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『Genesis 一万年の午後』(宮内悠介、高山羽根子、宮澤伊織、他) [読書(SF)]

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 SFは時代とともに変化しつづけますが、その精神は受け継がれています。
 来年で十回目を数える創元SF短編賞が送り出してきた数々の才能は、さいわい毎年のように皆さんに注目・評価していただき、一定以上の成果をあげてきたと自負しています。彼らに加えて《年刊日本SF傑作選》で御縁のあった方々にもお力添えをいただき、ここに創元日本SFのフラグシップとなる書き下ろしSFアンソロジーを創刊いたします。
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単行本p.5


 ジェネシス――創世。ここから始まる。Sogen means Genesis.
 東京創元社が送り出す新たな書き下ろしSFアンソロジーシリーズ"Genesis"、ついに始動。人類消滅後の遠未来を舞台にした思弁的作品から、にっぽん名物怪獣上げ競技、生首落とし、百合型進化系ウルトラマンニーナまで、創元SF短編賞受賞者を中心にSFの枠を大きく広げ、広げすぎてちょっと亀裂がはいってしまう10編を収録。単行本(東京創元社)出版は2018年12月、Kindle版配信は2018年12月です。


[収録作品]

『一万年の午後』(久永実木彦)
『ビースト・ストランディング』(高山羽根子)
『ホテル・アースポート』(宮内悠介)
『エッセイ SFと絵』(加藤直之)
『ブラッド・ナイト・ノワール』(秋永真琴)
『イヴの末裔たちの明日』(松崎有理)
『エッセイ SFと音楽』(吉田隆一)
『生首』(倉田タカシ)
『草原のサンタ・ムエルテ』(宮澤伊織)
『10月2日を過ぎても』(堀晃)


『ビースト・ストランディング』(高山羽根子)
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「じゃあリフティングもまだされていなかったんだ」
「現在でも、競技ができるほどの大型のものが出現するフェノメナは日本でしか確認されていませんから。北米・中米でもまれにありますが広い場所で、すでに動かなくなってから見つかることがほとんどですし」
「ニホンメイブツ、カイジューリフティング!」

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単行本p.53


編集者による紹介文より
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「〈重量上げ〉ならぬ〈怪獣上げ〉というのが流行っているという設定で」
「怪獣上げ」
「怪獣を持ち上げるんです」
「それは分かります」
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『ホテル・アースポート』(宮内悠介)
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「神なる耳は、きっと、人間よりもはるかに高い音と、低い音を聞き分けられるはず。ならば――神域の音楽というものがあったとして、それはもしかしたら、人には聞き取ることすらできないのではないか? 逆に言えば、わたしたち人間が作っている音楽は、神なる耳からすれば、とてつもなく不完全な音の羅列なのではないか」
 ときおり、風が吹いてジリアンの髪をかき乱すが、気にする素振りもなく彼女がつづけた。
「その点、星に弦をかけた宇宙エレベーターは究極の低音楽器になる。いわば、神様の弦楽器」

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単行本p.94


 静止軌道衛星と地表とをつなぐ宇宙エレベーター。その基部にある島のホテルに滞在していた語り手は、奇怪な密室殺人事件に巻き込まれた。宇宙エレベーターの存在は、事件の真相とどのように関わってくるのだろうか。長編『アメリカ最後の実験』を思わせるところもあるミステリ作品。


『イヴの末裔たちの明日』(松崎有理)
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「三種類のうちひとつめの薬剤は、確率共鳴の原理を応用しています。バックグラウンドにわずかなノイズを加えることで通常は検知できないレベルの信号を検知できるよう底あげするのです。この薬剤はあなたの特定の運の確率をあげます。具体的には」
 彼女はいったん点滴バッグに目をやってからまた彼をみた。「くじ運がよくなります」
「くじ運」

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単行本p.162


 AIやロボットの発達により人間が仕事を失う、いわゆる技術的失業にあった主人公。仕方なく人間にしか出来ないバイト、すなわち新薬の治験に応募する。与えられた薬剤は三種類。確率共鳴の原理を応用して(中略)くじ運を良くする薬。ベイズ確率を駆使して(中略)異性にモテるようになる薬。そして、ポアソン極限定理により(中略)事故を避けられる薬。果たして効果は?


『生首』(倉田タカシ)
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 知っているかね、世界にはおよそ二千種の生首がいることがわかっています。ほとんどが亜熱帯に生息し、ふだんは油を売って生計をたてています。非常時には招集をうけ、うろたえた声を出します。この声は地球を半周した先にも届いたという記録があります。

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単行本p.188


編集者による紹介文より
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 原稿のやりとりの間「生首いかがですか」「生首送りました」「生首受け取りました」「生首ご確認ください」「生首戻します」と、物騒なメールを交わし合ったのも素敵な思い出です。
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『草原のサンタ・ムエルテ』(宮澤伊織)
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「ニーナ、それはできない。すべての人に死をもたらすのが私だから」
「どうして!」
「私の中の彼女が、そう叫んでいるからだ。空の彼方からやってきて、私に光をもたらしたものが。これは私の使命なのだ、ニーナ。この星のすべてに死を分け与えなければならない。私は死の聖母。この手で、全ての人間に慈悲をもたらす」

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単行本p.234


 第六回創元SF短編賞受賞作『神々の歩法』の続編。ほぼ壊滅状態になりながらも少女ニーナとの共同作戦によりからくも高次憑依体を撃破した米軍特殊部隊は、ニーナを教官として高次元戦闘技術「神々の歩法」の訓練に明け暮れていた。だが準備が整わないうちに、再び宇宙から敵対的高次存在が来襲する。出現地点は日本。しかも肝心のニーナが行方不明に。

 ニーナなしに高次存在と接触すれば全滅は免れない。だがそれでも人類を救うために戦わなければない。絶望的な作戦が始まる。だが、その時点で、軍の情報部もCIAも気づいてなかったのだ。ネットの動画サイトにニーナを撮影した映像が次々とアップされているのを。渋谷の交差点できょろきょろしているニーナ、苺のジェラートをほおばるニーナ、そして「オイシーデス」とか言いながらラーメンをすするニーナ。日本には割とニーナのファンが多いんだよね。果たして人類の命運やいかに。



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