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『オールアラウンドユー』(木下龍也) [読書(小説・詩)]

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終わりだけ記念日となる戦争が馬鹿だからまた始まっちまう
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火よ育て。夜を飲み込め。駆けつける消防隊はおれに任せろ。
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食う者と食われる者をはっきりと隔てるために箸は置かれる
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詩の神に所在を問えばねむそうに答えるAll around you
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 『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』の著者による第三歌集。単行本(ナナロク社)出版は2022年10月です。ちなみに旧作の紹介はこちら。


  2016年06月29日の日記
  『きみを嫌いな奴はクズだよ』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2016-06-29


  2013年06月06日の日記
  『つむじ風、ここにあります』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2013-06-06




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たんぽぽに生まれ変わって繁栄のすべてを風に任せてみたい
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花ひとつ管制塔として鳩が着陸をする校庭の隅
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ピークまで黒の濃度を至らせて自身の影に着地する鳥
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カマキリにPASMOを当ててうつくしいカマの閲覧料を支払う
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波ひとつひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる
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みずうみに落とした櫛が底へゆきながらひかりの毛先をとかす
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雪が雪で白を更新する道にペヤングの湯でハートをえがく
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人間へ まだ1割の力しか出してないけど? 消費税より
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防衛省が推奨しない方法でぼくはあなたを愛しています
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爆発のあとのけむりのむこうから無傷のままで登場したい
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さようならそれぞれに生き延びてまたいつかみんなで疎開しましょう
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『ポエトリー・ドッグス』(斉藤倫) [読書(小説・詩)]

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 つまり……。この詩って、なにがいいたいんだ?
「わかりません」
 さらに追いうちをかけるように、マスターは、いった。「詩に、いいたいことがあるものかどうかも」
「こんなに詩に詳しいのに?」
「詳しいといいますか」
 マスターは、恬然と、いう。「ただしりたいだけなのです。にんげんが、物事をどのようにとらえるのかを」
「ふうん」
 ぼくは、いった。詩ってそういうものなのかな。
 物事のとらえかた、のかたち。
 ひとにはわからなくて、ことばにできないなにかが、ぼんやりあって、ただそれをさし示しているような。
 いぬによって代弁される、飼い主が気づいてもいないおもいみたいな。
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 バーテンダーは犬で、アルコールだけでなく「詩」を出してくれる。ちょっと変わったバーの常連となった語り手は、出された様々な詩を読みながら、詩の読み方を体得してゆく。『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』の姉妹編というか大人版。単行本(講談社)出版は2022年10月です。

 詩はよく分からないから苦手、という方は多いです。でもきっと詩人さんや詩の評論家といった人々は、難解な詩もすらすら読んで理解しちゃうんだろうな。そう思いますか。いえ、詩を読む、味わうというのは、そういうのとはまた別なのです。犬のバーテンダーがそういったことを教えてくれます。ゆびぱち詩集が入門編だとしたら、こちらは実践編というべき一冊。内容的にも少し関係していますので、ぜひ二冊合わせてお読みください。




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「気力も集中力もなくって。しごとの資料は目がすべるし、小説なんてもちろん読めない。テレビをつけっぱなしにしてるけど、切ってしまうと、いまなにを見ていたのかもおもい出せない」
 ぼくは、顔をあげて、いった。「そんな状態でも、ふしぎと、詩ははいってくるね」
「読みかたが、わかってこられたのでは」
 拭いていたグラスが、きゅっと鳴る。
 そうかもなあ。登場人物とか、テーマとか、ストーリーを通してでなく、ただ、そこにあることばをさしこむような直接さがある。でも、こっちの回路を開けっぱなしておく練習も、たしかに、ひつようだろう。
 音楽は、耳だし、絵は、目だ。詩は、どちらでもあるようで、どの回路ともちょっとちがう。あとは、
「匂い?」
 ぼくは、おもった。
 とても、似ている。手ざわりや、味にも。
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 そこで、はたと気づく。「詩のむこうに、深いいみがあるなんて、うそだっていってるようでもあるね。詩は、あるがままの、この、ことばのならびとひびき、それだけだって」
「なんだか、ぐるぐるしますね」
 マスターは、みょうにうれしそうに、いった。「じぶんのしっぽを追うみたいな」
「ぐるぐるするねえ」
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「うん。よくわからない」
 わくわくしてきた。「いいぞ」
 わからない、というこのかんじが、詩がぼくらをどっかにつれ出そうとするフラグだって、いまは、しっているから。
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 西洋でも日本でも、詩は、韻や、音数、行数などの定型があって、それがゆるまって、自由詩になっていく、おおきな流れがある。そう、マスターは、いった。
「そのことと並行するように、ロマン主義や、写実主義などの波が起こりました」
「なにかが自由になるときって、たいていべつの理屈がほしくなるんだよね。でないと、でたらめじゃんっていわれちゃうから」
 なんて、ぼくは、いってみた。
 詩じたいの構造が、信じにくくなってきたのに応じて、詩のそとがわに、たよれる原理がほしくなるのは、合点がいく。
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「ひとつは、ロマン主義。十九世紀初めといわれますけど、客観性や社会を優先する、西洋の合理主義的かんがえかたに対して、個人の感受性を優先したものです」
 ふむ。
「それに対しての、ゆりもどしが自然主義です。進化論や生物学の発展とかんけいしているといわれますね。ロマン主義の讃えた偉大な個人も、科学的に分析できるだろうというかんがえかたです」
 ふむふむ。
「そして、象徴主義は、いいとこどりです」
 マスターは、いぬがよくするように、首をちょっとかしげた。「ひとやすみしましょうか」
「いや、聞いてるよ」
 ぼくは、酔っぱらいがよくするように、いいきった。「ぜんぜんだいじょぶ」
「ロマン主義のように、個人の内面に重きを置きながらも、自然主義的な観察をやめない、というような」
 なんか、主観と客観の対比によく似てるのかも。ぼくは、おもった。
 マスターは、つやつやした鼻先をぼくにむけた。「そして、気づいたのです。じぶんが酔っぱらいだということに」
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「詩っていうのは、なんてーか、おもい出させようと、してくれてるのかもね」
 ぼくは、あやしくなりかけたろれつで、いった。このじぶんだけが、じぶんじゃなかったかもしれないことを。このせかいだけが、せかいじゃなかったかもしれないことを。
 そしてまだだれも、もしかしたらじぶんでさえも気づいていない、〈物事のとらえかたのかたち〉の変わる瞬間を。
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タグ:斉藤倫
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『幽憬』(lal banshees、横山彰乃) [ダンス]

 2022年12月25日は夫婦でシアタートラムに行って横山彰乃さん率いるlal bansheesの新作公演を鑑賞しました。バンド生演奏がガンガン響くなか強烈なパワーで駆け抜ける70分の舞台です。


[キャスト他]

振付・演出: 横山彰乃
音楽・出演: SuiseiNoboAz
出演:中川賢、小山まさし、中川絢音、斎木穂乃香、中條玲、coyote、横山彰乃


 『ムーンライトプール』から四年半、横山彰乃さんの新作がやってきました。今回は音量もすさまじく(ロビーで耳栓を配っていた)、それに負けじといわんばかりの迫力、風圧、ともに最大級のダンスという感じ。

 男性も含むダンサーたち七名の立ち回りとバンドSuiseiNoboAzの大音響による生演奏がぶつかりあい、思考が停止し意識が彼岸につれてゆかれる体験をしました。パワフルなのになぜか死後の世界を連想させる雰囲気も印象的です。

 終演後もアンコール的にダンスが続くのですが(みんな体力すごい)、最後に横山さんによるソロが入って、これがまた師匠KENTARO!!を彷彿とさせながらさらにその上をゆくような気迫で、猛烈に感動しました。これすごい。





タグ:横山彰乃
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『あるときはぶかぶかの靴を、あるときは窮屈な靴をはけ(3)』(河野聡子) [読書(教養)]

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 どれだけ何を読もうともやっぱり自分は何も知らない。そして、そう実感するたびに読書は楽しいものだと思う。書物はけっして征服できない海のように私の前にあり続ける。
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「付録 他にも語りたい本がありまして」より


 西日本新聞に寄稿された書評から外国文学を中心に再録した『あるときはぶかぶかの靴を、あるときは窮屈な靴をはけ』の第三弾。2020年から2022年前半までに出版された翻訳書を紹介してくれます。通販サイトへのリンクはこちら。

あるときはぶかぶかの靴を、あるときは窮屈な靴をはけ(3)
https://tolta.stores.jp/items/637b0211bd5e4d237d0449e9




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 思うに作家の最大の特権は主人公を決定できることかもしれない。誰の目から見るかによって世界は異なるあらわれかたをするだろう。
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「シェイクスピアの妻はどんな人間だったのか?――
『ハムレット』(マギー・オファーレル)」より




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 ウルフはこれらの作品のなかで「小説」や「詩」といった枠組みを超え、あれこれ好き勝手に試しているのだろう。しかし「好き勝手」にやることほど難しいことはない。本書は「書かれたものとはかくあるべし」という観念を超えようとする自由の賜物である。
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「かくあるべしから自由になる――
『ヴァージニア・ウルフ短編集』(ヴァージニア・ウルフ)」より




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 単純な四つの塩基に「私」の情報が折り畳まれているように、シンプルなラブストーリーは無限の知的興奮と共に展開し、しまいにこの世界そのものの豊かさと多様性をあらわにするだろう。驚嘆すべき作品である。
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「折り畳まれた情報から「私」を形づくる変奏を見出す――
『黄金虫変奏曲』(リチャード・パワーズ)」より




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 それにしても、主人公の言動はけっして愉快でも痛快でもないのに、彼に巻き込まれた人々は最後になぜか前向きな結末に至る。これぞピタゴラ装置風のマジックというべきか。読後には賑やかな祭りを見物したあとの疲労と爽快感が残るのである。
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「転がる運命の手が引き起こす喜劇――
『愚か者同盟』(ジョン・ケネディ・トゥール)」より




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 中国という国家の歴史や社会システムに注がれる冷静で分析的な視点と、奥行きある描写の巧みさが両立する作家である。本書では祖父や両親のエピソードが見事で、ひとつひとつに独立した短編小説になり得る深みがある。様々な側面から読み応えのある作品といえる。
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「現代中国からジョージ・オーウェルへ――
『1984年に生まれて』(郝景芳)」より




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 本書は読めば読むほどに不思議の国に入り込んだような印象を受ける小説だ。私のいる場所とは異なる時空、異なる現実から届けられた、貴重な思索の声なのだ。
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「ありえたかもしれない「共産主義」の夢――
『チェヴェングール』(アンドレイ・プラトーノフ)」より




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 船上の食事の歴史について語るために船そのものの発達史を語るといったような、おそらくこれまでなかった方法で海と船と人間の歴史を描いていることに特徴がある。帆船から蒸気船に船が発達する過程で船のキッチンがどう変化したかという記述がある一方、ミクロネシアのカロリン諸島1960年代から現代にいたるまで、大戦で沈没した日本の軍艦から回収された鉄の箱を船上での魚の調理に使っているといったことが記されていて、「海上における調理」の背後にある物語に驚かされもする。
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「人類は船の上で何を食べてきたか――
『船の食事の歴史物語 丸木舟、ガレー船、戦艦から豪華客船まで』(サイモン・スポルディング)」より





タグ:河野聡子
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『プラスマイナス 179号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。


[プラスマイナス179号 目次]
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巻頭詩 『果実 より』(深雪)、イラスト(D.Zon)
川柳  『雨から出る足』(島野律子)
エッセイ『カラスへの階段』(島野律子)
詩   『見えない声』(島野律子)
詩   『ベトナムコーヒー』(琴似景)
詩   『果実』(深雪)
詩   『母という病』(多亜若)
小説  『一坪菜園生活 62』(山崎純)
エッセイ『香港映画は面白いぞ 179』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 118』(D.Zon)
編集後記
 「気になることば」 その6 多亜若
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 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、お問い合わせはTwitter @shimanoritsukoまでDMでどうぞ。





タグ:同人誌
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