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『解禁随筆集』(笙野頼子) [読書(随筆)]

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 金がない、猫がいる、金に困る、猫は困らない、この繰り返しをしながら二人で手をつないで、襲ってくる経団連、ジョージ・ソロス、自民党リベラルと全部の左系野党からひたすら逃げている、ずっと、ずっと、ふたり、いつまで? いてくれる?
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単行本p.5


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第143回。


「その他の言論の自由を求めて戦った作品もここに収録。今後はもう出せないかもしれない全部を載せておきます。」(単行本p.5)


 鳥影社刊『笙野頼子発禁小説集』と対をなすタイトルの『解禁随筆集』です。「随筆集とあるものの、拙作にあるある、小説と区別の付かない作品も含まれております」(単行本p.5)というわけで、まあ発禁小説集の続編。裁判(勝訴)から政治闘争まで様々な戦いの記録と最新戦況報告を収録した短編集です。単行本(鳥影社)出版は2024年2月。




目次
『緊急出版ご挨拶、「座して亡国を待つわけにはいかない(引用)っていうか」』
『S倉、思考の場所/架空の土地』
『藤枝静男論 会いに来てくれた』
『川上亜紀論 知らなかった『チャイナ・カシミア』解説』
『これ?2019年の蒼生の解説です』
『反逆する永遠の権現魂―金毘羅文学論序説』
『続報『女肉男食 ジェンダーの怖い話』』
『十八歳または二十歳になる猫』




『S倉、思考の場所/架空の土地』
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 S倉はそのまま佐倉ではない。ただ景色や気温などは大変似ているから、多分、双子の姉妹都市か何か、でも別のところにあって未来を映す街。
 それは私の脳内の鏡に映った街、小説の実験室、思考と発見の場。――新世紀以後、大変少ない自分の読者から、ここへ来て書いたものは、「日本の未来を予言していた」などと私は言って貰っていて、それは中央にいては判らない何かである。
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単行本p.16

 「風媒花 佐倉市文化芸術アーカイブ」第36号(2023年)に掲載された、地元佐倉と脳内S倉について、自身の来歴について書いた美しい一篇。




『藤枝静男論 会いに来てくれた』
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 師匠は私に生きる場所をくれ生きている意義をくれたので今私は生きている。それから四十二年、六十七歳になった。彼がいなかったら「私」はいなかった。
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単行本p.69

 『季刊文科』94号掲載時に紹介記事を書きました。(手抜き紹介)

2023年12月02日の日記
『会いに来てくれた』(『季刊文科』94号掲載)(笙野頼子)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2023-12-02




『川上亜紀論 知らなかった『チャイナ・カシミア』解説』
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 川上亜紀、ひとつの世界をずっと生きて変わらない、その編み目に狂いはなく欺瞞はなく、そこにはいきなり生の、真実の「小さい」感触が入ってくる。それはさまざまな世界に読み手を導く。
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単行本p.86

 『チャイナ・カシミア』(七月堂、2019年)読了時に紹介記事を書きました。(手抜き紹介その2)

2019年02月05日の日記
『知らなかった (川上亜紀『チャイナ・カシミア』解説)』(笙野頼子)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-02-05




『これ?2019年の蒼生の解説です』
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 文学は自由に書け、たとえそれが政治的テーマであっても、その媒体のオーナーの批判であっても。それがどんなに大切かを今ひとしお、私は噛みしめている。むろん私の技術があれば、名を出さずとも、小説形式にしても、虚構化や一般論化による告発は可能である。一方、論争は雑誌のコードとの戦いである。技術だけで越える事の出来ないものはある。
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単行本p.94

 最高裁判決が出たのでようやく解禁となった「蒼生」裁判の対象となった文章です。裁判自体の経緯をご存じない方は以下の記事(東京高裁二審判決直後に書かれたもの)をご参照ください。

早稲田大の学生誌「蒼生」訴訟/背景にセクハラ教授解雇問題/学生・教員巻き込み禍根/ハラスメント撲滅を(中日新聞 2022年6月8日)
https://www.chunichi.co.jp/article/485619




『反逆する永遠の権現魂―金毘羅文学論序説』
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 文中これを解禁したところは太い大きい字になっています。大変少しの改訂ですが、何よりも柄谷行人を実名批判に戻せた事が嬉しいです。
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単行本p.111

 単行本『徹底抗戦! 文士の森』(2005年)の第VI部冒頭に収録された記事の再録ですが、元の単行本では「釣られて反論を書いた私は直接に柄谷氏やその著作の名前を出す事が出来なくなった」(『徹底抗戦! 文士の森』単行本p.228)ためにぼやかして書いて
あった箇所を、前述の「蒼生」裁判判決を受けて解禁し、実名と著作名を明記、どころかその修正箇所を太文字にして強調したいわば「ディレクターズ・カット版」です。




『続報『女肉男食 ジェンダーの怖い話』』
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 今までの作品を見ても判るように、私はこの党の上方、特に「電通左翼」「経団連左翼」の大物には恨みが深い。しかし今は、様々な議員が、時には稀に、民意を知る議員もいると知った。一方、野党はと思うと虚しさばかりである。結局入管問題でさえ何も逆らわず、お飾り反権力、口だけのまま、高プロでも何でも通してしまった。なのに女性や子供を性自認で潰す時だけは張り切ってきた。こんな左党は、そのまま一枚岩であればこそ沈没しそう。多分もう一生信用しないだろう。
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単行本p.168

 『女肉男食 ジェンダーの怖い話』出版以降の経緯、特に立法と最高裁判決をめぐる政治闘争の「報道」です。マスコミは結果だけ短く報じるだけでそこに至る議論や戦いについて省略というか伏せているので、わたしたちは文学を経由して成り行きを知るしかないという。




『十八歳または二十歳になる猫』
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 猫シェルターの代表は、王族のような猫だと言っていた。ていうか最初から分離不安があった。
 その上で「お互い絶対服従」という困難な規則をこっちに強いて来た。私たちは対立してはならなかった。
 思えばこれが典型的な猫というやつなのではないかと思った。それは無論、平均的な猫ではないという事。うちの猫たちは実はそんなに猫的ではなかったのだと、こいつが来てから思い知らされた。ギドウなどは犬に近いものがあった。ところがこのピジョンは、……。
 異様なまでに完全に猫の成分で、例えば、裏切りで出来ていた。
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単行本p.211


「ともかく読者は(中略)猫の状態だけは心配してくれるので、ここに「近況」を書いておきます」(単行本p.208)

 これまでの作品にも、ちらりちらりと登場していた飼い猫ピジョン。このピジョンについて本格的に書かれた最初の作品ではないでしょうか。もっと猫についての文章を読みたい、という読者のために「一冊に纏めてステュディオ・パラボリカから出す、ピジョンの写真付きエッセイに収録」(単行本p.208)とのことなので、出版を待ちたいと思います。また「次の書き下ろしは大半仕上がっています」(単行本p.223)ともあるので、身辺雑記風ハイパー私小説を求める読者もしばらく待ちましょう。





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