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『屈辱の数学史』(マット・パーカー:著、夏目大:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 いまの世界は数学を基礎として成り立っている。コンピュータのプログラミングも金融も工学も、一見違っているようで、どれも根本は数学である。だからどの分野でも、些細に見える数学のミスが、驚くような事態を引き起こす。古いものから新しいものまで、数ある数学のミスの中から、私が特に興味深いと思ったものを集めたのがこの本だ。(中略)数学がどれほどの仕事をしているのかは、何か問題が起きたときにだけ明らかになる。その仕事が高度なものであるほど、問題が生じたときの損害は大きい。
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「第0章 はじめに」より


 NASAの探査機は吹き飛び、ジャンボ旅客機が不時着し、軍艦は全機能停止する。橋は崩落し、予算は無限の彼方に飛び去り、金融恐慌の引き金がひかれる。それら重大インシデントの背後には、ごく些細に思える数学上のミスがあった。生まれながらに数学が苦手なのに自分たちの理解を超えたシステムを作り上げ、そこにすべてを託している人類文明の姿をユーモアたっぷりに描き出すサイエンス本。単行本(山と渓谷社)出版は2022年4月です。


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 人間は過ちから学ぶのが得意ではないのかもしれない。とはいえ、過ちから学ぶ以上の方法もなかなか思いつかない。自分たちのミスを企業が外に知らせたくないのはしかたないとは思うし、高い費用をかけて調査した結果をタダでよそに知らせたくないというのもわかる。また、私のエンジニアの友人のミスは、単に美観を少々損ねただけのことなので、言われなければ誰も気付かないだろう。ただ、ミスから得たせっかくの教訓を、共有し合える仕組みがあれば、とは思う。それを知ることで助かる人は多いはずだ。私は執筆にあたって、たくさんの事故の調査報告書に目を通した。それらが公開されていたおかげで本が書けたのである。だが、公開されるのは、通常、誰もが知っているような大惨事に関する報告書だけである。大多数の数学的ミスは、ほとんど誰にも知られることなく隠されたままだ。
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「過ちから何を学ぶか」より




目次
第1章 時間を見失う
第2章 工学的なミス
第3章 小さ過ぎるデータ
第4章 幾何学的な問題 
第5章 数を数える
第6章 計算できない
第7章 確率にご用心  
第8章 お金にまつわるミス
第9章 丸めの問題 
第9.49章 あまりにも小さな差
第10章 単位に慣習……どうしてこうも我々の社会はややこしいのか
第11章 統計は、お気に召すまま?  
第12章 ランダムさの問題 
第13章 計算をしないという対策




第1章 時間を見失う
第2章 工学的なミス
第3章 小さ過ぎるデータ
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 2007年2月、6機のF-22がハワイから日本に向けて飛行中、あらゆる種類のシステム故障が一度に発生した。ナビゲーション・システムの機能が停止し、燃料システムも、通信システムの一部も故障してしまった。敵の攻撃や破壊工作があったわけではない。問題は、国際日付変更線を越えて飛行したことだった。
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 コンピュータの計時方式、橋の共振特性、エクセルの計算処理。ほんの些細な数学上のミスがとてつもない大事を引き起こしてしまった様々な事例を紹介します。




第4章 幾何学的な問題 
第5章 数を数える
第6章 計算できない
第7章 確率にご用心  
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 1997年9月、アメリカのミサイル巡洋艦ヨークタウンは、全電源喪失という事態に陥った。船のコンピュータ制御システムが0の割り算を試みたためだ。海軍はそのとき「スマート・シップ」プロジェクトのテスト中だった。軍艦にWindowsの動作するコンピュータを搭載して業務の一部を自動化し、乗務員を10パーセント削減しようとした。巡洋艦は何もできずに二時間以上、海を漂流することになったので、乗組員に「暇を出す」ことには成功したと言えるだろう。
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 しっかり噛み合っているように見えるが動かない歯車、組み合わせの数に関する初歩的な誤解、パックマンのバグ、宝くじにまつわる様々な誤解など、数学への無理解が引き起こす比較的身近なトラブルを紹介します。




第8章 お金にまつわるミス
第9章 丸めの問題 
第9.49章 あまりにも小さな差
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 私は「世界で一番高価な本」を一冊所有している。それは『ハエを作る』という1992年に発売された遺伝学の本で、Amazonでは一時、2369万8655.93ドル(+送料3.99ドル)という値段で売られていた。
 私は結局、これの99.9999423パーセント引きという、とんでもない安値で購入できた。(中略)せっかく購入したので苦労して読んだ。すると、本の価格がつり上がった原理と、ハエの遺伝子のアルゴリズムの間にはどうも共通点があるのではないかと感じた。
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 コンピュータによりオンライン取引を自動化すると、ときにとてつもないミスが生じることがある。これが不合理な暴落や高騰をもたらし、社会に大きな脅威となりかねないのだ。処理アルゴリズムや端数処理などの不注意がどんな事態を引き起こすかをします。




第10章 単位に慣習……どうしてこうも我々の社会はややこしいのか
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 この本を書くにあたって大勢の人と話をしたが、「数学のミスについての本を書いている」と言うと、「単位を間違えたせいで火星に突っ込んだNASAの火星探査機のことは書くのですか」と幾度も尋ねられた(ロンドンでは、すでに書いた「ウォブリー・ブリッジ(ゆらゆら橋)」を話題にする人が多かった)。単位間違えの話には人を惹きつけるものがあるのだろう。自分でもやりそうな、よくある間違いだからだ。あのNASAも自分もやりそうな簡単なミスをしている――意地悪なようだが、それがうれしいのかもしれない。
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 数字は正しくとも、それを解釈するのは人間。そのためNASAの探査機は失われ、ジャンボ旅客機は燃料切れで不時着し、橋は真ん中でずれてしまう。ポンド・ヤード法とメートル法、華氏と摂氏など、計量単位の違いにより起きたトラブルを紹介します。




第11章 統計は、お気に召すまま?  
第12章 ランダムさの問題 
第13章 計算をしないという対策
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 コンピュータに予定外のことをさせるのは簡単ではない。ランダムに何かをさせるコード、乱数を得るためのコードを書くことは通常、不可能である。それをするためには特別なコンポーネントを付加する必要がある。
 たとえば、電動ベルトコンベアで2メートルの高さから200個のサイコロをバケツの中に落とし、そのサイコロを再びベルトコンベアでランダムな順序ですくい上げる、という装置がある。すくい上げられたサイコロは順にカメラで撮影され、その映像がコンピュータに送られる。コンピュータは映像によって、どのサイコロがすくい上げられたのか、そしてどの目が出たのかを知ることができる。1日に133万回も「サイコロを振る」この装置は、重量は約50キログラム、一つの部屋を占領するほど巨大だ。
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 統計の解釈やランダムさを理解することが人間は苦手だ。様々な統計の誤りからスペースインベーダーのバグまで、統計とランダムネス、そしてプログラミングミスに関わるトラブルを紹介します。





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