『伊藤典夫翻訳SF傑作選 最初の接触』(高橋良平:編集、伊藤典夫:翻訳) [読書(SF)]
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本書は、時間・次元テーマの『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』につづく第二弾、伊藤さんが〈S-Fマガジン〉のために選りすぐり、翻訳した傑作中短篇のうち、宇宙テーマに絞ったアンソロジーです。
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文庫版p.410
異星人とのファーストコンタクト、遭難宇宙船におけるサバイバル、寄生生命体の脅威、異星文明が残したスターゲートなど、主に50年代に書かれた古典的SFから伊藤典夫さんが翻訳したものを集めたSF短篇傑作選、その第二弾。文庫版(早川書房)出版は2019年5月です。
『ボロゴーヴはミムジイ』に続く伊藤典夫翻訳SF傑作選です。『ボロゴーヴはミムジイ』は時間・次元テーマが中心になっていましたが、今回は宇宙・エイリアンテーマが中心。ちなみに前作の紹介はこちら。
2017年01月17日の日記
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-01-17
50年代SFなのでさすがに古めかしい描写が目立ちますが、そういうものだと思って読むとさほど気になりません。オールドSFにはオールドSFの良さがあります。ただし、登場する地球人は白人男性アメリカ人ばかり、女性はトロフィーかモンスター、という意味での「古めかしさ」は今読むとかなりキツいものがあります。
〔収録作品〕
『最初の接触』(マレイ・ラインスター)
『生存者』(ジョン・ウインダム)
『コモン・タイム』(ジェイムズ・ブリッシュ)
『キャプテンの娘』(フィリップ・ホセ・ファーマー)
『宇宙病院』(ジェイムズ・ホワイト)
『楽園への切符』(デーモン・ナイト)
『救いの手』(ポール・アンダースン)
『最初の接触』(マレイ・ラインスター)
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もはやコンタクトする以外に道はなかった。裏切りの危険を冒してまで、相手を信頼しなければならないのだった。完全な不信のうえに築かれた信頼。母星へ帰還することはできない。相手がたに攻撃の意志がないとわかるまで。だが、双方ともあえて信頼の態度を示そうとはしなかった。唯一の円満な解決策は、破壊するか、破壊されるかのどちらかだった。
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文庫版p.30
異星の宇宙船との予期せぬ接触。異星文明とのファートコンタクトを前に、双方とも「囚人のジレンマ」状況に陥ってしまう。相手を信頼して情報交換すれば互いに莫大な利益が得られるかも知れないが、相手が裏切れば致命的なダメージを受ける。コンタクトを避けて帰還しようとしても、追跡され、母星の位置をつきとめられてしまうかも知れない。唯一の論理的結論は、先に相手を破壊すること。もちろん相手もそう考えているに違いないのだ。ファートコンタクトテーマの古典。
『生存者』(ジョン・ウインダム)
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残りの者と同様のチャンスを与えてやるのが、彼女にはいちばんいいのだ――夫の手を握りしめ、青ざめた顔をこちらに向けて、大きな瞳で見つめている彼女から、彼は顔をそむけた。しかし必ずしも、最善の方法でもないのだった。
最初に死なないでくれればいいが、と彼は思った。士気を沮喪させないためには、最初でないほうがいい……。
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文庫版p.86
事故で漂流している宇宙船。このままでは救助が来るまでに船内の食料が尽きてしまう。厳しいサバイバルの試練を前に、船長は乗客に含まれている唯一の女性のことを気にかけていた。飢餓が広がれば、体力的に劣っている彼女が最初に死ぬことになるのではないか。しかし彼女の食料割当だけ増やすわけにもいかない……。
『コモン・タイム』(ジェイムズ・ブリッシュ)
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船時間の一秒は、ギャラード時間の二時間にあたっていた。
彼は本当に二時間も数えていたのだろか? 疑いをはさむ余地はないようだった。長い旅になりそうだ。
だが、じっさい換算してみた彼は、目もくらむショックを受けた。時間は彼にとって、七千二百分の一になっている。だからアルファ・ケンタウリへ行くには、七万二千ヶ月かかるわけだ。
それは――
《六千年!》
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文庫版p.126
超光速エンジンの試運転に参加した主人公は、とてつもない危機に遭遇する。彼の意識だけが猛烈に加速され、一秒が経過するあいだに主観的には二時間もの時間を体験することになったのだ。物理時間にしたがっている身体を動かすことすらろくに出来ない。そして目的地に到達するのは、主観時間にして、何と六千年後だった……。
『キャプテンの娘』(フィリップ・ホセ・ファーマー)
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彼は体を起こし、ドアをしめた。考えたとおりだったのだ。ばらばらの断片の少なくとも半分は、これで一瞬に組みあわさったことになる。問題は、ほかの半分がさっぱり結びつかないことと、全体像からどんな事実がうかびあがるか、いっこうに見当がつかないことだった。ハンカチで手をふきながら、彼は思った。なんであるにしろ、それは……。
彼の体がこわばり、動きをとめた。かたい物が背中につきつけられ、聞き慣れた声が、低い、冷酷な調子でいった。「きみは頭がまわりすぎたな、ゴーラーズ」
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文庫版p.231
宇宙船内で起きた謎の自殺(それとも他殺なのか?)。船長とその娘の不自然な振る舞い。静かに広がっている脅威に気づいた船医は、何とか手を打とうとするが……。
『宇宙病院』(ジェイムズ・ホワイト)
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“こんなことは、ここでしか起こらない”――部屋を出ながら、コンウェイは考えた。プルプル揺れる透明なプリンのように、彼の肩にとまった異星の医師。患者は、健康で、巨大な恐竜。そして、仕事の目的は、同僚にさえなかなか明かそうとしない。
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文庫版p.266
既知宇宙のあらゆる種族を治療する巨大病院。そこにやってきた異星の医師と協力するように命じられた地球人の医師は、何のために「治療」が必要なのかまったく知らされないまま、患者である恐竜と悪戦苦闘するはめになる。傲慢で秘密主義でおまけに強力な超能力を持っているやっかいな相棒、動くだけで船室を破壊しかねない巨大恐竜。なぜこうなった。
『楽園への切符』(デーモン・ナイト)
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「そういうわけさ。こいつには、選択性はない――完全にでたらめなんだ。ここを通りぬけて、べつの星系に行くことはできる。だが、試行錯誤をくりかえしながら出発点にもどるには、百万年もかかるだろう」
ウルファートは手のひらのつけねにパイプをぶつけ、燃えかすをフロアに落とした。「ここにあるんだ、星への門が。ところが、それが使えないときてる」
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文庫版p.327
火星で発見されたスターゲート。異星文明が残した遺物であるそれは、通り抜けるだけで他の星系に設置されたスターゲートへと一瞬でワープすることが出来る。ただし、どのゲートにつながるかはランダムらしい。いったんゲートをくぐったら、おそらく宇宙を永遠に彷徨うはめになる。帰還は不能。それでも行くべきだろうか。宇宙へ、銀河へ、未知の領域へと。
『救いの手』(ポール・アンダースン)
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「わたしはソルの歴史を調べてみました。人類が同じ星系内の惑星にも到達していないころ、地球ではたくさんの文化が、それぞれ極端に異質な文化が共存していました。しかし、最後にはそのひとつ、西欧社会というものが、技術的に圧倒的な進歩を示して……つまり、ほかの文化が共存できなくなってしまったのです。競走するためには、西側のアプローチを採用するしか方法はありませんでした。そして西側が後進国家指導するときには、必ず西側のパターンを押しつけたわけです。たとえ善意からしたことであったとしても、結果的にはほかのすべての生活の道を滅ぼしてしまいました」
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文庫版p.404
星間戦争により荒廃した二つの惑星。地球人はその一方だけを援助し、気に入らない他方を無視していた。やがて長い歳月が流れ、二つの惑星はそれぞれに復興を遂げるが、その運命は大きく異なっていた。西欧社会による「後進国」に対する文化破壊を寓話的に扱った作品。
本書は、時間・次元テーマの『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』につづく第二弾、伊藤さんが〈S-Fマガジン〉のために選りすぐり、翻訳した傑作中短篇のうち、宇宙テーマに絞ったアンソロジーです。
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文庫版p.410
異星人とのファーストコンタクト、遭難宇宙船におけるサバイバル、寄生生命体の脅威、異星文明が残したスターゲートなど、主に50年代に書かれた古典的SFから伊藤典夫さんが翻訳したものを集めたSF短篇傑作選、その第二弾。文庫版(早川書房)出版は2019年5月です。
『ボロゴーヴはミムジイ』に続く伊藤典夫翻訳SF傑作選です。『ボロゴーヴはミムジイ』は時間・次元テーマが中心になっていましたが、今回は宇宙・エイリアンテーマが中心。ちなみに前作の紹介はこちら。
2017年01月17日の日記
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-01-17
50年代SFなのでさすがに古めかしい描写が目立ちますが、そういうものだと思って読むとさほど気になりません。オールドSFにはオールドSFの良さがあります。ただし、登場する地球人は白人男性アメリカ人ばかり、女性はトロフィーかモンスター、という意味での「古めかしさ」は今読むとかなりキツいものがあります。
〔収録作品〕
『最初の接触』(マレイ・ラインスター)
『生存者』(ジョン・ウインダム)
『コモン・タイム』(ジェイムズ・ブリッシュ)
『キャプテンの娘』(フィリップ・ホセ・ファーマー)
『宇宙病院』(ジェイムズ・ホワイト)
『楽園への切符』(デーモン・ナイト)
『救いの手』(ポール・アンダースン)
『最初の接触』(マレイ・ラインスター)
――――
もはやコンタクトする以外に道はなかった。裏切りの危険を冒してまで、相手を信頼しなければならないのだった。完全な不信のうえに築かれた信頼。母星へ帰還することはできない。相手がたに攻撃の意志がないとわかるまで。だが、双方ともあえて信頼の態度を示そうとはしなかった。唯一の円満な解決策は、破壊するか、破壊されるかのどちらかだった。
――――
文庫版p.30
異星の宇宙船との予期せぬ接触。異星文明とのファートコンタクトを前に、双方とも「囚人のジレンマ」状況に陥ってしまう。相手を信頼して情報交換すれば互いに莫大な利益が得られるかも知れないが、相手が裏切れば致命的なダメージを受ける。コンタクトを避けて帰還しようとしても、追跡され、母星の位置をつきとめられてしまうかも知れない。唯一の論理的結論は、先に相手を破壊すること。もちろん相手もそう考えているに違いないのだ。ファートコンタクトテーマの古典。
『生存者』(ジョン・ウインダム)
――――
残りの者と同様のチャンスを与えてやるのが、彼女にはいちばんいいのだ――夫の手を握りしめ、青ざめた顔をこちらに向けて、大きな瞳で見つめている彼女から、彼は顔をそむけた。しかし必ずしも、最善の方法でもないのだった。
最初に死なないでくれればいいが、と彼は思った。士気を沮喪させないためには、最初でないほうがいい……。
――――
文庫版p.86
事故で漂流している宇宙船。このままでは救助が来るまでに船内の食料が尽きてしまう。厳しいサバイバルの試練を前に、船長は乗客に含まれている唯一の女性のことを気にかけていた。飢餓が広がれば、体力的に劣っている彼女が最初に死ぬことになるのではないか。しかし彼女の食料割当だけ増やすわけにもいかない……。
『コモン・タイム』(ジェイムズ・ブリッシュ)
――――
船時間の一秒は、ギャラード時間の二時間にあたっていた。
彼は本当に二時間も数えていたのだろか? 疑いをはさむ余地はないようだった。長い旅になりそうだ。
だが、じっさい換算してみた彼は、目もくらむショックを受けた。時間は彼にとって、七千二百分の一になっている。だからアルファ・ケンタウリへ行くには、七万二千ヶ月かかるわけだ。
それは――
《六千年!》
――――
文庫版p.126
超光速エンジンの試運転に参加した主人公は、とてつもない危機に遭遇する。彼の意識だけが猛烈に加速され、一秒が経過するあいだに主観的には二時間もの時間を体験することになったのだ。物理時間にしたがっている身体を動かすことすらろくに出来ない。そして目的地に到達するのは、主観時間にして、何と六千年後だった……。
『キャプテンの娘』(フィリップ・ホセ・ファーマー)
――――
彼は体を起こし、ドアをしめた。考えたとおりだったのだ。ばらばらの断片の少なくとも半分は、これで一瞬に組みあわさったことになる。問題は、ほかの半分がさっぱり結びつかないことと、全体像からどんな事実がうかびあがるか、いっこうに見当がつかないことだった。ハンカチで手をふきながら、彼は思った。なんであるにしろ、それは……。
彼の体がこわばり、動きをとめた。かたい物が背中につきつけられ、聞き慣れた声が、低い、冷酷な調子でいった。「きみは頭がまわりすぎたな、ゴーラーズ」
――――
文庫版p.231
宇宙船内で起きた謎の自殺(それとも他殺なのか?)。船長とその娘の不自然な振る舞い。静かに広がっている脅威に気づいた船医は、何とか手を打とうとするが……。
『宇宙病院』(ジェイムズ・ホワイト)
――――
“こんなことは、ここでしか起こらない”――部屋を出ながら、コンウェイは考えた。プルプル揺れる透明なプリンのように、彼の肩にとまった異星の医師。患者は、健康で、巨大な恐竜。そして、仕事の目的は、同僚にさえなかなか明かそうとしない。
――――
文庫版p.266
既知宇宙のあらゆる種族を治療する巨大病院。そこにやってきた異星の医師と協力するように命じられた地球人の医師は、何のために「治療」が必要なのかまったく知らされないまま、患者である恐竜と悪戦苦闘するはめになる。傲慢で秘密主義でおまけに強力な超能力を持っているやっかいな相棒、動くだけで船室を破壊しかねない巨大恐竜。なぜこうなった。
『楽園への切符』(デーモン・ナイト)
――――
「そういうわけさ。こいつには、選択性はない――完全にでたらめなんだ。ここを通りぬけて、べつの星系に行くことはできる。だが、試行錯誤をくりかえしながら出発点にもどるには、百万年もかかるだろう」
ウルファートは手のひらのつけねにパイプをぶつけ、燃えかすをフロアに落とした。「ここにあるんだ、星への門が。ところが、それが使えないときてる」
――――
文庫版p.327
火星で発見されたスターゲート。異星文明が残した遺物であるそれは、通り抜けるだけで他の星系に設置されたスターゲートへと一瞬でワープすることが出来る。ただし、どのゲートにつながるかはランダムらしい。いったんゲートをくぐったら、おそらく宇宙を永遠に彷徨うはめになる。帰還は不能。それでも行くべきだろうか。宇宙へ、銀河へ、未知の領域へと。
『救いの手』(ポール・アンダースン)
――――
「わたしはソルの歴史を調べてみました。人類が同じ星系内の惑星にも到達していないころ、地球ではたくさんの文化が、それぞれ極端に異質な文化が共存していました。しかし、最後にはそのひとつ、西欧社会というものが、技術的に圧倒的な進歩を示して……つまり、ほかの文化が共存できなくなってしまったのです。競走するためには、西側のアプローチを採用するしか方法はありませんでした。そして西側が後進国家指導するときには、必ず西側のパターンを押しつけたわけです。たとえ善意からしたことであったとしても、結果的にはほかのすべての生活の道を滅ぼしてしまいました」
――――
文庫版p.404
星間戦争により荒廃した二つの惑星。地球人はその一方だけを援助し、気に入らない他方を無視していた。やがて長い歳月が流れ、二つの惑星はそれぞれに復興を遂げるが、その運命は大きく異なっていた。西欧社会による「後進国」に対する文化破壊を寓話的に扱った作品。
タグ:SFアンソロジー
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