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『不気味の穴 恐怖が生まれ出るところ』(伊藤潤二) [読書(随筆)]

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 漫画家の道を志すようになったのは、将来に対する不安。少しドラマチックに言えば、死の予感めいたものがあったからだ。(中略)足元さえおぼつかない暗い道をなんとか歩いてこれたのは、学生時代に夢中になったSF小説やショートショート、特撮映画の数々が、小さな灯台となって私の行く先を照らしてくれたからだ。意味があるからやるのではなく、やることで意味が生まれることもある。
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 現代日本を代表するホラー漫画家、伊藤潤二さんの自伝です。前半は、幼少期から学生時代の思い出、影響を受けた作品、就職から漫画家になるまでの来歴。後半は創作方法についての解説となっています。単行本(朝日新聞出版)出版は2023年2月です。

 昨年の暮れに録画したNHKアカデミア「伊藤潤二」を視て、伊藤潤二さん自身による自伝が出版されていることを知ってあわてて読みました。伊藤潤二さんと私は一歳違いで、まあ同年代といってよいでしょう。そしてその幼少期に影響を受けた作家や作品がほぼ完全といってよいほど自分と重なっていることに驚愕しました。

 影響を受けた漫画家として名前が挙げられているのは、楳図かずお、古賀新一、日野日出志、つげ義春、大友克洋といった具合で、まあそうでしょう。TVドラマ版『悪魔くん』『ウルトラQ』、そしてレイ・ハリーハウゼン。『うる星やつら』『ポーの一族』『日出処の天子』。空飛ぶ円盤にのめり込み、部活は卓球部。星新一ショートショートコンテストに何度も応募し、筒井康隆にのめりこむ。

 わかる。

 同じものを見て同じものを読んでいた人なんだなあと親近感が湧きます。中学時代に卓球部だったことまで一致。また細かいところ、例えばUFO探しとか、40歳までしか生きられないと信じてた、といったところまでも。ただ、反応には違いが。




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 私は放課後に学校から家に帰ると、南側のベランダに腰かけて、日が暮れるまでずっと空を眺めていた。何しろUFOはいつ姿を現すかわからないから、つねに気が抜けないのである。しかし待てど暮らせど、一向にUFOは現れなかった。
 それでもどうしてもUFOが見たかった私は、『世界の円盤ミステリー』という本の巻末に載っていた作り方を参考にしながら、円盤探知器を自作しようと試みたこともあった。しかし「針金を磁石にこすりつけて棒磁石を作る」というところで挫折し、結局未完成に終わった。
 アメリカのカリフォルニア州にはフランクに現れるくせに、なぜ日本の岐阜県には姿を見せてくれないのか――。
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 私はぼんやりと、自分は40歳くらいで死ぬのだろうと思った。
 それならば、人生、残り半分。
 どうせあと20年しか生きられないのであれば、自分が本当に好きなこと、やりたいことに人生を懸けてみてもいいんじゃないだろうか。
 徹夜明け、仕事帰りに空が白む道を車で走りながら、私は決めた――。
 漫画を描こう。
 自分がどれくらい通用するのか、本気で試してみよう。
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 私も一日中ずっと空飛ぶ円盤を探したものの、UFO探知機の自作には取り組みませんでした。人生40年説を信じてたものの「じゃあ逃げきりさえすれば責任をとらなくて済む」と思っただけ。ここら辺の心構えの違いが人生を分けることがよくわかりますね。




 後半の創作術については、ちょっと印象的だった箇所をいくつか書き写します。




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 私の漫画はときどき「真面目に描いてるのかギャグで描いてるのかわからない」「これは笑わせにきてるのですか?」といった質問を受けることがある。(中略)じつは私のアイデアノートには結構な数のギャグネタがストックされていて、隙あらばいつでもギャグを差し込んでいきたいとは思っている(中略)
 こうしたブラックユーモアというか、異常なシチュエーションと日常的なセリフのズレが生み出す面白さみたいなものは、筒井康隆先生や大友克洋先生の初期作品からの影響が強い気がする。
 一方で、私自身はものすごく真面目に描いたつもりが「いやあ、最高に笑いました」と褒められてしまうケースも少なくない。怖いと思って描いたものがうっかり面白くなってしまうなんて、ホラー漫画家としては由々しき事態である。
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 よく長期連載の漫画だと、「とにかく魅力的なキャラクターを作ることが大事」だといわれる。最初にキャラクターをしっかり作れば、あとは「キャラが勝手に動いて自然とストーリーが出来ていく」というのもよく聞く話だ。しかしそんな超常現象に遭遇したことは、私は未だかつてない。(中略)私が描きたいのは人間や化物ではなく「世界」そのものにある。小宇宙のようにいろいろな奇妙な世界があって、そこにもし生身の人間が放り込まれたらどうなるのか、その顛末を描きたいのだ。キャラが中心になって世界を変えていくという内容は、私には描けない。
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 創作物に対しては一貫してリアリスティックであった。たしかに幽霊やUMAや空飛ぶ円盤の存在を私は信じていたが、それらを妄信していたわけではない。裏を返せば、「これはもしかして本物ではないか……!?」と信じられるくらいリアルなもの、のめり込めるものとの出会いに、私は飢えていたのかもしれない。
 その点において、ハリーハウゼン氏は見事の一言だった。(中略)
 人を心の底から騙したいのであれば、徹底的にリアリティーを追求しなければならないことを、私は氏から学んだ気がする。(中略)
 これは私の癖で、話を練っていくうちに、つい科学的志向が出てしまう。物語にリアリティーをもたせるためではあるのだが、話が小さくまとまってしまいがちで難しいところだ。
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