SSブログ

『告白の森』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

 2022年10月30日は、夫婦でKARAS APPARATUSに行って佐東利穂子さんのソロダンス公演を鑑賞しました。佐東さん自身の振付作品です。

 暗がりのなか白いドレスをまとった姿で登場するのですが、照明効果のせいでどうにも遠近感がおかしくなり、そこにいるのか遠くにいるのか、本当に存在しているのか目の錯覚なのか、よく分からないという混乱をおぼえます。『妖精族の娘』 を踊ったときよりも幻影感はずっと増していて、ほぼ森の精霊か亡霊かという感じです。意外に動きの存在感は生々しく、小さな手の動きや立ち位置の移動だけでこの世ならぬ気配が生じてゆきます。

 終演後のトークでは、勅使川原三郎さんが令和4年度文化功労者に選出されたというニュースとともに、勅使川原さんご本人が登壇して挨拶してくれました。フランス芸術文化勲章やベネツィアビエンナーレ金獅子功労賞に比べるとインパクトは薄れますが、めでたいことだと思います。

 というわけで今回が今年最後のアップデートダンスでした。また来年もよろしくお願いします。





nice!(0)  コメント(0) 

『モーアシビ 第43号』(白鳥信也:編集、小川三郎・北爪満喜・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第43号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第43号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――


 『小さな波立ち』『割れていても』(北爪満喜)
 『さまよう 空』(森ミキエ)
 『十字架』(小川三郎)
 『水の穴』(島野律子)
 『コースティクスの叫哭』(楼ミュウ)
 『オニヤンマの日』(白鳥信也)

散文

 『「霊場恐山」へ行く』(サトミセキ)
 『夏草刈』(平井金司)
 『風船乗りの汗汗歌日記 その42』(大橋弘)
 『退職後の生活(その一)』(清水耕次)
 
翻訳

 『幻想への挑戦 17』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
――――――――――――――――――――――――――――

 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com




――――
含まれずに
飲みくだされずに
ぽとんっ
雫のように落ちる
水面の
小さな波立ち


水が
光の文字を書いているような波紋が
すべらかに音もなく揺れつづける
水辺へいき
限っている結び目をすこしゆるめてもいいのかもしれないと
爪先から目をあげる
――――
『小さな波立ち』(北爪満喜)より




――――
大勢の人を乗せて
旅客機は遠のいていく
どこまで行くのだろう
中空に
私の人さし指だけが取り残される
風は夏の方角から吹いてくる
――――
『さまよう 空』(森ミキエ)より




――――
あなたの横で
猫の毛にまみれている
大きな林檎を
かじっている
部屋がいくつも
連なっている
私たちの家

あなたは口を開き
言葉は煙となって
部屋に漂う
また
細い糸になって
私の身体に
まとわる
やわらかに

冬は
十字架が似合う
なのでどこへも
出掛けない
――――
『十字架』(小川三郎)





nice!(0)  コメント(0) 

『Möbius/メビウス』(カンパニーXY with ラシッド・ウランダン) [ダンス]

 2022年10月23日は、夫婦で世田谷パブリックシアターに行って現代サーカスとコンテンポラリーダンスを融合させた公演を鑑賞しました。


[キャスト他]

演出・振付・出演: カンパニーXY
振付・コラボレーションアーティスト: ラシッド・ウランダン


 19名の出演者たちが群れとなって動き、人間タワーをつくり、次々と宙を舞います。ときおり四段タワーなどの大技も出ますが、特に緊迫感を高める演出はなく、淡々と進んでゆく感じです。舞台装置もワイヤーなどの補助器具も何もないシンプルな場所で、人間の身体だけで行われるパフォーマンスが感動的です。

 アクロバットを含めて全体がダンスになっているのが素晴らしく、出演者たちが互いに信じ合い、助け合う様子は強い共感を生みます。動物の群れのように走り、倒れ、跳び、肩車する人々。何というか言葉が生まれる以前の、人間の良き本能に満ちた空間を見ているような気持ちになります。現代ダンスと現代サーカスがひとつになったシンプルな表現には心揺さぶられるものがあり、興奮と幸福感がごったまぜになった終演時にはスタンディングオベーションと拍手が鳴りやまない状態でした。よかった。





nice!(0)  コメント(0) 

『In C』(Co.山田うん) [ダンス]

 2022年10月22日は、夫婦でKAAT神奈川芸術劇場に行って山田うんさんの新作公演を鑑賞しました。テリー・ライリー作曲、ミニマルミュージックの原点ともいわれる「In C」に振り付けた12名のダンサーによる1時間強の作品です。どこが開始時点なのか曖昧なのですが、データによると上演時間65分とのこと。


[キャスト他]

振付・演出・美術: 山田うん
作曲・音楽: ヲノサトル(原曲:テリー・ライリー)
衣装: 飯嶋久美子
出演: 飯森沙百合、河内優太郎、木原浩太、黒田勇、須﨑汐理、田中朝子、角田莉沙、 西山友貴、仁田晶凱、長谷川暢、望月寛斗、山口将太朗


 開始時刻になる前から、出演者たちが薄暗い舞台上に発泡スチロール製と思しき大きな舞台装置を運び込んでゆきます。これが照明効果によって数多くの巨大な岩(瓦礫)に見えます。しかも表面に岩に掘られた文様を思わせるパターンがプロジェクションされるので、舞台上はもう古代文明の遺跡という感じに。この異様な空間で、出演者たちが踊ります。

 ひとりひとり衣装が異なるのに、顔の目立つペイントなどの工夫によって、出演者の区別がつかなくなってゆく。いつも目立つポジションで踊る主力メンバーたちも今回は極力めだたないよう、誰が誰か区別できないよう、そういう演出を意図しているようです。古代遺跡で精霊や亡霊が踊っているような感じです。

 主演者たちが全力で舞台上を旋回するシーンは今回はありませんでしたが、カラフルな衣装に着替えて全員で踊る(盆踊りみたいに見える)シーンが印象的でした。あとテリー・ライリーの「In C」を今回はじめて聴きましたが、オノサトルさんの構成だからなのか、思ったよりずっとキャッチーというか普通に盛り上がる楽曲だったのがちょっと意外でした。





タグ:山田うん
nice!(0)  コメント(0) 

『ヒトデとクモヒトデ』(福島健児) [読書(サイエンス)]

――――
 ヒトデ、クモヒトデ、ウニ、ナマコ、ウミユリからなる棘皮動物は、みな体のつくりが☆形なのである。口のほうから見てみると、これらは全部「五放射相称」の体のつくりをしている。すなわち、体が5つの同じような部分からなり、この5つが、口と肛門とを結ぶ軸をぐるりと取り囲んでいるのだ。
 ☆形をした動物は、棘皮動物以外にはいない。棘皮動物は、地球上の動物の中で、スターとなった唯一の動物たちなのである。
――――
単行本p.8


 知っているようで知らない海のスター、棘皮動物。そのなかでもヒトデとクモヒトデに焦点を当て、歩行、反転、消化、そして子育てまで、ちょっと意外な生態を教えてくれるサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2022年8月です。




目次

1 海の☆の正体――真の姿を知っていますか
2 歩いて、潜って、でんぐり返し――動きまわる☆たち
3 食べるためのあの手この手――☆たちの食事
4 ☆たちの子育て――知られざる一生
5 ☆形の謎
6 ヒトとヒトデとクモヒトデ




1 海の☆の正体――真の姿を知っていますか
――――
 明るい日中はほぼ均一な暗い茶色だが、日が暮れて暗くなってくると、灰色と黒の縞模様が現れるという。こうした色彩の変化は、色素体の形や配置を変えることによって実現されており、クモヒトデが腕に「眼」のようなしくみをもつことの発見にも一役買った。ただその一方、なぜ昼夜で色彩を変えるのかは、依然として謎のままだ。
――――
単行本p.21

 深海底を覆い尽くすクモヒトデの群れ、変幻自在に硬さを調整できる骨格構造、腕の先端にある「目」、昼夜で変わる体色。そして発光。ヒトデとクモヒトデの身体のしくみについて解説します。




2 歩いて、潜って、でんぐり返し――動きまわる☆たち
――――
 ヒトデの反転行動は意外と研究者の興味を惹くらしく、昔からそれなりに研究対象とされてきた。ひっくり返ってしまった無防備な体勢は、やはりいち早く解消したいだろうから、決まった腕を使ってこの動きを学習すれば短時間で反転できるのではないか……といった仮説のもと、行動の観察実験も行われてきたが、どうも繰り返しこの行動をさせてみても、学習できる結果は得られていないようだ。
――――
単行本p.32

 ヒトデとクモヒトデで異なる歩行方法。泳ぎ、潜り、クラゲにヒッチハイクし、そして反転する動き。ヒトデたちの運動能力について解説します。




3 食べるためのあの手この手――☆たちの食事
――――
 ヒトの消化管の中も見方によっては体「外」だが、ヒトデの場合は正真正銘の対外で、胃を反転させて、口から外に出してしまうのである。そうして、捕まえた餌をその場で消化する。このような口外摂食であれば、口に入らないような大きさの動物でも、餌とすることができる。
――――
単行本p.35

 二枚貝を全身で包み込んで、ちからわざでこじあけ、隙間から胃袋を押し込むという強烈な捕食法。待ち伏せ、濾過、そして集団での狩りまで。多種多様な捕食行動について解説します。




4 ☆たちの子育て――知られざる一生
――――
 さらにクモヒトデでは、よその家の子ならぬ、他の種のクモヒトデを子守しているとみられる例もある! 先述のダキクモヒトデと同様、小さいクモヒトデが大きなクモヒトデにしがみついているのだが、同種のオスとメスが口側と口側を合わせるダキクモヒトデとは異なり、大きい個体が小さい個体を背中側に「おんぶ」している格好であり、しかも、これが違う種なのだ。
 このような異種クモヒトデの共生は「ベビーシッティング」とよばれている。
――――
単行本p.70

 ペアリング、抱卵、幼生の生きざま、そして驚くべき子育て行動まで。謎多きヒトデたちの一生を解説します。




5 ☆形の謎
――――
 古生代の棘皮動物の多くは固着性の動物であり、動き回るものは後から進化してきた。2+1+2の五放射相称の体が進化してから、ウミユリ綱の系統と別の系統の二つに分岐し、この後者の系統の中から、残りの動き回る棘皮動物――真の☆たるヒトデとクモヒトデ、そして腕をもたないウニとナマコが進化した。☆たちのたどった道は、ざっとこんなシナリオのようだ。
――――
単行本p.94

 スター形、すなわち五放射相称の身体デザインはどのようにして進化してきたのだろうか。その進化史をたどります。




6 ヒトとヒトデとクモヒトデ
――――
 1個体のオニヒトデが、1年間に5~6平方メートルのサンゴを食べていたという報告がある。オニヒトデが大発生した地域では、その捕食でサンゴ礁が台無しになってしまう可能性があるのだ。
 そんな被害を食い止めるべく、ダイバーによるオニヒトデの駆除作業が行われている。しかし、さらに厄介なのは、オニヒトデがとても強力な毒をもっているということだ。駆除のさいにダイバーがオニヒトデに刺されてしまい、死亡事故も起きたことがあるほどの猛毒を、オニヒトデはもっているのである。
――――
単行本p.98

 サンゴを全滅させたり、世界の侵略的外来種ワースト100に挙げられたり、食用になったり、お土産品として売られたり、ヒトデとクモヒトデとそして人類の関わり合いをまとめます。





nice!(0)  コメント(0)