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『踊るうた2』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

 2021年12月25日は、夫婦でKARAS APPARATUSに行って勅使川原三郎さんと佐東利穂子さんの公演を鑑賞しました。今年最後のアップデートダンス。オペラから歌謡曲まで、シャンソンから民謡まで、バロックからジャズまで、文字通り古今東西あらゆる「歌」にのせて、二人が楽しげに踊る、祝事のような作品でした。特に、ベタな歌謡曲でがんがん踊るストレートにかっこいい佐東利穂子さんのダンスというレアな光景を今年最後に観られて嬉しい。それでは皆様よいお年を。





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『プラスマイナス 176号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。


[プラスマイナス176号 目次]
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巻頭詩 『「日記」より』(琴似景)、イラスト(D.Zon)
川柳  『秋に飛ぶ』(島野律子)
エッセイ『黒白猫の験担ぎ』(島野律子)
詩   『日記』(琴似景)
詩   『川の石』(島野律子)
詩   『渇き』(多亜若)
詩   『あなた』(深雪)
小説  『一坪菜園生活 59』(山崎純)
エッセイ『香港映画は面白いぞ 176』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 115』(D.Zon)
編集後記
 「気になることば」 その3 琴似景
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 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
https://shimanoritsuko.blog.ss-blog.jp/





タグ:同人誌
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『裏世界ピクニック7 月の葬送』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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「意図があるに決まってるじゃん! 挑戦状だよこんなの! わざわざ私の前に出てきて挑発してさあ、姿も見せないで鳥子を攫おうとしたり……。もうほんと、ムカついてんのよ私は」
「私怨で喧嘩してんじゃん。大丈夫なのか」
「私怨だろうがなんだろうが、黙ってたら舐められて、もっとヤバいことになるタイプの喧嘩なんですよ。これ以上あの女にイニシアティブ握らせたくないんです。ぶっころですよ、ぶっころ!」
 怒る私から、ドン引きした様子で小桜が身を引いた。
「お祓いじゃなかったの?」
「あっ……そうでした」
――――


「こうなったら選択肢は一つだ。閏間冴月を、殺すしかない。」
 裏世界に取り込まれて怪異存在と化した閏間冴月。彼女をぶっころ、いや祓う、祓ってやる。そのために冴月と関わり合いの深い仲間を集めて葬送の儀式を執り行うことにした紙越空魚。いよいよ閏間冴月との直接対決へと物語はなだれ込んでゆく。

 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知をこえる超常現象や危険な存在、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第7巻。文庫版(早川書房)出版は2021年12月です。




 タイトルからも分かる通りストルガツキーの名作『路傍のピクニック』をベースに、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』の要素を取り込み、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。

 もともとSFマガジンに連載されたコンタクトテーマSFだったのが、コミック化に伴って「異世界百合ホラー」と称され、やがて「百合ホラー」となり、「百合」となって、ついには故郷たるSFマガジンが「百合特集」を組むことになり、それがまた予約殺到で在庫全滅、発売前なのに版元が緊急重版に踏み切るという事態に陥り、さらにはTVアニメ化され、ジュニア版が出版され、あまりのことに調子に乗ったSFマガジンが再び百合特集を組んだら発売前にまたもや緊急重版。もうストルガツキーやタルコフスキーのことは誰も気にしない。

 ファーストシーズンの4話は前述の通りSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズンは各話ごとに電子書籍として配信。ファイル5から8は文庫版第2巻、ファイル9から11は文庫版第3巻に収録されています。その後もファイル12から15を書き下ろしで収録した文庫版第4巻が2019年末に出版され、2020年末にも無事に第5巻が出版されました。年末には裏世界という新たな風物詩。そして2021年の春には初の長編である第6巻が出版され、では年末の新刊はどうなるのかと心配していたら、ちゃんと出ました。




[収録作品]

『ファイル21 怪異に関する中間発表』
『ファイル22 トイレット・ペーパームーン』
『ファイル23 月の葬送』




『ファイル21 怪異に関する中間発表』
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 部屋の中、テーブルを挟んで、二人の人影が座っていた。
 一人は私だった。一目でわかった──ドッペルゲンガーだ。これまで何度か目の前に現れた、陰気な顔の、私の似姿。
 もう一人は、長い黒髪に眼鏡を掛けた、黒衣の女だった。
「閏間……冴月」
 女の名前が口からこぼれ出た。
――――

 空魚の前についに姿を現した閏間冴月。そのカリスマ性に圧倒された空魚は、彼女を抹殺することを決意する。これまで怪異の攻撃から身を守るので精一杯だった空魚が、ついに先制攻撃に転じる。あるいは「正式なお付き合いの前に、後くされのないよう、ちゃんと元カノを始末して」という話かも知れない。




『ファイル22 トイレット・ペーパームーン』
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「そんな約束、何になるっていうんですか。私が破ったら終わりですよね」
「うん……でもね、多分私たちみたいな人間は、口約束を大事にするしかないんだよ」
「なんでですか」
「私たちも、あんたも、社会とか法律とかの外に踏み出しちゃってるから。何かあったときに、社会の仕組みに助けてもらうことができない。となると、それぞれの間で交わした約束を大事にするしか、生きる方法がないんだよ」
――――

 閏間冴月をぶっころ、いやちゃんと祓うために、冴月と縁の深い仲間を集める空魚。だが問題は、潤巳るな。最恐の力を持つ彼女を、どう説得するのか。空魚のボスとしての器が試される……。というか、話すだけで誰でも洗脳できる部下、ひとにらみで誰でも発狂させることができるボス、戦闘力ばりばりの用心棒、さらに資金力のある秘密組織がバックについて、という構図がうっすら見えてきてヤバい。




『ファイル23 月の葬送』
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 るなも、小桜も、鳥子も、それぞれが閏間冴月に対して送る言葉を持っていた。同じ葬儀に参列している私が、何も言わないままでは終われないのだ。
 それにしても、私がこんなことを言う羽目になるなんて……。
 納得できるようなできないような複雑な気分で、私は口を開いて、閏間冴月に向かって言い放った。
「あなたがちょっかい掛けてた子たち、全員まとめて面倒見てあげる。──だからもう、二度とその顔見せないで」
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 ついにやってきた閏間冴月との直接対決。空魚が用意した御祓いの儀式とは。そして彼女たちは閏間冴月との縁をすっぱり切ることが出来るのか。そして跡目を引き継いだ空魚の明日はどっちだ。





タグ:宮澤伊織
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『TOGE』(小野寺修二、カンパニーデラシネラ) [ダンス]

 2021年12月18日は夫婦でKAAT神奈川芸術劇場に行って小野寺修二さんの新作を鑑賞しました。5名の出演者が踊る70分の公演です。

キャスト他
振付・演出: 小野寺修二
出演: 梶原暁子、李人欣、崎山莉奈、劉睿筑、藤田桃子

 薄暗い舞台上には5つの歪んだ台や机が置かれており、高所にはスピーカーや監視カメラなどが設置され、収容所のような寒々しい印象を与えます。ちぐはぐな白い服(囚人服にも患者服にも見える)を着た5名の出演者がそこで何やらあたふた活動します。この場を支配しているらしいルールや文脈は一切説明されず、発話もほとんどなく、不条理な閉塞感のなか、観客は5名の悪戦苦闘(に見える活動)を眺めることになります。

 カンパニーデラシネラから梶原暁子、崎山莉奈、藤田桃子の3名が参加しており、大真面目にヘンなことに取り組んで、何ともいえない妙な気分をかき立ててくれます。ゲストのうち李人欣(Lee Ren Xin)さんの存在感が素晴らしい。彼女が動きはじめると、どうしてもそちらを見てしまう。それと、ときどき小野寺修二さんがこそこそ登場して舞台装置をセットするのですが、これも謎のインパクトがあります。

 紙(アジビラかも知れない)を使ったパフォーマンスや、長いゴム紐を使って疎外感を見せる演出などが印象に残ります。あとホラー演出がうまい。いわゆるダンスシーンは少なめですが、冒頭と最後に全員で踊るシーケンスが用意されており、そこが場違いに楽しそうな雰囲気になるのが地味に怖い。





タグ:小野寺修二
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『ディープフェイク ニセ情報の拡散者たち』(ニーナ・シック:著、片山美佳子:翻訳) [読書(教養)]

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 インフォカリプスの進行に伴い、政治はますます不安定になってきた。そんな中、2017年末に初めてディープフェイクを目にした私は、間違いなく次世代の誤情報やニセ情報が恐ろしいものになると感じた。今では、AIを使って動画や音声を生成したり、加工したりできるようになった。この技術は今後ますます利便性や精度が向上し、やがて誰でも使えるようになるはずだ。ある人が実際にはいなかった場所にいたように、していないことをしたように、言っていないことを言ったようにできる力を、誰もが手にする日が来るのだ。この技術が悪用され、すでに腐敗しつつある情報のエコシステムの深刻な脅威となっており、私たちが世界の出来事を理解し、生きていく上でも大きな支障となっている。(中略)本書を通じて、情報のエコシステムが極めて危険な状態にあり、その害が政治の世界の枠をはるかに超えて、私たちの私生活や日々の暮らしにも及ぶということを伝えたい。危機を認識することで、私たちが一丸となって守りを固め、反撃できるようになることを願っている。
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単行本p.21、22


 フェイクニュース、ニセ情報、陰謀論などの氾濫によって、現実認識レベルで分断され、誰もまともな議論や合意形成が出来なくなった状態。それを「インフォカリプス」(情報汚染による黙示録的終末)と呼ぶ。そして登場したばかりの新技術「ディープフェイク」、すなわちAIにより生成される本物と見分けがつかない捏造音声、捏造画像、捏造偽動画が、その脅威をさらに加速してゆく。私たちはこの危機に対処できるのだろうか。高度情報化社会に迫りくる深刻な危機を解説する一冊。単行本(日経ナショナルジオグラフィック)出版は2021年9月です。


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 インフォカリプスの状況下では、世界の出来事をどう説明し、どう受け止めるか、人々が意見をすり合わせて冷静な判断をすることができなくなっていく。常に「どちらか一方に付かなければならない」ような気持ちになりやすいのだ。インフォカリプスの状況では、まともな議論の前提となる基本的な事実についての共通の認識さえ、なかなか形成できない。汚染された情報のエコシステムの中で政治的な関心を持つようになる人々が増え続ける中、人種、性差別、人工妊娠中絶、ブレグジット(英国のEU離脱)、トランプ、新型コロナウイルスなど、これまで以上に厄介な問題の議論に勝つことに善意の努力が注ぎ込まれ、社会が分断されるという悪循環に陥っている。インフォカリプスの中では、互いを説得しようとしても理解は得られず、かえって分断を深めることになりかねない。結局、深刻化していく社会の分断を解決するには、情報のエコシステムが破壊されているという構造的な問題の対処に目を向け、注力していかなければならないのだ。
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単行本p.12




目次
第1章 ディープフェイクはポルノから始まった
第2章 ロシアが見せる匠の技
第3章 米国が占う西側諸国の未来
第4章 翻弄される発展途上国の市民
第5章 犯罪の武器になる野放しのディープフェイク
第6章 世界を震撼させる新型コロナウイルス
第7章 まだ、希望はある




第1章 ディープフェイクはポルノから始まった
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 動画が人間のコミュニケーションにとって最も重要なメディアになれば、ディープフェイクが武器として使われるようになることは間違いない。映画の世界で行われてきた映像の加工が、現実の世の中でも行われるようになるのだ。(中略)情報の環境が急速にむしばまれている状況の中でAIが悪意をもって利用されれば、深刻な事態を招きかねない。
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単行本p.54

 ディープフェイクの初期の悪用、すなわちフェイクポルノ(実在人物が出演しているように見せかけるポルノ動画)の氾濫について解説します。




第2章 ロシアが見せる匠の技
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 プーチンは世界で指折りの危険な人物だ。プーチンが政権の座に就いているここ10年で、ロシアは国際政治に甚大な影響を及ぼし始めた。インフォカリプスの混乱に乗じて、米国をはじめとする西側諸国に、これまで以上に大胆な攻撃を仕掛けているのだ。ロシアは、情報のエコシステムがインフォカリプスに陥るよりもはるか前から、情報戦を得意としていた。
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単行本p.56

 インフォカリプスの政治利用の例として、冷戦当時から今日までロシアが西側諸国に対して行ってきた様々な情報戦を取り上げ、その実態を解説します。




第3章 米国が占う西側諸国の未来
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 もし私たちが共有している現実の感覚が崩壊して、終わりの見えない国内の情報戦に突入しても、活発な政治議論や社会の進歩は可能だろうか。ドナルド・トランプの大統領就任は、この疑問の答えを模索する出発点としてはちょうどいい。(中略)インフォカリプスにおける大衆の人気取り的なトランプの手法は、分断をさらに促進し米国を危険な方向に導いていく。この腐敗したエコシステムの中に不信と分極化を根づかせ、現実の世界の暴力にいつ発展してもおかしくない状況を作り出している。
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単行本p.94、117

 情報戦とは、海外からの攻撃だけを意味するのではない。米国の内側にある情報戦の例として、トランプ大統領の言動を取り上げ、それが米国社会をどのように分断し破壊しているのかを解説します。




第4章 翻弄される発展途上国の市民
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 現実があいまいになることで一番利益を得ているのは、インフォカリプスを利用する悪者たちだ。あらゆる標的に対して攻撃を仕掛けることができる上、都合の悪いことは何でも否定できる。このような状況下では、何が真実なのかが不明瞭になるだけでなく、権力者たちが都合よく説明責任を回避することができる。(中略)その影響は結局、地球全体に及ぶ。民主主義国家であろうとなかろうと関係ない。インフォカリプスに国境はない。
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単行本p.148

 政府に対する信頼が低い、あるいは権力者が自由に情報操作が出来るような国や地域において、インフォカリプスの進展によってどのようなカオスが引き起こされているのかを解説します。




第5章 犯罪の武器になる野放しのディープフェイク
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 写真、動画、音声など、どんな形であれ、一度でも視聴覚記録を残したことがある人なら、理論上はディープフェイク詐欺の被害者になり得ると言っても過言ではない。ディープフェイクは、インターネットバンキングへの侵入から、困窮している家族や友人を装った詐欺まで、多くの方法で用いられるようになるだろう。
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単行本p.162

 ディープフェイク技術により、詐欺などの犯罪が格段に容易になった。犯罪に悪用されるディープフェイクの実態を解説します。




第6章 世界を震撼させる新型コロナウイルス
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 新型コロナウイルス感染症の発生により、腐敗しつつある私たちの情報エコシステムの危険性が浮き彫りになった。このウイルスに関しては未知の事柄がとても多いため、その空白を悪質で信用できない情報が埋める余地があるのだ。新型コロナウイルスの危機の中で、インフォカリプスの恐ろしさがあらわになっている。その中で生きている以上、誰もがその影響を受けるのだ。
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単行本p.205

 反ワクチン運動、ウイルス起源論争、5G陰謀論。新型コロナウイルス感染症は、インフォカリプスの危険性をはっきりと見せつけることになった。パンデミックによる混乱とそれに拍車をかけたインフォカリプスの実態を解説します。




第7章 まだ、希望はある
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 だが、希望はある。インフォカリプスに対抗する勢力がすでに集結し始め、力をつけている。私たちが脅威を理解できるよう支援し、皆を守るための解決策や協力体制の構築を始めている。ただし、私たちの協力も欠かせない。一人一人が脅威を理解し、守りを固め、反撃することが大切だ。もたもたしてはいられない。「混乱を極めたディストピア」が当たり前の世の中として定着するのを避けたければ、今やらねばならない。
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単行本p.227

 ファクトチェック、情報信頼度格付け、AIによるディープフェイク見破り技術など、様々な組織や団体がインフォカリプスに対抗しようと努力している。その中で私たちに出来ることはなにか。何を理解し、どう行動すべきかを解説します。





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