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『禍いの科学 正義が愚行に変わるとき』(ポール・A・オフィット:著、関谷冬華:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 科学は、パンドラの美しい箱になりえる。そして、科学の力でどんなことができるのかを模索する私たちの好奇心が、時として多くの苦しみと死をもたらす悪霊を解き放ってしまうこともある。場合によっては、最終的な破滅の種がまかれることになるかもしれない。これらの物語は、有史以来、現在にまで続いている。そして、パンドラの箱の教訓は忘れられたままだ。
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単行本p.13


 科学の進歩は世界を変え、多くの人々の命を救ってきた。だが科学はときとして世界に災厄を解き放ってしまうこともある。鎮痛薬、マーガリン、化学肥料、優生学、ロボトミー、環境保護運動、メガビタミン療法。善意から生み出されたものが悲劇を招いた七つの事例を通じて科学と社会の関係を探究する本。単行本(日経ナショナル ジオグラフィック)出版は2020年11月、Kindle版配信は2020年12月です。


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 最後の章では、私たちが学んできた教訓を電子タバコや樹脂化学品、自閉症治療、がん検診プログラム、遺伝子組み替え作物などの最先端の発明に当てはめて考え、発明が誕生する段階で科学の進歩と科学が引き起こす悲劇を見分けられるのかどうか、私たちが過去から学ぶのか、あるいは再びパンドラの箱を開くのかを見ていく。そこから導き出される結論は、間違いなく読者を驚かせることだろう。
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単行本p.14


【目次】
第1章 神の薬 アヘン
第2章 マーガリンの大誤算
第3章 化学肥料から始まった悲劇
第4章 人権を蹂躙した優生学
第5章 心を壊すロボトミー手術
第6章 『沈黙の春』の功罪
第7章 ノーベル賞受賞者の蹉跌
第8章 過去に学ぶ教訓




第1章 神の薬 アヘン
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 かつて科学者たちは、モルヒネでアヘン中毒を治療できるのではないかと考えていた。次には、ヘロインでモルヒネ中毒を治療できるのではないかと期待した。そろそろ別の方法を試してみる時期が来ていた。彼らは、薬を合成することにより、痛み止めから中毒性を取り除くという挑戦を再び始めた。だが今度も挑戦はうまくいかず、結果は大失敗に終わることになった。
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単行本p.30

 痛みを取り去る鎮痛剤。神の恩恵ともいうべき鎮痛剤には、しかし中毒性という罠がつきまとう。アヘン、モルヒネ、ヘロイン、そしてオキシコンチン。麻薬中毒を治療するための新たな麻薬の開発をくり返した鎮痛剤の歴史をたどります。


第2章 マーガリンの大誤算
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 悪玉だと信じられていた飽和脂肪酸を大量に含むココナッツ油やパーム油などの熱帯植物油とバターのような動物性油脂を使用する企業を糾弾することで、CSPIやNHSAは知らず知らずのうちにもっと危険な食品であるトランス脂肪酸を米国に普及させていた。25パーセントのトランス脂肪酸を含むマーガリンのような食品が突如として「健康に良い代用品」に祭り上げられたのだ。1990年代の初めには、数万点の食品に部分水素添加油脂が使われるようになっていた。安価で、宗教の戒律に触れず、健康に良い代用品といわれたこれらの食品は、飛ぶように売れた。
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単行本p.62

 科学は脂肪の摂取が心臓病の原因となることを発見した。動物性脂肪を含むバターの代わりに、安価で健康に良い植物性脂肪のマーガリンを食べよう。だがマーガリンに含まれるトランス脂肪酸がどれほど危険であるか、手遅れになるまで誰も気づかなかった。脂肪の安全性に関する混乱の歴史を解説します。


第3章 化学肥料から始まった悲劇
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 ミュンヘンのドイツ博物館には、見学者が近づかないよう低い柵で仕切った内側に、フリッツ・ハーバーとロベール・ロシニュールが空気から窒素を固定するために制作した卓上装置が置かれている。時折、見学者が装置の前で足を止め、少し眺めてから、そのまま通り過ぎる。この装置から世界的な化学肥料の生産が始まり、多くの人命が救われたが、過剰な窒素で環境が汚染され続けているために最終的な破滅へのカウントダウンが始まったかもしれないことに、思いをはせる者はいない。
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単行本p.108

 窒素固定技術。その発明により化学肥料の大量生産が可能となり、数十憶人が飢餓から救われた。しかし、それに伴う窒素化合物汚染は深刻さを増し、地球の生態系を脅かしている。私たちの生活を豊かにすると同時に爆薬や毒ガスを作ってきた化学の功罪に迫ります。


第6章 『沈黙の春』の功罪
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 DDTを足がかりとして、米国は泥沼から抜け出した。ハマダラカはいなくなり、人々がマラリアにかかる心配はなくなった。それから、環境保護の名目で、米国は自分たちが脱出に使った足場をしまい込み、途上国には役に立たない生物戦略や、高くて買えない抗マラリア薬だけを残した。
 環境保護庁が米国でDDTを禁止した1972年以降、5000万人がマラリアで命を落とした。そのほとんどは、5才未満の子どもたちだった。(中略)『沈黙の春』でカーソンが警告したにもかかわらず、ヨーロッパ、カナダ、米国の研究により、DDTは肝臓病や早産、先天性異常、白血病、あるいは彼女の主張にあった他の病気の原因にはならないことが示された。DDTの使用期間中に増加した唯一のがんは肺がんだったが、これは喫煙が原因だった。何といっても、DDTはそれまでに発明されたなかでは最も安全な害虫対策だった。他の多くの殺虫剤に比べれば、はるかに安全性が高かった。
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単行本p.208、209

 殺虫剤DDTの危険性を訴える『沈黙の春』(レイチェル・カールソン)はベストセラーとなり、ここから米国における環境保護運動は始まった。しかし、この本の警告には科学的根拠がなく、DDTの禁止による弊害は大きかった。カーソンが生み出した「ゼロ・トレランス」概念は今もなお大きな問題を引き起こしている。環境保護運動が抱える影の側面を示します。


第7章 ノーベル賞受賞者の蹉跌
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 理由はどうあれ、この3人が及ぼした悪影響は計り知れない。ポーリングは人々にがんや心臓疾患のリスクを高めるだけでしかない大量のビタミンとサプリメントの摂取を勧め、デュースバーグは間接的にだが南アフリカで数十万人をエイズで死亡させ、モンタニエは治療効果が見込めず、有害性を持つ可能性すらある薬を提供して、子どもたちを何とかしたいという親たちの切なる願いを利用した。
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単行本p.242

 ノーベル賞を受賞した科学者たちが間違うとき、その権威は大きな災厄を引き起こすことがある。自分の間違いを認められず、あらゆる証拠を無視して有害な療法を普及させた三人のケースを取り上げ、科学者の社会的責任について考えます。


第8章 過去に学ぶ教訓
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 あらゆる進歩には代償が伴う。その代償が高いものになり過ぎないかどうかを調べるのは、私たちに課せられた仕事だ。ワクチンや抗生物質、衛生管理プログラムのように、ごくわずかな代償で済む場合もある。だが、トランス脂肪酸やロボトミー手術、メガビタミン療法のように、ある場合には代表は非常に大きくなる。これらのケースについては、どれも計算は簡単だ。しかし、オピエート(アヘンアルカロイドの薬剤)や化学肥料のように、短期間のうちに得られた利益やメリットを長期的な損失が大幅に上回り、影響の大きさを簡単にはじき出せない場合も多い。
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単行本p.276

 科学の進歩によって生まれた問題解決の方法をどのように評価すればよいのだろうか。電子タバコ、樹脂化学薬剤、自閉症治療、がん検診プログラム、遺伝子組み替え作物など、今日の議論を取り上げて、その功罪について考えます。





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『三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題』(浅田秀樹) [読書(サイエンス)]

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 日常感覚からすれば、天体の個数が「2個」と「3個」の間に、劇的に大きなギャップが存在するというのが不思議です。
 実際、大昔の科学者たちも、「二体問題」が解けたのだから、「三体問題」も頑張れば(何らかのうまい数学的な操作を発見すれば)、その解は見つかるのではないかと楽観的に考えました。とくに天才数学者・科学者たちは、「俺こそ、その解の発見者になれる才がある」と自信満々だったに違いありません。実際に、天才たちによって「特別な状況」を仮定した場合においての「三体問題」の解は発見されています。しかし、「一般的な条件」での解を見つけることには、ことごとく失敗したのです。
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単行本p.8、10


 とある事情から最近やたら有名になった数学の難題「三体問題」。なぜ一般解が得られないのか、近似解すら得られないというのはどういうことか、そして今日なお発見が続く特殊解の研究。数学の難問に挑んだ天才たちの歴史と、実際の宇宙における多体問題について解説する一冊。単行本(講談社)出版は2021年3月、Kindle版配信は2021年3月です。


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「三体問題」には、オイラー、ラグランジュ、ポアンカレといった、科学史にその名を残す有名数学者・科学者が挑戦し、彼らの挑戦を次々とはねのけてきた輝かしい戦歴があります。彼らの素晴らしい才能をもってさえ、完全には解決することができなかった「問題」なのです。そして、21世紀の現在でも、「三体問題」は永遠のフロンティアであるかのような雰囲気を醸し出しています。
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単行本p.4


〔目次〕

第1章 解ける方程式
第2章 解けない方程式
第3章 ケプラーの法則とニュートンの万有引力
第4章 三つの天体に対する解を探して
第5章 一般解とはなにか
第6章 つわものどもが夢のあと
第7章 三つの天体に対する新しい解が見つかる
第8章 一般相対性理論の登場
第9章 一般相対性理論の効果をいれた三つの天体のユニークな軌道
第10章 天体の軌道を精密に測る




第1章 解ける方程式
第2章 解けない方程式
第3章 ケプラーの法則とニュートンの万有引力
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 5次方程式の解法をめぐる話は大変興味深いものです。このことから本書の核心である「三体問題の解」を考察するときにも重要になる教訓が一つ得られます。ある方程式が「解ける」あるいは「解けない」ということを論じるさいには、その解を得るための手段――例えば代数的な操作に限る――をはっきりさせる必要があるのです。
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単行本p.48

 まず基礎知識として、ある方程式が「解ける」とはどういうことか、「解法」とは何なのかを、一次方程式、二次方程式を例に解説します。そして五次方程式が「代数的には」解けないことの発見と、楕円関数を応用した「代数的ではない」五次方程式の解法について、さらにニュートン力学と二体問題の解決について示します。


第4章 三つの天体に対する解を探して
第5章 一般解とはなにか
第6章 つわものどもが夢のあと
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 ブルンスは科学者たちの頼みの綱であった「求積法」を用いて「三体問題」を解くことが不可能なことを証明してしまいました。さらに追い打ちをかけるように、ポアンカレが登場し、級数の形でさえ「三体問題」の解が得られないことを証明しました。もはや「三体問題」の解をこれ以上発見することは、永遠の夢になってしまったのでしょうか。
 答えを先にいいますと「求積法」や「級数展開」を用いて解が得られないことは、もう解を見つけられないことと等価ではありません。
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単行本p.162

 オイラーの制限解、ラグランジュの特殊解(ラグランジュ点とトロヤ群の発見)、一般解への挑戦とその顛末、カオス理論の発見、などの話題を解説し、三体問題に挑んだ数学者・物理学者たちの足跡をたどります。


第7章 三つの天体に対する新しい解が見つかる
第8章 一般相対性理論の登場
第9章 一般相対性理論の効果をいれた三つの天体のユニークな軌道
第10章 天体の軌道を精密に測る
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 ヘギーによる数値計算の結果によれば、「8の字軌道」の3体系が存在する確率は、銀河あたり高々1個程度だそうです。確率の小ささは想定の範囲内です。しかし、そんな数学的なモノが宇宙に存在可能だということに驚かされます。
 以上のように、数学者、物理学者、天文学者、計算機科学者らが「三体問題」に対しての「8の字解」に関する研究を精力的に行いました。しかし、核心に迫る答えは得られていません。「8の字軌道」が存在する数学的証明があり、数値的に高精度で軌道の形も計算されました。しかし、現在までのところ、その「8の字軌道」の形を数式で表現することに誰も成功していないからです。
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単行本p.178

 三つの天体が互いの軌道を交差するように周期的運動を永久に続ける「十字形解」、同じ8の字軌道上を互いに追いかけるようにして移動し続ける「8の字解」など現在も研究されている特殊解から、一般相対性理論の適用や実際に発見された三体天文現象の意義まで、数学・理論物理学・天文学など様々な研究分野にまたがって今なお精力的に研究が進められている三体問題、N体問題の最先端トピックを解説します。





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『地磁気逆転と「チバニアン」 地球の磁場は、なぜ逆転するのか』(菅沼悠介) [読書(サイエンス)]

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 驚くべきことに、地球の磁場(地磁気)が180度ひっくり返るという現象が過去に何度も起きてきたのです。そして、いちばん最近に起きた地磁気逆転の証拠が、まさにチバニアン誕生の舞台となった地層、千葉セクションから見つかったのです。(中略)
 一般には知られていませんが、過去200年ほどの間、地磁気の強さは低下し続けています。この傾向がさらに続けば、地磁気逆転に向かう可能性もあるのです。我々にとって重要な地磁気が、もしいま逆転をしたらどのような事態が起こるのでしょうか? 現代の文明社会は、存亡の危機を迎えてしまうのでしょうか? 科学者たちの研究の積み重ねによって、少しずつ、でも着実に、その謎の解明に近づいています。
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単行本p.5、6


 観測が始まってから、一貫して弱まり続けている地球磁場。このまま近い将来に地磁気逆転が起きるのだろうか。謎を解くためのカギとなるのが、最も直近に起こった地磁気逆転のデータが残されている千葉セクションだ。新たな地質年代「チバニアン」の命名元となった千葉セクションに残された記録から地磁気逆転のメカニズムに迫る研究者の姿を紹介するサイエンス本。単行本(講談社)出版は2020年3月、Kindle版配信は2020年3月です。


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 千葉セクションが前期-中期更新世境界GSSPとして認定されたことにより、千葉セクションは文字どおり世界標準の地層となりました。
 今後は、世界中の研究者が、地磁気逆転や気候変動の研究のために千葉セクションを訪れることになるでしょう。
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単行本p.239


〈目次〉

第1章 磁石が指す先には ――磁石と地磁気の発見
第2章 地磁気の起源 ――なぜ地球には磁場が存在するのか
第3章 地磁気逆転の発見 ――世界の常識を覆した学説
第4章 変動する地磁気 ――逆転の「前兆」はつかめるか
第5章 宇宙からの手紙 ――それが、謎を解くヒントだった
第6章 地磁気逆転の謎は解けるのか ――なぜ起きるのか、次はいつか
第7章 地磁気逆転とチバニアン ――その地層が、地球史に名を刻むまで



第1章 磁石が指す先には ――磁石と地磁気の発見
第2章 地磁気の起源 ――なぜ地球には磁場が存在するのか
第3章 地磁気逆転の発見 ――世界の常識を覆した学説
――――
 こうして「地磁気逆転」は、溶岩、海洋底の地磁気異常、そして海底堆積物のすべてから明確な証拠が見出されることによって、その存在が確認されました。また、地磁気逆転の存在は、同時に海洋底拡大説が正しいことも示しており、これらの成果を統一的にまとめることで、このあと「プレートテクトニクス」が成立していくことになります。
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単行本p.101

 地磁気の発見からその生成メカニズムの解明、そして地磁気逆転現象の証明とプレートテクトニクス理論の完成に至る歴史を解説します。


第4章 変動する地磁気 ――逆転の「前兆」はつかめるか
第5章 宇宙からの手紙 ――それが、謎を解くヒントだった
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 古くから、地磁気逆転と生命の進化や絶滅の関係については、さまざまな仮説が提唱されてきました。しかし、両者になんらかの関係性があることを証明した研究は今のところありません。それは、もしかすると、地磁気逆転、もしくは生命の絶滅・進化の年代測定精度が十分でなかったことが理由かもしれません。一方、地磁気エクスカーションについては、ごく最近になって興味深いデータが報告されています。(中略)
 最新の年代測定によると、ネアンデルタール人の絶滅は約4万1000~3万9000年前と推定されていますが、この絶滅のタイミングが、まさにラシャン・エクスカーションの最盛期と一致するというのです。
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単行本p.132

 宇宙線と地磁気、年代測定技術の進歩、そして地磁気と生命進化の関係など、地磁気変動にかかわる様々なトピックを解説します。


第6章 地磁気逆転の謎は解けるのか ――なぜ起きるのか、次はいつか
第7章 地磁気逆転とチバニアン ――その地層が、地球史に名を刻むまで――――
 まず、海底堆積物のベリリウム10から示された松山-ブルン境界年代の修正について、氷床コアや、火山灰に含まれるジルコン粒の放射年代測定など、最新の分析によって証明されていく過程を紹介しましょう。そして、その結果から明らかになってきた地磁気逆転の全容も含めて、地磁気逆転に前兆現象はあるのか、そして地磁気が逆転したとき、この地球はどうなってしまうのか、そもそもなぜ地球の磁場は逆転するのか――、地球科学最大の謎ともいえるこのテーマについて、最新の研究成果も紹介しながら追ってみたいと思います。
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単行本p.182

 地磁気逆転についてどこまで分かっているのか、そして千葉セクションの地層から何が読み取れるのか。最新の研究成果をまとめます。





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『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』(ジェフリー・S・ローゼンタール、石田 基広:監修、柴田裕之:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 統計学は素晴らしく、役に立ち、重要で、発展中の領域だ。ただし、一つだけ小さな問題がある。誰もが大嫌いなのだ。(中略)何をしているのか訊かれると、今度は、統計学者です、と答えるようになった。すると、いちばん一般的な反応は何だったか? 「統計の授業はほんとうに大嫌いでした」だった。そうなのだ。そんなことがありうるとは思えなかったけれど、ほとんどの人は、数学が大嫌いなばかりか、それに輪をかけて統計学が嫌いなのだ。(中略)
 けれど、それは残念な話だ。なぜなら、統計学は本来、たった一つの単純で直感的で重要な疑問、すなわち、それはただの運なのか、という疑問についての学問なのだから。
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単行本p.174


 珍しいと思える出来事が起きたとき、それは何らかの魔法的な力が働いた証拠なのだろうか、それとも単なる偶然なのか。それを見分けるのが統計学だ。運命の出会い、奇跡の出来事、カルマ、超能力、ジンクス、運に関する超自然的な説明を統計学でばっさばっさ斬ってゆくサイエンス本。単行本(早川書房)出版は2021年1月、Kindle版配信は2021年1月です。


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 何が原因で何が起こり、何が何も引き起こさなかったかという観点から、私がこの世界を論理的に解明しようとするときにはいつでも、私は世の中をつまらなくしていると苦情を言う人が必ずいる。
「あなたは、せっかくの楽しみに水を差しているのではないですか?」と彼らは尋ねる。
 彼らは、熱心に願えば、宝くじのジャックポットを勝ち取る助けになることを期待しているのに対して、私は無情な統計学を使って、宝くじで大当たりするよりも宝くじ券を買いに行く途中で死ぬ可能性のほうが高いなどと言う。彼らは完璧な人生の伴侶を見つけるのを「運命」が助けてくれると想像するのに対して、私は思いがけず誰かに出会う確率を冷徹に計算する。彼らは魔法のような力が自分の宿命をコントロールしていると空想するのに対して、私は人の人生は無情な自然の物理法則によって支配されていると言い張る。「それだけのことでしかないのですか?」と彼らは問う。(中略)
 これにはがっかりする人が多いことは承知している。けれど、落胆するべきではないと思う。私たちが暮らす世界は、たとえ超自然的現象が一つもないとしてもなお、すでに喜びと驚異的なもので満ちあふれていると思う。
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単行本p.386、387


〔目次〕

第1章 あなたは運を信じていますか?
第2章 ラッキーな話
第3章 運の力
第4章 私が生まれた日
第5章 私たちは魔法好き
第6章 射撃手の運の罠
第7章 運にまつわる話、再び
第8章 ラッキーなニュース
第9章 この上ない類似
第10章 ここらでちょっとひと休み──幽霊屋敷の事件
第11章 運に守られて
第12章 統計学の運
第13章 繰り返される運
第14章 くじ運
第15章 ラッキーな私
第16章 ラッキーなスポーツ
第17章 ラッキーな世論調査
第18章 ここらでちょっとひと休み──ラッキーなことわざ
第19章 正義の運
第20章 占星術の運
第21章 精神は物質に優る?
第22章 運の支配者
第23章 ラッキーな考察




第1章 あなたは運を信じていますか?
第2章 ラッキーな話
第3章 運の力
第4章 私が生まれた日
第5章 私たちは魔法好き
第6章 射撃手の運の罠
第7章 運にまつわる話、再び
第8章 ラッキーなニュース
第9章 この上ない類似
第10章 ここらでちょっとひと休み──幽霊屋敷の事件
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 投票の前日、同僚の政治学者にそそのかされて、この選挙に少額の賭けをした。もしクリントンが買ったら私が一ドル払い、もしトランプが勝ったら彼が私に二ドル払うというものだった。じつは私は、クリントンにはトランプの二倍以上の勝ち目があると踏んでいたけれど、面白そうだからというだけの理由で、その賭けをすることにした。だから、トランプが当選したとき、この結果にはがっかりだったものの、少なくとも同僚の鼻を明かして二ドル勝ったと、自分を慰めた。
 その後、なんともおかしなことが起こった。奇妙な、不快な気分になってきたのだ。その晩、眠りに落ちるときに、ひょっとしたらトランプが選挙で勝ったのは、私が彼の勝ちに賭けたからかもしれないと、知らず知らずのうちに恐れていた。私がトランプ政権の誕生を招いてしまったのかもしれない!(中略)私の馬鹿らしい賭けがどういうわけかあの驚愕の選挙結果の説明になると信じたい気持ちが、どこか私の中にあったようだ。何たる狂気。
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単行本p.73


 統計学を駆使して「それはあくまで偶然です」と説明しても、人は超自然的な原因を信じることを止めない。私たちは魔法が大好きなのだ。運に関する人間の思い込みのパターンと、そのような思い込みを招く典型的な統計学上の罠について解説します。




第11章 運に守られて
第12章 統計学の運
第13章 繰り返される運
第14章 くじ運
第15章 ラッキーな私
第16章 ラッキーなスポーツ
第17章 ラッキーな世論調査
第18章 ここらでちょっとひと休み──ラッキーなことわざ
――――
 私はすでに、これまでに受けてきた宝くじの確率にまつわる多くの疑問や、ジャックポットを勝ち取る可能性がとても低いこと、あれこれ違う数を選んでも勝ち目を増やせないこと、自分の可能性を高めるというさまざまな「システム」がじつは効果がないことなどを説明した。正直に言うと、途中でそうした説明に、少しうんざりしてきた。
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単行本p.224

 統計学の基本的概念を説明し、続いて統計学の威力が大いに発揮される分野、すなわち宝くじ、スポーツ、世論調査、における一般的な思い込みを覆してゆきます。




第19章 正義の運
第20章 占星術の運
第21章 精神は物質に優る?
第22章 運の支配者
第23章 ラッキーな考察
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 並外れた偶然の一致や幸運のお守り、魔法のような影響、神の介入といった奇妙で驚くべき話はどうなのか? 私はそれらが、運の罠や選択的観察、科学的原因、人間の思考で、すべて――そう、すべて――説明できると、心から信じている。これはあまり神秘的な見方ではないけれど、それでも、私たちの世界の運を先覚に要約している。それを承知したうえでなお、私たちはこの世界をありのままに受け入れ、喜びや幸せや成功を見つけられると、私は自信を持っている。
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単行本p.381


 裁判で取り上げられる証拠、占星術の有効性、超能力が存在する証拠、そういったものは本当なのだろうか。並外れた偶然の一致や珍しい出来事が生ずる確率を統計学によって分析してみると、あまり神秘的でない結論が出てくる。統計学は世の中を、凡庸でつまらない、退屈な場所にするための学問なのだろうか。運と思い込み、あるいはその否定が、私たちの世界観、宗教観に与えるものを考察します。





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『連星からみた宇宙 超新星からブラックホール、重力波まで』(鳴沢真也) [読書(サイエンス)]

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 じつは、宇宙に存在する星々のおよそ半数は、連星であると考えられています。しかし私たちにとってもっとも身近な恒星である太陽が1つだけなので、多くの人は、恒星はみな一人ぼっちで存在していると思っているようです。「ブルーバックス」の編集部のみなさんでさえ、恒星の半数は連星だと知らない人が少なくなかったと聞いて、ちょっとびっくりしました。連星は宇宙で珍しいものではなく、むしろありふれた存在なのです。
 しかも、ただ「珍しくない」だけではありません。じつは天文学の進歩において、連星は非常に重要な役割を担ってきたのです。
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単行本p.5


 共通重心を中心に互いの周囲を公転している複数の恒星、連星。新星、ブラックホール、Ia型超新星、ダークエネルギー、重力波など、様々な発見に連星がどのように関わっていたのかを平易に解説する天文学入門書。単行本(講談社)出版は2020年12月です。


 宇宙や天体に関するサイエンス本で名高い鳴沢真也さんによる最新作です。これまでに読んだことのある鳴沢さんの著書の紹介はこちら。


2016年07月27日の日記
『へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星』(鳴沢真也)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2016-07-27

2014年02月25日の日記
『宇宙人の探し方 地球外知的生命探査の科学とロマン』(鳴沢真也)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2014-02-25


 今作のテーマは「連星」。連星に関する基礎知識から始まって、天文学の歴史における様々な大発見に連星がどのように関わっていたのかを紹介してくれます。


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 天文学や宇宙論に大発見をもたらし、その発展を支えているのは、連星だといっても過言ではないでしょう。さらに、星が見せる不思議な特徴や、説明のつかない奇妙な現象について調べていくと、連星があることが原因だったという事例は、まさに枚挙にいとまがありません。「宇宙の謎解き」は、連星を知らなければ絶対にできないのです。
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単行本p.6


〔目次〕

第1章 あれも連星、これも連星
第2章 連星はどのようにしてできたのか
第3章 なぜ連星だとわかるのか
第4章 連星が教える「星のプロフィール」
第5章 「新しい星」は連星が生む幻か
第6章 ブラックホールは連星が「発見」した
第7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
第8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
第9章 連星のユニークな素顔
第10章 連星も惑星を持つのか
第11章 連星は元素の合成工場だった
第12章 もしも連星がなかったら 




第1章 あれも連星、これも連星
第2章 連星はどのようにしてできたのか
第3章 なぜ連星だとわかるのか
第4章 連星が教える「星のプロフィール」
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 人間の場合、双子が生まれる確率は約1%といわれています。しかし、星は人間よりも双子で生まれる確率が圧倒的に高いと考えられています。
 その双子が連星になると考えられていますが、双子ではなく「他人」が連星になる場合もあります。さらに、最初は連星だったのに、あとでペアが解消される場合や、連星のペアをチェンジしてしまう場合すらあるのです。星の世界の人間関係(星関係?)も、なかなか複雑なのです。
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単行本p.42

 連星とはどのような構造をしているのか。現時点でわかっている最多の多重連星は何重連星か。連星はどのようにして誕生するのか。ある恒星系が連星であることをどうやって確認するのか。そして連星の観測により何が分かるのか。連星に関する基礎知識を解説します。


第5章 「新しい星」は連星が生む幻か
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 新星の正体はなんなのでしょうか。一見すると、夜空に新しい星が生まれて輝きだしたようにも思えます。しかし輝きは一時のことで、しだいに暗くなって見えなくなるのですから、星が誕生したわけではないのです。新星現象は長い間、天文学上の大きな謎であり、古いものでは1651年に出された論文に、13もの説が提唱されています。
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単行本p.104

 突然、夜空に輝く星が現れる新星(ノヴァ)現象。長年に渡って天文学上の謎だった新星の正体には、連星が深く関わっていたのです。


第6章 ブラックホールは連星が「発見」した
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 連星は、謎のX線源をつくり、通常なら私たちけっして姿を見せないブラックホールの姿を暴き出す役割を果たしていました。ブラックホールの発見は、ジャッコーニさん、ロッシさん、小田さんら「X線天文学」を切り拓いた人たちの功績によるものですが、同時に、連星がブラックホールを発見させたともいえるのです。
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単行本p.134

 光を放出せず発見困難と考えられていたブラックホールは、実際には強烈なX線を放出していた。そのメカニズムは。ブラックホールの発見に連星がどのように関わっていたのかを解説します。


第7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
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 超新星というと、非常に重い星が、一生の最後に大爆発する「重力崩壊型」が一般の方にはなじみがあるようですが、Ia型はそれとは別のタイプの超新星で、重力崩壊型とはまったく異なるメカニズムで発生すると考えられています。(中略)
 では、どのようなメカニズムで白色矮星が爆散するのでしょうか。じつは2つの説があり、ともに連星がからんでいるのですが、どちらが正しいのかは現在も大論争中です。
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単行本p.139

 標準光源として利用できるIa型超新星。連星が作り出すIa型超新星の観測が宇宙の加速膨張という衝撃的な発見、さらにはダークエネルギーの謎につながっていった経緯を解説します。


第8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
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 GW170817の検出と、そのときのキロノバ、ショートガンマ線バーストの検出は、重力波と電磁波による、それも広い波長域にわたっての観測という意味で、人類史上初めての快挙でした。理論で予測されていたいくつかの現象が、このとき一気に証明されたのです。
 アインシュタインの一般相対性理論の正しさや、これらの天体現象のメカニズムが解き明かされただけではありません。ブラックホールどうしの連星の場合と同じく、中性子星どうしの連星もたしかに存在すると立証されたことは、天文物理学でも、星の進化の研究などにおいてきわめて重要な意義がありました。物理学者にとっても、天文学者にとっても、それは一大イベントだったのです。こうしたわけで、中性子星どうしの合体が観測された2017年8月17日を私は「21世紀天体物理学の勝利の日」と呼んでいます。
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単行本p.169

 重力波と電磁波によるブラックホール連星や中性子星連星の観測は、これまでの理論を一気に裏付ける重要な成果をあげた。連星観測により宇宙の姿が明らかになってゆく様子を解説します。


第9章 連星のユニークな素顔
第10章 連星も惑星を持つのか
第11章 連星は元素の合成工場だった
第12章 もしも連星がなかったら 
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 結婚指輪に使われるプラチナ、有史以来人々を魅了し続ける金、原子力発電の燃料となるウラン、これらの元素は中性子星の連星が衝突・合体してつくられるのです。このことがわかってきたのは、じつはかなり最近のことです。
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単行本p.221

 様々な連星の様子、金やウランなどの元素の合成過程に連星がどのように関わっているのか、そして連星を周回する惑星の存在など、様々なトピックを解説します。





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