『モーアシビ 第46号』(白鳥信也:編集、小川三郎・北爪満喜・他) [読書(小説・詩)]
詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第46号をご紹介いたします。
[モーアシビ 第46号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
詩
『朝の挨拶』(小川三郎)
『あまり』(楼ミュウ)
『ガーベラ』『家の空地』(北爪満喜)
『光ってよアルミ』(恵矢)
『細い橋の音』(島野律子)
『百合』(森ミキエ)
『残照』(白鳥信也)
散文
『いとこのこと』(平井金司)
『対馬、千年ひとっ飛び』(サトミセキ)
『命がけのランチタイム』(岩谷良恵)
『魔法瓶』(清水耕次)
『風船乗りの汗汗歌日記 その45』(大橋弘)
翻訳
『幻想への挑戦 20』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
――――――――――――――――――――――――――――
お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。
白鳥信也
black.bird@nifty.com
――――
カーブミラーに映った自分に挨拶をする。
私が笑うと周りが怒り
私が怒ると周りが笑った。
誰も卑怯だとは思わなかったが
孤独なひとになろうとは思った。
――――
『朝の挨拶』(小川三郎)より
――――
生垣のように囲い薔薇が咲いている
近づくと庭はさまざまな花にいっぱいに囲まれている
百合かな椿かなサザンカかなグラジオラスかな紫陽花かな小菊かな
アヤメかなイチハツかなアマリリスかな君子蘭かな
どこからかさす光に溶け合って透け
みな花たちは背中を外に向け
顔を内に向け
ぎっしり並んで空地を囲み
家のあった土地を見つめている
枯れた花々の顔も現れ
それも光に透ける
――――
『家の空地』(北爪満喜)より
――――
足裏がさわさわとして
俺の黒い皮靴が水にひたっている
水面がきらめいて
リノリウムの床の上で
跳ねる魚
魚たちが泳いでいる
机の脚が川の中の杭になって
流れが裂けて静かな淀みに渦が巻いている
ズボンに水しぶきが飛びちる
回転椅子に座ったこの俺ごとゆっくりと流されそうだ
流れに靴ごと力を入れて踏みとどまる
――――
『残照』(白鳥信也)より
――――
対馬の魅力は「千年ひとっとび」というところ。古代・中世の残り方が奇跡的と言っていい土地だ。(中略)この島には、明治・江戸・いやそれ以前の時代不明のとんでもなく古いものと、中ぐらいに古びた昭和のもの、やや現代のものが何もかもが無造作に、雑多に、混じっている。古い物・貴重な物が特別に大事にされているわけでもなく、風化して消え去るまで、元の場所に無造作に残してある。
――――
『対馬、千年ひとっ飛び』(サトミセキ)
――――
標高約4000メートルの世界では、食べるのもまた一苦労なのだ。早食いはもちろん、普通に食べていても酸欠状態になり、心臓がバクバクする。食べている間に大笑いなどすれば、輪をかけて息苦しくなってしまう。高地にまだ適応しきれていなかった私には、まさに命がけのランチタイム。でも、最高に楽しくて美味しかった。いったい私は今、どこにいるんだろう……治安も生活もとても厳しいこの地区で、何度も不思議な感じがした。だが、目の前にいる女性たちは、そのほとんどが高地のアイマラ先住民系で、夫の暴力から逃れたり、夫が突然家を出てしまったりと、大変な過去を生き抜いてきた。
だからこそ、なのかもしれないが、大爆笑と共に安心して皆で美味しく食べられること――一日で唯一の食事になることも多い――が、本当に大事な時間だった。
――――
『命がけのランチタイム』(岩谷良恵)
[モーアシビ 第46号 目次]
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詩
『朝の挨拶』(小川三郎)
『あまり』(楼ミュウ)
『ガーベラ』『家の空地』(北爪満喜)
『光ってよアルミ』(恵矢)
『細い橋の音』(島野律子)
『百合』(森ミキエ)
『残照』(白鳥信也)
散文
『いとこのこと』(平井金司)
『対馬、千年ひとっ飛び』(サトミセキ)
『命がけのランチタイム』(岩谷良恵)
『魔法瓶』(清水耕次)
『風船乗りの汗汗歌日記 その45』(大橋弘)
翻訳
『幻想への挑戦 20』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。
白鳥信也
black.bird@nifty.com
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カーブミラーに映った自分に挨拶をする。
私が笑うと周りが怒り
私が怒ると周りが笑った。
誰も卑怯だとは思わなかったが
孤独なひとになろうとは思った。
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『朝の挨拶』(小川三郎)より
――――
生垣のように囲い薔薇が咲いている
近づくと庭はさまざまな花にいっぱいに囲まれている
百合かな椿かなサザンカかなグラジオラスかな紫陽花かな小菊かな
アヤメかなイチハツかなアマリリスかな君子蘭かな
どこからかさす光に溶け合って透け
みな花たちは背中を外に向け
顔を内に向け
ぎっしり並んで空地を囲み
家のあった土地を見つめている
枯れた花々の顔も現れ
それも光に透ける
――――
『家の空地』(北爪満喜)より
――――
足裏がさわさわとして
俺の黒い皮靴が水にひたっている
水面がきらめいて
リノリウムの床の上で
跳ねる魚
魚たちが泳いでいる
机の脚が川の中の杭になって
流れが裂けて静かな淀みに渦が巻いている
ズボンに水しぶきが飛びちる
回転椅子に座ったこの俺ごとゆっくりと流されそうだ
流れに靴ごと力を入れて踏みとどまる
――――
『残照』(白鳥信也)より
――――
対馬の魅力は「千年ひとっとび」というところ。古代・中世の残り方が奇跡的と言っていい土地だ。(中略)この島には、明治・江戸・いやそれ以前の時代不明のとんでもなく古いものと、中ぐらいに古びた昭和のもの、やや現代のものが何もかもが無造作に、雑多に、混じっている。古い物・貴重な物が特別に大事にされているわけでもなく、風化して消え去るまで、元の場所に無造作に残してある。
――――
『対馬、千年ひとっ飛び』(サトミセキ)
――――
標高約4000メートルの世界では、食べるのもまた一苦労なのだ。早食いはもちろん、普通に食べていても酸欠状態になり、心臓がバクバクする。食べている間に大笑いなどすれば、輪をかけて息苦しくなってしまう。高地にまだ適応しきれていなかった私には、まさに命がけのランチタイム。でも、最高に楽しくて美味しかった。いったい私は今、どこにいるんだろう……治安も生活もとても厳しいこの地区で、何度も不思議な感じがした。だが、目の前にいる女性たちは、そのほとんどが高地のアイマラ先住民系で、夫の暴力から逃れたり、夫が突然家を出てしまったりと、大変な過去を生き抜いてきた。
だからこそ、なのかもしれないが、大爆笑と共に安心して皆で美味しく食べられること――一日で唯一の食事になることも多い――が、本当に大事な時間だった。
――――
『命がけのランチタイム』(岩谷良恵)
『ハルハトラム 6号』(現代詩の会:編、北爪満喜、白鳥信也、小川三郎、他) [読書(小説・詩)]
「現代詩の会」メンバー有志により制作された詩誌『ハルハトラム 6号』(発行:2024年5月)をご紹介いたします。ちなみに既刊の紹介はこちら。
2023年04月21日の日記
『ハルハトラム 5号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2023-04-21
2022年04月06日の日記
『ハルハトラム 4号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2022-04-06
2021年08月02日の日記
『ハルハトラム 3号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2021-08-02
2020年05月03日の日記
『ハルハトラム 2号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-05-03
2019年07月02日の日記
『ハルハトラム 1号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-07-02
[ハルハトラム 6号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
『翼果』(楼 ミュウ)
『山の上ホテル』(橘花 美香子)
『水瓶』(長尾 早苗)
『雪の日に』(水嶋 きょうこ)
『目ざめのこと』(来暁)
『豊饒の秋』(小川 三郎)
『朝露(映った影)』『ランプ』(北爪 満喜)
『火種』(恵矢)
『ここわ はいつてはいけない』(サトミ セキ)
『曲折』(佐峰 存)
『空の手あて』(島野 律子)
『ラストポエット』(白鳥 信也)
――――――――――――――――――――――――――――
詩誌『ハルハトラム』に関するお問い合わせは、北爪満喜さんまで。
北爪満喜
kz-maki2@dream.jp
――――
大学生の私はここを
「あこがれ」
「高い場所」
「わたしにはいけない」
と決めて
「いつか、ね」って
大切な箱に入れて触れないようにしていた
記憶と時間にノイズがはいる
12時間のハーモニーを奏でつくりだされる珈琲
水滴はこの瞬間を忘れないように
ときをとめるようにぎゅっととじこめ
私の体内で花をひらいていく
ちくっと、ささる
――――
『山の上ホテル』(橘花 美香子)より
――――
花をながめば口元はほころぶ、そこに冷たさはない。温かい口元、それに驚いた目元から
嘲りが起こり口元へ渡される。受け取らない。目元に誠実を、誠実を供にして、暗い道を。
火を見つけても、あるがままに。あるがままに火を。何故そこに火があるのかなど問いか
ける必要はない。
――――
『目ざめのこと』(来暁)より
――――
ああ冬なのに
もう秋なのですね。
部屋のなかにまで
季節が入り込んできます。
宙に浮かんだ
あなたの身体よ。
私と入れ替わってくれないか。
床一面が
秋になったら
虫になって這いまわろうか。
それとも人の子をとって食らおうか。
――――
『豊饒の秋』(小川 三郎)より
――――
羽根を抜いて 羽根を抜いて
織るのではなく 書いた
この血から書き続ける紅い文字は
羽根を離すと黒くなった
朝ごとに地上に落下する閉じた睫毛に 朝露
うつす
――――
『朝露(映った影)』(北爪 満喜)より
2023年04月21日の日記
『ハルハトラム 5号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2023-04-21
2022年04月06日の日記
『ハルハトラム 4号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2022-04-06
2021年08月02日の日記
『ハルハトラム 3号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2021-08-02
2020年05月03日の日記
『ハルハトラム 2号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-05-03
2019年07月02日の日記
『ハルハトラム 1号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-07-02
[ハルハトラム 6号 目次]
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『翼果』(楼 ミュウ)
『山の上ホテル』(橘花 美香子)
『水瓶』(長尾 早苗)
『雪の日に』(水嶋 きょうこ)
『目ざめのこと』(来暁)
『豊饒の秋』(小川 三郎)
『朝露(映った影)』『ランプ』(北爪 満喜)
『火種』(恵矢)
『ここわ はいつてはいけない』(サトミ セキ)
『曲折』(佐峰 存)
『空の手あて』(島野 律子)
『ラストポエット』(白鳥 信也)
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詩誌『ハルハトラム』に関するお問い合わせは、北爪満喜さんまで。
北爪満喜
kz-maki2@dream.jp
――――
大学生の私はここを
「あこがれ」
「高い場所」
「わたしにはいけない」
と決めて
「いつか、ね」って
大切な箱に入れて触れないようにしていた
記憶と時間にノイズがはいる
12時間のハーモニーを奏でつくりだされる珈琲
水滴はこの瞬間を忘れないように
ときをとめるようにぎゅっととじこめ
私の体内で花をひらいていく
ちくっと、ささる
――――
『山の上ホテル』(橘花 美香子)より
――――
花をながめば口元はほころぶ、そこに冷たさはない。温かい口元、それに驚いた目元から
嘲りが起こり口元へ渡される。受け取らない。目元に誠実を、誠実を供にして、暗い道を。
火を見つけても、あるがままに。あるがままに火を。何故そこに火があるのかなど問いか
ける必要はない。
――――
『目ざめのこと』(来暁)より
――――
ああ冬なのに
もう秋なのですね。
部屋のなかにまで
季節が入り込んできます。
宙に浮かんだ
あなたの身体よ。
私と入れ替わってくれないか。
床一面が
秋になったら
虫になって這いまわろうか。
それとも人の子をとって食らおうか。
――――
『豊饒の秋』(小川 三郎)より
――――
羽根を抜いて 羽根を抜いて
織るのではなく 書いた
この血から書き続ける紅い文字は
羽根を離すと黒くなった
朝ごとに地上に落下する閉じた睫毛に 朝露
うつす
――――
『朝露(映った影)』(北爪 満喜)より