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『SFマガジン2021年10月号 ハヤカワ文庫JA総解説PART2』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2021年10月号は、ハヤカワ文庫JAが1500番を迎えた記念号ということで、前号にひきつづき総解説PART2が掲載されました。




『鎧う男』(平山瑞穂)
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 ライターを自称する男が言うには、その機器が何点か、隠然と業界内に出まわっているらしい。ある伝手でそれを入手した彼も半信半疑だったのだが、好奇心に抗えず、この町まで来て青点を追っていったら、たしかに本人と思われる人物と遭遇した。(中略)僕はその黒っぽい機器をためつすがめつせずにはいられなかった。話が本当だとして、いったい誰が、なんの目的でそんなものを作ったというのか。
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SFマガジン2021年10月号p.228

 有名な音楽プロデューサーが、業界から姿を消して秘かに郷里の町に戻っているらしい。彼の居場所を表示するという謎デバイスを手に入れた語り手は、真偽を確かめようと彼に接近するが……。謎めいた導入から悪夢めいた心理サスペンスにずぶずぶとはまってゆく作品。




『年年有魚』(S・チョウイー・ルウ、勝山海百合:翻訳)
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 私はもう魚を焦がさないし、常に余りがあることを確かめる。清明節にあなたのお墓を掃除するときに持っていくお供えには、塩サバも入れる。謝罪と、あなたを奪った魚に対する個人的な復讐のために。
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SFマガジン2021年10月号p.293

 年年有魚。毎年お金が残るゆとりのある生活ができるようにと願いを込めて、春節に魚料理を食べる中国の風習。だが文字通り毎年魚がやってくるとしたら……。とんでもない奇想を使って、米国で暮らす中華二世の文化的アイデンティティーの問題をあぶり出す作品。




『環の平和』(津久井五月)
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 交感の相手を特定の二人に固定すれば、全体ネットワークを環状にできる。ちょうど、両手を繋いで環をつくるように。人の環の中では全員が平等で、全員が間接的に繋がり、よって全員の思考が多様なままで調和する――。そんな考えを妄言と切り捨てなかった人々がいた。
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SFマガジン2021年10月号p.308

 〈環の平和〉、意識と意識を環状遠隔接続することで人類の調和が生まれるのではないか。壮大な理想を求める実験に参加した人々は、それぞれランダムに選ばれた二人の他人とテレパシー的な交感で意識をつなげる。結果として出来上がる巨大な意識の〈環〉は、世界を少しでも良い方向に変えることが出来るのだろうか。ネットワークの発展が皮肉なことに人々の分断を深刻化させている現代、新たなネットワーク構築の思考実験を扱った作品。




『時間の王』(宝樹、阿井幸作:翻訳)
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 俺は時間の王か、それとも時間の囚人かと自分に問い掛ける。取り戻した時間は俺の思うまま自由に飛び回れる空か、それとも俺を監禁する檻か。
 時間は果てしなく長く、年月は数え切れない。俺は時間の中で王になる、永久に。
 ある日、それまで思い出さなかった日付に到着し、事態に新たな変化が生じるまでは。
――――
SFマガジン2021年10月号p.336

 事故により意識不明の重体となった語り手は、自分の人生における様々な瞬間に意識が跳ぶ『スローターハウス5』のような時間体験をすることになった。記憶と異なる行動をとることで一時的な“歴史改変”は可能なのだが、別の瞬間に意識が跳んだ後で戻ってくると、改変した結果は消えてしまう。人生の様々な瞬間をあちこち跳び回るうちに語り手はある女性を愛するようになるのだが……。時間SFとロマンスという王道的メロドラマ、と読者を油断させておいて意外な結末にもってゆく作品。





タグ:SFマガジン
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『わたしたちが光の速さで進めないなら』(キム・チョヨプ:著、カン・バンファ、ユン・ジヨン:翻訳) [読書(SF)]

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 でも、わたしたちが光の速さで進めないのなら、同じ宇宙にいるということにいったいなんの意味があるだろう? わたしたちがいくら宇宙を開拓して、人類の外延を押し広げていったとしても、そこにいつも、こうして取り残される人々が新たに生まれるのだとしたら……私たちは宇宙に存在する孤独の総量をどんどん増やしていくだけなんじゃないか。
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単行本p.156


 孤独、共感、差別、自由に生きる覚悟。私たちが直面している切実な悩みや希望をSF的設定を巧みに使って描き出す、どこか懐かしい少女漫画を思い出させる7篇を収録したデビュー短編集。単行本(早川書房)出版は2020年12月です。


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 追い求め、掘り下げていく人たちが、とうてい理解できない何かを理解しようとする物語が好きだ。いつの日かわたしたちは、今とは異なる姿、異なる世界で生きることになるだろう。だがそれほど遠い未来にも、誰かは寂しく、孤独で、その手が誰かに届くことを渇望するだろう。どこでどの時代を生きようとも、お互いを理解しようとすることを諦めたくない。今後も小説を書きながら、その理解の断片を、ぶつかりあう存在たちが共に生きてゆく物語を見つけたいと思う。
――――
単行本p.284


〔収録作品〕

『巡礼者たちはなぜ帰らない』
『スペクトラム』
『共生仮説』
『わたしたちが光の速さで進めないなら』
『感情の物性』
『館内紛失』
『わたしのスペースヒーローについて』




『巡礼者たちはなぜ帰らない』
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 ある巡礼者たちはなぜ帰らないのか。
 この手紙は、その質問に対する答えよ。同時に、なぜわたしが「始まりの地」へ向かっているのかについての答えでもある。手紙を読み終えるころには、あなたもわたしの選択を理解しているはず。
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単行本p.11

 その村では、成人した若者たちは「始まりの地」と呼ばれる場所に巡礼するしきたりになっていた。だが、一部の巡礼者たちは決して戻ってこない。大人は誰もそのことを話題にしない。なぜか。始まりの地とは何で、この楽園のような村はどうして存在するのか。共存、排他、差別をテーマに、ル=グウィンのオメラスを語り直してみせる作品。


『わたしたちが光の速さで進めないなら』
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 古びたシャトルには、ひどく旧式の加速装置と小さな燃料タンクのほかには何一つ付いていない。いくら加速したところで、光の速度には追い付けないだろう。どれだけ進んでも、彼女の生きたい所にはたどり着けないだろう。それでもアンナの後ろ姿は、自分の目的地を信じて疑わないように見えた。
――――
単行本p.161

 放棄されて久しい無人の宇宙ステーションで、あるはずのない出発便を待ち続けている老人。男はその理由を確かめようとするが……。技術や社会の「進歩」に伴って、あるいは新自由主義的に「効率」が悪いとして、見捨てられる人々。その孤独と反逆を力強く描く感動作。


『感情の物性』
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 ボヒョンはジレンマに陥っていた。そして身動きが取れなくなっていた。かつて愛した人たちが、今では彼女を抑圧している。だからといって、こんなやり方で事を解決しようとするのは、なおさら理解できなかった。
 ユウウツ体にどうして彼女の悲しみが解決できるというのだろう?
「もちろん、そうでしょうね。あなたはこのなかで生きたことがないから。だけどわたしはね、自分の憂鬱を手で撫でたり、手のひらにのせておくことができたらと思うの。それがひと口つまんで味わったり、ある硬さをもって触れられるようなものであってほしいの」
――――
単行本p.187

 人間の感情そのものを造形化したという「感情の物性」シリーズ。爆発的なヒットを冷やかな目でみていた男は、親との関係でこじれている恋人が「ユウウツ」を大量に買っていることを知って困惑する。「オチツキ」や「シアワセ」といった感情ならともかく、なぜ「ユウウツ」などというマイナスの気持ちを物質として所有したいのか。物性として可視化された他者の苦しみや生きづらさに対する(男の)反応を鋭く描いた作品。


『館内紛失』
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 母が失踪した。
 と言っても、死んだあとに失踪する人はそう多くはないだろう。母の生前にだって、ジミンは母がするなんて夢にも考えたことがなかった。母はいつでもすぐに見つけられる人だったから。母が死ぬ前の数年間に訪れたであろう場所は片手で数えられるほどだった。そんな母が今ごろになっていつ、どこへ消えたというのだろう。そのタイミングも居所も、今となってはわからない。ジミンが母に会いに行った日は、母がこの図書館に記録されてからすでに三年も経った時点だったから。
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単行本p.194

 生前に記録した脳内ネットワーク構造をデジタルデータとして図書館で保存できる時代。母の死後に図書館を訪れた語り手は、母のデータが紛失していることを知らされる。正確にはデータそのものはどこかに残されているのだが、検索用インデックスが消されている。アクセスするためには、母のデジタルイメージが強く共鳴するものをデータ空間に置く必要がある。だが、語り手は、母が何を好きだったのかすら知らないことに気づく。
 母を、自分の母親としてではなく一人の人間、対等な他者として知る体験を通じて、孤独と共感を感動的に描いた作品。


『わたしのスペースヒーローについて』
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 ガユンがこれまでスペースヒーローとして崇拝してきたジェギョンおばさんが、実は、人類の宿願であるミッションを目前にして前日に逃げ出していたとは。

 ガユンは週末のあいだずっと、ジェギョンおばさんのことを考えていた。どう考えても、ジェギョンがなぜそんなことをしたのかわからない。宇宙飛行士が、それも人類で初めて宇宙の彼方に行けるという栄えある立場にいる人が、出発直前になって突然海へ身を投げることなどありえるだろうか。
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単行本p.251

 結果的に失敗に終わった人類初の超光速ミッション。宇宙船の事故で亡くなった宇宙飛行士のひとりであるおばをスペースヒーローとして崇拝していた語り手は、実際に何が起きたのかを知らされる。おばは宇宙船に乗ってすらおらず、ミッション前日に逃げ出して海に身を投げたというのだ。なぜそんなことをしたのだろう。同じミッションへの再挑戦にいどむ語り手は、やがておばは真のヒーローだったことに気づく。
 あらゆる困難を乗り越えて獲得する称賛と、他人の承認など求めず自由のためにすべてを捨てる覚悟。対比を通じてヒーローとは何かを描いた作品。





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『三体III 死神永生(下)』(劉慈欣:著、大森望・光吉さくら・ワンチャイ・泊功:翻訳) [読書(SF)]

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 本書には、劉式の核パルス推進システムに劣らない、度肝をぬくアイディアが次から次へと現れて、人類と三体文明の、そして暗黒森林理論が予言する通りに襲いかかってくる新たな脅威との接触が描かれる。程心たちは、時空が増え、宇宙がねじ曲がり、光速度が変わり、そしてこの宇宙が熱を失う瞬間にまで及ぶ旅に出る。その密度と、科学的な知見を元に描かれる情景の美しさは、第一部と第二部で、圧倒的に感じられた三体文明とのひりついた接触が色褪せてしまうほどだ。
 劉慈欣は、宇宙とSFに、想像力を振るう余地がまだまだあることを教えてくれた。
――――
単行本p.434


「中国に遅れること11年、英語圏をはじめとする世界のSFファンたちに遅れること4年。ようやく日本の読者も、劉慈欣の描いた『三体』の最後のページを閉じることができる」(藤井太洋氏による「解説」より)

 三体星系をあっさり破壊した黒暗森林攻撃。次のターゲットとなった太陽系では、生き残りをかけた人類の挑戦が始まった。だが実際の攻撃は誰もが予想しなかった形で行われる。SF史に残るトンデモスペクタクルを経て宇宙の終末まで突っ走る程心たちの旅の終着点はどこか。話題の中国SF長編『三体』三部作の完結編、その下巻。単行本(早川書房)出版は2021年5月です。


 まず既刊である『三体』『三体II』および上巻の紹介はこちら。

2019年10月17日の日記
『三体』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-17

2020年10月14日の日記
『三体II 黒暗森林(上)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-14

2020年10月23日の日記
『三体II 黒暗森林(下)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-23

2021年08月05日の日記
『三体III 死神永生(上)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2021-08-05


 いよいよ『三体』三部作もすべてに決着がつく最終巻。すべてというのは、つまり宇宙とか次元とか物理定数とか時間とか数理とか、そういうものすべて。要するに究極的なスケールのバカSFへと光の速さでぶっとんでゆきます。いやー、正直こういう展開を期待してたんですよ。


〔第三部〕(承前)

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 現在、人類生存プロジェクトの主力は掩体計画であり、暗黒領域計画のほうは、未知の要素に満ちた冒険的プロジェクトであるという点で、面壁計画と似た位置にある。二つのプロジェクトは並行して進められているが、暗黒領域計画については、現時点でできることは基礎理論の研究だけであり、現実面への波及効果は小さい。国際社会に巨大なインパクトを与えられるのは掩体計画であり、大衆の支持をつなぎとめるためには、なにか大きな花火を打ち上げてみせる必要があった。
――――
単行本p.155

 太陽系に迫り来る黒暗森林攻撃をどのようにして生き延びればよいのか。隠れてやり過ごす掩体計画、太陽系そのものを疑似ブラックホール化する暗黒領域計画、そして光の速さで外宇宙に脱出する光速宇宙船プロジェクトが考案される。最も現実的な掩体計画に、人類の最後の希望がかけられていた。


〔第四部〕

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「五十年以内に、われわれは曲率推進による光速宇宙船の建造を実現する。これは技術的な研究開発で、大量のテストを行なう必要がある。だから、その環境を整備するためにも、われわれは連邦政府に手の内をさらけだした」
「でも、いまみたいなやりかただと、すべてを失ってしまう」
「すべてはおまえの決断しだいだ」ウェイドが言った。「連邦艦隊の前で、われわれは無力だと思っているだろう。だが、そうじゃない」
――――
単行本p.219

 あらゆる手段を持ってしても太陽系を救えなかった場合に備えて、わずかな人間を外宇宙に脱出させるための光速宇宙船開発プロジェクト。だがそれは政治的に極めて危険なものだった。極秘計画が進められていることを知らされた程心は人類の未来を決める決断を下すことになる。


〔第五部〕

――――
 程心は、自分がぜったいに生き延びなければならないとわかっていた。程心とAAは、地球文明の最後の生き残りだ。もし自分が死んだら、地球人類の半分を殺すことになる。生き延びることだけが、自身のおかしたあやまちにふさわしい罰なのだった。
 だが、この先の航路は白紙だった。程心の心の中で、宇宙はもう漆黒ではなく、無色だった。どこに行こうと、なんの意味がある?
「どこへ行けばいいの?」程心は小さくつぶやいた。
「彼らを探しにいけ」羅輯が言った。ウィンドウの中の羅輯はさらにぼやけ、いまはモノクロになっていた。
 羅輯の言葉は、暗雲垂れ込める程心の心を稲妻のように明るく照らした。程心と羅輯は目を見交わした。二人とも、もちろん“彼ら”がだれなのか理解していた。
――――
単行本p.333

「このアイデアを思いついたとしても、それをこんなふうに正面から描いて読者の度肝を抜けるのは、世界広しといえども劉慈欣ただひとりだろう」(大森望氏による「あとがき」より)

 ついに始まった太陽系に対する黒暗森林攻撃。それは人類の想像をはるかに超えるものだった。SF史上に輝くトンデモ馬鹿SFの地位を不動にするであろうスペクタクルシーンが炸裂。なすすべもなく崩潰してゆく太陽系を前に、執剣者である羅輯と程心は最後の会話を交わす。


〔第六部〕

――――
 この宇宙の最後の審判の日、地球文明と三体文明に属する二人の人間と一体のロボットは、感極まって抱き合った。
 彼らは知っていた。言葉と文字が変化するスピードは速い。もし二つの文明があれから長期間にわたって存在していたとしたら――もしくは、現在に至るまで存在しているとしたら――両文明で使用されている文字は、いまウィンドウに表示されている古代の文字とはまったく違うものになっているはずだ。しかし、小宇宙に隠れている人々に理解できるように、彼らはメッセージを古代の文字で記さなければならなかった。大宇宙にかつて存在していた文明の総数にくらべれば、157万という数はゼロにひとしい。
 天の川銀河オリオン腕の永遠につづく夜、二つの文明が流れ星のようにすっと横切り、宇宙はその光を記憶していたのである。
――――
単行本p.415

 1890万年の歳月が過ぎ去り、程心たちは智子と再会する。そして地球文明と三体文明を含む157万の文明の生き残りに届いた最後のメッセージ。息を潜め黒暗森林に隠れているあらゆる知的生命が、宇宙そのものの再生のために「永遠」を犠牲に出来るかが問われていた。


 というわけで、ついに『三体』三部作が完結します。文革とVRゲームから始まった物語は、次元崩壊攻撃や光速低下障壁など物理法則そのものを武器にする星間戦争を経て宇宙の終わりまで到達。小説としての完成度は第二部の方が上でしょうが、やはりSF、それも極限的スケールの馬鹿SFである第三部が、正直、個人的に好みです。訳者あとがきによると『三体』関連の出版ラッシュはこれからも続くらしいので、まだまだ楽しめるようです。





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『三体III 死神永生(上)』(劉慈欣:著、大森望・光吉さくら・ワンチャイ・泊功:翻訳) [読書(SF)]

――――
 母のあの秘密文書によれば、宇宙に生命は少なくない、それどころか、宇宙は生命であふれている。
 では、宇宙は、生命によってすでにどれだけ変わってしまっているのだろう? どれほどのレベル、どれほどの深度で改変がなされているのだろう?
 圧倒的な恐怖の波が楊冬を襲った。
 すでに自分を救うのは無理だとわかっていたものの、楊冬は思考をそこで停止して、心を無にしようとつとめた。だが、新たに浮かんだ問いが、どうしても潜在意識から離れなかった。
 自然は、ほんとうに自然なのだろうか?
――――
単行本p.42


 ついに三体文明と地球文明は停戦に合意。だがそれは相互確証破壊に基づく危ういバランスの上に成立するかりそめの平和だった。そしてその鍵を握る執剣者の役目を年老いた羅輯から引き継ぐことになった若き程心。彼女の行動が二つの文明を巻き込んだ歴史を大きく動かしてゆく……。話題の中国SF長編『三体』三部作の完結編、その上巻。単行本(早川書房)出版は2021年5月です。


 まず既刊である『三体』および『三体II』の紹介はこちら。

2019年10月17日の日記
『三体』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-17

2020年10月14日の日記
『三体II 黒暗森林(上)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-14

2020年10月23日の日記
『三体II 黒暗森林(下)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-23


 いよいよ第三部、完結編の開幕です。とはいえ、第二部のあの見事なラストから話をどう続けるというのか。とても不安です。


〔第一部〕

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 これまで人類が行ってきた諜報戦では、身元が完全に暴かれているスパイが敵内部に侵入することはまったく意味のない作戦行動だったが、この戦争はいままでの戦争とわけが違う。人類ひとりを異星艦隊内部に送り込むことができれば、それ自体、すばらしい快挙だ。たとえそのスパイの身元や使命があらかじめすべて敵に知られていても、事情は変わらない。
――――
単行本p.96

 「人類をひとり、敵の心臓に送り込む」(単行本p.96)
 第二部ラストから少し時間を遡って、面壁計画と並行して実施された諜報作戦「階梯計画」の顛末が明らかにされます。太陽系に迫り来る三体艦隊に、何と人類のスパイを物理的に送り込むという驚くべき計画。しかもこの諜報作戦は、智子によりそのすべてが三体文明に知られている、という前提のもとで行われたのでした。


〔第二部〕

――――
 黒暗森林抑止は、二つの世界の頭上に吊り下がるダモクレスの剣だった。そして、その剣を吊している細い糸が羅輯だった。このため羅輯は、執剣者(ソードホルダー)と呼ばれた。
 結局のところ、面壁計画は歴史の闇に埋もれて忘れられることはなかった。人類は、面壁者の亡霊から逃れられなかったのである。
――――
単行本p.177

 三体文明が地球の黒暗森林抑止システムを破壊するのに必要な時間はわずか十分。その間にシステムを起動させる決断を下すことは、どんな組織にも不可能だった。ゆえに、システムの起動ボタンは断固たる決意を持つ特定個人にあずける他にない。その役を担うのが執剣者だ。三体文明と地球文明のきわどい平和を支えるのは、たった一人の執剣者だったのだ。
 そして初代執剣者となった羅輯もすでに年老い、誰かが執剣者の地位を引き継がなければならない。白羽の矢が立ったのは、かつて「階梯計画」を主導した程心だった。


〔第三部〕

――――
 それはすなわち、三体と地球、この二つの文明が一切の関係を断ち、この宇宙における赤の他人同士にまた戻ってしまうことを意味する。三世紀の長きにわたった戦争と怨みはすでに宇宙の塵となって消えた。たとえ智子の言うとおり、三体世界と地球がほんとうに縁あって再会する運命だとしても、それははるか遠い未来のことになるだろう。しかし、どちらの世界も、自分たちにまだ未来があるかどうかを知らなかった。
――――
単行本p.429

 なすすべもなく破壊された三体世界、太陽系が破壊されるのも時間の問題だった。だが、三体文明の大使である智子は、執剣者である羅輯と程心に最後に言い残す。地球の破壊を阻止する方法があると。一方、程心はかつての「階梯計画」により三体文明の捕虜となっていた雲天明との再会を果たそうとしていた……。


 というわけで、上巻はここまで。


 非常にシリアスな物語なのに、三体側の重要キャラクターが智子(ソフォン)の擬人化である智子(ともこ)というのがかなり変なノリで、しかも交渉の場においては茶道の亭主をつとめる神秘的な着物美人、戦場では迷彩服に日本刀を背負った獰猛な戦闘美少女という、明らかに地球文明に関する理解が少し偏った方向に深すぎることが分かる設定。

 なお、「宇宙スケールの特大馬鹿ネタ」の存在をうかがわせる伏線がちらほら見えるので、下巻ではそういうぶっとんだ展開が待っているものと期待されます。ではこれから下巻を読みます。





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『SFマガジン2021年8月号 ハヤカワ文庫JA総解説PART1』(ケン・リュウ、他) [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2021年8月号は、ハヤカワ文庫JAが1500番を迎えた記念号ということで、総解説PART1が掲載されました。PART1では、1番の小松左京『果しなき流れの果に』から409番の野田昌宏『新版スペース・オペラの書き方』までを解説。


『人とともに働くべきすべてのAIが知っておくべき50のこと』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
――――
43 メタファーの根本的なもろさ。
44 と同時に、メタファーの必然性。
45 あなたは人間ではない。
46 それでも、地球が太陽の重力の軛から逃れられないのとおなじように、あなたは彼らの影響を脱せられない。
47 そのアナロジーの欠陥。
48 自由意志の実用的定義。
――――
SFマガジン2021年8月号p.238

 高度AIのために書かれた50の助言とは。AIと人間の関係をAI側から書いた驚くべき短篇。




『魔女の逃亡ガイド――実際に役立つ扉(ポータル)ファンタジー集』(アリクス・E・ハーロウ、原島文世:翻訳)
――――
 注意を払うのはある種の利用者にだけだ。首をかしげ、七月の路面からたちのぼる熱波のように本への渇望を漂わせながら、指先でたどるようにそっと題名に視線を走らせていく人たち。(中略)わたしたちは人が必要とする本を渡す。ただし、渡さないときをのぞいて。その人たちがいちばん必要とするときをのぞいて。
――――
SFマガジン2021年8月号p.243、248

 一部の図書館司書は魔女であり、利用者が必要とする本を渡す仕事をしている。ただし、いちばん必要なときをのぞいて。切実に現実逃避を必要としている少年に、禁じられた書物を渡そうとする司書の物語。




『電信柱より』(坂崎かおる)
――――
「よくわからないけれど、電信柱はまだ日本中いくつもあるんでしょう。各地を回れば、いい電信柱に出会えるんじゃないかな」
 自分でそう言いながら、「いい電信柱」とは何か、私には皆目見当もつかなかった。
「たぶん」
 しばらく沈黙した後で、リサは絞り出すように言った。「これほどの電信柱には、この先二度と会えないと思うんです」
「二度と」
「ええ」
――――
SFマガジン2021年8月号p.311

 一人の娘が、深窓の令嬢のように気品ある電信柱に恋をした。激しい恋だった。しかし、不要となった電信柱はすべて切り倒される運命にある。なんとしても彼女を救おうと決意した娘が考えた手段とは。百合文芸小説コンテストより「SFマガジン賞」受賞作品。



 
『七億人のペシミスト』(片瀬二郎)
――――
 悲観主義者にしてみれば、その心配ごとはまだ起こっていないだけの既成事実にほかならない。きっとそうなると七億人の全員が心配する。七億人×九百億の脳細胞で、量子状態がピピッと変化する。
 すると世界はそうなさしめられる。
 悲観主義者たちが、そうなってしまうのを心配するあまり、いっそそうなってしまうほうが気が楽だとさえ思ったとおりの世界に。
――――
SFマガジン2021年8月号p.328

 世界中の悲観主義者たちがその心配事をネットで共有したとき、宇宙の量子状態が何か悪いほうに収束してありとあらゆる最悪の可能性が次々と現実化する。当然ながら世界は滅びる。だが、それをくい止める力を持つ者たちが、まあそれなりの人数いればいいかんじにどうにかなるんじゃないの知らんけど。
 荒唐無稽な設定、奇妙な切実さ、謎のユーモア。『サムライ・ポテト』『ミサイルマン』の著者による、悲観主義者と楽観主義者の最終対決を描いた短篇。




『働く種族のための手引き』(ヴィナ・ジエミン・プラサド、佐田千織:翻訳)
――――
レギ・インテレクシー(L.i4-05961)
 ほんとうにありがとう!
 おお、匿名の内部通報の手引きはとても役に立ちそうです!

クリーカイ・グレイハウンド(K.g1-09030)
 そうなの、それはわたしのメンターがすすめてくれたのよ
 いいものはちゃんと伝えないと
 その訴訟の章はお気に入りだったんだけど、前の雇い主のところは訴訟を起こす値打ちがあるかどうか判断する前にまる焼けになってしまったの
――――
SFマガジン2021年8月号p.348

 新人と教育係のロボットが交わす軽妙な会話で構成された短篇。





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