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『つむじ風、ここにあります』(木下龍也) [読書(小説・詩)]

 「ぷよぷよは消える瞬間背後から刺されたような顔をしていた」
 「ショッカーの時給を知ったライダーが力を抜いて繰り出すキック」

 孤独、疎外、不穏、抒情。 今のリアルを、鮮烈な表現でまっすぐつぃーと、感傷のなかに笑いをにじませる。新鋭の歌集、熱烈推薦。単行本(書肆侃侃房)出版は、2013年05月です。

 人づきあいが苦手な若者が、孤独に独り暮らしをしている。確かに寂しいけど、なんかこー、じゃあ恋人がいたらいいのか友人がいたら楽しいのか、というと、今のままでも結構いいような気がする。そんな感触の作品がまず目につきます。

   駅前をナックルボールの軌道でゆけばティッシュをもらわずに済む

   B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る

   枝豆と壁の模様を見ています合コンは盛り上がっています

   銃弾は届く言葉は届かない この距離感でお願いします

   レシートも袋もカバーもいりませんおつりもいいです愛をください

   盗聴の特集記事を思い出し「知っているぞ」と部屋でつぶやく

   カレンダーめくり忘れていたぼくが二秒で終わらせる五・六月

   中央で膝を抱える浴槽の四方のバブが溶け終わるまで

   女子アナの真顔で終えるザッピング眠るまえには女が見たい

  「眠るまえには女が見たい」とか、すごくいい。
 しかし、独り暮らしには色々と不穏なこともあります。

   次のページで死ぬ人が前のページで犬を見て爆笑してる

   バラバラになった男は昨日まで黄色い線の内側にいた

   リモコンで切ったがなんかあれなので主電源まで這いよって切る

   体温の移っていない部分まで足を伸ばしてまた引っ込める

 消したTVが勝手について女の顔とか映ったら、蒲団の外に伸ばした足首を誰かが冷たい手で触ったら、といった想像が働いて、びびっているのが妙におかしい。

 しかし、独り暮らしで感じる不穏感はとどまることを知りません。想像力が暴走を始めます。

   隣人にはじめて声をかけられる「おはよう」でなく「たすけてくれ」と

   鳴らしてる電話の先に死者がいることも知らずに鳴らし続ける

   冷蔵庫を開けた子猫を抱いていたそこから先は思い出せない

   バスの来る方ばかり見てバスの行く方を私は見ていなかった

   燃えさかる傘が空から降ってきてこれは復讐なのだと気付く

   飛び上がり自殺をきっとするだろう人に翼を与えたならば

   飛び降りて死ねない鳥があの窓と決めて速度を上げてゆく午後

   後ろから刺された僕のお腹からちょっと刃先が見えているなう

 「そこから先は思い出せない」とか、「あの窓と決めて」とか、すてきですね。
 さらには、想像力が暴走するあまり、うっかり滑稽なことになってしまったり。

   天井に刺さっていますわあわあとトランポリンで跳ねていた子が

   雨ですね。上半身を送ります。時々抱いてやってください。

   プールから飛び出す癖がなおらないイルカを辞めて5年経つのに

   愛してる。手をつなぎたい。キスしたい。抱きたい。(ごめん、ひとつだけ嘘)

   本屋っていつも静かに消えるよね死期を悟った猫みたいにさ

   空欄に入る言葉を考えよ やっぱり僕が考えるのか

 ところで、若いくせに「ぷよぷよ」だの「ショッカー」だのとネタが古いし、よまれている風景にもどこか昭和な気配が漂っているのですが、これは、誰とはいいませんが50歳の選者のハートをピンポイントで狙ったせいかも知れません。選者はどうだか知りませんが、私(50歳)には刺さりました。

 というわけで、孤独と不穏と滑稽が輪になって踊っているような、誰もが「これは若い頃の自分」と感じるような、そんな感慨やら心象風景やらを、今の表現で見事にうたってみせた素晴らしい歌集です。舞い上がった。


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