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『SFマガジン2021年4月号 小林泰三特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2021年4月号は、先日亡くなった小林泰三さんの特集でした。追悼特集、でないところがミソ。1962年生まれ関西出身SF作家たちは「退席した奴の悪口を即座にボロクソいいまくる」という日本SF界の悪しき伝統を受け継いでいるなあ。




『虹色の高速道路』(小林泰三)
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「地理で習わへんかったか? ずっと北に進んでいったら、どこへ行くと思う?」
「北極?」
「そや。北極や。そやけど、真の北極点には到達できひん。なんでか言うたら、世界には穴が開いとるからや。北極と南極のとこにある穴の向こう側の世界がペルシダーや。僕らはそこに秘密基地を作ってあるんや」
「なぜ、秘密に?」
「それも秘密や」
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SFマガジン2021年4月号p.18

 天文と地理の互いの気を通じさせ世界の回転に潜む理気をこの世に現出させるための儀式を執り行うことになった青年。ところが彼の前に謎の関西弁男が現れて、儀式の設定パラメタを変更してくれへんかと頼んでくる。勢いで笑わせておいて最後にハードSFな世界観を明らかにしてびっくりさせるという作者の得意技が炸裂する短篇。




『きらきらした小路』(小林泰三)
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 路はきらきらと輝いていて、とても綺麗だ。路はあちらこちらで複雑に分岐と結合を繰り返し、奇妙な模様を浮かび上がらせている。路のない部分には黒い空間が広がっている。いや。見ようによっては巨大な黒い穴が無数に存在し、その隙間にきらきらとした路が存在しているようにも見えた。
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SFマガジン2021年4月号p.27

 安全に動ける路を外れて重力傾斜を下ってみた子供。だが途中の軌道交差により帰還に必要な運動量を失ってしまう。もう仲間のところに帰れないのだろうか。童話風の話でしんみりさせておいて最後にハードSFな世界観を明らかにしてびっくりさせるという作者の得意技が光る短篇。




『時の旅』(小林泰三)
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「ええと、『我、松本留五郎はわが子孫に命ずる。タイムマシーンが完成した暁には、それに乗って直ちにこの遺言状が完成した時に出現させること』……なるほど。これを読んだお前の子孫がタイムマシーンをこの時代に出現させるという考えじゃな」
「さすがご隠居はん、ご察しの通りでございます」
「そやけど、こんなことうまいこといかんやろ」
「なんでそう思いなはる?」
「なんで、言うたかて、こんな簡単な方法で、タイムマシーンが手に入る訳ないやろ」
「それは今まで誰もこの方法を思い付かなんだだけと違いますか?」
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SFマガジン2021年4月号p.41

 ロハでタイムマシーンを手に入れて大儲けする方法を思い付いた留五郎、協力してもらおうとご隠居のもとにやってくるが……。勢いで笑わせておいて最後にハードSFなアイデアを明らかにしてびっくりさせるだろうという期待を外してあくまで落語としてオチをつける創作落語。





タグ:SFマガジン
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『連星からみた宇宙 超新星からブラックホール、重力波まで』(鳴沢真也) [読書(サイエンス)]

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 じつは、宇宙に存在する星々のおよそ半数は、連星であると考えられています。しかし私たちにとってもっとも身近な恒星である太陽が1つだけなので、多くの人は、恒星はみな一人ぼっちで存在していると思っているようです。「ブルーバックス」の編集部のみなさんでさえ、恒星の半数は連星だと知らない人が少なくなかったと聞いて、ちょっとびっくりしました。連星は宇宙で珍しいものではなく、むしろありふれた存在なのです。
 しかも、ただ「珍しくない」だけではありません。じつは天文学の進歩において、連星は非常に重要な役割を担ってきたのです。
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単行本p.5


 共通重心を中心に互いの周囲を公転している複数の恒星、連星。新星、ブラックホール、Ia型超新星、ダークエネルギー、重力波など、様々な発見に連星がどのように関わっていたのかを平易に解説する天文学入門書。単行本(講談社)出版は2020年12月です。


 宇宙や天体に関するサイエンス本で名高い鳴沢真也さんによる最新作です。これまでに読んだことのある鳴沢さんの著書の紹介はこちら。


2016年07月27日の日記
『へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星』(鳴沢真也)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2016-07-27

2014年02月25日の日記
『宇宙人の探し方 地球外知的生命探査の科学とロマン』(鳴沢真也)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2014-02-25


 今作のテーマは「連星」。連星に関する基礎知識から始まって、天文学の歴史における様々な大発見に連星がどのように関わっていたのかを紹介してくれます。


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 天文学や宇宙論に大発見をもたらし、その発展を支えているのは、連星だといっても過言ではないでしょう。さらに、星が見せる不思議な特徴や、説明のつかない奇妙な現象について調べていくと、連星があることが原因だったという事例は、まさに枚挙にいとまがありません。「宇宙の謎解き」は、連星を知らなければ絶対にできないのです。
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単行本p.6


〔目次〕

第1章 あれも連星、これも連星
第2章 連星はどのようにしてできたのか
第3章 なぜ連星だとわかるのか
第4章 連星が教える「星のプロフィール」
第5章 「新しい星」は連星が生む幻か
第6章 ブラックホールは連星が「発見」した
第7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
第8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
第9章 連星のユニークな素顔
第10章 連星も惑星を持つのか
第11章 連星は元素の合成工場だった
第12章 もしも連星がなかったら 




第1章 あれも連星、これも連星
第2章 連星はどのようにしてできたのか
第3章 なぜ連星だとわかるのか
第4章 連星が教える「星のプロフィール」
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 人間の場合、双子が生まれる確率は約1%といわれています。しかし、星は人間よりも双子で生まれる確率が圧倒的に高いと考えられています。
 その双子が連星になると考えられていますが、双子ではなく「他人」が連星になる場合もあります。さらに、最初は連星だったのに、あとでペアが解消される場合や、連星のペアをチェンジしてしまう場合すらあるのです。星の世界の人間関係(星関係?)も、なかなか複雑なのです。
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単行本p.42

 連星とはどのような構造をしているのか。現時点でわかっている最多の多重連星は何重連星か。連星はどのようにして誕生するのか。ある恒星系が連星であることをどうやって確認するのか。そして連星の観測により何が分かるのか。連星に関する基礎知識を解説します。


第5章 「新しい星」は連星が生む幻か
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 新星の正体はなんなのでしょうか。一見すると、夜空に新しい星が生まれて輝きだしたようにも思えます。しかし輝きは一時のことで、しだいに暗くなって見えなくなるのですから、星が誕生したわけではないのです。新星現象は長い間、天文学上の大きな謎であり、古いものでは1651年に出された論文に、13もの説が提唱されています。
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単行本p.104

 突然、夜空に輝く星が現れる新星(ノヴァ)現象。長年に渡って天文学上の謎だった新星の正体には、連星が深く関わっていたのです。


第6章 ブラックホールは連星が「発見」した
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 連星は、謎のX線源をつくり、通常なら私たちけっして姿を見せないブラックホールの姿を暴き出す役割を果たしていました。ブラックホールの発見は、ジャッコーニさん、ロッシさん、小田さんら「X線天文学」を切り拓いた人たちの功績によるものですが、同時に、連星がブラックホールを発見させたともいえるのです。
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単行本p.134

 光を放出せず発見困難と考えられていたブラックホールは、実際には強烈なX線を放出していた。そのメカニズムは。ブラックホールの発見に連星がどのように関わっていたのかを解説します。


第7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
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 超新星というと、非常に重い星が、一生の最後に大爆発する「重力崩壊型」が一般の方にはなじみがあるようですが、Ia型はそれとは別のタイプの超新星で、重力崩壊型とはまったく異なるメカニズムで発生すると考えられています。(中略)
 では、どのようなメカニズムで白色矮星が爆散するのでしょうか。じつは2つの説があり、ともに連星がからんでいるのですが、どちらが正しいのかは現在も大論争中です。
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単行本p.139

 標準光源として利用できるIa型超新星。連星が作り出すIa型超新星の観測が宇宙の加速膨張という衝撃的な発見、さらにはダークエネルギーの謎につながっていった経緯を解説します。


第8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
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 GW170817の検出と、そのときのキロノバ、ショートガンマ線バーストの検出は、重力波と電磁波による、それも広い波長域にわたっての観測という意味で、人類史上初めての快挙でした。理論で予測されていたいくつかの現象が、このとき一気に証明されたのです。
 アインシュタインの一般相対性理論の正しさや、これらの天体現象のメカニズムが解き明かされただけではありません。ブラックホールどうしの連星の場合と同じく、中性子星どうしの連星もたしかに存在すると立証されたことは、天文物理学でも、星の進化の研究などにおいてきわめて重要な意義がありました。物理学者にとっても、天文学者にとっても、それは一大イベントだったのです。こうしたわけで、中性子星どうしの合体が観測された2017年8月17日を私は「21世紀天体物理学の勝利の日」と呼んでいます。
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単行本p.169

 重力波と電磁波によるブラックホール連星や中性子星連星の観測は、これまでの理論を一気に裏付ける重要な成果をあげた。連星観測により宇宙の姿が明らかになってゆく様子を解説します。


第9章 連星のユニークな素顔
第10章 連星も惑星を持つのか
第11章 連星は元素の合成工場だった
第12章 もしも連星がなかったら 
――――
 結婚指輪に使われるプラチナ、有史以来人々を魅了し続ける金、原子力発電の燃料となるウラン、これらの元素は中性子星の連星が衝突・合体してつくられるのです。このことがわかってきたのは、じつはかなり最近のことです。
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単行本p.221

 様々な連星の様子、金やウランなどの元素の合成過程に連星がどのように関わっているのか、そして連星を周回する惑星の存在など、様々なトピックを解説します。





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『世界のふしぎな木の実図鑑』(小林智洋、山東智紀、山田英春:写真) [読書(サイエンス)]

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 木の実の形態はじつに多様だ。その多様性は、次世代に命を繋ぐため新たな土地へ旅に出る手段の違いに起因する。あるものは翼を持ち、またあるものは羽根を持ち、またあるものは綿毛を持って空を翔け、またあるものは浮きを使って川や海を旅する。バネ装置やねじれ装置を使って自ら弾け飛ぶもの、鉤爪で動物たちにひっつき連れ出してもらうもの、蟻や鳥などにご褒美を携えてその身をゆだねるものもいる。人間にとっては災害としか思えない山火事ですら、耐火性を備え繁殖のチャンスに変える木の実まで存在する。
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 世界中の様々な「木の実」を形態や機能により分類し美しい写真とともに掲載したビジュアル図鑑。単行本(創元社)出版は2020年11月、Kindle版配信は2020年11月です。


〔目次〕

第1部 あつまる

ドングリの仲間
クルミの仲間
セコイア3兄弟
世界の松ぼっくり
豆いろいろ
ヤシいろいろ
レウカデンドロンの仲間
ユーカリの仲間
バオバブの仲間

第2部 ひろがる

風に舞う
回転しながら落ちる
動物にひっついて移動する
海や川を漂流する
はじけ飛ぶ
乾燥や山火事の熱で拡散する

第3部 かたちづくる

鱗をまとう
棘をのばす
ひねる・ねじれる
花ひらく
口をひらく
自然の器
自然のビーズ
丸いかたち
紡錘のかたち
でこぼこのかたち




第1部 あつまる
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 従来の体系が外部形態的な仮説を根拠に植物を演繹的に分類していったのに対して、APG体系はミクロなDNA塩基配列の解析から実証的に分類体系を構築する、根本的に異なる手法である。(中略)APG分析体系はまだ日が浅く、一般的にはまだまだ新エングラー体系やクロンキスト体系に基づいた表記の書籍も多い。
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単行本p.49

 まず様々な「木の実」を主にその形状によって分類してみます。色々な松ぼっくり、様々などんぐり、多種多様な豆や椰子。そこから分類学の進展に目を向けてゆきます。


第2部 ひろがる
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 人間は空を飛びたいと想い描き、ダヴィンチに始まり様々な飛行機械を考案してきたが、植物はそれよりもはるか昔から長い進化の中でそれらをすでに編み出している。大地に根を張り、人間や動物のようには自由に身動きの取れない植物は、より遠く、より広く、種子を新天地に届けるために、様々な工夫を凝らしてきた。
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単行本p.50

 飛翔・滑空する「飛翔タイプ」、クルクル回りながら地面に落ちる「回転タイプ」、動物の体毛に絡みついて移動する「ひっかけタイプ」、水流に乗って移動する「漂流タイプ」、弾けて種子を拡散させる「爆裂タイプ」、さらには火事や乾燥を利用する、鳥に食べられる、など様々な方法で種子を拡散しようとする木の実たち。その拡散方法がどのような形状により実現されているのかを詳しく見てゆきます。


第3部 かたちづくる
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 見た目重視の本書の中でも特に外見のユニークさに注目して選り分けてみた。鱗や棘といった表面のテクスチャーの特徴から、球や紡錘といった全体の立体型、花や器など別の何かへの見立てまで、テーマも様々だ。
 正直なところ、どの木の実もグループに分け切れないほど個性にあふれていて、なおかつどれも外したくない木の実ばかりなので、章立てには頭を悩ませた。
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単行本p.114

 ウロコ、トゲ、ねじれ、花や花瓶やビーズに似たかたち、などふしぎで美しい形状の木の実を集めて鑑賞します。





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『トリックといかさま図鑑 奇術・心霊・超能力・錯誤の歴史』(マシュー・L・トンプキンス、定木大介:翻訳) [読書(オカルト)]

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 これまでに多くのマジシャンが、霊能力や超能力者を自称する人々の正体を暴くことにプロとしての充足を感じてきた。いかさま師たちはマジシャンと同じように仕掛けとミスディレクションを利用していながら、自分たちの芸をイリュージョンとは認めず、磁場や霊魂や超能力(ESP)に由来する力のなせるわざだといいつのる。そういう出まかせを暴くために、手の込んだ捏造や詐術が使われたこともあったのは、逆説的というほかない。
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単行本p.15


 奇術(マジック)と霊媒、超能力、実験心理学。その長く錯綜した関わり合いの歴史を大量の写真やイラストとともに解説する一冊。単行本(日経ナショナルジオグラフィック社)出版は2020年10月です。


 降霊会の場で「心霊現象」を起こす霊媒、その仕掛けを暴露すべく策略をめぐらす奇術師。執着、対立、相互利用。19世紀からそういった切っても切れない関係を続けてきた奇術とオカルトの長い歴史を様々なビジュアルを使って解説。マジックショーのポスター、降霊術の様子を撮影した写真、様々な奇術用道具、トリックの図解など、めくっているだけでも楽しめます。


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 現代の研究者たちは、健康な人間の知覚と記憶と認識に潜むさまざまな偏りが、真にせまったゆるぎないイリュージョンをもたらす仕組みを日々実証している。多くの場合、私たちの心がどのようにしてイリュージョンを生み出せるかという科学的な説明の不思議さは、超自然的な説明とあまり変わらない。
――――
単行本p.15


〔目次〕

第1幕 初期の催眠術と心霊現象
第2幕 マジックの巨匠たち
第3幕 心霊研究家
第4幕 超心理学者
第5幕 錯覚の心理学




第1幕 初期の催眠術と心霊現象
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 1848年にフォックス姉妹が世に出たことが、アンドリュー・ジャクソン・デービス予言するところの霊的な大躍進であったかどうかは議論が分かれるところだが、時流に乗ってひと儲けしようともくろむ詐欺師やぺてん師にとって、当時大きなチャンスが存在したことは間違いない。さらに、物理的な現象や実演は心霊主義の1つの側面に過ぎなかった。実演可能な宗教的奇跡というアイデアが、欺瞞や自己欺瞞、詐欺や捏造の温床になったことに議論の余地はない。当時はそのいずれもが、もっと大きく複雑な社会文化的潮流の一部だった。
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単行本p.49

 メスメリズムから催眠術へ。心霊主義(スピリチュアリズム)の興隆、降霊会で起きる様々な現象。19世紀後半、目の前で起きる超常現象という神秘に惹きつけられた人々の歴史が語られます。




第2幕 マジックの巨匠たち
――――
 ドイルとフーディーニの関係は、霊媒とマジシャンを隔てる境界がロベール=ウーダンのいうほど明確でないということを、よく表している。実際、霊能者と霊能者の欺瞞を暴く者との境界はあえて曖昧にされることが多かった。
――――
単行本p.103

 偉大な奇術師たちの歴史。そのなかには霊媒のトリックを暴くことに注力した者や、さらにその挙げ句に自身が霊能者としてデビューした奇術師者さえいました。両者の境界がしばしば曖昧で流動的だったことを解説します。




第3幕 心霊研究家
――――
 心霊主義者とマジシャンの対立が続く中、科学者たちは、霊の出現やアポート(引き寄せ)などの物理現象加え、テレパシー(思考伝達)や死後生存の可能性などの問題を客観的に調査するための方法論を確立しようとした。心霊主義的な、あるいは超常的な問題に直面した科学者たちは、良識的な懐疑主義の旗を掲げて共同戦線を張ると思いきや、仲たがいして喧嘩別れすることが多かった。物理世界の観測に長けた科学者も、人間相手の実験となると種々の問題にうまく対処できなかったのだ。
――――
単行本p.108

 ここで科学者たちが登場。心霊現象を科学的に解明しようとする彼らの努力は、奇術師と霊能力者に翻弄され、混乱し、内輪もめに終始することが多かったのです。それはなぜでしょうか。




第4幕 超心理学者
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 方法論的な課題やあからさまなぺてんが超常現象の研究を惑乱する状況は、20世紀に入っても変わらなかった。詐欺の告発が絶えなかったことで、初期の霊媒が行ったラップ音やエクトプラズム、石盤書記といったこけおどしは信用されなくなったが、それによって生じた隙間を、新しい現象、といって悪ければ、新しいレッテルが埋めていった。すなわち、超感覚的知覚(ESP)、遠隔視、サイコキネシス(念力)などである。
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単行本p.167

 20世紀に入ると、霊媒は超能力者と名前を変え、心霊研究も超心理学となり、ESP研究の方法論は次第に洗練されたものになってゆきました。しかし、それでも超常現象の解明には手が届かなかったのです。




第5幕 錯覚の心理学
――――
 実験心理学は現在、「マジックを科学する」ことにおいて、いわばルネサンスの真っただ中にある。2000年以降、マジックをテーマにした実験科学の論文の総数は、それ以前に発表されたすべての実験研究論文の4倍を超える。(中略)今日、見て、考え、記憶する仕組みを探る新たな手法を開発しようとする人々の、マジックのトリックに対する関心は募る一方だ。それこそ世界中の教室、研究室、学術会議でマジックのトリックが活用されているし、査読付き科学論文の主題にされることも増えてきている。
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単行本p.208

 21世紀になると、実験心理学が飛躍的に発展してゆきました。何世代にも渡って奇術師たちが蓄積してきた知識を使って、人間の知覚や記憶には驚くべき偏りがあること、判断や記憶は簡単に操作できること、などが次々と立証されてゆきました。すべての超常現象がこのような実験心理学の成果により説明される日が来るのでしょうか。





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『ダチョウ力 愛する鳥を「救世主」に変えた博士の愉快な研究生活』(塚本康浩) [読書(サイエンス)]

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 取材で、「ダチョウの研究を続けるなかで、いちばんの苦労は何ですか?」とたずねられたときには、僕は迷わず「凶暴なダチョウを相手にすること」と答えてきた。
 ダチョウに近づかなければ、襲われることはないが、そういうわけにはいかない。抗体の入った卵を産ませるには、メスのダチョウに抗原であるウイルスのたんぱく質を打つ必要があるからだ。(中略)ダチョウを捕まえるときには物干しざおなどを片手に、五~六人でターゲットのダチョウを追いかける。
 追われるほうのダチョウは壁に向かって逃げ、追いつめられるとくるりと向きを変えるため、襲うつもりはなくても、Uターンしたときに追いかけている人間と正面衝突してしまうことがある。
 ダチョウは走るときに、足を前方に蹴り上げる。正面衝突すると、足で蹴り上げられた人間のほうは地面にたたきつけられる。さらにダチョウはひっくり返った人間のことなど無視して百キロを超える体重で踏みつけて去って行く。
――――
単行本p.96、98


 新型インフルエンザ予防用の「ダチョウマスク」を開発した研究者がダチョウ研究について語るサイエンスエッセイ。『動物のお医者さん』(佐々木倫子)を思い出さずにはいられない一冊。単行本(朝日新聞出版)出版は2009年3月、Kindle版配信は2020年11月です。


〔目次〕

第1章 ダチョウは不死鳥?
第2章 博士、ダチョウを飼う
第3章 大発見! ダチョウの卵パワー
第4章 ダチョウ抗体が恐怖のウイルスを退治する!
第5章 人類を救うダチョウの底力




第1章 ダチョウは不死鳥?
――――
 もしかしてダチョウは世界を制覇していたのではないだろうか。真剣にそう考えることがある。身長は2.5メートルを超える。巨体から振り降ろすキック力、時速60キロを超える俊足、年間に100個もタマゴを産む高い生殖能力、60年も生きる生命力――。46億年の地球の歴史の中で、ダチョウが天下をとっていれば、進化の過程で人類が勃興していたかどうかは疑わしい。
――――
単行本p.8

 ダチョウ主治医としてダチョウ牧場にやってきた鳥類大好き研究者である著者。そもそもダチョウってどんな鳥なのか。その驚くべき治癒能力など知れらざるダチョウの生態にせまる。


第2章 博士、ダチョウを飼う
――――
 大学の畜舎でダチョウを飼いはじめたことは大学の職員の間でも知れわたるようになった。「それはまたけったいな」というのが大方の感想だろう。同僚の研究者たちからは「どんな研究をするんですか」とよく聞かれた。そんなときは「好きなんですよ~。研究とか言わんと大学で飼えないじゃないですか」と正直に答えてはいけない。
 冷静かつ知性的に「ダチョウのホルモン分泌の研究です。ニワトリの伝染性気管支ウイルスの解明につながると見込んで……」と話した。たいていは「おもしろそうな研究ですね」と言いつつもクビをかしげて去って行ったが、こうでも言わなければ命取りである。
――――
単行本p.61

 ダチョウを飼いたいという夢をかなえるために、ニワトリからダチョウへと研究テーマを変えた著者。大学の畜舎でダチョウを飼育することが出来たものの、養育費の捻出、脱走事件など、苦労が絶えない。


第3章 大発見! ダチョウの卵パワー
――――
 ウサギやラットで生産される抗体は1グラムあたり数億円もする。これに対してダチョウ卵の抗体は1グラムあたり十万円。湯水のごとくというとオーバーかもしれないが、格安で大量生産できるので、フィルターやマスクのような工業製品にまで用途を広げることができ、しかも製品コストを下げられる。あえて自画自賛するなら、ダチョウ卵から抗体を発見したのは画期的であり、その抗体の大量生産化は革命的な開発といっても差し支えないと思う。
――――
単行本p.122

 ダチョウに抗原を注射して抗体を作らせ、それを卵から抽出する。そうすれば安価で大量に新型インフルエンザ抗体が手に入るのではないか。だがそもそもダチョウに注射を打つところから、卵から抗体を抽出するまで、苦労の連続だった。


第4章 ダチョウ抗体が恐怖のウイルスを退治する!
――――
 2008年11月19日は人生のなかで忘れられない日となった。その日、僕はインドネシアの首都ジャカルタから車で三時間ほど南に下ったボゴール市郊外のボゴール農業大学ウイルス研究所にいた。(中略)
 研究所には感染者から採取した高病原性鳥インフルエンザウイルスの「H5N1」が保管されている。幸い日本ではまだ感染して発症した患者は出ていない。だが、インドネシアでの致死率は約80%。2009年2月中旬までに判明しているだけで、141名が感染し、そのうち115人の住民の命を奪ったじつに恐ろしいウイルスだ。
 僕たちは患者から採取したウイルスでダチョウ抗体の効果を確認する実験を行うために、はるばる京都から一日がかりで赤道直下にあるこの大学までやってきた。
――――
単行本p.126、127

 ダチョウの卵から抽出した抗体がはたして実際に新型インフルエンザに効果があるのか。検証のために高病原性鳥インフルエンザ発生地域に飛び、危険な実験に挑む著者。


第5章 人類を救うダチョウの底力
――――
 いま、ダチョウが有史以来、はじめてスポットライトを浴びている。2008年10月某日の朝、ダチョウ抗体マスク開発のニュースがNHKで放送された。その直後から、研究室の電話は鳴りっぱなし。新聞社、テレビ局、雑誌の取材依頼はもちろん、ウイルス対策で一攫千金を狙う企業からも続々と電話が入った。その日は電話の応対以外は何もできなかった。いちばん困ったのは大阪のおばちゃんだ。「どこで買ったらええの」と聞くので、通販での購入方法を教えてあげると「まけてくれへん」と言い張って、電話を切ってくれない。
――――
単行本p.187

 ついにダチョウ抗体マスクとして製品化の目処がたった。だが研究は続く。ダチョウ抗体納豆から、ネコのヘルペス治療薬、ダチョウオイル、そしてガンの診断や治療まで。人類を救うかも知れないダチョウパワーの未来を語る。




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