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『ハルハトラム 1号』(現代詩の会:編、小川三郎・他) [読書(小説・詩)]

 「現代詩の会」メンバーのうち、2019年1月と3月の合評会に参加した詩人たちによって制作された詩誌『ハルハトラム』1号(発行:2019年7月)をご紹介いたします。


[ハルハトラム 1号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
『樹上』(小川三郎)
『結び目』(北爪満喜)
『樹についての書物を読む』(北爪満喜)
『いったい誰がヨハネスの』(恵矢)
『交点』(佐峰存)
『躍動』(沢木遥香)
『庭への便り』(島野律子)
『沈む』(白鳥信也)
『帰還』(橘花美香子)
『眩暈(他三編)』(水嶋きょうこ)
『秋』(来暁)
――――――――――――――――――――――――――――

 詩誌『ハルハトラム』に関するお問い合わせは、北爪満喜さんまで。

北爪満喜
kz-maki2@dream.jp




――――
狂うべきものが狂わないときだけ
意味を失う言葉があり
だからいくら狂おしくても
きらめくものはきらめいていたし
静かに過ぎ去っていくものは
私たちの胸を満たしていった。
樹上のひとは目を細めて
私たちを見下ろしている。

そして死が
理由なく訪れることを
それをほんとうにできることを
私たちは樹の上に向かって
何度も何度も願ったのだ。
――――
『樹上』(小川三郎)より




――――
わたしたちには言葉が
菌のように漂っているから
送信する液晶の無限の網に
苦境を砕くひらめく瞼に
ほどいた夜の髪の間に
触れ合わないまま重なる時に
わたしたちは身をほどき言葉の粒子に溶けて漂い
繋がり合うことはできないだろうか
螺旋に泳ぎ出会うことは
――――
『樹についての書物を読む』(北爪満喜)より




――――
いまはもう
思い出のなかのイメージになったというのに
きみはそれでもすこしだけ
私を撃つ

私、では足りない

あのとき空は、どこまでも平らに広く灰色がかった水色で
それはいつものベルリンの空の色なのに
眼球の底に沁みていった
――――
『いったい誰がヨハネスの』(恵矢)より




――――
ガラスの明るみを浴びて勤しむ、布巾の合間から指が飛び出し、顔をもたげる―鳥の顔だった、あなたが潜り込んで見つけてきたのは残忍とも言い切れない、顔、火事場ヤ乾燥シタ薬莢ノアラゆる声の交点にはいつも少し遅れて貫通していく飛翔体、鳥がいる。

ともに原野を拭き取ると、ふとよぎる、あなたの指の空白に私の指紋も伸びていた、
訓練、ではないのだ。
――――
『交点』(佐峰存)より




――――
根づくための住処ではなく
飛び立つ前の滑走路に
グレープフルーツが転がっている

はじけた酸味に吸い寄せられて
ガラスをすり抜けた
頭上に掲げたグレープフルーツから
胎動する音が注がれていく


ここに
身体一つ分の空間を満たして
目覚めの音を奏でている
――――
『躍動』(沢木遥香)より




――――
焼けているむき出しの腕を
庭の端にさわりながら差し込む しなびた草の枯れ跡も
なじんだ文字みたいに読みあげると
それは燃える息を吸いあげ
すこしだけ揃って震えながら踊る
庭の入口には消えない火のゆうれいがしずかにまたたいている
――――
『庭への便り』(島野律子)より




――――
そうしているあいだにも
私は沈んでいる
落下しながら上昇し
横にそれ
どこかに向かっている
その先がどこかわからない
待ちどおしい気持ちと
どこにもたどりつかないでほしい気持ちが
渦巻きになって
浮かんだり沈んだりしている
――――
『沈む』(白鳥信也)より




――――
気がつけばどこまでも青くなり、青さが私にのりかかってくる

私は海に、船に身をまかせる
デッキの柵に両足の親指をかける
足の裏の毛細血管は波の高低差に波をたてる
毛細血管の鼓動は心臓に響き体内の音になる

左の指先でデッキの柵を握りしめ私はねころがる
視界には薄青い空に雲が斜めにかかる
それだけしか見えなく、それがよくみえる
空の青を追えばどこまでも果てしない
――――
『帰還』(橘花美香子)より




――――
部屋のよすみに同じ顔の女が
ずっと立っている
砂のこぼれる音がして
ちゃぶ台の上の茶碗が動いた
画面がぶれる
――――
『浸食』(水嶋きょうこ)より




――――
くちなしが開き
空へ昇る
甘い声で夏を呼ぶ
絡めた指に誘われて
しおれた春をおしわけて
夏が座る

部屋の中 向日葵は朝日を仰ぐ
根を失った花は夏を愁う
星々のキスが幼子に残る
それが熱を帯びるので
虚栄の花は腐りだし
怪しく熟れた臭いが流れる
――――
『秋』(来暁)



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