。


タグ:月村了衛
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