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『精密への果てなき道 シリンダーからナノメートルEUVチップへ』(サイモン・ウィンチェスター:著、梶山あゆみ:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 精密さは私たちの生活の隅々にまで、余すところなく徹底的に行き渡っている。それでいてなんとも皮肉なことだが、精密さにまみれて生きている私たちのほとんどは、改めて考えたときにそれがどういうものかをよくわかっていない。そこが、指摘しておきたいもう一つの側面である。精密さが何を意味するのかも、似たような概念とどう違うのかも私たちははっきりとは理解していないのだ。(中略)読者は精密さがいつの世にも存在したと思っているのではないだろうか。人の目に触れぬところでじっと待ち、誰かに見つけてもらい、その素晴らしさに気付いた崇拝者たちが公益と信じるもののために利用されてきたのだと。とんでもない。
 精密さとは、意図的につくり出された概念だ。そこには、よく知られた歴史上の必要性があった。精密さが生み出されたのは、完全に実利的な理由によるものである。(中略)それはイギリスのウェールズ地方北部で、1776年5月のある涼しい日に起きた。(中略)再現可能な本当の意味での精密さを多少なりとも備えた機械。それが誕生したのは、北ウェールズでのその春の日だったというのが今やおおかたの(異論がないわけではないが)一致した見解である。
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単行本p.26、38、39


 測定し、記録し、反復することのできる精密さ。歴史上はじめて公差(許容誤差)数ミリの基準を達成した蒸気機関から、「陽子直径の1万分の1」を測定する重力波検出器まで、数多くの興味深いエピソードとともに精密機械工学の歴史を解説する一冊。単行本(早川書房)出版は2019年8月、Kindle版配信は2019年8月です。


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 私は、本書の各章を公差の大きい順に並べることにした。公差が0.1や0.01という章から始まり、後ろに進むにつれてだんだん小さくなっていく。ついには、一部の科学者が現在取り組んでいるような、あまりにも小さすぎて不合理に思えるほどの公差へとたどり着く。その小ささたるや、近年の発表によれば0.0000000000000000000000000001グラムの誤差を測定したという報告もあるほどだ。じつに10のマイナス28乗である。
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単行本p.32


[目次]
第1章 星々、秒、円筒、そして蒸気
第2章 並外れて平たく、信じがたいほど間隔が狭い
第3章 一家に一挺の銃を、どんな小屋にも時計を
第4章 さらに完璧な世界がそこに
第5章 幹線道路の抗しがたい魅力
第6章 高度一万メートルの精密さと危険
第7章 レンズを通してくっきりと
第8章 私はどこ?今は何時?
第9章 限界をすり抜けて
第10章 絶妙なバランスの必要性について




第1章 星々、秒、円筒、そして蒸気
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 肝心なのは、それによってまったく新しい世界が誕生しようとしていたこと。ついに機械をつくるための機械が生み出され、しかもそれは、正確かつ精密につくる能力をもっている。にわかに公差への関心が芽生えた。(中略)蒸気機関の中心的役割を果たすシリンダーは、「公差0.1インチ」か、ことによるともっと小さい公差を実現していた。これは、それ以前には達成はおろか想像すらされていなかったものである。
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単行本p.76


 アンティキティラの機械、ハリソンのクロノメーター。それまでも精密な機械を生み出した職人はいた。しかし、測定し、記録し、反復することのできる精密さ。世界を変えてしまう「精密さ」は蒸気機関とともに誕生した。「精密さ」という概念の夜明けを解説します。


第2章 並外れて平たく、信じがたいほど間隔が狭い
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 金属部分は用途によって大きさや形状が様々に異なる。したがって、親ネジと工具送り台の設定を作業員が正確に記録しておき、作業を繰り返すたびにその設定を変えないようにすれば、何度やってもまったく同じ金属部品に仕上がるはずだ。外観も寸法も、(金属の密度が同一なら)重さも、ほかのいろいろな特徴にもばらつきがなくなる。部品が再現可能になり、一つのものを別のものと交換しても問題が起きない。そこが肝心なポイントである。機械加工した金属部品(歯車、止め金、取っ手、円筒部など)を使って何かの機械を組み立てる場合も、それは互換性のある部品ということになる。それこそが、現代の製造業の根幹を支えているといっていい。
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単行本p.90


 機械が全体として精密に出来ているだけでなく、それを構成する部品の一つ一つに「互換性がある」。すなわち各部品がそれぞれ精密に、同一部品ならすべて同一に仕上がっており、部品を交換しても同じ機械とその精密さが完全に再現される。現代の製造業を支えている根幹的な技術が発明された経緯を解説します。


第3章 一家に一挺の銃を、どんな小屋にも時計を
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 修理ができて、手頃な値段で、まずまず正確な時計。それが顧客の求めた条件であり、それを実現できるところが精密な製造法の優れた点だった。(中略)物づくりの手法に一つの金字塔が打ち立てられたからである。その手法は、世界中の工業国がこぞって(精密さと完璧さを開拓したという点では胸を張っていいイギリスまでもが)羨む名ですでに呼ばれ始めていた。「アメリカ方式」と。
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単行本p.141


 大量生産技術により作られた銃や時計は、極めて正確で、信頼性が高く、修理が容易で、驚くほど安価な製品となった。イギリスで誕生した精密機械工学が、アメリカでどのように発展していったのかを解説します。


第4章 さらに完璧な世界がそこに
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 この見事な発想と、その仕事を楽々とやってのける美しい機械は、工学の世界に衝撃をもたらした。ジョン・ウィルキンソンが精密さの概念を誕生させ、0.1インチの公差で鉄をくり抜ける機械をつくってからまだ80年と経っていない。今や、金属部品の測定と製造が0.000001インチという公差で行えるようになった。信じがたいほどの変化の大きさである。突如として無限の可能性が(当時はまだ具体的になっていなかったにせよ)開けたのだ。
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単行本p.160


 精密さの概念を具現化した精密加工機械。それは驚くべきスピードでその精密さを増してゆく。精密であることは必要性から目標となり、精密さの基準は級数的な勢いで進歩してゆく。


第5章 幹線道路の抗しがたい魅力
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 ヘンリー・ロイスはごく単純に、選ばれし小数の人々のために世界最高級の自動車をつくることに全力を傾けた。それがどんなに困難であろうと、どれほど経費がかかろうと、頓着はしない。一方のヘンリー・フォードはといえば、個人を自動車で輸送するという手段をできるだけ大勢の人に届けたいと考えた。物づくりに支障を来さない程度に、可能な限りの低コストで、それぞれの夢を実現するために、ロイスが職人を集めて手作業で自動車を組み立てたのに対し、フォードは膨大な数をつくる必要から、やがて機械の力を借りるようになる。
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単行本p.169


 精密に仕上げられた大量の部品。それをどのようにして組み立てて一台の自動車を完成させるべきだろうか。妥協のない完璧な自動車をつくるため職人による手作業を洗練させたヘンリー・ロイス。大量生産とコスト削減のために「組み立てライン」を発明したヘンリー・フォード。ロールス・ロイスとフォード、それぞれの創成期における自動車製造に対するアプローチの違いを概観します。


第6章 高度一万メートルの精密さと危険
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 80年あまりが過ぎた今となっては、この発想がどれだけ革新的で奇抜なものだったかを実感するのは難しい。これは偶然が生んだ発明ではない。周到に計画し、慎重に考え抜き、入念な評価を行った結果として誕生したものであり、輸送機関を推進するためのまったく新しい手段だった。この瞬間をもって(またはこの発明、この人物をもって)、標準的な精密さのモデルは純然たる機械の領域を脱し、実体のないものの世界へと移動したのである。これから組み立てられようとしていたのは、人知を超えた美しさをもつ装置だった。人類はジェットエンジンを使って世界にろくなことをしてこなかったとの見方もあろうが、エンジン自体は当時も今もなお優美さと完全性を備え、これに匹敵する近代の創造物はそうないといっていい。
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単行本p.238


 稼働部品を複雑に組み合わせた複雑で故障しやすく速度に限界があるプロペラ方式。それに対して、稼働部品が一つしかないシンプルで完璧な推進装置を作り出す。そのためには自身を構成する合金の融点よりもはるかに高温のガスのなかで完璧に動作するタービンブレードが必要だった。航空機に革命を起こしたジェットエンジンの発明をめぐる物語。


第7章 レンズを通してくっきりと
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 現代の精密機器に要求されるような公差は、基本的に過ちを許さないレベルになっている。しかし、精密な製品の製造に人間が依然として関わっている以上、人的ミスがときとして忍び込んでくるのは避けられない。精密さを欠いた人間の失敗が、無人の世界のためにつくられた精密なメカニズムと交差したらどうなるか。その一番最近の典型的事例にハッブル宇宙望遠鏡がある。それは、打ち上げられ、不具合が白日の下にさらされ、最終的には素晴らしい成果を収めた物語だ。
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単行本p.289


 軌道上に打ち上げられてから致命的な問題が発覚したハッブル宇宙望遠鏡。驚くべき精度で作られたはずの主鏡はなぜピンぼけを起こしたのか。そしてそれを工場ではなく軌道上で宇宙服を着たまま修理するために、どのようなミッションが計画され遂行されたのか。宇宙望遠鏡の挫折と復活の物語を通じて、精密工学と人間の関係を見つめます。


第8章 私はどこ?今は何時?
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 地表上の位置は今やセンチメートル(近いうちにはミリメートル)単位で特定できる。なぜそんなことが可能かといえば、一つの技術が開発されたからだ。のちにその技術は、デッカ、ロラン、ジー、トランシット、モザイクといったかつての独占的な電波航法に取って代わることになる。さらには、六分儀や羅針盤やクロノメーターといった、位置を決めるのに何世紀も前から使われてきたブリッジの器具をも無用の長物に変えていく。
 その技術の名は「GPS(全地球測位システム)」だ。
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単行本p.322


 地表のどこにいても自分の居場所を正確に知ることが出来るGPS。それはどのようにして発明され、誰もが利用できるようになったのだろうか。時間計測の精度を極限まで高めた結果として生まれた、世界を変えた技術について語ります。


第9章 限界をすり抜けて
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 LIGOのテストマスは非常に厳密な手法で製造されているため、アームの長さの変化が陽子の直径の1万分の1であっても測定することができる。これがどれくらい小さいかといえば、太陽系から最も近い恒星であるケンタウルス座α星Aまでの距離(4.3光年=約41兆キロ)が、人間の髪の毛1本の太さより小さな変化を起こしただけで検出できるのと同じなのだ。
 精密さはそこまでのレベルにきている。
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単行本p.380


 極端紫外線(EUV)を用いた半導体チップ製造装置は、トランジスタを原子レベルのサイズまで微細化できる。重力波検出器LIGOは、陽子直径の1万分の1の変化を検知できる。現代の超微細精密工学が生み出した驚異の数々を見てゆきます。


第10章 絶妙なバランスの必要性について
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 その問いとは、広く世界を眺めたときに、じつのところ物事が精密になりすぎてはいまいか、ということだ。物理的な正確さにのみ邁進する今日の風潮のせいで、人間のありようにおける大切な何かが、精密さとはまったく異なる何かが覆い隠され、結果的に消えるに任されているのではないだろうか。
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単行本p.391


 セイコーの時計工場を見学した著者は、精密さの追求で知られながらも、職人技に対する敬意や、精密とは異なる価値を工芸品に見出す日本の文化について考える。極限の精密さを追求することが、これからも世界をより良い場所にしてゆくと信じてよいのだろうか。





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『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの』(藤崎慎吾) [読書(サイエンス)]

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 豊田さんの研究室では、ケイ素と酸素の化合物からなる流動体の研究も行われている。それは今のところシリコン樹脂のような素材の開発が主目的なのだが、「もう少しそういう話が発展してきたら、いずれケイ素系の細胞もどきをつくっていくということも、今後のターゲットかなと思っています」と語っていた。
 合成生物学者はエイリアンさえ、つくる気満々なのだ。いや、今はむしろ40億年前の祖先よりは、まったく別の「ありうる」生命をつくりだし、宇宙のどこでも通用する普遍的な生物学を切り開きたいという研究者が増えている気もする。「ファースト・コンタクト」は案外、研究室で起きるのかもしれない。
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新書版p.262


 生命を人工的に作りだそうとする学問、合成生物学。それは生命の起源に迫るだけでなく、地球上には存在しないが理論的にはありうる拡張DNAや、元素レベルから異質なオルタナ生命体を創造することで、「宇宙普遍生物学」を切り開くことすら視野に入れている。生命起源論争から合成生物学の最先端までを取材した興奮のサイエンスノンフィクション。新書版(講談社)出版は2019年8月、Kindle版配信は2019年8月です。


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 合成生物学とは、平たく言えばその名の通り、生物そのもの、あるいは生物の部品や機能を、人工的につくりだそうとする学問だ。おそらく日本では、まだ耳に馴染まない人が多いだろう。だが世界的には注目度ナンバーワンともいえる新分野で、近年、急速に発展している。
 それは多くの科学的な知見をもたらすばかりでなく、新しくつくりだした生物(の部品や機能)が、医学やさまざまな産業に応用できると期待されているからだ。
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新書版p.97


 生命の起源を明らかにする。キッチンで人工細胞を創る。核酸塩基を増やした拡張DNAを使って生命2.0を誕生させる。合成生物学の研究者たちのノリを思う存分に取材。合成生物学についての知識を得るというよりも、この新分野の沸き立つようなマッドマックスを書きつけた興奮の一冊です。あちこちに散りばめられているすてき言葉を拾い集めてみると、こんな感じ。


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スーパーで買った材料だけで、自己複製のできる細胞をつくる。
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死ぬような細胞は人工ではない。
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生命は対称性の破れを利用して生きている。
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超弦理論の11次元みたいなところで非対称性を持っている一群がいるかもしれません。
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「ファースト・コンタクト」は案外、研究室で起きるのかもしれない。
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[目次]

第一章 「起源」の不思議
第二章 「生命の起源」を探す 
第三章 「生命の起源」をつくる
第四章 「生命の終わり」をつくる
第五章 「第二の生命」をつくる




第一章 「起源」の不思議
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 問題はそれを不連続な「無から有」ととらえるか、あるいは連続している中での「複雑さの飛躍的増加」ととらえるか、なのだろう。また誕生した場所についても「点」でとらえるか「面」でとらえるか、といった議論はありうる。つまりは「起源」の時間的、空間的な広がりを、どうイメージするかが結構、重要ではないのだろうか。
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新書版p.47


 生命の起源とは何か。というより、そもそも何かの「起源」をどうとらえればいいのか。生命はどの段階から生命といえるのか。起源論争の準備として、まずは「生命1.0」や「生命0.5」のような用語と概念を明らかにしておきます。


第二章 「生命の起源」を探す 
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 さて小林さんは「生命は海底の熱水噴出域で誕生した」という、これまでの主流派ともいえる立場をとっている。一方の山岸さんは「生命は陸上の温泉地帯で誕生した」と主張している。ちなみに小林さんは化学者、山岸さんは生物学者だ。
 べつに仲が悪いわけではなく共同で研究も行っているが、個別にお話をうかがってみると、ときどきお互いを辛めに批判する言葉が出てきて面白い。
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新書版p.63


 生命の誕生は深海か、温泉か、それとも地球外か。最初に出来たのはRNAか、タンパク質か、脂質か、それとも代謝機能か。様々な生命起源仮説について概説し、論争の様子を紹介します。


第三章 「生命の起源」をつくる
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 ご存じの読者も多いと思うが、「クックパッド」は人気の料理レシピ投稿サイトである。(中略)2016年の夏ごろ、このサイトに奇妙な「レシピ」が一時的に掲載された。「簡単♪人工細胞」というタイトルで、説明にはこう書かれている。
「試験管内タンパク合成系PURE systemを巨大膜小胞の中に閉じ込めて、遺伝子からタンパク質を合成してみました」
(中略)
 投稿者に届いた運営会社からのメッセージには、「お料理のレシピではないものを、レシピとして掲載することはご遠慮ください」と書かれていた。
 どうせなら、できた人工細胞を調理して食べる方法まで示してあれば、よかったのかもしれない。しかし、そういう問題でもない気はする。
(中略)
 生命は案外、簡単にできてしまうのかもしれない。少し手先の器用な人だったら、明日にでも冷蔵庫やコンロの前で「神様」になってしまったりするかもしれない。「キッチンで人工細胞」は、そんな、ちょっとゾクッとするような気分を味わえる実験なのである。
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新書版p.94、95、108


 キッチンでも簡単に作れてしまう人工細胞の実験から始まって、生命が誕生するまでのシナリオがどう考えられているのかを概説します。


第四章 「生命の終わり」をつくる
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 通常の細胞は細胞膜だけに囲まれているが、ハイブリッドセルの場合は、一部がガラスの壁になっている。ダジャレっぽいが「細胞のサイボーグ」と言ってもいいのかもしれない。
 このハイブリッドセルで、いったい何がしたいのか? すなわちフランケンシュタイン実験である。
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新書版p.187


 大腸菌を破壊してから、細胞の中身だけをマイクロガラス容器の中で再構成して生きた大腸菌に戻す「フランケンシュタイン実験」。そもそも生命にとっての「死」とは何なのか。その意味を文化面も含めて考えてゆきます。


第五章 「第二の生命」をつくる
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「生命1.0」は4種類の核酸塩基を使い、そのうちの3種類の配列で遺伝暗号をつくり、20種類のアミノ酸だけを利用している。この「4」「3」「20」という数字にどうして落ち着いたのか、あらためて考えてみると不思議だ。これが必然だったのか、偶然だったのかは、これらの数字を変えた生命が誕生するか(つくりだせるか)で、わかってくるかもしれない。すでに述べた通り、どうやら今の情勢では誕生してしまいそうな気配だ。
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新書版p.268


 DNAの構成塩基数を人為的に増やした生命、エネルギー源としてATP以外を使う生命、シリコン元素を主体とする生命など、私たちが知っている「生命1.0」とは、基本構造から違う「生命2.0」の合成に挑む研究者たち。

 さらには素粒子論における対称性の破れと生命の深い関係、高次元レベルでの対称性のやぶれを利用する生命などの話題。たまたま地球に存在している生命だけでなく、あらゆる可能性を含んだ「生命」を包括的に扱う普遍生物学に向けた動きを探ります。



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『科学史ひらめき図鑑 世界を変えた科学者70人のブレイクスルー』(スペースタイム:著、杉山滋郎:監修) [読書(サイエンス)]

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「植物の葉が緑色に見える理由は?」。高校生の頃、生物のテストでこんな問題が出ました。私は「葉緑体があるから」などと回答したはずです。不正解。その後「植物は光合成のために赤や青の波長の光を吸収するため、残った緑色の波長光だけが反射して葉が緑色に見える」という解説を聞いたとき、「現象」と「仕組み」がピタリと重なり、ゾクゾクしたのを覚えています。これが多分初めて科学とつながった瞬間。文系の進路を考えていた私でしたが、一気に理系に転向したのでした。この本は、そんな「ゾクゾク」を科学者たちのヒラメキを通して皆さんにもおすそ分けしたいと思って作りました。
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単行本p.314


 大発見や大発明を成しとげた科学者たちの「ひらめき」エピソードを70個も集めた一冊。単行本(ナツメ)出版は2019年1月、Kindle版配信は2019年9月です。


 各項目は2ページ、フォーマットが統一されています。
 まず当時の状況を説明して、何が困難だったのかを示し、それを突破したヒラメキ(こんまりメソッドにあやかって流行らせようという意図があるのか、やたらとHIRAMEKIと表記されます)、その結果としての発明や発見、それが時代をどう変えたか、最後にそこから得られるビジネス上のヒント(これは、こじつけっぽい)。
 例えば最初の項目はこんな感じで構成されています。

――
既存の技術を組み合わせてみる

活版印刷の発明
ヨハネス・グーテンブルク

Before(HIRAMEKI以前)
  書物への需要が高まる
  活字を作る技術はあるが、印刷のほうはどうしたものか……
  そうだ!

MIRAMEKIの瞬間
  ぶどう絞り機が使えるんじゃないか?

After(世界はこう変わった!)

ビジネスでひらめき!
――


 イラスト中心で一目で理解できるように工夫されており、見た目に楽しげな本です。『決してマネしないでください。』の蛇蔵さんによるコミック化を希望。


[目次]

Chapter1 視点を変えろ!
Chapter2 人の話を聞け!
Chapter3 失敗から学べ!
Chapter4 偶然を呼び寄せろ!
Chapter5 苦労を惜しむな!



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『数をかぞえるクマ サーフィンするヤギ 動物の知性と感情をめぐる驚くべき物語』(べリンダ・レシオ:著、中尾ゆかり:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 フンコロガシは、天の川のスナップ写真を頭にたたきこみ、この天体図を使って移動する。クマとニワトリは数をかぞえ、クジラは韻をふむ歌を作詞作曲する。アリは、鏡に映った自分の姿がわかるらしい。手話や絵文字を使って「おしゃべり」ができる類人猿は、物の名前がわからないときに、自分で言葉をつくる。そのいくつかは、驚くほど独創的だ。
(中略)
 この本を書くために動物の感情や賢さを物語るエピソードを集めたとき、いちばん苦労したのは、信頼できる科学的な証拠を見つけることではなかった。こんなにもたくさん集まったおもしろい話の中から、どれを採用するかだった。動物に関する驚くべき発見は、毎週のように、続々と報告されている。動物にはさまざまな感情があり、洞察力と知性でもって行動していることが証明され、私たちが動物やまわりの世界、私たち自身を見る目を根本的に変えている。
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単行本p.17、18


 道具や言語を作りだし、仲間の死を悼み、ライバルを騙し、他の種に対して利他的な思いやりを示す。動物の知性や感情について、研究者が発見した驚くべき成果を集めた一冊。単行本(NHK出版)出版は2017年12月、Kindle版配信は2017年12月です。


――――
 動物は豊かな感情をもっている。ネズミはくすぐられると笑う。カササギは、墜落死した仲間を木の葉でおおって、死を悲しんでいるように見える。ザトウクジラのメスは、年に一度女子会をして、そのために何千キロも旅をする。幼いチンパンジーは、棒きれを赤ちゃんに見立てて、ごっこ遊びをする。オマキザルは不公平に扱われると憤慨し、犬はほかの種が悩んでいるとなぐさめる。であれば、アメリカアカシカが利他的な行動をしてもおかしくないだろう。
(中略)
 動物の視点に立って調べるという手法が使われるようになったのは、比較的最近だ。昔は、正しい設問をしなかったために、動物の知能についてまちがった結論を出すことがあまりにも多かった。(中略)人間の偏見を考慮するにつれて、科学者はもっと創意に満ちた質問をするようになった。そうすることで、いろいろな種類の、想像もつかないような、すばらしい知能が明らかになっている。
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単行本p.16、232


[目次]

第1章 人間を笑う:ユーモアといたずら
第2章 おしみなく与える:恩返しと協力
第3章 規則を守ろう:公平とズル
第4章 そばにいて:友情
第5章 楽しいことが好き:遊びと想像力
第6章 わけへだてのない親切:思いやりと利他行動
第7章 神聖な気持ちになる:死と霊魂
第8章 私は誰?:自意識
第9章 動物とおしゃべりしたい:言語
第10章 かぞえる:数の認識
第11章 野生の王国のテクノロジー:道具を使う
第12章 道を見つける:空間認識能力
第13章 芸術のための芸術:創造力と美的感覚
第14章 知能指数を考えなおそう:動物の脳力



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『「研究室」に行ってみた。』(川端裕人) [読書(サイエンス)]

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 受験に理系・文系の壁があることは、今の日本では動かしがたい事実だ。でも、この本をまとめる中で、つまり6人の研究者たちの言葉に耳を傾けるうちに、実際の世界はそのように動いていないと知ることが重要だと思えてきた。研究は、既存の「教科」の枠や、文理の壁を超えて、自由だ。普遍的なことを知りたいという気持ちは、枠からはみだし、壁を壊して、越境する。
 本書の中の研究者たちは、まさに、枠からはみだし、壁を壊す人たちだ。突破し、越境し、旅する人たちである。その力強さと楽しさが伝わって読者の胸に響いたら、本当にうれしい。
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新書版p.236


 サハラ砂漠にバッタを追う。ロケットを、ロボットを、新元素を、巨大宇宙構造体を、創り出す。そして世界の見方を変える。六人の研究者たちへのインタビューを通じて、研究者の興奮や喜びを活き活きと描いたノンフィクション。新書版(筑摩書房)出版は2014年12月、Kindle版配信は2015年7月です。


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 自分がまとめたものを再読しながら、つくづく思ったのは、自分が十代の頃にこういう人たちに出会いたかったな、ということだ。ちょっと斜に構えながらも、実は感化されやすかったぼくは、きっとタマシイが震えるような興奮を憶えただろう、と。
(中略)
 活動拠点が日本国内か国外か。大学などの研究機関の研究室なのか、それとも企業の研究室なのか。研究のスタイルは様々だが、自分の関心を研究として結実させていく力強さは共通する。多少の障害は勢いではねのけたり、粘り強く働きかけたりすることで、道を切り拓く、いわば突破する力を素直に感じさせてくれる人たちである。
 こういう生き方、研究の仕方があるのだと、知ることで世界が広がるような、夢を感じさせるような、本書の中だけに存在する素敵な「チーム」ができたと信じる。
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新書版p.4、5




[目次]

『砂漠のバッタの謎を追う』
前野ウルド浩太郎(モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所)

『宇宙旅行を実現するために』
高橋有希(宇宙ベンチャー開発エンジニア)

『生物に学んだロボットを作る』
飯田史也(チューリッヒ工科大学バイオロボティクス研究室)

『地球に存在しない新元素を創りだす』
森田浩介(理化学研究所超重元素合成研究チーム)

『宇宙エレベーターは可能である』
石川洋二(大林組エンジニアリング本部)

『すべては地理学だった』
堀信行(奈良大学文学部地理学科)




『砂漠のバッタの謎を追う』
前野ウルド浩太郎(モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所)
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 サハラ砂漠で、捕虫網を降る「バッタ博士」。
 サングラスをしていても、喜びが伝わってくるほどの躍動感で、バッタを白い網の中に追い込んでいった。
 本当に、楽しげである。学術的な研究とはいえ、捕虫網を振るのは童心に戻る作用があると思う。ぼくも、前野さんが必要な数を取り終えた後で、網を借りて少しだけ捕まえさせてもらった。実に、楽しいひとときだった。
 とはいえ、このバッタの幼虫は、「悪魔」と呼ばれるほどの凶暴さを発揮する成虫の、まさに直前の状態であることを思い出し、ふと現実に立ち返ったのだった。
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新書版p.21


 大発生すると農作物に壊滅的な被害を与えるサバクトビバッタ。その生態を調べる研究者は、サハラ砂漠のフィールドワークで捕虫網を振り続ける。前野ウルド浩太郎博士とその仕事については、ご本人の著作にも詳しく紹介されています。

  2017年06月22日の日記
  『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎)
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-22


『宇宙旅行を実現するために』
高橋有希(宇宙ベンチャー開発エンジニア)』
――――
 高橋さんはこんな「現場」で「国際宇宙ステーションとドッキングできる」仕様のドラゴン宇宙船開発にかかわり、その打ち上げをガラスで仕切られただけのミッションコントロールの外側で見守った。
「すごくワクワクしてましたね。宇宙ステーションのミッションはドラゴン宇宙船が地球に戻ってくるまで2週間くらいだったんですけど、ほとんど寝なかったです(笑)。何も見逃したくなかったので、寝てるときでさえもずっとヘッドセットで通信を聞きながら、何が起こってるかちゃんとモニターしてましたよ」
――――
新書版p.87


 南極から宇宙へ。民間企業で宇宙船開発チームに加わった研究者が、宇宙開発の現場の興奮を活き活きと語ります。


『生物に学んだロボットを作る』
飯田史也(チューリッヒ工科大学バイオロボティクス研究室)
――――
 ミツバチは、情報処理の計算能力を上げるのではなく、脳はシンプルなまま、目の構造をうまく調整することで、そもそも計算量を増やさずに済む方法を、何億年もかけた進化の中で獲得していたのだ。
 飯田さんは、ロボットについてのアプローチにしても、人間についての理解にしても、「脳」の役割を大きく見すぎているのではないかと感じているようだ。
(中略)
 飯田さんの研究室では、ロボットの研究をするにあたって、常に生物を意識する。
 生物がおそろしく「効率がよい」というのがその一つの理由として挙げられたが、それは、エネルギー効率やら計算効率やらを、身体そのもののメカニズムによってクリアしているという事実に基づいているようだ。我々は、自分たちの行動が脳によって支配されていると考えがちだが、飯田さんの観点からは、「体に脳がついていってる」のである。
――――
新書版p.111


 ロボットの動きをリアルタイムに制御するために高速情報処理を行うという発想から、身体の仕組みをうまく活用して計算量を減らし効率よく動くという、生物に見習ったロボットの基本原理を探求する。ユニークなロボットを創り出す研究とその背後にある哲学を解説します。


『地球に存在しない新元素を創りだす』
森田浩介(理化学研究所超重元素合成研究チーム)
――――
「1回目は、僕がシフトだったんです。先に帰る研究員が、じゃあお先にって部屋を覗いたときに、『森田さん、出てますよ。イベントですよ』って言って……めっちゃくちゃドラマティックですよ、ほんとに。もう気が狂いそうでしたよ。2個目はね、2005年4月2日午前2時過ぎ。3時間早かったらエイプリルフールなんだよね。もう死ぬほど興奮して、言葉にならない、というか」
――――
新書版p.160


 自然界に存在しない超重元素を創り出す。17年間ずっと空振りを続け、ついに新元素の生成を確認した研究者の粘り強さと意志。113番元素にまつわる研究者の体験を描きます。


『宇宙エレベーターは可能である』
石川洋二(大林組エンジニアリング本部)
――――
「設計本部から、設計と意匠の専門家を呼びました。そもそも静止軌道ステーションをどんな形にしたらいいか、ですとか。これは、自由度が高くて、みんな嬉々としてやっていましたね。制約がないし、お客さんにプレゼンして納得してもらう必要もないし(笑)」
 石川さんをはじめとして、気象・土木・意匠・設計・施行、といった専門家が集まり、プロジェクトは、現時点で考え得る宇宙エレベーターの構想を描いた。
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新書版p.181


 地表から静止衛星軌道までをつなぐケーブルを伝わって、人や貨物が格安に宇宙まで行き来する。「宇宙エレベーター」構想を単なる理論的なモデルではなく実際の建築物としてデザインする。東京スカイツリーを施工した大林組の研究チームが挑む宇宙エレベーター建造プロジェクトについて紹介します。


『すべては地理学だった』
堀信行(奈良大学文学部地理学科)
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 堀さんという地理学者の研究史を経て、ぐるりと一周すると、「すべては地理学である」という、そんな領域にまで連れて行かれてしまった。
 きっとその観点からは、本書で取りあげた、サバクトビバッタも、宇宙船開発も、ロボット工学も、原子核物理学も、宇宙エレベーターも、すべてが地理学だ。ほんとうに見事なまでに、そう言えてしまう。
 その一方で、どのような分野の研究であれ、その道を極めていくにつれて、自ずとそこから見る世界の描像があり、そこには地図ができる。すべてが地理学だった、というのは、そのまま、あらゆるジャンルの中にも地理学的な認識がかならずある、ということでもある。
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新書版p.232


 地理学とは何か。森羅万象あらゆるものを位置付け関連づける学問としての地理学を通して、本書で取りあげた様々な研究テーマを一つのビジョンへと統合してゆきます。



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