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『三体』(劉慈欣:著、立原透耶:監修、大森望・光吉さくら・ワンチャイ:翻訳) [読書(SF)]

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 人類のすべての行為は悪であり、悪こそが人類の本質であって、悪だと気づく部分が人によって違うだけなのではないか。人類がみずから道徳に目覚めることなどありえない。自分で自分の髪の毛をひっぱって地面から浮かぶことができないのと同じことだ。もし人類が道徳に目覚めるとしたら、それは、人類以外の力を借りる必要がある。この考えは、文潔の一生を決定づけるものとなる。
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単行本p.29


 「これまでも、これからも、物理学は存在しない」

 謎めいた言葉を残して次々と自殺する科学者たち。粒子加速器から得られる混乱したデータ。視界に表示されるカウントダウン。明滅する宇宙背景放射。いったい何が起きているのか。その謎を追う科学者と刑事のコンビは、全人類に途方もない危機が迫っていることを知る。中国で2000万部を超えるベストセラーとなり、ケン・リュウによる英訳版がヒューゴー賞を受賞するなど、グローバルに話題となった中国SF長編。単行本(早川書房)出版は2019年7月、Kindle版配信は2019年7月です。


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「そう、人類の歴史全体が幸運だった。石器時代から現在まで、本物の危機は一度も訪れなかった。われわれは運がよかった。しかし、幸運にはいつか終わりが来る。はっきり言えば、もう終わってしまったのです。われわれは、覚悟しなければならない」
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単行本p.72


 人類に迫る災厄の予兆を描いた長編で、三部作の第一作となります。

 主人公はナノマテリアルを開発している応用科学者。あるとき、視界にオーバーラップするように謎の数字が表示されるようになり、それが毎秒ごとにカウントダウンされてゆく、という超常現象に襲われます。どこを見ても視界にカウントダウンが表示されているという悪夢。やましさに包まれたなら、きっと目にうつる全てのことはメッセージ。

 どうやら似たような現象は他の科学者にも起きているらしく、何人もの一流科学者たちが「物理学は存在しない」など謎めいた言葉を残して自殺しています。


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「三日後の――つまり、十四日の――午前一時から午前五時まで、全宇宙があなたのために点滅する」
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単行本p.105


 予言された時刻になると宇宙背景輻射のゆらぎが極端に増幅され、明滅するモールス信号となってカウントダウン情報を伝えてくる。彼のためだけに、全宇宙を通信機として使うなんて、何という贅沢。

 あり得ない現象に、これまで科学者として信じてきた世界観を覆され、精神的に潰されそうになる主人公。彼を支えたのは、哲学的なことに悩まないタイプの刑事でした。


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「いま起きているこういうことすべてには、陰で糸を引いている黒幕がいる。目的はひとつ。科学研究を壊滅させることだ」
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単行本p.151


 人知を超える超常現象を前にしても動揺せず、誰が黒幕なのか突き止めて倒すことだけを考える、その無神経というかタフな態度に救われる科学者。最初は反目しあっていた二人は、やがてコンビを組んで謎を追うことになります。だが、その先に待っていた真相は、二人の想像をはるかに超えるものでした。


 というわけで、全体としては非常に暗く悪夢めいたサスペンス、あるいはノワール風バディものなのですが、あちこちに逸脱が仕掛けられているところが人気の理由かも知れません。

 シリアスなシーンに「核爆弾を抱えた凄腕の殺し屋美少女」とか平気で登場させるし。恒星直列(!)による重力で地面から何もかもが浮き上がって宇宙へ吸い込まれてゆくシーンとか。宇宙背景輻射のゆらぎを増幅して通信に使うとか。あれとか、これとか。読者がネタを知っていて当然、という前提でアシモフの短篇の話題が出てくるとか。

 ああ国は違えど私と同じ歳のSFファンが書いた話だなあ、と分かってしまう。

 特に印象的なのが、始皇帝の指示により整列した数万人の兵士がそれぞれ論理ゲートとして動作することで人列コンピュータを構成するというシーンで、あまりにウケたのか、ここだけ切り出して独立した短篇『円』としてリライトされたほどです。ちなみに『円』はケン・リュウが編集した『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』に収録されています。


  2018年06月21日の日記
  『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-06-21


 というわけで、ようやく読むことが出来た長編『三体』ですが、三部作の背景が明らかにされたところで終わってしまいます。第二部の翻訳が待たれます。



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『NNNからの使者 猫は後悔しない』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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「ねえ、ミケさん、できれば死ぬ時まで後悔したくないよね?
「そうだね。でも、話を聞いてると、真澄さんはちょっとだけ猫に似てるね」
 わがままで気まぐれで、自分が一番愛されていると思い、言いたいことを悪気なく言ってしまう。嘘も言えない。
 そう言われれば、猫に似ているかもしれない。
「でも、猫は後悔しないよ」
「うん、しないね」
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文庫版p.124


 猫、飼いたいけど、色々と事情もあって……。悩みを察知されるや、たちまち舞い込んでくる猫との良縁。そんな猫飼いあるある現象の背後では、NNNなる謎の猫組織が暗躍しているらしい。ミケさんと呼ばれている不思議な三毛猫(雄)がもたらす「人と猫との出会い」を描く『NNNからの使者』シリーズ、第四弾。独りぼっちで寂しさと後悔に押しつぶされそうになっていた女性が猫との出会いによって救われる長編です。文庫版(角川春樹事務所)出版は2019年10月。


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 夜、アパートでテレビなど見ながら過ごしていると、たまらなく悲しく寂しくなってくる。人より猫を選ぶなんて、どうかしていたのかもしれない。このまま一人で、誰とも触れ合わないまま、ただ生きてそして死ぬのだろうか。
 知らぬ間に涙が出ていた。(中略)テーブルに突っ伏して、真澄は泣いた。緊張や後悔、寂しさやストレス――何一ついいことがない。何がいけなかったんだろう。何をすれば、いいことがあるんだろう。
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文庫版p.39


 家族から離縁され独りぼっちになってしまった女性、真澄。その寂しさにつけ込んでくる男と、猫のミケさん。ミケさんの強力な押しに負けて猫を選んだことで、彼女の人生は大きく変わってゆきます。タイトルは、人はくよくよ後悔するけど猫は後悔しない、という意味の他に、一緒に住む相手として猫を選んで後悔することはない、という意味もあるのでしょう。


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 でもミドリは、そういうことより、彼女の雰囲気が気になった。ミケさんが言ったとおり、本当に「寂しそうな人」だった。そしてなぜか「自分に似ている」と思った。
 彼女が「寂しそうな人」であるなら、ミドリは「あきらめている猫」だ。(中略)その「悲しみ」も「あきらめ」も、「疲れ」も「寂しさ」も、とてもよく似ている。
 だから、自分とあの人は、似ていると感じてしまったのだ。
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文庫版p.72


 寂しい人と、幸福じゃない猫。一緒に暮らすうちに、どこか似ているふたりの距離は次第に近づいてゆきます。


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「……かわいい」
 と思わず口走る。そう言った自分にハッとする。あれ、猫を飼うのも悪くない? 最近、泣いたり、寂しいと思った時にはミドリを触るようにしている。気持ちが落ち着く。彼女もおとなしく触らせてくれる。
 話も黙って聞いてくれる。当たり前だけど。いろいろなことをしゃべっても誰にもバレないし。昔は「内緒ね」と言われたこともしゃべってしまって、よく怒られた。ミドリが相手なら、その心配もない。
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文庫版p.54


 どんな話をしても、クソリプもクソバイスもマウンティングもしないで、黙って聞いてくれる、というか基本無関心。この一点だけでも猫と暮らすのはお勧め。


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 猫に対しては「愛されていない」という不安感がないのだ。ミドリがこっちを愛していなくても全然気にならないのは、それ以上に真澄が彼女を愛しているから。猫を飼って、初めて自分と同じくらい、むしろ自分以上に愛する存在を得たのだ。
 その気持ちが、家族への申し訳なさにつながっていく。自分がちゃんと家族を愛していたら、人生はガラリと変わっていただろう。
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文庫版p.148


 見返りを求めず、ひたすら猫を愛し大切にすることで、人は苦しみから救われるのです。

 自分を見つめなおし、次第に変わってゆく真澄。猫らしくドライな態度を崩さないまま飼い主のことを気にかけるミドリ。しかし、そんなふたりに、大きな試練がやってくるのでした……。


 ちなみに、NNNシリーズ既刊はこちら。すべての作品は独立していますので、どこから読んでも大丈夫です。


  2017年10月16日の日記
  『NNNからの使者 猫だけが知っている』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-10-16

  2018年04月18日の日記
  『NNNからの使者 あなたの猫はどこから?』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-04-18

  2018年10月16日の日記
  『NNNからの使者 毛皮を着替えて』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-10-16


 本書には泣かせ要素も売れ要素も猫愛も大盛りなので、どんどん売れてほしい。著者のブログには「NNNシリーズの「特別編」ということで、おそらくこれで最後になるはずです」と書かれていますが、本書が起爆剤となって既刊も売れ始め、当然のようにシリーズ継続となり、いつしか「ぶたぶた」シリーズに並ぶ二大看板に成長する、といいなーと思います。気になった方は、ぜひ買って下さい。



タグ:矢崎存美
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超常同人誌「UFO手帖3.0」掲載作品『シリーズ 超常読本へのいざない 第4回 『バンヴァードの阿房宮 世界を変えなかった十三人』(ポール・コリンズ:著、山田和子:翻訳)』を公開 [その他]

超常同人誌「UFO手帖3.0」掲載作品『シリーズ 超常読本へのいざない 第4回 『バンヴァードの阿房宮 世界を変えなかった十三人』(ポール・コリンズ:著、山田和子:翻訳)』を公開


 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌「UFO手帖3.0」(2018年11月刊行)に掲載された作品を追加しました。

  シリーズ 超常読本へのいざない 第4回 『バンヴァードの阿房宮 世界を変えなかった十三人』(ポール・コリンズ:著、山田和子:翻訳)
  http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/SpBookInvitation04.html


 ちなみに「UFO手帖3.0」の紹介はこちら。

  2018年11月15日の日記
  『UFO手帖 3.0』(Spファイル友の会)
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-11-15


 なお次号「UFO手帖4.0」は、2019年11月24日に開催される第二十九回文学フリマ東京にて頒布予定です。



タグ:同人誌
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『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』(ポール・シャーレ:著、伏見威蕃:翻訳) [読書(教養)]

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 テクノロジーは、人類と戦争との関係における限界点へと私たちを押しあげた。未来の戦争では、生死に関わる決定を機械が下すかもしれない。世界中の軍隊が、海、陸、空で競い合ってロボットを配備している――90カ国以上が、無人機(ドローン)に空を哨戒させている。これらのロボットは、どんどん自律化が進み、多くは武装している。いまは人間に制御されて活動しているが、プレデター無人機がグーグル・カーのように自律性を強めたとしたら、どうなるだろう? 生か死かという究極の決断について、私たちはどういう権限を機械にあたえるべきなのだろうか?
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単行本p.27


 自律的に索敵し、人間の指示を待たず自動攻撃する戦闘マシン。効率的にターゲットを撃破する戦術を学習してゆく攻撃ドローンの大群(スォーム)。敵兵と民間人を「識別」して攻撃判断を下すAI。それらは戦争をより人道的なものにする「スマート」なテクノロジーなのか、それともスカイネット/ターミネーターへの道なのか。急速に進められている自律兵器の開発、その制限に向けた国際的取り組み、それらをめぐる様々な論点を整理し、包括的に論じた一冊。単行本(早川書房)出版は2019年7月、Kindle版配信は2019年7月です。


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 イスラエルのハーピー無人機のような兵器は、すでに完全自律の領域に達している。ハーピーは、人間が制御するプレデターとは異なり、広い範囲で敵レーダーを捜索し、発見したときには許可を得ずに破壊する。小数の国に売却され、中国はリバースエンジニアリングで、その派生型を製造した。ハーピーはさらに拡散する可能性があるし、この種の兵器はこれからいろいろ開発されるに違いない。韓国はロボット歩哨機関銃を、北朝鮮とのあいだの非武装地帯に配備した。イスラエルは武装した地上ロボットにガザ地区の境界線をパトロールさせている。ロシアはヨーロッパの平野での戦争に備え、各種の武装地上ロボットを製造している。17カ国がすでに武装無人機を保有し、さらに十数カ国が公然と配備を進めようとしている。
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単行本p.28


[目次]

第1部 地獄のロボット黙示録
第2部 ターミネーター建造
第3部 ランアウェイ・ガン
第4部 フラッシュ・ウォー
第5部 自律型兵器禁止の戦い
第6部 世界の終末を回避するー政策兵器




第1部 地獄のロボット黙示録
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 まもなく国防総省は、すさまじいペースでドローンをふたつの戦争に投入するようになった。2011年には、ドローンの年間支出は9.11前のレベルの20倍以上、60億ドルを超えるほどに増大した。国防総省が配備したドローンは7000機を超えていた。ほとんどは手から発進できる小型ドローンだったが、MQ-9リーパーやRQ-4グローバル・ホークのような大型ドローンも、貴重な軍事資産になっていた。
 それと同時に、国防総省は、ロボットが空以外でも貴重だということを知った。空ほどではないにせよ、陸でもやはり重要だった。簡易爆破装置IEDの増加に応じて、国防総省は6000台以上の地上ロボットをイラクとアフガニスタンに配備した。
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単行本p.41


 群れで協働するドローン・スウォーム、自律ミサイルなど、自律型兵器の研究開発、そして配備に関する現状をまとめます。また「自律」という言葉の意味や、オートメーション(自動化)との違いなど、議論の混乱を防ぐために用語と概念を整理します。


第2部 ターミネーター建造
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 先進国の軍だけが自律型兵器を建造できる世界と、だれもが自律型兵器を手に入れられるような世界には、大きな違いがある。自律型兵器をだれでも自分のガレージで造ることができるようになったら、テクノロジーを隠したり、禁止したりするのは、きわめて難しくなると、スチュアート・ラッセルをはじめとする反対派は主張する。(中略)私たちは、殺傷力のある自律型兵器を国民国家だけではなく個人でも建造できるような世界にはいりつつある。その世界は遠い未来ではなく、すでにここにある。
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単行本p.172、189


 様々な自律型兵器とともにその基盤となっているテクノロジーを解説します。また、それらのテクノロジーが、国家だけでなく、どんな組織にも、個人にさえ、簡単に手に入れられるという事実が何を意味するのかを考察します。


第3部 ランアウェイ・ガン
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 自律型兵器が引き起こす破壊は、無作為なものではない――ターゲットを定めたものになる。人間が干渉しなかったら、弾薬が尽きるまでシステムが不適切なターゲットと交戦しつづけ、一度の事故が多数の事故に拡大しかねない。「機械は過ちを犯していることを知らない」と、ホーリーは述べた。民間人や友軍に壊滅的な影響が及ぶだろう。(中略)自律型兵器を評価する際の重要な要素は、システムのほうが人間より優れているかどうかではなく、システムが故障したときに(故障は避けられない)、どれほどの損害が生じるかということと、そのリスクを容認できるかということだ。
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単行本p.263、265


 自動化された兵器システムの故障あるいは誤判断によって引き起こされた過去の事例を紹介し、自律型兵器をめぐる様々な懸念のうち「故障したときの被害が甚大なものになりかねない」という問題について考察します。また深層ニューラルネットの「ブラックボックス化」が兵器にとって何を意味するのかを考えます。


第4部 フラッシュ・ウォー
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 この速度の軍拡は、重大なリスクをもたらす。競争者たちが速度の誘惑に屈し、反応時間をマイクロ秒単位で削減する高速のアルゴリズムとハードウェアを開発したときの株取引が典型的な例だ。コントロールを失った現実の世界の環境では、事故は予想外の結果ではない。そういった事故では、機械の速度が大きな負担になる。自律プロセスが、たちまち制御できないきりもみ状態に陥り、会社をつぶし、市場をクラッシュさせかねない。理屈のうえでは、人間は干渉する能力を維持するはずだが設定によっては干渉しても手遅れかもしれない。オートメーション化された株取引は、国家が自律型兵器を開発して展開したときに、世界がどのようなリスクを負うことになるかを暗示している。
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単行本p.309


 株式の自動取引ソフトの暴走が引き起こした市場暴落、いわゆるフラッシュ・クラッシュを例に、自律型兵器の速度競走、サイバー空間における自律型兵器という問題、さらにマイクロ秒で決着がつくフラッシュ・サイバーウォーのために高度AIに判断を任せるという構想を取り上げます。


第5部 自律型兵器禁止の戦い
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 自律型兵器が私たちと武力行使の関係の性質を根本的に変えることに、疑いの余地はない。自律型兵器は、殺人を個人的な行為ではないようにして、そこから人間の感情を取り去る。それがよいことなのか、悪いことなのかは、見方によって異なる。感情は、戦場で人間を残虐行為に駆り立てるか、慈悲を呼び覚ます。帰結主義者には賛否両論があるだろうし、義務論者の意見も分かれるはずだ。(中略)殺人に対して人間は責任を持ちつづけなければならない、と義務論者は唱える。戦争の道徳的重荷を機械に渡したら、人間の道徳観は弱まる、というのだ。帰結主義者も、それについてはおなじことを主張している。殺人の道徳的な痛みは、戦争の悲惨さを抑える唯一の手段だからだ。
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単行本p.394、395


 自律型兵器の開発あるいは配備の禁止を目指す運動と、各国がどのように対応しているかを概観します。具体的に「何を」「なぜ」制限するのか、その錯綜した論点と様々な議論を俯瞰します。


第6部 世界の終末を回避するー政策兵器
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 人類は、人間と戦争との関係を根本的に変える可能性がある新テクノロジーの潮流の間際に立っている。人間社会がそれらの難問に対処するための機構は、不完全だ。CCWで合意に達するのが困難なのは、それが総意を基本とする枠組みだからだ。完全自律型兵器は、法律、道徳、戦略的理由から、悪しき発想であるかもしれないが、国家間でそれを規制しようとしても失敗するだろう。そういった実例が、これまでにもあった。現在、各国、NGO、ICRCのような国際組織が、CCWの会議を開いて、自律型兵器がもたらす難問について話し合っている。その間も、テクノロジーは猛スピードで前進している。
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単行本p.471


 自律型兵器の禁止が実効力を持つためには、どうすればいいのか。あるいはどのような制限なら各国が受け入れることが出来るのか。残り時間がどんどん失われてゆくなかで進められている、未来の戦争をめぐる議論をまとめます。



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『伊藤典夫翻訳SF傑作選 最初の接触』(高橋良平:編集、伊藤典夫:翻訳) [読書(SF)]

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 本書は、時間・次元テーマの『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』につづく第二弾、伊藤さんが〈S-Fマガジン〉のために選りすぐり、翻訳した傑作中短篇のうち、宇宙テーマに絞ったアンソロジーです。
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文庫版p.410


 異星人とのファーストコンタクト、遭難宇宙船におけるサバイバル、寄生生命体の脅威、異星文明が残したスターゲートなど、主に50年代に書かれた古典的SFから伊藤典夫さんが翻訳したものを集めたSF短篇傑作選、その第二弾。文庫版(早川書房)出版は2019年5月です。

 『ボロゴーヴはミムジイ』に続く伊藤典夫翻訳SF傑作選です。『ボロゴーヴはミムジイ』は時間・次元テーマが中心になっていましたが、今回は宇宙・エイリアンテーマが中心。ちなみに前作の紹介はこちら。

  2017年01月17日の日記
  『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-01-17


 50年代SFなのでさすがに古めかしい描写が目立ちますが、そういうものだと思って読むとさほど気になりません。オールドSFにはオールドSFの良さがあります。ただし、登場する地球人は白人男性アメリカ人ばかり、女性はトロフィーかモンスター、という意味での「古めかしさ」は今読むとかなりキツいものがあります。


〔収録作品〕

『最初の接触』(マレイ・ラインスター)
『生存者』(ジョン・ウインダム)
『コモン・タイム』(ジェイムズ・ブリッシュ)
『キャプテンの娘』(フィリップ・ホセ・ファーマー)
『宇宙病院』(ジェイムズ・ホワイト)
『楽園への切符』(デーモン・ナイト)
『救いの手』(ポール・アンダースン)




『最初の接触』(マレイ・ラインスター)
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 もはやコンタクトする以外に道はなかった。裏切りの危険を冒してまで、相手を信頼しなければならないのだった。完全な不信のうえに築かれた信頼。母星へ帰還することはできない。相手がたに攻撃の意志がないとわかるまで。だが、双方ともあえて信頼の態度を示そうとはしなかった。唯一の円満な解決策は、破壊するか、破壊されるかのどちらかだった。
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文庫版p.30


 異星の宇宙船との予期せぬ接触。異星文明とのファートコンタクトを前に、双方とも「囚人のジレンマ」状況に陥ってしまう。相手を信頼して情報交換すれば互いに莫大な利益が得られるかも知れないが、相手が裏切れば致命的なダメージを受ける。コンタクトを避けて帰還しようとしても、追跡され、母星の位置をつきとめられてしまうかも知れない。唯一の論理的結論は、先に相手を破壊すること。もちろん相手もそう考えているに違いないのだ。ファートコンタクトテーマの古典。


『生存者』(ジョン・ウインダム)
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 残りの者と同様のチャンスを与えてやるのが、彼女にはいちばんいいのだ――夫の手を握りしめ、青ざめた顔をこちらに向けて、大きな瞳で見つめている彼女から、彼は顔をそむけた。しかし必ずしも、最善の方法でもないのだった。
 最初に死なないでくれればいいが、と彼は思った。士気を沮喪させないためには、最初でないほうがいい……。
――――
文庫版p.86


 事故で漂流している宇宙船。このままでは救助が来るまでに船内の食料が尽きてしまう。厳しいサバイバルの試練を前に、船長は乗客に含まれている唯一の女性のことを気にかけていた。飢餓が広がれば、体力的に劣っている彼女が最初に死ぬことになるのではないか。しかし彼女の食料割当だけ増やすわけにもいかない……。


『コモン・タイム』(ジェイムズ・ブリッシュ)
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 船時間の一秒は、ギャラード時間の二時間にあたっていた。
 彼は本当に二時間も数えていたのだろか? 疑いをはさむ余地はないようだった。長い旅になりそうだ。
 だが、じっさい換算してみた彼は、目もくらむショックを受けた。時間は彼にとって、七千二百分の一になっている。だからアルファ・ケンタウリへ行くには、七万二千ヶ月かかるわけだ。
 それは――
《六千年!》
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文庫版p.126


 超光速エンジンの試運転に参加した主人公は、とてつもない危機に遭遇する。彼の意識だけが猛烈に加速され、一秒が経過するあいだに主観的には二時間もの時間を体験することになったのだ。物理時間にしたがっている身体を動かすことすらろくに出来ない。そして目的地に到達するのは、主観時間にして、何と六千年後だった……。


『キャプテンの娘』(フィリップ・ホセ・ファーマー)
――――
 彼は体を起こし、ドアをしめた。考えたとおりだったのだ。ばらばらの断片の少なくとも半分は、これで一瞬に組みあわさったことになる。問題は、ほかの半分がさっぱり結びつかないことと、全体像からどんな事実がうかびあがるか、いっこうに見当がつかないことだった。ハンカチで手をふきながら、彼は思った。なんであるにしろ、それは……。
 彼の体がこわばり、動きをとめた。かたい物が背中につきつけられ、聞き慣れた声が、低い、冷酷な調子でいった。「きみは頭がまわりすぎたな、ゴーラーズ」
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文庫版p.231


 宇宙船内で起きた謎の自殺(それとも他殺なのか?)。船長とその娘の不自然な振る舞い。静かに広がっている脅威に気づいた船医は、何とか手を打とうとするが……。


『宇宙病院』(ジェイムズ・ホワイト)
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 “こんなことは、ここでしか起こらない”――部屋を出ながら、コンウェイは考えた。プルプル揺れる透明なプリンのように、彼の肩にとまった異星の医師。患者は、健康で、巨大な恐竜。そして、仕事の目的は、同僚にさえなかなか明かそうとしない。
――――
文庫版p.266


 既知宇宙のあらゆる種族を治療する巨大病院。そこにやってきた異星の医師と協力するように命じられた地球人の医師は、何のために「治療」が必要なのかまったく知らされないまま、患者である恐竜と悪戦苦闘するはめになる。傲慢で秘密主義でおまけに強力な超能力を持っているやっかいな相棒、動くだけで船室を破壊しかねない巨大恐竜。なぜこうなった。


『楽園への切符』(デーモン・ナイト)
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「そういうわけさ。こいつには、選択性はない――完全にでたらめなんだ。ここを通りぬけて、べつの星系に行くことはできる。だが、試行錯誤をくりかえしながら出発点にもどるには、百万年もかかるだろう」
ウルファートは手のひらのつけねにパイプをぶつけ、燃えかすをフロアに落とした。「ここにあるんだ、星への門が。ところが、それが使えないときてる」
――――
文庫版p.327


 火星で発見されたスターゲート。異星文明が残した遺物であるそれは、通り抜けるだけで他の星系に設置されたスターゲートへと一瞬でワープすることが出来る。ただし、どのゲートにつながるかはランダムらしい。いったんゲートをくぐったら、おそらく宇宙を永遠に彷徨うはめになる。帰還は不能。それでも行くべきだろうか。宇宙へ、銀河へ、未知の領域へと。


『救いの手』(ポール・アンダースン)
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「わたしはソルの歴史を調べてみました。人類が同じ星系内の惑星にも到達していないころ、地球ではたくさんの文化が、それぞれ極端に異質な文化が共存していました。しかし、最後にはそのひとつ、西欧社会というものが、技術的に圧倒的な進歩を示して……つまり、ほかの文化が共存できなくなってしまったのです。競走するためには、西側のアプローチを採用するしか方法はありませんでした。そして西側が後進国家指導するときには、必ず西側のパターンを押しつけたわけです。たとえ善意からしたことであったとしても、結果的にはほかのすべての生活の道を滅ぼしてしまいました」
――――
文庫版p.404


 星間戦争により荒廃した二つの惑星。地球人はその一方だけを援助し、気に入らない他方を無視していた。やがて長い歳月が流れ、二つの惑星はそれぞれに復興を遂げるが、その運命は大きく異なっていた。西欧社会による「後進国」に対する文化破壊を寓話的に扱った作品。



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