SSブログ

『プラスマイナス 175号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。

[プラスマイナス175号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
巻頭詩 『「外科医」より』(琴似景)、イラスト(D.Zon)
川柳  『からむし色の風』(島野律子)
エッセイ『保護猫は最強妖精』(島野律子)
詩   『外科医』(琴似景)
詩   『トライアングル』(多亜若)
詩   『め(墨流し)』(深雪、みか:編集)
小説  『一坪菜園生活 58』(山崎純)
エッセイ『香港映画は面白いぞ 175』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 114』(D.Zon)
編集後記
 「気になることば」 その2 島野律子
――――――――――――――――――――――――――――

 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
https://shimanoritsuko.blog.ss-blog.jp/





タグ:同人誌
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『オカルトの美術 現代の神秘にまつわるヴィジュアル資料集』(S.エリザベス:著、井上舞:翻訳) [読書(オカルト)]

――――
「最古の魔術は『芸術』と称されることも多い」とオカルティストで儀式的魔術師でもある作家アラン・ムーアは述べている。「魔術と同様、芸術はシンボルや言葉、イメージを操り、意識に変化をもたらす技法なのだ」
 そうであるならば、芸術の創作は、魔術的行為にほかならない。
――――
単行本p.7


 隠された智恵、万物の根源、超越的存在。世界の真理を探究する営為はまた、つねに芸術と共にあった。オカルティズムの様々なテーマ(占星術、錬金術、魔術、カバラ、神智学、神秘主義、魔女、心霊主義など)をもとに創作された様々な作品を集め、芸術的インスピレーションの源としてのオカルト文化を視覚的に明らかにする一冊。単行本(青幻舎)出版は2021年3月です。


――――
 各章では、神秘の芸術を鮮やかに、そしてわかりやすく紹介するとともに、ビジュアル面でも楽しめるよう、霊的信仰や魔術の技法、神話や幻想的な体験から触発され創造された作品を選りすぐり掲載している。本書で目にするイメージや情報が、有名無名の芸術家や作品を網羅し、飽くなきインスピレーションの源となって、読者の皆さんの好奇心をかき立て、感覚を呼び覚まし、自分なりの実践を始めるきっかけになることを願っている。
――――
単行本p.10


〔目次〕

第1章 宇宙
I 真の形:アートに見る神聖幾何学
II 星を見上げる:アートに描かれた占星術と十二宮
III 元素のイメージとインスピレーション
IV 錬金術と芸術の精神

第2章 神
V 神聖と不死の存在 芸術に見る神の表現
VI 芸術の源泉としてのカバラ
VII アートに表れた神智学の思想
VIII 神秘主義の伝統と芸術

第3章 実践者
IX 霊薬、迫害、力:芸術に見る魔女とその魔力
X 心霊芸術と心霊主義
XI ひらめきと神聖なるインスピレーションの象徴:芸術のなかの占い
XII 儀式の魔術:芸術の精神を呼び覚ますもの




第1章 宇宙
――――
 かつて占星術師や錬金術師たちは、観察や実験、理論を通して宇宙を探ろうとしたが、それはこの世界を理解しようとする芸術家たちも同じだった。星座や黄道にあこがれ、人生の変化や運命、宿命を定める大いなる宇宙の内にあるこの世界に魅了され、ごく小さな原子から膨大な銀河まで、あらゆるものに隠されたパターンや霊的な真理を追求してきた。(中略)続く章では、錬金術、神聖幾何学、元素や黄道など、太古の昔から変遷を続けてきたさまざまな概念や、カール・セーガンがいうところの「偉大な謎」に博識の学者たちがいかに迫り、分析し、理解を試みてきたのか、その「思考」を見ていく。
――――
単行本p.15

 この世界はどのように作られているのか。幾何学に秘められた神秘、占星術、第五元素、錬金術などをテーマとする芸術作品を紹介してゆきます。


第2章 神
――――
 カバラの奥義や、神秘学の概念や体系を受け継ぐ学問、神智学の英知や教義といったものはすべて、これらの問いへの答えを見出そうとする試みなのだ。そしてその傍らには芸術家たちがいて、深遠なる思想の領域に刺激を受け、神秘の伝統を通して見たものを視覚的な形で表現してきたのである。
――――
単行本p.88

 隠された真理を明らかにしたいという情熱。不死なる者、カバラ、神智学、神秘主義をテーマとする芸術作品を紹介してゆきます。


第3章 実践者
――――
 それを見たいと願う者にとって、魔術の歴史や超自然の哲学に隠された暗号を解く鍵は、さまざまな芸術作品の中に描かれた、神秘の技を実践しようと試みる謎めいた姿に見出すことができる。儀式を行い、事物を変化させ、真理と意味を見抜き、創造という道、あるいは行為に踏み出そうとする預言者、幻視者、魔女、魔術師、心霊術者、霊媒師たちの姿や、盛儀に式典、彼らの手にする道具といったものは、何世紀にもわたって、芸術家たち――同じ哲学を研究し、実践しようとする学者や実践者のこともある――にインスピレーションと影響を与えてきた。
――――
単行本p.158

 真理を知るだけでなくその知識と技を用いて超自然的な結果を得ようとする試みは、芸術家が作品を創造するのと似たものがある。魔術、占い、儀式、魔女、霊媒をテーマとする芸術作品を紹介してゆきます。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『わたしたちが光の速さで進めないなら』(キム・チョヨプ:著、カン・バンファ、ユン・ジヨン:翻訳) [読書(SF)]

――――
 でも、わたしたちが光の速さで進めないのなら、同じ宇宙にいるということにいったいなんの意味があるだろう? わたしたちがいくら宇宙を開拓して、人類の外延を押し広げていったとしても、そこにいつも、こうして取り残される人々が新たに生まれるのだとしたら……私たちは宇宙に存在する孤独の総量をどんどん増やしていくだけなんじゃないか。
――――
単行本p.156


 孤独、共感、差別、自由に生きる覚悟。私たちが直面している切実な悩みや希望をSF的設定を巧みに使って描き出す、どこか懐かしい少女漫画を思い出させる7篇を収録したデビュー短編集。単行本(早川書房)出版は2020年12月です。


――――
 追い求め、掘り下げていく人たちが、とうてい理解できない何かを理解しようとする物語が好きだ。いつの日かわたしたちは、今とは異なる姿、異なる世界で生きることになるだろう。だがそれほど遠い未来にも、誰かは寂しく、孤独で、その手が誰かに届くことを渇望するだろう。どこでどの時代を生きようとも、お互いを理解しようとすることを諦めたくない。今後も小説を書きながら、その理解の断片を、ぶつかりあう存在たちが共に生きてゆく物語を見つけたいと思う。
――――
単行本p.284


〔収録作品〕

『巡礼者たちはなぜ帰らない』
『スペクトラム』
『共生仮説』
『わたしたちが光の速さで進めないなら』
『感情の物性』
『館内紛失』
『わたしのスペースヒーローについて』




『巡礼者たちはなぜ帰らない』
――――
 ある巡礼者たちはなぜ帰らないのか。
 この手紙は、その質問に対する答えよ。同時に、なぜわたしが「始まりの地」へ向かっているのかについての答えでもある。手紙を読み終えるころには、あなたもわたしの選択を理解しているはず。
――――
単行本p.11

 その村では、成人した若者たちは「始まりの地」と呼ばれる場所に巡礼するしきたりになっていた。だが、一部の巡礼者たちは決して戻ってこない。大人は誰もそのことを話題にしない。なぜか。始まりの地とは何で、この楽園のような村はどうして存在するのか。共存、排他、差別をテーマに、ル=グウィンのオメラスを語り直してみせる作品。


『わたしたちが光の速さで進めないなら』
――――
 古びたシャトルには、ひどく旧式の加速装置と小さな燃料タンクのほかには何一つ付いていない。いくら加速したところで、光の速度には追い付けないだろう。どれだけ進んでも、彼女の生きたい所にはたどり着けないだろう。それでもアンナの後ろ姿は、自分の目的地を信じて疑わないように見えた。
――――
単行本p.161

 放棄されて久しい無人の宇宙ステーションで、あるはずのない出発便を待ち続けている老人。男はその理由を確かめようとするが……。技術や社会の「進歩」に伴って、あるいは新自由主義的に「効率」が悪いとして、見捨てられる人々。その孤独と反逆を力強く描く感動作。


『感情の物性』
――――
 ボヒョンはジレンマに陥っていた。そして身動きが取れなくなっていた。かつて愛した人たちが、今では彼女を抑圧している。だからといって、こんなやり方で事を解決しようとするのは、なおさら理解できなかった。
 ユウウツ体にどうして彼女の悲しみが解決できるというのだろう?
「もちろん、そうでしょうね。あなたはこのなかで生きたことがないから。だけどわたしはね、自分の憂鬱を手で撫でたり、手のひらにのせておくことができたらと思うの。それがひと口つまんで味わったり、ある硬さをもって触れられるようなものであってほしいの」
――――
単行本p.187

 人間の感情そのものを造形化したという「感情の物性」シリーズ。爆発的なヒットを冷やかな目でみていた男は、親との関係でこじれている恋人が「ユウウツ」を大量に買っていることを知って困惑する。「オチツキ」や「シアワセ」といった感情ならともかく、なぜ「ユウウツ」などというマイナスの気持ちを物質として所有したいのか。物性として可視化された他者の苦しみや生きづらさに対する(男の)反応を鋭く描いた作品。


『館内紛失』
――――
 母が失踪した。
 と言っても、死んだあとに失踪する人はそう多くはないだろう。母の生前にだって、ジミンは母がするなんて夢にも考えたことがなかった。母はいつでもすぐに見つけられる人だったから。母が死ぬ前の数年間に訪れたであろう場所は片手で数えられるほどだった。そんな母が今ごろになっていつ、どこへ消えたというのだろう。そのタイミングも居所も、今となってはわからない。ジミンが母に会いに行った日は、母がこの図書館に記録されてからすでに三年も経った時点だったから。
――――
単行本p.194

 生前に記録した脳内ネットワーク構造をデジタルデータとして図書館で保存できる時代。母の死後に図書館を訪れた語り手は、母のデータが紛失していることを知らされる。正確にはデータそのものはどこかに残されているのだが、検索用インデックスが消されている。アクセスするためには、母のデジタルイメージが強く共鳴するものをデータ空間に置く必要がある。だが、語り手は、母が何を好きだったのかすら知らないことに気づく。
 母を、自分の母親としてではなく一人の人間、対等な他者として知る体験を通じて、孤独と共感を感動的に描いた作品。


『わたしのスペースヒーローについて』
――――
 ガユンがこれまでスペースヒーローとして崇拝してきたジェギョンおばさんが、実は、人類の宿願であるミッションを目前にして前日に逃げ出していたとは。

 ガユンは週末のあいだずっと、ジェギョンおばさんのことを考えていた。どう考えても、ジェギョンがなぜそんなことをしたのかわからない。宇宙飛行士が、それも人類で初めて宇宙の彼方に行けるという栄えある立場にいる人が、出発直前になって突然海へ身を投げることなどありえるだろうか。
――――
単行本p.251

 結果的に失敗に終わった人類初の超光速ミッション。宇宙船の事故で亡くなった宇宙飛行士のひとりであるおばをスペースヒーローとして崇拝していた語り手は、実際に何が起きたのかを知らされる。おばは宇宙船に乗ってすらおらず、ミッション前日に逃げ出して海に身を投げたというのだ。なぜそんなことをしたのだろう。同じミッションへの再挑戦にいどむ語り手は、やがておばは真のヒーローだったことに気づく。
 あらゆる困難を乗り越えて獲得する称賛と、他人の承認など求めず自由のためにすべてを捨てる覚悟。対比を通じてヒーローとは何かを描いた作品。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『Down Beat 18号』(柴田千晶、小川三郎、他) [読書(小説・詩)]

 詩誌『Down Beat』の18号を紹介いたします。


[Down Beat 18号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
『Windowless』(中島悦子)
『おぼえられない』(今鹿仙)
『呼吸』『日課』(小川三郎)
『老いのみきわめ 1・2』(金井雄二)
『うしろの森』(柴田千晶)
『パンプス』『いかれるれいぞうこ』(谷口鳥子)
『狸谷山不動尊』『商売』(廿楽順治)
『出入口管理所』(徳広康代)
――――――――――――――――――――――――――――


お問い合わせは、次のフェイスブックページまで。

  詩誌Down Beat
  https://www.facebook.com/DBPoets




――――
窓がない鶏舎。密度150%の中では、目も見えず、つつき合いもしない。羽ばたくこともできない。すでにそのように品種改良されたということだ。病原性大腸菌症、マイコプラズマ、O78予防のために死ぬ直前まで抗生剤漬けになり、自分が何に生まれたか確かめる術はない。自分の腹の下敷きになって死んだものが、何であったのかも知らない。

しばしば 鶏にすることは人間にもする

――――
『Windowless』(中島悦子)より


――――
真昼の空を
飛行機が真横に飛んでいた。

こんな日は
なにもかもを知らぬふりだ。

幸福がなにかということを
たぶん私は知っている。
――――
『日課』(小川三郎)より


――――
氷はとけてケースの底に固まって
シンクでひっくり返すと四角い皿
暑い夏でした

のっぴきならない顔して
扉の隅のLEDを指差し
か か 火事になる ど どないしょ

カニコロッケ ケーキ キーマカレー
レシピはナイショやって母さん言うからあたし、
どれも作られへん

水だす 手ぇ洗う
角とれ小さくなってる氷の皿 ピキと割、れる うしろで
ぶるぅん うなりだす
――――
『いかれるれいぞうこ』(谷口鳥子)より


――――
水屋

水と言われるものは、いったい何でできているかご存じか。そう口上を述べた後に、決まって男は姿を消してみせた。あ、ご存じない。こりゃまた失礼。あたりは水びたし。懐に銭がないと気づくのは半時もしてからだ。ああやけに喉が渇く。客もわたしもこの文から不本意に消えているが、それも余韻。水というのはつまりはお客さんの隠語でしてね。
――――
『商売』(廿楽順治)より





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『三体III 死神永生(下)』(劉慈欣:著、大森望・光吉さくら・ワンチャイ・泊功:翻訳) [読書(SF)]

――――
 本書には、劉式の核パルス推進システムに劣らない、度肝をぬくアイディアが次から次へと現れて、人類と三体文明の、そして暗黒森林理論が予言する通りに襲いかかってくる新たな脅威との接触が描かれる。程心たちは、時空が増え、宇宙がねじ曲がり、光速度が変わり、そしてこの宇宙が熱を失う瞬間にまで及ぶ旅に出る。その密度と、科学的な知見を元に描かれる情景の美しさは、第一部と第二部で、圧倒的に感じられた三体文明とのひりついた接触が色褪せてしまうほどだ。
 劉慈欣は、宇宙とSFに、想像力を振るう余地がまだまだあることを教えてくれた。
――――
単行本p.434


「中国に遅れること11年、英語圏をはじめとする世界のSFファンたちに遅れること4年。ようやく日本の読者も、劉慈欣の描いた『三体』の最後のページを閉じることができる」(藤井太洋氏による「解説」より)

 三体星系をあっさり破壊した黒暗森林攻撃。次のターゲットとなった太陽系では、生き残りをかけた人類の挑戦が始まった。だが実際の攻撃は誰もが予想しなかった形で行われる。SF史に残るトンデモスペクタクルを経て宇宙の終末まで突っ走る程心たちの旅の終着点はどこか。話題の中国SF長編『三体』三部作の完結編、その下巻。単行本(早川書房)出版は2021年5月です。


 まず既刊である『三体』『三体II』および上巻の紹介はこちら。

2019年10月17日の日記
『三体』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-17

2020年10月14日の日記
『三体II 黒暗森林(上)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-14

2020年10月23日の日記
『三体II 黒暗森林(下)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-23

2021年08月05日の日記
『三体III 死神永生(上)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2021-08-05


 いよいよ『三体』三部作もすべてに決着がつく最終巻。すべてというのは、つまり宇宙とか次元とか物理定数とか時間とか数理とか、そういうものすべて。要するに究極的なスケールのバカSFへと光の速さでぶっとんでゆきます。いやー、正直こういう展開を期待してたんですよ。


〔第三部〕(承前)

――――
 現在、人類生存プロジェクトの主力は掩体計画であり、暗黒領域計画のほうは、未知の要素に満ちた冒険的プロジェクトであるという点で、面壁計画と似た位置にある。二つのプロジェクトは並行して進められているが、暗黒領域計画については、現時点でできることは基礎理論の研究だけであり、現実面への波及効果は小さい。国際社会に巨大なインパクトを与えられるのは掩体計画であり、大衆の支持をつなぎとめるためには、なにか大きな花火を打ち上げてみせる必要があった。
――――
単行本p.155

 太陽系に迫り来る黒暗森林攻撃をどのようにして生き延びればよいのか。隠れてやり過ごす掩体計画、太陽系そのものを疑似ブラックホール化する暗黒領域計画、そして光の速さで外宇宙に脱出する光速宇宙船プロジェクトが考案される。最も現実的な掩体計画に、人類の最後の希望がかけられていた。


〔第四部〕

――――
「五十年以内に、われわれは曲率推進による光速宇宙船の建造を実現する。これは技術的な研究開発で、大量のテストを行なう必要がある。だから、その環境を整備するためにも、われわれは連邦政府に手の内をさらけだした」
「でも、いまみたいなやりかただと、すべてを失ってしまう」
「すべてはおまえの決断しだいだ」ウェイドが言った。「連邦艦隊の前で、われわれは無力だと思っているだろう。だが、そうじゃない」
――――
単行本p.219

 あらゆる手段を持ってしても太陽系を救えなかった場合に備えて、わずかな人間を外宇宙に脱出させるための光速宇宙船開発プロジェクト。だがそれは政治的に極めて危険なものだった。極秘計画が進められていることを知らされた程心は人類の未来を決める決断を下すことになる。


〔第五部〕

――――
 程心は、自分がぜったいに生き延びなければならないとわかっていた。程心とAAは、地球文明の最後の生き残りだ。もし自分が死んだら、地球人類の半分を殺すことになる。生き延びることだけが、自身のおかしたあやまちにふさわしい罰なのだった。
 だが、この先の航路は白紙だった。程心の心の中で、宇宙はもう漆黒ではなく、無色だった。どこに行こうと、なんの意味がある?
「どこへ行けばいいの?」程心は小さくつぶやいた。
「彼らを探しにいけ」羅輯が言った。ウィンドウの中の羅輯はさらにぼやけ、いまはモノクロになっていた。
 羅輯の言葉は、暗雲垂れ込める程心の心を稲妻のように明るく照らした。程心と羅輯は目を見交わした。二人とも、もちろん“彼ら”がだれなのか理解していた。
――――
単行本p.333

「このアイデアを思いついたとしても、それをこんなふうに正面から描いて読者の度肝を抜けるのは、世界広しといえども劉慈欣ただひとりだろう」(大森望氏による「あとがき」より)

 ついに始まった太陽系に対する黒暗森林攻撃。それは人類の想像をはるかに超えるものだった。SF史上に輝くトンデモ馬鹿SFの地位を不動にするであろうスペクタクルシーンが炸裂。なすすべもなく崩潰してゆく太陽系を前に、執剣者である羅輯と程心は最後の会話を交わす。


〔第六部〕

――――
 この宇宙の最後の審判の日、地球文明と三体文明に属する二人の人間と一体のロボットは、感極まって抱き合った。
 彼らは知っていた。言葉と文字が変化するスピードは速い。もし二つの文明があれから長期間にわたって存在していたとしたら――もしくは、現在に至るまで存在しているとしたら――両文明で使用されている文字は、いまウィンドウに表示されている古代の文字とはまったく違うものになっているはずだ。しかし、小宇宙に隠れている人々に理解できるように、彼らはメッセージを古代の文字で記さなければならなかった。大宇宙にかつて存在していた文明の総数にくらべれば、157万という数はゼロにひとしい。
 天の川銀河オリオン腕の永遠につづく夜、二つの文明が流れ星のようにすっと横切り、宇宙はその光を記憶していたのである。
――――
単行本p.415

 1890万年の歳月が過ぎ去り、程心たちは智子と再会する。そして地球文明と三体文明を含む157万の文明の生き残りに届いた最後のメッセージ。息を潜め黒暗森林に隠れているあらゆる知的生命が、宇宙そのものの再生のために「永遠」を犠牲に出来るかが問われていた。


 というわけで、ついに『三体』三部作が完結します。文革とVRゲームから始まった物語は、次元崩壊攻撃や光速低下障壁など物理法則そのものを武器にする星間戦争を経て宇宙の終わりまで到達。小説としての完成度は第二部の方が上でしょうが、やはりSF、それも極限的スケールの馬鹿SFである第三部が、正直、個人的に好みです。訳者あとがきによると『三体』関連の出版ラッシュはこれからも続くらしいので、まだまだ楽しめるようです。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ: