SSブログ
読書(小説・詩) ブログトップ
前の5件 | -

『モーアシビ 第40号』(白鳥信也:編集、小川三郎・北爪満喜・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第40号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第40号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――


 『夢』『雨の日』『ベンチ』(小川三郎)
 『秋バラの近く』(北爪満喜)
 『歩く』(森ミキエ)
 『風の壁』(島野律子)
 『のに、から、流星群』(森岡美喜)
 『月光のカケラ』(月光浴/月と電線)(白鳥信也)

散文

 『長崎外海…ド・ロ神父を追って』(サトミ セキ)
 『伐採』(浅井拓也)
 『十一月の憂鬱』(平井金司)
 『一年前より幸せですか』(清水耕次)
 『風船乗りの汗汗歌日記 その39』(大橋弘)
 『昆虫食日常化元年によせて』(内山昭一)

翻訳

 『幻想への挑戦 14』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
――――――――――――――――――――――――――――

 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com




――――
みんな私が
もう死んでいると言った。
みんな私のことを
ちゃんと理解していると言った。

私は服を脱いでしまいたい。
服をぜんぶ脱いでしまいたい。

ことしの夏
私はたくさん
笑いすらしたのだ。
――――
『ベンチ』(小川三郎)より




――――
リズムもなくあっけなく
枯れ葉が落ちつづける
ここへ
星の間から降り
いのちはみなそっと
透明な小さな足の指先から
地上の水にふれるのだ

霜月
わたしの足の指先が
地上の水にふれたのは何時と
聞きそびれ
もうしることはできないことを
あなたに話したいのかもしれない
――――
『秋バラの近く』(北爪満喜)より




――――
駅は憧れ 秘かに住んでみたい 間取りを描く 電車は遅延 改札口を黒い着衣で杖をつく群集がふさぐ 両手で杖をつき両足を何とか前へ出して歩く人もいる 黒衣と杖の老人たち 駆け付けた駅員が何事かと咎める 遅れて着く人を待っている 導かれて共に友人の弔いへ向かうのだ 線香の煙は昇天し一本の道になる 大空へ さまざまな杖がいっせいに舞い上がる
――――
『歩く』(森ミキエ)より


――――
いま、この電線は舞台かもしれない
長年の夢だった月の捕獲に成功して
あくまでも冷静に見えるけれど
電線は湧きたっているのだろうか
観客席の位置にいるのは私だけ
さっきの風は幕を開けるアクションだったのか
そうすると緞帳は払われた雲だ
月はじたばたせずに
静かに電線に引っかかっている
輝くような月光に二本の線
――――
『月と電線』(白鳥信也)より





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『猫沼』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

――――
「痛い」と言わずとも症状をいちいち、残している。なので読者には私の生命の人間の本質的部分だけ伝わっていた。勝手に言うがそれが私の文章の良いところなのだ。構造のない細部が真実を伝えるというのを実践して来て、自分のだるさや難儀さが他人と違うものだとは理解出来なくても人には通じた。同時に、同じ病気の読者が複数三十年来熱心に読んでくれていたという驚き。
 私には大きな幸福はない。ただ幸福な細部が世間の見過ごしてくれるような小さい猫幸があちこちにあった。ひとつ、読者に言葉が通じる事、ふたつ、猫が身体的仲間になっている事、みっつ、バスで行けるところに難病の専門病院が不思議とあった事、さいご? 最初は心細かったはずの沼際がこうして故郷になっている事。
 そう、沼は、故郷になっている。けして第二のではない。育った土地には最初から私のいる場所などなかったのだから。
――――
単行本p.61


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第136回。


「今からまた一緒に夜を越えてゆく ここは猫沼 約束の地」
(初版限定付録、カラー猫写真帖16P『猫沼二十年』より)


 ギドウとの別れ。そしてピジョンとの出会い。これまで共に暮らした猫たちとの生活を見つめる最新長編。単行本(ステュディオ・パラボリカ)出版は2021年1月です。

 キャト、ドーラ、モイラ、ルウルウ、ギドウ、ピジョン。これまでの作品にも書かれてきた猫たちとの関わりに加えて、今回はじめてギドウとの別れ、ピジョンとの出会いが詳しく書かれます。そしてピジョンとの「なぜこんなたわけた態度が私はとれるのか」(単行本p.46)という暮らしの細部……。あと目次のルビがすごい。

 これまでもいつも私小説のなかに猫はいたわけですが、本書を読んで興味を持った読者のために、特に関係が深いと思われる作品を挙げておきます。

『猫道 単身転々小説集』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-03-16

『愛別外猫雑記』
http://babahide.blog.ss-blog.jp/2014-08-22

 他に『S倉迷妄通信』『おはよう、水晶-おやすみ、水晶』そして荒神シリーズ『猫トイレット荒神』『猫ダンジョン荒神』『猫キャンパス荒神』『猫キッチン荒神』と追ってゆくという、まずは猫小説として読んでゆく猫ルートはお勧めのひとつ。猫道あゆんで猫沼にはまって、そこからだ。

 というわけで、ひさしぶりのかなりストレートな猫小説です。何らかのかたちで猫保護活動に関わっている方で『愛別外猫雑記』という本は話題になったので昔読んだし今も覚えている、という方にも、その後を書いた本書の一読をお勧めします。


〔目次〕

1. 猫住(ねこずまい)
2. 猫移(ねこうつり)
3. 猫幸(ねこざいわい)
4. 猫隠(ねこがくれ)
5. 猫活(ねこもとめ)
6. 猫再(ねこふたたび)
7. 猫生(うまれかわった)
8. 猫再(うちのこです)
9. 猫現(あたし、来てよ!)
10. 猫沼(ねこにおぼれて)
11. 猫続(あとがきではなく)




1. 猫住(ねこずまい)
――――
 家は内側が良い内側があれば良い。殊にそこに猫がいれば何の問題もない。しかし、そんな内側の何が良いというのか? 実際に日当たりが? いいのか、悪いのか? この家の実に微妙な光の射し具合の中毎日長年私はけして飽きもしない。少しでも暇があれば、ただぼんやりと何もない壁や古いカーテン、埃まみれの家具や水晶を眺めて、うっとりと変わらぬ時間の中に横たわっていたい。
――――
単行本p.15

 猫といっしょに暮らすために沼際の家を買ってから二十年。ローン、難病、加齢、やっかいごと。でも今ここに最後の猫がいる、ピジョンがいる。


2. 猫移(ねこうつり)
――――
 というかこの半生、そもそも猫は私の生命に根拠をくれている。私が死なないのは猫がいるからだ。朝起きて歯を磨けるのも猫様のお力だ。
 どの猫も多大な恩恵を与えてくれた。みんなで暮らそうと私は叫ばせて貰い、猫国民になった。思えば家を買ったあれが幸福の絶頂であった。私はただただしたかったことをした。出来なかった事が出来た。助けたかったから助けた。むろんそこまでが限界、でも限界までした。友達に囲まれ幸福は永遠と思っていた。歳月は流れた。
――――
単行本p.33

「私は猫に宿を借りている。寄生もしている。」
 これまでの引っ越し、特に猫と出会い、猫を助けようと必死になった引っ越しを振り返る。沼際の家に落ち着くまでの歴史。


3. 猫幸(ねこざいわい)
――――
 売り上げで文学や芸術をはかり、文芸誌や文学賞をなくせという声を自発的に批判する運命(使命)になり、やがて次第に、世の中の仕組みが書けるような隅っこの社会派になっていった。ネオリベラリズムという言葉が流行する前に、私はネオリベラリズムへの警鐘を鳴らしていた。ネットで純文学のカッサンドラーと呼ばれ、まあそれでこんな時代になれば一年一、二回でもデモにも行くわけで。
――――
単行本p.58

 子供時代から現在までの人生を振り返り、手に入れた「世間の見過ごしてくれるような小さい猫幸」について語る。作家と猫たちの扱われ方が重なって、読者は泣く。言葉は通じる。


4. 猫隠(ねこがくれ)
――――
――家に帰るとギドウさんは寝ていなくて、ただただ満足そうに、無事に帰ってきた私を見た。お勤めしていたとき私はギドウさんが無事かどうかと、心配するのは自分の方だけと思い込んでいたけれど、その時に彼もやはり、私が無事帰ってくるかどうか心配していたかもしれないという事に気づいた。
 自分が死ぬ時はあのチューリップ畑から帰ってきてそして家に帰ると、ふと、全部の猫がいる、そういう事だと、ギドウを撫でながらその日納得した。
――――
単行本p.72

 キドウの思い出、そして別れ。


5. 猫活(ねこもとめ)
――――
「この方は王様の猫のようです、王族みたいです」と猫を届けてくださったシェルターの代表がつくづく惜しむように、私に打ち明けた。人間には慣れているし、そんなに飼いにくい猫ではないはずだと。だけど、ただひとりの人を求めて、食を絶ち死のうとした、と。
「この方はご用命があまりにもしばしばで、ずっーと、私だけをお呼びになられまして」
――――
単行本p.86

 猫たちの思い出を背景に、いよいよピジョンが中心となる後半へ。


6. 猫再(ねこふたたび)
――――
 生まれ変わりなど、ない。それでもただ、猫は帰ってくる、帰ってくる、帰ってくる、だから出会うのだ、再び、と心が思う。なんとかなる、なんとか……。
 生命は体の欲望であって自分では止められない。そこに理性はないけれど生きる理由がある。信じればまたいつか私は、猫と幸福に生きられるのだと、万が一でも幸福が来ると信じるだけである。いつもそうなのだ。
――――
単行本p.92

 猫が死んでしまう。猫がいない生活。その苦しみ。猫の不在という過酷さ。自分の体験も思い出す。


7. 猫生(うまれかわった)
――――
 しばらくすると、猫神様が私の夢枕に立つようになった。大丈夫、生きられるから、と。私が絶望したとき彼は沈黙し夢にも出てこなくなる。要するに私は生き返りつつあった。
――――
単行本p.119

「家の中がたてもよこも空っぽで猫がいない。自分というものも「ない」。」
 猫不在地獄からの生還途中。ネットで見つけた里親サイトにその猫の写真が。ついにピジョンと出会ったのだ。


8. 猫再(うちのこです)
――――
 もし一生ご飯を送ってもピジョンは私が誰かまったく知らない。もし二三度会ったところで私とは判らない。私はけして、自分が目立ちたいわけでも感謝されたいわけでもない、ただピジョンが何も知らずに食べているという事が異様に辛いのである。という事は愛情も届けたいという心境になっていた。しかしその時点でたかがそんなもの自己都合の脳内愛情に過ぎないのだ。というか猫缶少々で恩着せがましい。
――――
単行本p.142

 猫シェルターに連絡をとってピジョンの養親となる。ピジョンのために寄付し、食べ物を贈る。やがて「私はピジョンに知られたいと思うようになっていた」。


9. 猫現(あたし、来てよ!)
――――
 だからこそ、私は言っている。信じてしまっている、この無垢の尾力を、そうだったのかい、君は、……。
 声が勝手に出ていた。「前に、昔、この子はここにいた子なんで、多分生まれ変わり」、「モイラ、モイ、ラ、モイ」、壊れた機械のよう、判っている初対面の人間に言うことではないましてや。
 むろん人前、私は泣かない。積年の凍結霜が一気にはがされ、内心は絶叫してしまっていた。でもその時はまだ、この猫が雌というのさえ知らなかった。さらにここで初めてブログの情報が呼応してきた。この子、推定とはいえ、モイラの死んだ年の生まれなんだ。しかも程なく……。
――――
単行本p.157

「思考の速度として生命のみなぎりとして揺らし、さざめかせるもの」
ついに沼際の家にやってきたピジョン。そのちっぽぷっくんぷっくんを見て悟る。この子はモイラの生まれ変わり。

ちなみに月刊ねこ新聞(猫新聞社)2018年1月12日号(No.215)に掲載されたエッセイにもこのことが書かれていました。紹介はこちら。

『モイラの「転生」』(笙野頼子)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-01-18


10. 猫沼(ねこにおぼれて)
――――
 だってここには罵声も命令も侮辱も監視もない、食卓で給仕をしなくてもいいし、言葉尻を捕らえられて泣くまで追求されなくてもいい、自分の領域があり、それが私の国家である。しかも孤独はなく言語があり、仲間が、猫がいる。要するに猫と私にはここが天下であり、生きている限りこの反グローバリズムの辺境の中ただひたすら自分勝手にしていくだけである。この嫌な世の中にそれこそが抵抗だ。
――――
単行本p.186

 猫と暮らす生活を取り戻し、猫沼にひたすら沈んでいく。ついに家に帰れた人間と猫の幸福。


11. 猫続(あとがきではなく)
――――
 どこに行きたかった? どこかに、それはどこ?
 ここに来たかった。自分の家を探してさ迷っていた。
 まだみぬ家族を求めてそれは、キャト、ドーラ、ギドウ、モイラ、ルウルウ、今は?
 ピジョンといる。この子はどういう子? 多分、「末っ子の赤ちゃん」この人を看取ったら後はいないけれど今を精一杯生きるしかない。
――――
単行本p.201

 十章で終える予定の原稿のゲラを待っているあいだに起きた「これを書き加えずにいられないという出来事」。「生きている間、人は日常を終えることなど出来ないのだ」。常に現在進行形の途中報告である笙野文学はむろん完結することなく続いてゆく。人生と同じく。





タグ:笙野頼子
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『色の濃い川』(松木秀) [読書(小説・詩)]

――――
政治家は全員偽善者ではあるがそれでいいちゃんと偽善をすれば
――――
たこ焼きにたこの死骸が混入とクレームがつきそれを認めた
――――
青空に深刻なエラーが発生し再起動したら灰色になった
――――
四十五歳以上のひとの半分は拾われてきた橋の下から
――――
徹底的に季語にはならぬものとしてスマートフォンは昼夜かがやく
――――


 政治風刺から季語まで日常のささいなただごとに鋭くつっこむ第四歌集。単行本(青磁社)出版は2019年5月です。

 『親切な郷愁』に続く最新歌集です。皮肉と辛辣さのキレは健在ですが、「あとがき」を読むとしんみりした気持ちに。ちみなに前作の紹介はこちら。

2017年03月22日の日記
『親切な郷愁』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-03-22


 まずは政治風刺が印象的です。


――――
バラマキをしてから増税くりかえす「信長の野望」の基本戦略
――――
政治家は全員偽善者ではあるがそれでいいちゃんと偽善をすれば
――――
政治家にはなりたくないな政治家になると記憶力が落ちるので
――――
政治家が「家族を大事にしろ」と説くマフィアの脅し文句のように
――――
「政治的中立性」とは「自民党のやることに異議を唱えない」こと
――――
「マスコミを懲らしめる」との発言あり懲らしめられる新聞を読む
――――
日付以外すべて誤報な新聞が或る新聞の誤報を叩く
――――
第三次産業というも幅広いワタミの社員から歌人まで
――――
戦争の種があるならその種はめぐりめぐってモンサント製
――――


 政治関連にとどまらず、ニュース全般につっこみを入れてゆきます。


――――
日テレで政策批判するものの唯一として「笑点」はあり
――――
日経はすごいぞどこのメディアでも日経平均株価をつかう
――――
ドラッグは儲かると思われるゆえ末端価格を言うのをやめよ
――――
飼い主の声が猫にはわかること東大がわざわざ証明す
――――
たこ焼きにたこの死骸が混入とクレームがつきそれを認めた
――――
ヘイトデモ行う者ら振り回す日の丸なべて中国製で
――――
室蘭のゲオの新書のコーナーにヘイト本しか置いてない件
――――
田舎なる書店ほとんど短歌誌の横にはヘイト雑誌がならぶ
――――


 ニュースどころか、テレビを見ながら次々とつっこみ。


――――
単に「テレビ」と短歌の中でよむときは未だブラウン管の気がする
――――
みずからの任命責任も考えず悪代官を将軍は斬る
――――
「目からウロコが落ちる」と時代劇が言う隠れキリシタンに違いない
――――
都合よく旅行が当たり都合よく台風が来て起こる殺人
――――
安っぽい崖と値打ちの高い崖ありて前者はドラマにも出る
――――
わたくしは特にファンにはあらざれど浜崎あゆみのおとろえに泣く
――――
歌詞を全部覚えてないと口パクはできないゆえに少しはえらい
――――
「レモン百個分」とかいわれレモンって意外にビタミンCが少ない
――――
スプライトでさえもトクホになるのかよ高カロリーが売りだっただろ
――――


 もちろんネットや迷惑メールなどのただごとも題材になります。


――――
一日の苦労は一日で足ると言ったイエスはネットを知らず
――――
ネットにはネットの世界特有の酸素がありてすぐ炎上す
――――
サーバーからサーバーへ旅したるのちようこそはるばる迷惑メール
――――
「実は私チンパンジーのメスなんです」ここまで来たか迷惑メール
――――
「ロト6で3等を当てる方法」とせせこましいぞ迷惑メール
――――
青空に深刻なエラーが発生し再起動したら灰色になった
――――


 懐かしさや郷愁をテーマにしても、皮肉は忘れません。


――――
とれほどの詩を生んだだろうビー玉でラムネに栓をしていることが
――――
四十五歳以上のひとの半分は拾われてきた橋の下から
――――
光年のかなたヒトには見えざりし怪獣墓場をしばしおもうも
――――
ふるさとは山や川や海ではなくて丸いかたちの郵便ポスト
――――
「平凡に就職をして家を買」う昔の筒井康隆の小説かなし
――――


 最後に、言葉、特に季語についてつっこみを入れる作品が個人的にはお気に入りです。


――――
『天国への階段』という曲のあり天国もバリアフリーではない
――――
猫に小判やればけっこう遊びそう豚に真珠は真珠食べそう
――――
えいえん、と平仮名にして書くときの永遠感のなさにおどろく
――――
永久の耐用年数のみじかさよ永久保存版、永久凍土
――――
永久は墾田永年私財法の時代からすでに当てにならない
――――
大辞林われへ意外を教えたり徴兵検査は夏の季語なり
――――
「あの夏」と言えばなんでも思い出になるから「あの」は夏の季語です
――――
小春日和は秋の季語だと思う人多しさだまさしが悪いのだ
――――
徹底的に季語にはならぬものとしてスマートフォンは昼夜かがやく
――――





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『詩篇Aa』(高塚謙太郎) [読書(小説・詩)]

――――
新しいシーズンやリーグのルール、新しい世紀や新しい元号、新しい私たち、は新しかった
すべての言葉は五線譜に起こすことができた
新しい美しさに存分に満たされながら上位層のさらに上澄みだけが、私たちの身体だった
身体は言葉だったし、言葉は私だった
愛してます、は愛していることだった
私とは表現だった
苦心のあとがきちんとコード化され、メロディーを奏でていた
――――


 正式タイトルは『現代詩書下ろし一詩篇による詩集 懐紙シリーズ第二集 詩篇Aa』です。同人誌(阿吽塾)発行は2020年12月です。


――――
髪が伸びなくなった
私はものを食い、考え、話していた
私の記憶にしっかり紐づけされ、根がはり、Aaの姿が私の中で芽吹く春を待っておればよい、そんなかすかな期待までも、痕跡ですらなくなるとは考えていなかった
――――


――――
霞が文字の集まりに見えはじめた
朝、雨が降っているな、とうつらうつらしていた。しばらくして窓を見ると、その形跡もなく、それは空調の音だった。
これを改行分かち書きにしたような日々が過ぎていった
――――


――――
驚いたことに、霞のあとですら、私は飢えに襲われる恐れが残されていたのだ。私は、私の家や暮らし、親しかったものとの思い出を守るために、生存し続けなければならない。それと、言葉を忘れないため、というよりも私でない他者に会い続けるために、自宅や町に残された本を大量に読まねばならなかった。それらが存在しなければ、私は花のように毀たれてしまうだろう。これら一連の作業が私を私足らしめてくれた。かつては、これがAaを支えるシステムだった。
――――


 あるとき町が霞に満たされ、静かに終末がやってくる。語り手はAaを探し求めさまよう……。というような終末SF的情景をえがいた詩篇です。


――――
数多くの営為が成立しなくなっても、一度定められた人々のベクトルは変わることなく、虫のように明るいところを目指しつづけた
配されたアカウントの始源性の魅力に次々と飲みこまれていくようであった
いままでになかったような自由と柔軟が美しいシステムの網を急速に広げていった
そこからこぼれた、というより逃げたわずかな人々は始源へ向かい、質量の鋳型で自分たちを再生産し、新しいシステムの編み目に綴じられた人々は始源へ向かい、新しい記憶で自分たちを永遠に残し、かつ量産していった
――――


 新型コロナ禍を生きる読者にとって馴染み深い感覚が書かれます。いや、もしかしたら詩が書けないときの詩人の苦悩かも知れませんが。Aaがいない。Aaにとどかない。


――――
愛は枯れるものでしょうか
すべてただの繰り返しだ

崇高な朝はやってくる。いつも。あるいは、いつか
霞として意識されるようなフェーズも散り散りになり、単にコードはモザイク状になり、霞み、目を凝らすとぼんやりと朝を迎えていた
チュートリアル的にニュース映像が流れる
――――





タグ:同人誌
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『名探偵ぶたぶた』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

――――
 おおう、なんと恐れ知らずのタイトル……! 私、言っときますけど、ミステリー作家じゃないんですよ!
 でもずっと長い間、このタイトルでぶたぶたを書きたいな、と思っておりました。しかし、何度も言いますが、私はミステリー作家じゃないのです(言い訳)。
――――
文庫版p.223


 見た目は可愛いぶたのぬいぐるみ、中身は頼りになる中年男。そんな山崎ぶたぶた氏に出会った人々に、ほんの少しの勇気と幸福が訪れる。大好評「ぶたぶたシリーズ」は、そんなハートウォーミングな奇跡の物語。

 最新作は、様々な悩みを抱える人々がぶたぶたに相談することで解決の糸口をつかむ5篇を収録した短編集。文庫版(光文社)出版は2021年1月です。

 今回の山崎ぶたぶた氏の職業は高名な私立探偵、……ではありません。いやちょっと期待したけど。あるいはなぜかいつもぬいぐるみを抱えている「眠りの小五郎」と呼ばれる名探偵が、眠っている間にしぶい中年男の声で名推理を披露するとか。

 そういうわけではなくて、「あとがき」でも説明されていますが、基本的にいつものぶたぶた作品集です。凄惨な殺人事件とか起きませんので、また読者が細部まで注意深く読み込んで推理しなければならないということもありませんので、ミステリーが苦手な方もご安心ください。

 今回は連作ではなく、過去の作品に登場した様々な職業のぶたぶたが再登場するという趣向の、独立した短篇から構成されています。

――――
 ちなみに、今回はすべて以前書いたもののスピンオフになっておりますが、元の作品を読んでいなくてもまったく問題ありません。興味を持ったら、元の作品も読んでみてくださいね。
――――
文庫版p.226

 元の作品を読んでない人は、どれが元の作品か分からないんじゃないの、と心配になりますが、いやいやこれは「読者への挑戦状」ではないでしょうか。さあ古参読者は、作品リストを参照せず、記憶だけでそれぞれの短篇の元になった作品の書名を言い当ててみましょう!


[収録作品]

『悪魔の叫び声』
『置き去りの子供』
『レモンパイの夏』
『ぬいぐるみのお医者さん』
『女の子の世界』




『悪魔の叫び声』
――――
 しかし、〆切は容赦なく近づいてくる。どうする? うまくいかないからきっぱりやめて、新しい話を考える? それとも、アイデアがまとまるまでこのネタでもう少しがんばる?
 どちらにすればいい結果が出るかはわからない。どっちを選んでもどうにかなった経験がある身としては、判断のつけようがない。
――――
文庫版p.26

 ある「謎」を抱えた作家がそれをネタに作品を書こうとするが、作中でどう「解決」したらいいか困り、文壇カフェのマスターであるぶたぶたに相談する。ぶたぶたの小学校時代の思い出とか、地味に衝撃。昔は子供だったのか。元になった作品は『編集者ぶたぶた』。


『置き去りの子供』
――――
 次の日から家に戻るまで、麻絵はぬいぐるみをホテルの中で探し続けた。いつもの目線から下を見るようにしてみたら、さりげなく隠れる桜色の影のようなものをたまに見かけるようになった。そのたびに追いかけたが、影はとても素早い。ある時は角を曲がった時に見失い、ある時は振り向くともう姿はなく、いたと思った場所に着いた時にはもう遅くて――そんな感じで一度も追いつくことはなかった。
――――
文庫版p.72

 子供の頃にグランドホテルで出会った謎のぬいぐるみ。ある理由から彼に再会するために30年以上たって同じホテルを訪れた女性。果たして再会はなるのか。元になった作品は、異形コレクション『グランドホテル』……ではなくて『ぶたぶたのいる場所』。


『レモンパイの夏』
――――
 ミステリーだと探偵役の登場人物がいろんなところへ行ったり、話を聞いたりして、次々手がかりをつかんでいく。でも実際は何もできないし何も起こらない。今年は外出自体ができなかった。いや、三月頃まではまだできていたのだが、いつの間にか電車に乗るのもはばかられる状況になってしまった。
――――
文庫版p.101

 消息を絶った友達を見つけるために、海の家を探しに海水浴場にやってきた高校生。ところが疫病のせいで浜辺にほとんど人はおらず、海の家も出ていない。途方に暮れていたところ、近くでカフェをやっているというぬいぐるみに声をかけられるが……。

 新型コロナ禍が扱われているのに驚きました。マスクしなくて大丈夫かぶたぶた。いやぬいぐるみだからウイルスに感染することはないか。いやいや、以前、風邪をひいて寝込んだことがあるぞ。というか、ぶたぶたの多くが飲食店を経営しているので、コロナ禍はきついでしょ。元になった作品は『海の家のぶたぶた』。


『ぬいぐるみのお医者さん』
――――
 利信としては、あのぶたぶた先生とニャーのことを変に重ねてしまったりしている。ニャーもぬいぐるみだし、ぶたぶた先生もぬいぐるみだが、彼らの違いってなんなんだろう。大人には明らかに違うけれど、孝太郎にとっても違うのか、あるいは同じなのか――。
 それを考えていると、眠れない――ほどではないが、最終的には妙にほのぼのして眠っているような気がする。
――――
文庫版p.171

 幼い息子が大切にしていた猫のぬいぐるみが消えてしまった。近くの病院に入院しているに違いないと息子は考えている。なぜなら、そこには、ぬいぐるみのお医者さんがいるから……。最終ページで泣ける短篇。元になった作品は、『ぶたぶたのお医者さん』ではなくて(これはひっかけ)、『ドクターぶたぶた』。


『女の子の世界』
――――
 けれど最近、全部知らなくても、知らせなくてもいいんだ、と感じられるようになってきた。全部知っている人やものでなければ、自分の世界に存在できないと考えていたけれど、本当の世界は、ほとんど知らないものでできている。このぶたぶたの存在のように。こんなの、絶対に分からない。
 でも、それでいいんだと思える。
――――
文庫版p.221

 ふさぎこんで、親とも口をきかなくなった中学生が、スクールカウンセラーの先生と面談することになる。彼女が抱えている深刻な問題とは何か。カウンセラーのぶたぶたは彼女を救うことができるのか。思春期女子の精神的危機と成長を鮮やかに描く最終話。元になった作品は『学校のぶたぶた』。





タグ:矢崎存美
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:
前の5件 | - 読書(小説・詩) ブログトップ