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『ねこは るすばん』(町田尚子) [読書(小説・詩)]

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ねこ、きょうというひを まんきつ。
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 飼い主が出掛けている間、ねこは、るすばん。とおもいきや……。
 思ったより充実している猫のるすばん生活を魅力的な絵で描いた絵本。単行本(ほるぷ出版)出版は2020年9月です。


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ひまでいいねと いわれるけれど、
ねこの るすばん、いそがしい。
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 名前は明記されていませんが、たぶん多くの読者が迷わずマイケルと呼ぶであろう、そんな図太そうだがちょっと間の抜けた感じの茶虎オス猫。飼い主が留守の間に出掛けてゆき、喫茶店に立ち寄り、散髪(毛繕いのプロがなめなめして毛を整えてくれる)、書店に行って本の角ですりすり、映画館でしっぽふくらませ、寿司屋では「ちゅうトロ、さびぬきでね」。一日を満喫して、日が暮れる頃に急いで自宅に戻って、何食わぬ顔で飼い主をお出迎え。

 とにかく絵が素晴らしい。擬人化やキャラクター化は控えめで、あくまでリアルな猫の姿を描いています。そのリアル猫がリアルなままバッティングセンターでバットを構えたりする(しかも顔が真剣)のだから思わず笑ってしまいます。やっぱりおしぼりで顔拭くんだー、とか、ブランコに腰掛けるとき尻尾はこうするのかー、とか。

 最初と最後の部屋の様子を見比べると、この物語はリアル猫の留守番をリアルな猫視点で描いた、というか猫の脳内風景を表現したものだということが分かり、猫飼いならきっとニヤリとするに違いありません。猫が主人公となる絵本は数多くありますが、猫がリアルで魅力的という点で本書はイチオシです。素敵です。





タグ:絵本
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『SFマガジン2020年10月号 ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2020年10月号の特集は「ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念特集」でした。また『歓喜の歌 博物館惑星3』および『宇宙(そら)へ』のスピンアウト短篇も掲載されました。


『海底図書館 博物館惑星 余話』(菅浩江)
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 それでもセイラは、時が止まったかのような深海で、ぷつん、と呟くことがある。
 穏やかになれたのはいいことだけど、これは諦めというものではないかしら、と。
 水に圧し潰されるようにして化石になってしまいたいと思う心は、このままなんの楽しみもなく時間に圧し潰されるだけの人生だと知っているせいではないかしら。
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SFマガジン2020年10月号p.214

 既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。その五十周年記念フェスティバルも無事に終了し、いつもの日常が戻っていた。深海の底のように静かな図書館で働いている図書館司書当番のセイラは、元野良AIのロボットC2が読書中に奇妙なふるまいを見せることに気づく。最近刊行された『歓喜の歌 博物館惑星3』のスピンアウト短篇。


『クランツマンの秘仏』(柴田勝家)
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 クランツマンの秘仏という言葉は「物質の実存には信仰が必要である」という思考実験となり、さらに逆転して「信仰さえあれば、いかなる物質も存在できる」という論へと結びつけられた。彼自身も「信仰実験」と称して、信仰と質量の関係を証明しようとしていた。
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SFマガジン2020年10月号p.231

 秘仏。それは扉を閉じた厨子等に納められ公開が厳しく制限されている仏像のこと。特に一切公開されないものは「絶対秘仏」と呼ばれる。しかし、生きている人間が誰も見たことのない秘仏は、はたして存在していると言えるのだろうか。海外の東洋仏教美術研究者が、信仰は存在に先立つ、すなわち秘仏に対する信仰によって仏像という質量が存在するようになるのだという仮説を立て、それを実験的に検証しようとするが……。


『2018年4月1日、晴れ』(劉慈欣、泊功:翻訳)
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 実際のところ、基延族の仲間に入れさえするなら、現行法の下では、死刑になる以外のあらゆる犯罪は、すべて試しにやってみる価値はある。
 なら、その計画を立ててはみたものの、今も迷っている最中だという人間がどれくらいいるだろうか? その考えは、ぼくをいち早い行動に駆り立てると同時に、またためらいもさせた。
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SFマガジン2020年10月号p.253

 遺伝子操作により寿命を300歳まで伸ばす技術「基延」が実用化された。だがそのための医療処置を受けるためには、極めて高額な資金が必要だった。しかし、それなら犯罪によって資金を手にすればいいのではないか。たとえ発覚して刑務所に入れられても、300年生きられるのであれば十分にペイするだろう。それは道徳的に堕落した考えだろうか。語り手を悩ませる問題は他にもあった。恋人のことだ。医療テクノロジーの発展に伴う倫理的ジレンマをストレートに扱った短篇。


『火星のレディ・アストロノート』(メアリ・ロビネット・コワル、酒井昭伸:翻訳)
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 火星をあとにし、宇宙に出ていきたくはあった。そうすれば、ナサニエルが息を引きとる瞬間に立ち合わなくてもすむ。ナサニエルのからだが徐々に動かなくなっていくところを見ていなくてもすむ。
 そのいっぽうで、どうあってもそばに残りたかった。夫とともにずっと過ごし、夫に残された最後の息が尽きるそのときまで、一瞬一瞬を慈しんで過ごしたかった。
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SFマガジン2020年10月号p.344

 人類初の有人火星探査に参加したエルマ。彼女は今、火星で余生を過ごしていた。あと数か月で死んでしまう夫とともに過ごす日々。だが彼女に新たな宇宙ミッションの話が舞い込んでくる。老年の宇宙飛行士にしか託せない長期ミッション。引き受けたい、だが夫を見捨ててゆくことも出来ない。いま決断しないと間に合わない。ジレンマに苦しむエルマが下した決断とは。最近刊行された『宇宙(そら)へ』のスピンアウト短篇





タグ:SFマガジン
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『銀河鉄道の夜』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

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 下流の方の川はばいっぱい銀河が巨きく写って、まるで水のないそのままのそらのように見えました。
 ジョバンニは、そのカムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというような気がしてしかたなかったのです。
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『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)より


 2020年9月21日は、夫婦でシアターχに行って勅使川原三郎さんの公演を鑑賞しました。勅使川原三郎さんと佐東利穂子さんが踊る上演時間70分ほどの作品です。

 背景には星空が投影され、舞台手前の観客に近い側にはガラスを敷きつめて作られた天の川、舞台右手には椅子を並べて列車の座席が作られています。佐東利穂子さんによる『銀河鉄道の夜』の朗読が流れる中、勅使川原三郎さんがジョバンニ、佐東利穂子さんがカムパネルラを踊ります。KARASのダンサーたちがその他の乗客として出演しています。

 原作の朗読を背景にその場面を踊る、というストレートな場面が続きます。勅使川原さんが幼い子供に見えるのがすごい。今回は演劇風の演出だなあと思っていると、原作のラストで終わらず、そこからギアが上がるという仕掛け。上演時間が一時間を超過している理由がこれでした。

 朗読が終わって静寂が続くなか、まず勅使川原三郎さんがソロを踊ります。悲しい寂しいという気持ちが盛り上がったところで佐東利穂子さんが再登場して二人で踊るわけです。物語としてきちんと閉じた原作をもう一度ひらくような、生死を超越するこのデュエットが素晴らしい。ダンスでしか表現できないものが激烈な感動を生みます。





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『番号は謎』(佐藤健太郎) [読書(教養)]

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 書くに当たって意識したのは、単なる雑学集にとどまらず、「番号という切り口を通して、人類の営みに光を当てるものにしたい」ということであった。そうして見ていくと、通常は空気のように気に留めることのない番号に、いろいろなこだわりを持って接している人々の姿が見えてくる。番号で呼ばれることを忌み嫌い逆上する者、キリ番を手に入れるために行列する者、望みの番号を手に入れるために大枚をはたく者、番号によって富を手に入れる者、身を滅ぼす者などなど実にさまざまで、人間とはおかしな生き物だと思う。まあそんな事例を嬉々として集め、本など書いている奴が一番おかしいと言われれば返す言葉がないが。
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新書版p.231


 電話番号、郵便番号、背番号、ISBN、バージョン番号。私たちの身近にある番号はどのようにして決められているのか。ときおり欠番や謎めいた配置が見られるのはどういうわけか。番号にまつわる様々な謎や疑問に答える本。新書版(新潮社)出版は2020年8月、Kindle版配信は2020年8月です。


〔目次〕

1. 10桁は田舎者の象徴? -電話番号
2. 不思議な順序にはわけがある -郵便番号
3. 混沌と抗争のナンバー史 -自動車のナンバープレート
4. 魔境を照らす一筋の光 -鉄道にまつわる番号
5. 国道100号が存在しないわけ -道路にまつわる番号
6. 番号界の絶滅危惧種 -ナンバー銀行
7. プライドと序列意識の間で -ナンバースクール
8. 「四戸」はどこへ消えた? -地名と番地
9. 選手が背負うもう一つの顔 -野球の背番号
10. 神様は10番がお好き -サッカーの背番号
11. サーキットに散った伝説の27番 -F1レース
12. 腱鞘炎を防いだ縞模様 -バーコード
13. 情報のいたちごっこは続く -図書分類
14. 数字に現れた出版業界の勢力図 -ISBN
15. 無限に挑んだ男たち -天体の番号
16. 空き番号に潜むドラマ -欠番
17. 目には見えない神の数字 -原子番号
18. 交響曲マイナス1番を書いたのは? -音楽
19. 視聴率はチャンネル番号で決まる? -テレビチャンネル
20. ウィンドウズ8は6.2 -バージョン番号
21. 文化と見栄とプライドと -型番
22. 「究極の番号」は問題山積 -マイナンバー




1. 10桁は田舎者の象徴? -電話番号
2. 不思議な順序にはわけがある -郵便番号
3. 混沌と抗争のナンバー史 -自動車のナンバープレート
4. 魔境を照らす一筋の光 -鉄道にまつわる番号
5. 国道100号が存在しないわけ -道路にまつわる番号
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携帯電話の090-1234-5678番は、なんと5500万円で取引されるという。単なる数字の並びに、家一軒分もの価値が生じるというのも不思議なことではある。良番には、理屈を超えて人を引きつける魔力があるのだろう。
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新書版p.24

 電話、郵便、自動車、鉄道、道路など、通信や輸送に関わる番号について。




6. 番号界の絶滅危惧種 -ナンバー銀行
7. プライドと序列意識の間で -ナンバースクール
8. 「四戸」はどこへ消えた? -地名と番地
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 だが、一から順に揃ったナンバリング地名となるとそう多くはない。この類で最も大規模なのが、青森県東部から岩手県北部にかけて並ぶ、一戸~九戸までの地名だろう。平成の大合併の荒波を乗り越え、いずれも地方自治体名として生き残っている。(中略)ただしこれらの地名にはいくつか謎も残っている。たとえば一戸から九戸までのうち、四戸だけが存在しない。もともとなかったとする説と、消滅したという説があり、八戸市櫛引地区や、五戸町志戸岸などが「幻の四戸」の候補に挙げられている。
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新書版p.91

 銀行名、学校名、地名など、施設や場所の名称に含まれる番号について。




9. 選手が背負うもう一つの顔 -野球の背番号
10. 神様は10番がお好き -サッカーの背番号
11. サーキットに散った伝説の27番 -F1レース
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ポルトガルのパウロ・フットレは、ウェストハムに所属した際に16番を与えられたことに激昂し、弁護士を立ててまで10番を要求した。結局彼は10万ポンド(約1274万円)を支払って背番号10番を手に入れたというから、そのこだわりは尋常ではない。
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新書版p.119

 背番号やカーナンバーなど、スポーツにおける番号とそのこだわりエピソード。




13. 情報のいたちごっこは続く -図書分類
14. 数字に現れた出版業界の勢力図 -ISBN
15. 無限に挑んだ男たち -天体の番号
17. 目には見えない神の数字 -原子番号
18. 交響曲マイナス1番を書いたのは? -音楽
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 小惑星の名前が、番号から決められたケースも多くある。たとえば9000番小惑星は「HAL」と命名されている。いうまでもなく、「2001年宇宙の旅」に出てくるコンピュータHAL9000が由来だ。また9007番は下三桁に「007」を含むことから、「ジェームズ・ボンド」の名を与えられた。
 4321番小惑星は「ゼロ」と命名されていて、読み上げるとカウントダウンのようになる。13579番は「オールオッド」(全て奇数)、24680番は「オールイーブン」(全て偶数)と名付けられた。ひねってあるのは3142番「キロパイ」で、これは3142がちょうど円周率(パイ)の1000倍(キロ)であるところから来ている。
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新書版p.151


 書籍、天体、元素、音楽。学術芸術まわりの番号を取り上げて解説します。




12. 腱鞘炎を防いだ縞模様 -バーコード
19. 視聴率はチャンネル番号で決まる? -テレビチャンネル
20. ウィンドウズ8は6.2 -バージョン番号
21. 文化と見栄とプライドと -型番
22. 「究極の番号」は問題山積 -マイナンバー
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 ユニークなのは、複雑な葬式などの表記に用いられるソフトウェア「Tex」(テフと発音する)だ。数学者ドナルド・クヌースによって1978(昭和53)年に発表され、1989(平成元)年にはバージョン3が登場したが、作者はこれ以上の機能追加を行わないと発表した。その後は小規模な修正のみが行われ、そのたびにバージョンは3.14、3.141、3.1415……と円周率に近づいていっている。
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新書版p.202

 商店、TV、PCやソフト、そしてマイナンバーなど、身の回りの生活で使われている番号の意外なエピソードを紹介します。




16. 空き番号に潜むドラマ -欠番
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 恒星には天文学者フラムスティードがつけた番号があると述べたが、彼の厳格なデータにも、やはり不備はある。彼の記録したおうし座34番星の位置には、どう探しても恒星が存在しないのだ。実はこの星は、天王星であったことが後に判明している。天王星は1781年にウィリアム・ハーシェルが発見したことになっているが、実はその100年近くも前にフラムスティードがこれを見ていたわけだ。欠番にはドラマが秘められていることが多いが、これもそのひとつに数えられそうだ。
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新書版p.159

 整然と割り当てられているべき番号だが、不可解な欠番が存在することも多い。なぜ欠番となったのか、その背後にある意外な事情やドラマを紹介。





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『雨をよぶ灯台』(マーサ・ナカムラ) [読書(小説・詩)]

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白いボーイングが一機、暗い鉄塔の上を通り過ぎていく
その後を、鉄塔を軽々とまたぐ、巨大な白い看護婦が追いかけていく
「薬師如来様だ!」
酔っ払いの男の叫び声がする
鉄塔のサイレンが鳴り出した
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「赤い洋灯の点く歌合わせ」より


 民話のような怪談のような奇妙な話の断片。どうやったのか想像できない秘密めいた構成。話題作『狸の匣』の著者による最新詩集。単行本(思潮社)出版は2020年1月、新装版が2020年6月に出版されています。


 まず、いま自分が何を読んでいるのかわからなくなる瞬間が次々にやってくる『狸の匣』はすごかった。ちなみに紹介はこちら。


2017年12月18日の日記
『狸の匣』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-12-18


 本作でも、いっけん物語の形をとっているように思える詩が多く、ついついこれは怪談だなとか、そう思って読み進めてしまうわけです。


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 変な話をしたい。
 保育園の頃、私にはお父さんが二人いた。それは母が、二人の男の妻をかけもちしていた、という意味ではない。「ほんもののおとうさん」とは別に、「ほんもののおとうさん」そっくりの、「にせもののおとうさん」が家を出入りしていたのである。
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「おとうさん」より


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スナック『真紀』の飾り窓が、
荒く息をするように光っては消える。
光だと思ったものは、真っ白な男の顔だった。
真紀という名前の男が、このスナックで死ぬまで働いて、以来店は閉まっているものの、前を人が通るたびに白い顔が貼りつくのである。
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「篠の目原を行く」より


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商店街の大門を抜けた
休日の空はすでに昏くなってしまった
居酒屋の灯りは店先まで流れ出ている
チンドン屋が居酒屋の中に入っていくのが見えた
客たちの笑い声は一層昂ぶっている

実はあの居酒屋はだいぶ前に閉まったんだよ、見に行ってごらん
隣を歩いている男が言う。2人で居酒屋の前まで行くと
朱い電灯の明かりは消え
埃を厚く被ったシャッターが眼前にかかっていた
チンドン屋も消えた
駄菓子屋にも汚れたシャッターがかかっていた
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「御祝儀」より


 ところが物語を信頼して読み進めるうちに、どうも様子がおかしくなってゆき、困惑することになります。


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祖母は幼い頃
家の厠の白い電灯に
亡くなった叔父の笑顔が
点いているのを見たという

(実家は我々の異界である)

私は机に挟まった金魚を
つまんで外に出してやった
金魚は縄を跳ぶように 跳ねて
神棚へと走り去った
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「家の格子」より


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桂の木が隣の赤いポストを吸って、ポストが枯れてしまった
月の盤面が桂の葉に巻かれている
実家には過去の自分がいて、
帰ると父の後ろから飛び出してきて
私を殺そうとするので家に帰れなくなった
近くに老人介護施設がある
暗くなった部屋で眠る老婆の記憶が届く
髪を結った女が、しだれた枝に手紙を結んでいる
近づいても、女との距離は一向に縮まらない
ホログラムのように、小さく遠くに浮かんでいる
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「付け文」より全文引用


 それでも物語を読んでいるという感触だけはしっかりしているので、読んでいる間は納得してしまう。でも目が覚めたあとに思い出してみると、わけがわからない。そういう体験を繰り返すことになる不思議な詩集です。これはいったいどういう仕掛けなのか。


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仏が頭まで水に浸かり、映像が雨水に融け出してゆく。
母の布団に針を撒いた
新しい男の顔が描かれた敷物の上で生活をした
病院の窓硝子に心臓が映った
僧侶がタモで映像をすくい上げている。わたしの足下まで仏も広がってしまって、果たしてすくえるのだろうか。
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「鯉は船に乗って進む」より


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私はあの島まで歩いて行って、
這う百足に手を合わせ
祖母から小遣いをもらう
風呂に浸かりながら、
山から落ちた男が
大仏の手の上で目覚めた話など聞かせてもらう
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「篠の目原を行く」より


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 滑走する包丁も、向きさえ合わなければ平気だったが、その間も蝉はせわしなく「緑青緑青緑青緑青」と啼いて、私は本当に不安になってしまった。手を見ると、爪の生えた指は合わせると全部で十本あり、一つずつ確実に指を折れば講義終了だった。
 不均衡の排水溝が刻まれた爪先から、心はもう、部室にあった。
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「出せ」より





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