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『日本懐かしオカルト大全』(寺井広樹、白神じゅりこ、並木伸一郎:監修) [読書(オカルト)]

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疑うことを知らない多感な少年たちにとってそれらは、驚きと興奮の連続、そして最高の娯楽だった。
曖昧な存在、不確かな情報に寛容であった時代。
当時の世相を反映しつつ人びとの好奇心をさらった、味わい深い「昭和のオカルト」について振り返る。
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帯のアオリより


 UFO、UMA、幽霊、超能力、超常現象、大予言……。1970年代あたりの何でもアリだった昭和オカルトの世界を懐かしむ。単行本(辰巳出版)出版は2017年12月です。

 日本懐かし大全シリーズの一冊で、すなわち懐かしさを求めて昭和オカルトネタを集めた本です。当然ながら、新しい情報を求めるのは筋違いというもの。

 ただ、個人的にちょっと面白いと思ったのは、著名人たちへのインタビューです。


超常現象研究家 並木伸一郎
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今は何でもパソコンでメイキングできますからね。情報はたくさんあるけれどリアリティがないというのが、現代のオカルトの特徴です。まあ、国際宇宙ステーションがUFOとニアミスして接触するとか、そんなよっぽどすごい事件が起きれば、オカルトに新たな展開があるかもしれません。
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UFOディレクター 「宇宙塾」主催 矢追純一
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地球上に72億人いる中で、自分と同じ人間は1人もいない。自分は72億分の1という貴重な存在なんです。UFOを探すより、自分しか持っていないものを探したほうがいいでしょう?
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漫画家 日野日出志
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私は超常現象は99.9パーセントないと思っています。超常現象を否定するとロマンがないと言われますが、私は科学者の人たちが日々研究を重ねて謎を解明していく作業のほうが、よっぽどロマンがあると思うのです。
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月刊「ムー」編集長 三上丈晴
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――今後の『ムー』の展望があれば教えていただきたいのですが?

 世界征服かな。

――全世界の人を読者にしたいですよね(笑)

 そうなったら世も末ですよ(笑)。真実は日の目を見てはいけないのです。
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UFO 超常現象研究家 たま出版社長 韮澤潤一郎
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「スペースプログラム」というのは、地球全体の進化の計画なんです。ロズウェル事件で墜落したUFOの中に、その原文があったんですよ。それをアメリカの諜報機関が分析したところ、どうやら人類は終末的な最終ステージにきているということがわかった。我々自身も太陽系から入植して来た宇宙人の子孫。だから今、宇宙人は地球人類を救済しに来ているのです。オカルトを一言で言えば、宇宙の仕組みなんです。今、人類は、「宇宙の大きな意志の中の一環として存在している」ということを知る段階にきているんです。来るべき宇宙的危機を乗り越えるためにも、今、我々自身の意識の変化が迫られているのでしょう。
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 さめた、苦笑いめいた発言が続くなかで、ひたすらテンション高く語る韮澤潤一郎さんのぶれなさには感慨深いものがあります。


【主な内容】

「UFO・宇宙人」

・昭和UFO・宇宙人衝撃事件ダイジェスト
・ケネス・アーノルド事件
・ロズウェル事件
・MJ-12発足
・マンテル大尉事件
・プロジェクト・ブルーブック
・世界初のコンタクティ ジョージ・アダムスキー
・「空飛ぶ円盤研究会」発足
・ヒル夫妻誘拐事件
・キャトル・ミューティレーション
・アポロ11号月面着陸成功
・介良事件
・甲府事件
・四国に出現した宇宙人
・「火星人面岩」発見
・日航ジャンボ機UFO遭遇事件

「心霊」

・大霊能者 宜保愛子
・トラウマ心霊番組『あなたの知らない世界』
・心霊番組の先駆者 新倉イワオ
・心霊写真のパイオニア 中岡俊哉
・髪の毛が伸びる不思議な市松人形 お菊人形
・昭和心霊事件簿
・海外の心霊写真
・近代心霊ブームを彩った霊能者たち

「UMA」

・ネッシー
・ニューネッシー
・世界のネッシー大集合!!
・イエティ
・ビッグフット
・ツチノコ
・ヒバゴン
・懐かしUMA大集合!!

「超常現象」

・ミステリー・サークル
・ピラミッド・ミステリー
・ナスカの地上絵
・バミューダ・トライアングル
・秋田の涙を流す聖母マリア

「超能力」

・ユリ・ゲラー
・“ゲラー・ショック”空前の超能力ブーム到来
・昭和超能力ブームを彩る超能力者たち

「予言」

・世紀の大予言者ノストラダムス
・ファティマの予言

「メディア」

・テレビ番組
・映画
・漫画
・児童書
・雑誌

「都市伝説・怪談」

・三大都市伝説 口裂け女/首なしライダー/人面犬
・コックリさん
・テケテケ
・ムラサキカガミ
・道了堂跡
・深泥池
・青山霊園
・羽田空港赤鳥居
・鈴ヶ森刑場跡
・ホテルニュージャパン跡地
・掛け軸に描かれた生首

「コラム」

・ナチスとUFO
・アイドルの幽霊
・日本のミイラ
・歩くモアイ像
・火星を遠隔透視
・昭和の2大予言者

「インタビュー」

・超常現象研究家 並木伸一郎
・UFOディレクター・「宇宙塾」主催 矢追純一
・UFO超常現象研究家・たま出版社長 韮澤潤一郎
・漫画家 日野日出志
・月刊『ムー』編集長 三上丈晴

「鼎談」

・昭和オカルトから読み解くオカルトの未来


タグ:並木伸一郎
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『journey knowledge 台湾旅行情報2018』(千屋谷ユイチ) [読書(教養)]

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検索サイトで無駄に上位にいるくせに中身のない某知恵袋や、肝心な情報が書かれていない個人ブログ等を延々と検索し続けるのが嫌になったのが制作動機です。著者自身で利用することが主目的なため情報に偏りがあります。
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同人誌p.3


 市販のガイドブックでは省略されがちな基本情報を、現地調査を行いまとめた台湾旅行情報本の最新版。同人誌出版は2017年12月です。

 更新情報、サンプル、通販リンクなどは以下のページへ。

  journey knowledge台湾旅行情報2018 サポートページ
  http://cytn.info/jktw2018_support/


目次

「入出国」
 査証/護照/入出境/退税/海關

「交通」
 日本―台湾航空路線/台灣國内線/電子票證/高鐵/台鐵/捷運/市區公車/公路客運・國道客運/フリーパス類/區域交通/台北駅周辺 バスアクセスマップ/機場交通/渡輪/計程車/公共自行車/租車

「通信」
 公用電話/國際電話/國際漫遊/預付SIM/公衆上網/郵件/包裹

「その他」
 飯店・旅社/自助洗/便利商店/儲物・行李/地址/貨幣/外幣交換/信用/電力・水/氣候/安全/文化・習慣/日期/假期/語言

「付録」
 トラブルシューティング


 内容全般については前記のサポートページで確認して頂くとして、ここでは個人的に「おおっ」と思った、観光ガイドブックに乗ってない情報(役に立つとは限りません)をいくつか引用しておきます。


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「台北松山機場」

 開港時間が5:00~23:00なので早朝便に合わせての空港泊はできない。台北車站からタクシーを利用すると220元程度かかる。(中略)機場から敦化北路を約3Km南下すると24時間営業の誠品書店敦化店があるので夜明かしに利用できなくもない。
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同人誌p.9


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「水道」

 ガイドブック等では飲用に適さない、となっている。ただ、実際に外に飲み物買いに行くのが面倒で台北市内のドミトリーでコップ2~3杯程度飲んでみたが、何となく金属臭さを感じたものの、それ以降特に体調に変化はなかったので味はともかくとして飲用にしてもそこまで問題ないレベルだと言うのが個人的な結論。
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同人誌p.69


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「立法院・台北市政府・交流協会周辺」

 政治的に面倒な人たちが集まることが多いため、必要がなければ近寄らない方が良い。
 特に立法院周辺はテント村のようなものがあったり、赤い国旗を掲げてうろうろしている人達が多い。
 また、この手の人たちは日本を糾弾対象にしていることが多いため、拡声器で罵声を浴びせてくることもある(大抵は中国語で叫んでいるが稀に怪しい日本語で叫んでくることも)。直接絡んでくることはこちらが抗議や反撃に及んだりしなければまずない。
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同人誌p.70


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「颱風(台風)」

 台湾人は台風慣れしすぎていて逆に防災意識が低くなっているという指摘もあるので(現に停班停課を利用して屋内の娯楽施設へ向かう人は多い)、人が出歩いているから大丈夫とは限らないので台風来襲中に外出しなければならない場合は細心の注意を払う必要がある。
 繰り返しにはなるが、建物のメンテナンスが甘く、建て付けの悪い看板などが街中を飛び交うことも多い。
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同人誌p.72


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「語言」

 実際のところ「悠好」「謝謝」「對不起」の挨拶や返事と「没有」が聞き取れれば大きなトラブルにでも巻き込まれない限り何とかなってしまうことが多い。
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同人誌p.74



タグ:同人誌 台湾
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『イヴのいないアダム』(アルフレッド・ベスター、中村融:編) [読書(SF)]

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「そうですね、その新鮮な題材に飽くなき飢えをいだいているという点ですが、なぜほかの作家のように自分の知っている題材で作品を書くことに満足しないのですか? なぜ狂ったようにユニークな題材を――まったくの未踏の分野を求めるんです? なぜわずかな目新しさに法外な代価を喜んで払おうとするんです?」
「なぜかって?」ブラウは煙を吸いこみ、食いしばった歯の隙間から吹きだした。「きみが人間ならわかる。その、人間じゃないんだろう……?」
「その質問には答えられません」
「それなら理由を教えよう。生まれてからずっとぼくを苦しめてきたもののせいだ。人間は生まれつき想像力をそなえている」
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文庫版p.302


 長篇『分解された男』『虎よ、虎よ!』で名高い米国SF界の鬼才、アルフレッド・ベスターの日本オリジナル短篇傑作選。文庫版(東京創元社)出版は2017年11月です。


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先にあげた二長篇は、いずれも大胆なタイポグラフィの実験をまじえて、超能力者の心理を迫真的に描きだした傑作であり、華麗な未来社会の描写とあいまって、後世のSFにおよぼした影響には絶大なものがある。おそらくこの二作がなかったら、サミュアル・R・ディレイニーやマイケル・ムアコック、あるいはウィリアム・ギブスンやブルース・スターリングの諸作もなかっただろう。
 だが、二大長篇の陰に隠れて、その短篇群が見過ごされているとなったら、黙ってはいられなくなる。ベスターの短篇は、長篇とは趣がちがうものの、これはこれで珍重すべき逸品ぞろいなのだ。
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文庫版p.391


 2004年に河出書房新社より刊行された単行本『願い星、叶い星』収録の8篇に新訳2篇を増補し、改題文庫化。これだけでベスターの短篇代表作を網羅できるという充実した一冊です。


[収録作品]

『ごきげん目盛り』
『ジェットコースター』
『願い星、叶い星』
『イヴのいないアダム』
『選り好みなし』
『昔を今になすよしもがな』
『時と三番街と』
『地獄は永遠に』
『旅の日記』
『くたばりぞこない』


『ごきげん目盛り』
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「じゃあ、なんであの子を殺したんだ?」ヴァンデルアーがわめいた。「刺激のためでなかったら、なんで――」
「念のため申しあげますが」とアンドロイド。この手の二等船室は防音ではありませんよ」
 ヴァンデルアーは革紐を落とし、荒い息をつきながら、所有する生きものをじっと見つめた。
「なんでやったんだ? なんであの子を殺したんだ?」とわたしは訊いた。
「わかりません」とわたしは答えた。
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文庫版p.15

 普段は正常に機能しているのに、何かのきっかけで突然おそるべき殺人マシンと化してしまうアンドロイド。そんなアンドロイドと共に星から星へと逃亡の旅を続ける男。やがて警察に追い詰められた二人は……。凶悪犯罪、逃亡劇、盛り上がるサスペンスと並行して、一人称の混乱が読者の心に引っ掛かりを残しつつ、最後のクライマックスへとなだれ込んでゆく。ストーリー展開と文体上の実験を見事に融合させた傑作。


『願い星、叶い星』
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「例の少年には武器がある。自分で発明したなにか。ほかの連中のようにばかげたなにかだ。(中略)その子は天才だ。危険きわまりない。どうすればいいんだ?」
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文庫版p.92

 少年は人類をはるかに超越する天才だった。その行方を追う教師は、犯罪のプロと手を組んで彼を探し出そうとする。だが、次々と返り討ちにあって姿を消してゆく一味のメンバー。少年が持っている能力とは何か。ミュータントテーマの定番的展開をうまくひねった作品。


『イヴのいないアダム』
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 それが海であることはわかっていた――古い海のなごり、さもなければ、できかけの新しい海だと。しかし、それはいつの日か、乾いた生命のない岸に打ち寄せる、空っぽで生命のない海になるだろう。この星は石と塵、金属と雪と氷と水の惑星になるだろう。だが、それですべてなのだ。もはや生命はない。彼ひとりではどうしようもない。彼はアダムだが、イヴはどこにもいないのだ。
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文庫版p.118

 無謀な実験のせいで破滅した地球。荒涼とした終末風景のなかをひたすら這い続ける男。目指すは海。だが、もはや人類は彼一人しか残されておらず、生物の絶滅は確定しているというのに、なぜ海を目指すのか。それは彼自身にも分からなかった……。地球最後の人間テーマですが、その迫力に驚かされます。


『昔を今になすよしもがな』
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日付――1981年6月20日。氏名――リンダ・ニールセン。住所――セントラル・パーク模型船用池。職業または勤め先――地球最後の男。
「職業または勤め先」については、はじめて図書館に押しいったときから、しっくりこないものを感じていた。厳密にいえば、彼女は地球最後の女だが、そう書いたら、女性優位主義的なきらいがあるような気がするし、「地球最後の人物(パーソン)」と書いたら、酒をアルコール飲料と呼ぶみたいにばかげて聞こえる。
――――
文庫版p.151

 何らかの異変により人類は消滅。生き延びた最後の男女が出会う。同じく地球最後の人間テーマですが、無人の街で好き勝手する気の狂った男女、という設定だけでぐいぐい読ませるパワーが凄い。


『時と三番街と』
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「インチキして、ゲームに勝って楽しいですか?」
「ふつうは楽しくない」
「ディスニーなんでしょう? 退屈だ。飽きあきする。意味がない。非調和的です。あなたは正直なやりかたで勝ちたかったと思う」
「だろうな」
「それなら、この本を見たあともそう思うでしょう。あなたの行きあたりばったりの人生を通じて、あなたは人生というゲームを正直にプレイしたかったと思うでしょう。その本を見たことをヴァーダッシュされる。後悔される。われわれの偉大な詩人・哲学者、トリンビルの名言を身にしみて思いだすことになる。彼は明晰でスカゾンな一行にそれを要約しました。『未来は勝ちテコンされるものである』とトリンビルはいったのです。ミスター・ナイト、インチキをしてはいけません。お願いですから、その年鑑をわたしにください」
――――
文庫版p.224

 書店で統計年鑑を購入した男。だが謎めいた相手が現れて、その年鑑はずっと未来の版であり、手違いでこの時代に紛れ込んだものだと告げる。これからの世界の趨勢があらかじめ分かってしまう本。うまく活用すれば富も名声も思いのまま。それを無償で自主的に返してほしいと説得する相手に、男は迷うが……。タイムパトロールテーマですが、会話に混入する未来語(たぶん)がよい味を出しています。オチもクール。


『地獄は永遠に』
――――
「あなたがたひとりひとりが、好きなようにこしらえていい現実を。あなたがたご自身が作る世界を提供しましょう。そのなかでミセス・ピールは喜んで自分のご主人を殺せる――それなのに、ミスター・ピールは自分の奥方を手放さずにいられるのです。ミスター・ブラウには作家の夢である世界を提供し、ミスター・フィンチリーには芸術家の創造力を――」
――――
文庫版p.255

 放蕩のかぎりを尽くしていた数名の悪徳グループの前に現れた悪魔(たぶん)が「皆さんそれぞれの望んでいる世界を創り、永遠にその理想現実の中で生きられるようにしてあげましょう」と提案してくる。しかも無償で。
 自分が望んだ世界(内世界?)に転移したメンバーがそれぞれに辿る皮肉な運命を描く作品。メンバーのなかに作者自身をモデルにしたと思しき人物(生年月日がベスターと一致する作家)がいて、饒舌に自分語りするのが興味深い。



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『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(川端裕人、海部陽介:監修) [読書(サイエンス)]

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 アジアと向き合ってきた海部さんのガイドのおかげで、ぼくたちが今、暮らしているこの地域には、わずか数万年前、数十万年前に、目がくらむほど多様で、ときに予想外の人類たちが、その時代なりのやり方で暮らしていたのだとわかった。
(中略)
 その一方で、今、ぼくたちが生きるこの時代、人類は均質だ。
 ホモ・サピエンスしかいない。
 これはいったいどう捉えればいいのだろう。
 多様な人類がいた時代と、「今」の間に、いったい何が起きたのだろうか。
――――
新書版p.244、


 かつてアジア地域に生きていたホモ・サピエンス以外の人類は、ジャワ原人、北京原人だけではなかった。衝撃的なほど小柄なフローレス原人、台湾の海底から発見された澎湖人、シベリアで発見されたデニソワ人など、今世紀になって新たな発見が相次いでおり、アジアにおける人類史は大きく塗り替えられつつある。
 アジア地域における人類の多様な進化を見渡すと共に、その多様性が失われたのはなぜかという難問に挑み、新たなビジョンを切り拓くサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年12月、Kindle版配信は2017年12月です。


――――
 つくづく、人類の起源についての議論は、単に知的好奇心を満たすだけでなく、我々のアイデンティティや人間観の問題に直結している。グローバル(全地球的)につながった世界が、まさにユニバーサル(宇宙的)になろうとしている今だからこそ、ぼくたちの過去に何があったのか、どんな人類がいたのか、そして、ぼくたちの中には誰がいるのかを知りたい。
 本書で描出したような人類学研究の営みは、まさにそういった思索にしっかりした基礎を与え、未来に向かう力を与えてくれるとすら感じる。
――――
新書版p.272


 全体は終章を含めて7つの章から構成されています。


「第1章 人類進化を俯瞰する」
――――
「興味深いのは、ホモ・サピエンスがアフリカを出た時点では、人類って、まだすごく多様だったってことなんですよね。各地にネアンデルタール人をはじめとする旧人がいましたし、東南アジアの島嶼部にはまだ原人もいたわけです」
(中略)
実はホモ・サピエンスが現れ、出アフリカした時代にはまだ、旧人のみならず、原人も存続しており、ホモ属の多様性は高かった。それなのに、今この瞬間、「我々」はホモ・サピエンスのみ。どうやら、現生人類が世界に広がりかけたあとに、それまであった人類の多様性が失われたようなのである。
――――
新書版p.39

 まず、ざっと700万年くらいの人類進化の歴史について、現在までに分かっていることを俯瞰。初期猿人、猿人、原人、旧人、新人という各段階はどのように特徴づけられるのか、その進化と地理的分布はどのように関係しているのか。知ってそうで意外に知らない基礎をまとめます。


「第2章 ジャワ原人をめぐる冒険」
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 発見の地、トリニール。
 海部さんたちのフィールドであるサンブンマチャン。
 最大の産出数を誇る初期人類遺跡サンギラン。ここは1996年、ユネスコの世界遺産に登録された。
 新しめの化石が出るガンドン。
 最低、この4ヶ所を押さえておけば、「ジャワ原人地図」の基礎ができたことになる。
 さらに欲を言えば、トリニールに近いンガウィで見つかった頭骨、飛び地的にスラバヤの近くのモジョケルトで見つかった子どもの頭骨も重要な化石だ。
 この「4大聖地+2産地」をそらんじれば、マニアと呼んでもらえるかもしれない。骨は出ないけれど石器が出てくるパチタンまで覚えるとさらによし。
――――
新書版p.63

 ジャワ原人の化石発掘現場を訪れてレポート。臨場感あふれる情景描写と手堅い解説、さすがベテラン作家の書いた文章だと感心させられます。


「第3章 ジャワ原人を科学する現場」
――――
 ジャワ島のサンギランやサンブンマチャンやトリニールといった、主要な化石産地を訪れるのは素晴らしい体験で、たくさん言葉を費やして描写するに値する。現地に赴いて、往時に思いを馳せる時間は格別だ。それらは、ときに現在進行形の発掘の現場でもあり、血沸き肉躍る側面がある。
 その一方で、産地から離れた研究室は、もっと物事を俯瞰して考えるための場所だ。多くの標本を比較検討しながら、過去に実際あった事実、つまり、本当の人類の歴史に肉薄しようと努力する。可能なかぎり客観的に、慎重に、議論を重ね、深め、展開し、やがては科学論文として練りあげて世界に問う。そういう意味では、発掘が行われている場所とは別の意味で「人類史の現場」だ。ひたひたと打ち寄せる知的興奮が、ここにはある。
――――
新書版p.90

 発掘の現場から研究室へ。国立科学博物館人類研究所を訪れて、ジャワ原人に関する研究の最前線をレポートします。


「第4章 フローレス原人の衝撃」
――――
「一番大事な点は、本当に人類がこんなに縮んでしまっていいのか。そんなことが本当に起こったのかってことです。僕が思うように初期のジャワ原人が進化したのか、アフリカのホモ・ハビリスがアジアまで来たのか、それとも、まだ知られていない原始的な人類がいたのか。アジアの人類進化って、本当にまだよくわかっていないんだと再認識させられます。そして、ことフローレス原人の議論は、このあと、どう転んだとしても面白い。どれが真実だったとしても、教科書を書き換えなければならないレベルの凄い発見なんです」
――――
新書版p.182

 インドネシアのフローレス島で発見された「人類進化の基本認識に変更を迫る」人類化石。身長わずか1メートルあまり。あまりにも小さなフローレス原人と、その発見がもたらした衝撃を、活き活きとした筆致で解説します。


「第5章 ソア盆地での大発見」
――――
 実は、そのとき、調査隊はとっくに「大発見」を済ませ、論文もできあがり、あとは掲載を待つだけという状態だったのである。
 海部さんが言っていた「動きがありますよ」という発言は、そういうことだ。「もうすぐ出るものだし、掲載までは口外しないでくれるなら、ちらっと見ていいよ」と調査隊から見せてもらった論文は衝撃的だった。
 要するに、ソア盆地の石器を作っていた古い人類の化石が、とうとう見つかったのである。
――――
新書版p.196

 フローレス原人の化石が見つかったインドネシアのフローレス島。そこにあるソア盆地で新たな発見があった。2016年に論文発表された最新情報を紹介しつつ、アジア地域における人類進化の「目がくらむような多様性」に迫ります。


「第6章 台湾の海底から」
――――
 しかし、わからないことだらけのアジアの人類進化は、何か新たな知見が加わるたびに、新たな謎が加わる。事実、澎湖人・和県人は、まさにその間の地域から発見されたわけだが、北京原人ともジャワ原人とも異なる、独特の原始的な特徴を持っていたのだ。
「澎湖人や和県人の原人集団が、新種だったかどうかという議論とは別に、そもそも、ゆるやかな地域間変異でつながるホモ・エレクトス集団がアジア全体にいたというこれまでの予測が崩れてしまいました。これまで北京原人とジャワ原人をひっくるめてホモ・エレクトスと言ってきましたが、そもそもホモ・エレクトスという種はいったい何なんだ、いつどこで進化し、そしてどのようにして、今わかってきた複雑なアジアの集団構造ができてきたんだ、という新たな疑問を突きつけられたんです」
――――
新書版p.237

 台湾沖の海底から引き上げられた原人化石。それはジャワ原人、フローレス原人、北京原人とは異なる特徴を持つ「第四の原人」だった。澎湖人の発見とその研究状況について解説します。


「終章 我々はなぜ我々だけなのか 」
――――
 とはいえ、やはり気になるのは、サピエンスの到来と原人の消滅が、ざっくりとはいえ近い時期に起きたことに違いはないということだ。個人的には、ぼくたちの祖先(サピエンス)が、直接的に原人を駆逐したのかどうかが心に引っかかってならない。もしも戦って追いやったというシナリオが本当だったとしたら、考えるだけで胸が痛い。サピエンスが拡散しなければ、今のぼくたちの姿はないのかもしれないのだが、それ以前の多様な世界を終わらせてしまったのがぼくたちの祖先だったなら、本当に申し訳ない……。たぶん、そんな「原罪」的な意識に駆られて、「交代劇」に関心を持つ人は多いのではないかと思う。
――――
新書版p.251

 これほどまでに多様に進化してきたアジア地域の人類たち。だが、私たちホモ・サピエンス以外はすべて絶滅し、多様性は失われてしまった。なぜだろうか。

 ジャワ原人と現生人類が混血した可能性というビッグニュースから始まり、私たちの遺伝子の中に残されている人類多様性、さらには私たちの生息域が宇宙へと拡大していこうとしていることの人類学的意義に至るまで、大きくビジョンを広げます。SF作家でもある著者の面目躍如というべき終章。



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『モーアシビ 第34号』(白鳥信也:編集、川上亜紀・小川三郎・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第34号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第34号 目次]
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『神無月に (2017年10月)』(北爪満喜)
『沼に水草』(小川三郎)
『折り返す、七月』(川上亜紀)
『境界』(森ミキエ)
『護岸』(島野律子)
『美しい時間』(森岡美喜)
『ノウサギとテン』(浅井拓也)
『とぜん』(白鳥信也)

散文
『熊楠をさがして熊野古道を歩く』(サトミセキ)
『福次郎さんと砂防ダム』(平井金司)
『灰色猫のよけいなお喋り 二〇一七年夏』(川上亜紀)
『風船乗りの汗汗歌日記 その33』(大橋弘)
『よくぞ飽きずに』(清水耕次)

翻訳
『幻想への挑戦 8』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com


『神無月に (2017年10月)』(北爪満喜)
――――
神無月に
大空の目は白い巨大な渦をともなって近づいてくる
多雨の朝 風はまだ
砂の上のみずたまりに
雫のざわめきが歓声となって昇るここ
雨の流れの広がりは 深まりうねり川となり
速まり削り合流する
砂上の水は
いつか遥か高見から見下ろしたシベリアの大河のうねり
ミクロになって一粒の砂に捉まり
河岸で雨水の流れを見つめる
見飽きなかった子どもの私が笑いだすと
声に誘われ 巨大な渦の雲の目をくぐり
笑いながら駆けてくる限りない天を守る童子の気配が
解き放たれてくる
――――
モーアシビ第34号p.3

 雨の流れの広がりは 深まりうねり川となり/速まり削り合流する
 視点の移動変化、言葉のリズム、それらを巧みに活かしながら、台風接近にともなう気配やざわめきを描き出した作品。


『沼に水草』(小川三郎)
――――
私の腹に広がる波紋は
妊婦のそれにも似ているもので
しかし私の痛みではなく
ふくらはぎから
沼へと抜けた。
泥がごくりと喉を鳴らして
水がむんと匂い立った。

私はまるで力が抜けて
なにを思って生きてきたのかいつからここに来ていたのかさえ
別段気にならなくなった。
上下左右も硬い柔いも
ひとつのものに感じられた。
――――
モーアシビ第34号p.10

 泥がごくりと喉を鳴らして/水がむんと匂い立った。
 詩誌『Down Beat』でもおなじみ、小川三郎さんの変身譚。


『折り返す、七月』(川上亜紀)
――――
わたしは白い紙を折る
山折り 谷折り 折り返す
色々な折り紙のことはもう忘れているので
できあがるのは不格好な鶴や四角い箱だけ

それでもまた折り返し
      折り返して
         戻ってくるこの場所

鶴は空に飛ばしてしまって
箱には豆を入れておこうか

七月の色を探せ
残された時間のために

どこかで絹糸を燃やすにおいがして
振り返るわたしの頭越しに最初の太陽の光が届く
――――
モーアシビ第34号p.14

 七月の色を探せ/残された時間のために
 七月初日。年の半ばを過ぎた折り返し地点にいる、そのことの切実さが胸を打つ作品。


『灰色猫のよけいなお喋り 二〇一七年夏』(川上亜紀)
――――
 こんどの自分の治療が終わったらやりたいことっていうのを飼い主はノートにわざわざ書き出していたからこのあいだちょっと覗いてみたら「ピンクのシャツを着たい」とか「阿佐ヶ谷カフェめぐり」とかそんなどうでもいいことばっかり。ボクは偉大な詩人や作家の猫として後世に語り継がれることはまるでなさそうだから、今のうちに自分で語っておくことにしたの。人生は百年、猫生は二十年の時代。飼い主は「阿佐ヶ谷の黒猫著棒茶房のマスターが飼っていた黒猫さんは二十歳までとても元気だったそうだよ」なんてボクに言うけど、飼い主にももう少し頑張ってもらわなくちゃ。だってボクのカリカリと缶詰めを買いに行くのは飼い主の仕事なんだから。ほらガンバレ飼い主、ゴハンは寝て待つ!ピンクのシャツでも何でも好きにすればいいのよまだ若いんだしね。
――――
モーアシビ第34号p.58

 ほらガンバレ飼い主、ゴハンは寝て待つ!
 作者の飼い猫が大いに語る、来歴、日々の生活、そして命。


『風船乗りの汗汗歌日記 その33』(大橋弘)
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 日曜日、日曜日。でも掃除が終わらないので実家に。父が買ったサイクロン式「的」掃除機がヒジョーに扱いにくい。本体もパイプもシースルーなのでごみの溜まり具合がわかるのはいいが、吸入力が弱い。長いパイプ部分から本体に肝心のごみが吸い込まれていかない。そういうわけでゴキブリの死骸が「通路」でぐるぐる回転している様をいつまでも見せつけられるのだった。俺はこの掃除機を初めて使うので、ゴキのやつは勝手にここまで入り込んで死んだか、相当以前に父がやったのかのいずれかだ。家の中で跳梁跋扈していたバチじゃとは思うが、そう思うことも含めて失笑を禁じ得ない。もっとも、回転され過ぎてしだいに死骸がバラバラになりはじめ、刻一刻と世の無常が明らかになってきたので止めると、御器被りの死骸はパイプ下部で倒立するような形態に。この掃除機を使うのはやめ。
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モーアシビ第34号p.61

 「坂道をいろいろ殺しあいながら下りゆくかな秋のゆうぐれ」
 「やばい。でもゆっくりやろうおれたちもしょせんは割れるビスケットだし」
 生活の細部を描く身辺雑記と短歌の組み合わせ。やたらと本を買うのがちょっとうらやましい。



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