『湯治場のぶたぶた』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]
――――
「こっちにいい湯治場があるから、来てみないか?」
「湯治場?」
「温泉に浸かって、病気や怪我を癒す場所だよ」
そんなところがあるの?
「そこのご主人がとてもいい人だから。いろいろなことを聞いてくれるよ」
――――
文庫版p.117
「今回のテーマは湯治場です。私の願望が溢れ出るテーマです。まだまだ体調万全とはいえないのでねえ」(「あとがき」より)
見た目は可愛いぶたのぬいぐるみ、中身は頼りになる中年男。そんな山崎ぶたぶた氏に出会った人々に、ほんの少しの勇気と幸福が訪れる。大好評「ぶたぶたシリーズ」は、そんなハートウォーミングな奇跡の物語。
最新作は、癒しを求めて湯治場をおとずれる人々の物語3篇を収録した短編集。温泉に浸かって美味しいもの食べてぶたぶたのカウンセリングを受けるだけで、メンタル不調もみるみる回復そりゃそうだ。文庫版(光文社)出版は2023年7月です。
収録作品
『最初の一歩』
『特別室』
『密かな告白』
『最初の一歩』
――――
まだ不安はある。でも一日数分でも、こんな楽しい時間が持てれば、なんとかなるかもしれない。また少し調子が悪くなったら、ここに来ればいい。ぶたぶたに話を聞いてもらおう。好きな本の話、まだしてないし。
あと、小説のモデルになってもらってもいいかって。
――――
文庫版p.80
うつ病で仕事を休んでいる男が湯治場に向かう。そこで療養しつつ小説を書いてみようと思っていたのだが、そこでは小説どころではない出会いが待っていた。心身不調描写がリアルというか実感こもっている癒し願望充足小説。「山崎ぶたぶた氏をモデルに小説を書こう」と考えた登場人物ははじめてではないかと思う。
『特別室』
――――
「あと、Wi-Fiも届かない」
「あー、それは今どきの旅館としてはいかんかもしれませんね」
すでに「売り」にもできないごく普通の設備であろう。
「けど、それがいいって言った人がいてね。それで『特別室』とも言ってたんだよね」
確かに今、そういうところは「特別」なのかも。けど、
「不便じゃありませんか?」
「いや、Wi-Fiも携帯の電波も届かないのがいいんだって。これがいわゆるデジタルデトックスだよね」
――――
文庫版p.91
湯治場の離れにある「特別室」は、携帯電波圏外でWi-Fiもないことから、スマホ依存症などの治療に使われていた。そこに親といっしょに連泊している幼い女子。何やらワケアリのようだが……。現実に多くの若者たちを苦しめている現代的な問題がテーマとなります。構成とプロットのひねりが工夫されたミステリ作品。
『密かな告白』
――――
満知子のことを思い出した。ほんの一時隣り合って話しただけなのに、覚えてくれていた。琴代自身があるはずないと思っていた悲しみを、汲み取ってくれた。「わたしと似ている」と言ってくれた。
あるはずのない痛みと、あるはずなのにない痛み。
それはどちらも幻ではなかった。
――――
文庫版p.221
何度も利用している常連客である語り手は、湯治場での出会いがきっかけで、ぶたぶたに自分の悩みを話す気になる。ぶたぶたとの会話によって心の傷と痛みが癒される過程を丁寧に描く感動的な作品。
「こっちにいい湯治場があるから、来てみないか?」
「湯治場?」
「温泉に浸かって、病気や怪我を癒す場所だよ」
そんなところがあるの?
「そこのご主人がとてもいい人だから。いろいろなことを聞いてくれるよ」
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文庫版p.117
「今回のテーマは湯治場です。私の願望が溢れ出るテーマです。まだまだ体調万全とはいえないのでねえ」(「あとがき」より)
見た目は可愛いぶたのぬいぐるみ、中身は頼りになる中年男。そんな山崎ぶたぶた氏に出会った人々に、ほんの少しの勇気と幸福が訪れる。大好評「ぶたぶたシリーズ」は、そんなハートウォーミングな奇跡の物語。
最新作は、癒しを求めて湯治場をおとずれる人々の物語3篇を収録した短編集。温泉に浸かって美味しいもの食べてぶたぶたのカウンセリングを受けるだけで、メンタル不調もみるみる回復そりゃそうだ。文庫版(光文社)出版は2023年7月です。
収録作品
『最初の一歩』
『特別室』
『密かな告白』
『最初の一歩』
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まだ不安はある。でも一日数分でも、こんな楽しい時間が持てれば、なんとかなるかもしれない。また少し調子が悪くなったら、ここに来ればいい。ぶたぶたに話を聞いてもらおう。好きな本の話、まだしてないし。
あと、小説のモデルになってもらってもいいかって。
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文庫版p.80
うつ病で仕事を休んでいる男が湯治場に向かう。そこで療養しつつ小説を書いてみようと思っていたのだが、そこでは小説どころではない出会いが待っていた。心身不調描写がリアルというか実感こもっている癒し願望充足小説。「山崎ぶたぶた氏をモデルに小説を書こう」と考えた登場人物ははじめてではないかと思う。
『特別室』
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「あと、Wi-Fiも届かない」
「あー、それは今どきの旅館としてはいかんかもしれませんね」
すでに「売り」にもできないごく普通の設備であろう。
「けど、それがいいって言った人がいてね。それで『特別室』とも言ってたんだよね」
確かに今、そういうところは「特別」なのかも。けど、
「不便じゃありませんか?」
「いや、Wi-Fiも携帯の電波も届かないのがいいんだって。これがいわゆるデジタルデトックスだよね」
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文庫版p.91
湯治場の離れにある「特別室」は、携帯電波圏外でWi-Fiもないことから、スマホ依存症などの治療に使われていた。そこに親といっしょに連泊している幼い女子。何やらワケアリのようだが……。現実に多くの若者たちを苦しめている現代的な問題がテーマとなります。構成とプロットのひねりが工夫されたミステリ作品。
『密かな告白』
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満知子のことを思い出した。ほんの一時隣り合って話しただけなのに、覚えてくれていた。琴代自身があるはずないと思っていた悲しみを、汲み取ってくれた。「わたしと似ている」と言ってくれた。
あるはずのない痛みと、あるはずなのにない痛み。
それはどちらも幻ではなかった。
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文庫版p.221
何度も利用している常連客である語り手は、湯治場での出会いがきっかけで、ぶたぶたに自分の悩みを話す気になる。ぶたぶたとの会話によって心の傷と痛みが癒される過程を丁寧に描く感動的な作品。
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