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『このスプーンは、結構うるさい DVDブック』(佐藤雅彦、ユーフラテス、NIMS) [読書(サイエンス)]

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未来の科学者たちへ

科学の研究で何が一番大事なのか。
それは、偏に、個人の好奇心である。
その好奇心こそが、世界を変えるのである。

このDVD-Bookは、そこに火をつける役割を持っている。
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 NIMS(物質・材料研究機構)と「ピタゴラスイッチ」「Eテレ0655/2355」の佐藤雅彦、ユーフラテスが制作した科学映像プロジェクト「未来の科学者たちへ」から厳選した映像を収録したDVDとその解説書。単行本(小学館)出版は2020年2月です。

 DVDは本編31分、特典約11分。解説書は72ページで、映像や実験の解説だけではなく、科学の面白さをどうやって映像で伝えるかというテーマで書かれた佐藤雅彦氏によるエッセイも収録しています。


[収録映像]

1.熱膨張
  このスプーンは、結構うるさい。

2.ダイヤモンドと熱伝導
  氷がバターのように切れる、この板はなんだ?

3.形状記憶合金
  ろうそくカー、ただいま上昇中

4.見えないガラス
  このビーカーには、ビー玉が5個沈んでいる。

5.電磁誘導
  何かがこの落下にブレーキをかけている。

6.エアロゲル断熱材
  落ち葉が燃えるのを防ぐ白い座布団。

7.超微細加工技術
  ダニの背中に文字を書くくらい、あさめしまえです。

8.超撥水
  四角い水滴を見たことがありますか?


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 昨今の書籍やテレビ番組のタイトルを見ると、私には、世の中が「簡単病」という病にかかっているようにも見えます。わかってもらうためには、詳細を省いても簡単にしようとすることも多いのですが、「簡単」と「わかりやすい」とは明らかに異なることなのです。人間は知的生命体なのです。自分で考えてわかることが面白い(=目の前の局面が明るくなる)のです。私は、わかること自体、その人が生きている証にもつながることであるとまで考えています。逆に、簡単なことは、わかり甲斐のないものにもなり、つまらなさにもつながるのです。
(中略)
 昨今のデザイン重視の伝え方には私は疑問をおぼえます。いくら時流に乗っていても、科学を気分だけで伝えるやり方には怒りさえ覚えるのです。それらを包含した映像手法の必要性を常に感じていて、それに挑戦する日々を送っています。
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単行本p.31





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『Down Beat 15号』(柴田千晶、小川三郎、他) [読書(小説・詩)]

 詩誌『Down Beat』の15号を紹介いたします。


[Down Beat 15号 目次]
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『三年坂』『仁和寺』(廿楽順治)
『美術館』(徳広康代)
『ALL HEART』(中島悦子)
『MとN』(今鹿仙)
『産卵期』(小川三郎)
『眠りのなかで』(金井雄二)
『階段』(柴田千晶)
『とろりと。』『よるとあさとひると』(谷口鳥子)
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お問い合わせは、次のフェイスブックページまで。

  詩誌Down Beat
  https://www.facebook.com/DBPoets




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ここは写真OKだから
スマホで写真を撮る
一つ撮ると
次も撮りたくなって
タイトルと絵と
セットで次々撮りだす
写真を撮ったら
目の前のその絵ではなく
もう次の絵を見ている
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『美術館』(徳広康代)より


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逆さになった母を
手で押してぶらんぶらん揺らす。
すると狂っていたバランスが
遠心力でうまく整い
女優みたいに
きれいな顔の母になる。

そんな顔をしていた時から
ご法度のものを売りさばき
縁切り契りを繰り返した。
沈黙にまで値をつけて売るほどの
商売人であった。
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『産卵期』(小川三郎)より


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先生の部屋はもと雀荘で 部屋には小さな流し台と 二段ベッドと
壁一面の本棚 部屋のまん中には雀卓が一つあった あたしの原稿
を添削したり 競輪の予想をしたり ときどき仕事をして ごはん
を食べるのも雀卓の上だった

「雀荘 伽耶」の看板のかかる薄暗い階段を あたしは拙い原稿を
持って なんどものぼった 留守のときはドアノブに 原稿を入れ
たビニール袋を吊し帰った

夏にはとり壊されるという先生の家の 薄暗い階段の途中に 段
ボール箱がひとつ置かれていた まるで仏壇みたいだ あたしが階
段をのぼってくることをはばむように その先の闇に 先生の足が
見える 最上段に腰かけて 先生はきっと予想紙を読んでいる
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『階段』(柴田千晶)より





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『モーアシビ 第38号』(白鳥信也:編集、小川三郎・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第38号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第38号 目次]
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詩写真(森岡美喜)



 『光の十字』(北爪満喜)
 『水の夢(改)』(北爪満喜)
 『虫の幸福』(小川三郎)
 『花の名前』(森ミキエ)
 『水の気配』(島野律子)
 『風が吹いている』(白鳥信也)

詩写真(森岡美喜)

散文

 『旅の時間二〇一九……変貌するベルリン篇』(サトミ セキ)
 『通院』(平井金司)
 『開拓村』(浅井拓也)
 『大分便り』(川上美那子)
 『原村のこと(前編)』(清水耕次)
 『風船乗りの汗汗歌日記 その37』(大橋弘)

翻訳

 『幻想への挑戦 12』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com




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青いポールを見つめ続けていると
目を離したとき赤になるので
見つめない
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『水の夢(改)』(北爪満喜)より


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花は嫌だ
増してやひとは
ならばせめて虫になればと
土から頭を抜こうと悶え
ようやく抜いて
よく見てみれば
顔の形が気持ち悪い。
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『虫の幸福』(小川三郎)より


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 この重戦車のようなフル装備の楽器を弾きこなすことは、もう自分にはかなわない。チェンバロとピアノは本当に違う楽器なのだ、と心底実感した。
 ピアノに未練のあった私だが、今回ベルリンのスタインウェイハウスに来て、これからの時間はよそ見をせずチェンバロだけを弾いていこうと諦めがついた。これだけでもベルリンに来た甲斐があったかもしれない。
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『旅の時間二〇一九……変貌するベルリン篇』(サトミ セキ)より


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 四年前に八十七歳で亡くなった母のおそらく最後の言葉。
 「丈夫だったのになんでこんなになってしまったのだろう」
 方言を標準語に変えてあるが、炬燵に伏してそう言ったのが、たまたま脇にいた私に聞こえた。あのあと、もう母と会話はできなくなった。私もそういう年域に近づいているのだろう。
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『通院』(平井金司)より


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 私の部屋は六階の南むきで、ガラス戸ごしに、今は赤や黄に彩られた低い山とその上に広がる大空に面しており、晴天には、その空を雲が二つ、三つと横切っていきます。あのどの雲に亜紀や夫は乗っているのだろうとあかずに山と空を眺め、早く私もあの雲にのって自由に空を駆け巡りたいなどと思いますが、天は思うようには人の運命を自由にはさせてくれませんね。
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『大分便り』(川上美那子)より





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『茶匠と探偵』(アリエット・ド・ボダール、大島豊:翻訳) [読書(SF)]

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 この作品集はド・ボダールが十年来書きつづけている「シュヤ (Xuya)」宇宙を舞台にした中短篇から選んで独自に編んだものだ。(中略)
 シュヤ宇宙に属する作品はデビュー翌年の2007年以降、2009年を除いて毎年書き続けている。現在31篇あり、5篇の作品が、ネビュラ賞3回、ローカス賞1回、英国SF協会賞2回、英国幻想文学大賞を1回受賞している。さらに半分にあたる15篇は、主な年刊ベスト集のどれかに収録されている。(中略)
 このシリーズの各篇はどれをとっても極めて水準が高く、凡作と言えるものすら無いといっていい。今回と同程度の質の作品集は軽くもう一冊できる。というよりも、いずれは全作品を、これから書かれるであろうものも含めて、紹介したいし、またする価値はある。
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単行本p.402、403、407


「このシリーズの各篇はどれをとっても極めて水準が高く、凡作と言えるものすら無いといっていい」
 はるかな遠い未来、銀河に広がったヴェトナム華僑の子孫たちは、星々と深宇宙を舞台に様々な物語を紡いでゆく。恒星間文明としてのアジア文化圏を描く「シュア宇宙」シリーズ、待望の傑作選。単行本(竹書房)出版は2019年12月、Kindle版配信は2019年12月です。


〔収録作品〕

「蝶々、黎明に墜ちて」
「船を造る者たち」
「包嚢」
「星々は待っている」
「形見」
「哀しみの杯三つ、星明かりのもとで」
「魂魄回収」
「竜の太陽から飛びだす時」
「茶匠と探偵」




「船を造る者たち」
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「あとどれくらい」
「もって一週間」産匠の顔が歪んだ。「船は用意ができていなければなりません」
 ダク・キエンの口の中に苦いものが湧いてきた。船は作られるわけではない――翡翠の彫刻同様、後で修正は効かないし、見落としがあってもならない。ダク・キエンとそのチームは船をゾキトルの子宮にいる肝魂専用に設計した。帝国の錬金術師たちからわたされた仕様書を基にして、ゾキトルが抱えている存在を形作っている気質、視覚器官、それに肉体の微妙なバランスをとっていた。船は他の誰の言うことも聞かない。ゾキトルの肝魂だけが御魂屋を把握し、船を加速し、高速の星間航行が可能になる深宇宙へ船を導くことができる。
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単行本p.62


 星間文明を支えている宇宙船、それは単なる機械ではない。人間の母親から産み落とされる肝魂を中核として構成される意識ある船。それが生きて正気を保ったまま深宇宙を航行することが出来る唯一の存在、有魂船なのだ。
 急ピッチで進められてきたある造船プロジェクトが大きなトラブルに見舞われる。肝魂の早産により、完成デッドラインが大幅に早まってしまったのだ。有魂船の設計は特定の肝魂専用なので、もし出産に間に合わなければすべてが台無しになってしまう……。


「星々は待っている」
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 ラン・ニェンは両手がつるつる滑ることに、だしぬけに気がついた。心臓は胸の中で、狂ったように早鐘を打っている。鐘の気が狂ってしまったようだ。
「そうだね、時間だ」
 どこからどう見ても、これからやろうとしていることは狂気の沙汰だ。いかに隔離された部分とはいえ、異邦人宙域に侵入し、いかに軽いものとはいえ、船の損傷を修理しようというのだ。
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単行本p.120


 敵対勢力が支配する領域に侵入し、撃破された有魂船を修理して脱出する。それはあまりにも危険な作戦だった。しかし、やらなければならない。船は自分の大叔母さんなのだ。親族は助けなければならない。どんな代償を払うことになるとしても。


「形見」
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 あの叔母さんたちが何者か知らない、なぜあの叔母さんたちがあそこへ行け、ここへ行けと指図するのかわからない、タン・ハーが亡くなった祖母に孝行するように、自分も孝行しているだけだ、ただ、つないでいるものは愛でも子としての義務でもない、もっとずっと品下がるものだ――強欲と脅迫と何もかも失うことへの恐怖だ。しかし嘘をつくことで叔母さんたちに金をもらってもいる。そこで嘘をつく。
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単行本p.172


 人が死んだときに残されるメモリーチップ。そこには生前に体験したことの記憶と、本人の疑似人格が記録されている。それを敬うのは子孫の努めである。だが、語り手は遺族からチップを取り上げ、それを謎めいた組織に横流しするという悪事に手を染めている。恥じるべき犯罪行為。だがあるとき、警察にマークされていることに気づいた語り手は、誰を裏切り、何を犠牲にするのか、決断を迫られることになる。


「魂魄回収」
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 そしてある時、テュイの娘キム・アンのように、最後のダイブに殺され、遺体となってあそこに、闇の中に取り残されることになる。それがダイバーの宿命で、いずれそうなることは覚悟の上ではある。けれどもキム・アンは自分の娘だ――死んだ時には立派な大人だったが、それでもいつまでもテュイの小さな娘であることは変わらない――そしてキム・アンの遺体のことを思うと、テュイの世界はぼやけ、縮こまる。娘の体は、深宇宙の、人類とは相いれない冷たい寂しいところに何ヶ月も漂っているのだ。
 それももう長くはない。今度のダイブはキム・アンが死んだところまで戻るからだ。これが最後の夜、友人たちと呑むのもこれが最後だ。それから娘に再会するのだ。
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単行本p.252


 有魂船に乗らず、わずかな防護装備だけで深宇宙に「潜り」お宝を回収してくる危険な仕事、ダイバー。だが自分の娘は帰還できなかった。深く潜り過ぎたのだ。遺体が深宇宙を漂ったままにしておくことは出来ない。語り手は帰還不能深度にある娘の遺体を目指し深宇宙にダイブする。


「茶匠と探偵」
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「人生はわかりやすいものでも、シャレたものでもない」
「あなたの話では人生はわかりやすくてシャレたものに聞えます。ほんの断片的な証拠から推理をするところですが」
「私の推理かね。それは勘違いだ。世界は混沌としていて、意味などは無い。ただ空間をうんと小さなものに限れば、筋を通すことも時には可能になる。何もかもがなんらかの意味をもつように見せかけることがね」
 竜珠は茶をすすった。《影子》も茶をすすった。家族の追憶とぬくもりに胸が満たされるのにまかせる。わずかなものにしても、慰めではある。
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単行本p.399


 戦争で深い心の傷を負い、深宇宙への突入に耐えられなくなった有魂船。今は深宇宙航行時に正気を保つための薬用茶の調合で生活している。そんな有魂船に依頼をしてきた探偵を自称する謎の人物。巻き込まれた不可解な殺人事件。警察に任せておけばいいのに勝手に捜査を開始し、手伝えと言ってくる探偵にいらだつ有魂船。だが探偵が深宇宙の深いところで遭難したとき、船は決意を固める。もう一度あそこに戻るのだ。友人のために。





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『SFが読みたい! 2020年版』 [読書(SF)]

 今年もやってきました、昨年のベストSF発表。ベストSF2019のうち私が読んでいた作品について紹介記事をリストアップしておきます。これから読もうかと思っている方に参考になれば幸いです。


〔ベストSF2019国内篇〕


2019年07月18日の日記
『偶然の聖地』(宮内悠介)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-07-18


2019年06月06日の日記
『リラと戦禍の風』(上田早夕里)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-06-06


2019年07月04日の日記
『東京の子』(藤井太洋)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-07-04


2019年02月27日の日記
『居た場所』(高山羽根子)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-02-27


2018年12月26日の日記
『Genesis 一万年の午後』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-12-26




〔ベストSF2019海外篇〕


2019年10月17日の日記
『三体』(劉慈欣)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-17


2019年06月25日の日記
『生まれ変わり』(ケン・リュウ)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-06-25


2019年04月24日の日記
『2001:キューブリック、クラーク』(マイケル・ベンソン)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-04-24


2019年10月09日の日記
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 最初の接触』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-09





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