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『グッバイ!キャラバン』(プロジェクト大山、古家優里) [ダンス]

 2021年9月26日は、夫婦でシアタートラムに行って古家優里さん率いるプロジェクト大山15周年記念公演を鑑賞しました。上演時間70分の新作公演です。


振付・演出: 古家優里
音楽: 武田直之
衣装: よこしまちよこ
出演: 古家優里、三輪亜希子、松岡綾葉、長谷川風立子、加藤未来、仁科幸


 荒井良二さんの絵本をもとにした作品とのことで、まるでページをめくるように次々とおかしな光景が展開してゆきます。笑えるか笑えないか微妙なところを狙った演出が多いのですが、格闘技を連想させるような力強い動きが説得力を生み出します。皆さん体力もすごい。

 唐突にはじまる影絵ダンスとか、全員が荒井良二さんに扮する寸劇めいたシーンとか、ショーマストゴーオンとか、あの手この手つめ込んだ上で、最後にやってくる全員による長い長い群舞が素晴らしい。かっこいい。盛り上がります。





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『となりのヨンヒさん』(チョン・ソヨン:著、吉川凪:翻訳) [読書(SF)]

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 時折、ほんの時たま、私は規則正しい呼吸をしながら寝ている子供の手を握り、ナミのことを思う。外交官になったナミ、結婚式を挙げるナミ、小じわのできた顔でにっこりするナミを想像する。そしてそんな時にはちょっと利己的に、でも限りなく痛切に、私がこの子にとって最初にならないよう祈る。いつかこの子が誰かを失わなければならないなら、悲鳴のような記憶として残り、残像のように漂う愛に苦しむ時が来るのなら、それが私でないことを。私が、誰にとっても最初ではないことを。
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単行本p.135


 アリス・シェルドンとのお茶会、隣室に住んでいる異星人、デザートとばかり交際する女性。同性愛、差別、離散家族などのテーマをSFやファンタジーの設定を使って描き出した15篇を収録する短編集。単行本(集英社)出版は2019年12月です。


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 私はそれぞれの作品のどの部分が〈現実の私〉から来ているのかを示すことができる。
 しかしこれらの物語はすべて〈小説〉であり、こうして本になった以上、私の経験の断片ですら、もはや私のものではない。作家は言葉を大事にするほど、そして作品から遠く離れているほどいいと思う。それでも敢えて言わせていただくなら、私の文章があなたにとって慰めになることを願っている。私は誰かを慰めるものを書きたかった。
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単行本p.246




〔収録作品〕

『デザート』
『宇宙流』
『アリスとのティータイム』
『養子縁組』
『馬山沖』
『帰宅』
『となりのヨンヒさん』
『最初ではないことを』
『雨上がり』
『開花』
『跳躍』
『引っ越し』
『再会』
『一度の飛行』
『秋風』




『アリスとのティータイム』
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「お嬢さんは、どの支流から来たのかな。SF小説が好きだというのが本当なら、ひょっとしてあなたの世界にジェイムズ・ティプトリー・ジュニアという人がいませんでしたか?」
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア。フェミニズムSF小説の先駆者、本名はアリス・ブラッドリー……シェルドン。
 私は椅子から飛び上がった。
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単行本p.34

 「私は七十四番目の世界でアリス・シェルドンに出会った」
 あちこちの並行世界を行き来する語り手が出会ったアリス。それは、SF作家にならなかったアリス・シェルドン、別の世界ではジェイムズ・ティプトリー・ジュニアとも呼ばれている女性だった。なぜこの世界のアリスは作家になることを断念したのか。「アリスとのお茶会」という奇妙な状況を使って先達の人生に対する敬意を示す短篇。




『養子縁組』
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 私は二人の異星人の顔を凝視しながら、十万日以上の歳月を過ごしてもまだ完全に理解できない彼らの感情について、数百万人に銃を向け、地面を血で染めた後も、自分たちが死ぬまで少しも成長しないはずの子供を育てようとする人たちの人間性について考えた。そして私の夢に現れる、そんな異星人たちの顔を思い浮かべた。
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単行本p.60

 太古の昔から人類にまぎれて生きてきた長命な異星人。その存在に気づいた人類は彼らを激しく憎む。異星人のひとりである語り手は、正体がばれれば殺される危険があるため慎重に身を隠して人間のふりをして生きている。だが、親友が養子にして育てている赤ん坊が自分たちと同じ種族であることに気づいたとき、彼女は決断を迫られる。はたして愛は、差別や排外感情を乗り越えることが出来るのだろうか。




『となりのヨンヒさん』
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「じゃあ、本名は何というんですか?」
「地球では言えません」
「そう言わずに、教えてよ」
「本当です。大気の成分が違います。気圧が違います。正確に表現することができるせん」
「おおざっぱには言えますか?」
 またしばらく沈黙が続いた。諦めたスジョンが再びコンテを持とうとした瞬間、ヨンヒさんがスジョンの方に向き直り、じっと見た。スジョンは今でもヨンヒさんの眼がどこにあるのか、はっきりとはわからなかったものの、絵を見る時のようにスジョンを凝視していることは、ありありと感じられた。二人の間にある、せいぜい二、三歩で歩ける距離の空気が振動し、ヘアドライヤーの風が当たったみたいに眼の周りが熱くなった。何かがゆらっと光って、消えた。瞬きしながら見た。そこはかとない熱とぼんやりした残像が、まつ毛に引っかかったみたいにちらちらした。
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単行本p.110

 格安で部屋を借りることが出来た語り手。その理由は、隣室に住んでいるのが異星人だからだ。みんなから嫌われ恐れられる異星人。だが語り手は、イ・ヨンヒと名乗るその異星人と少しずつ交流を深め、曖昧ながら友情を感じるようになってゆく。だが別れは唐突だった。




『開花』
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 良い世の中になったと思いますか。もう姉の名前が検索禁止ワードではなく、うちが要監視家庭ではないというのは、確かにいいですね。さあ。他はまだわかりません。父の数値も下がらないし私の給料が上がったわけでもないし、何より、姉は帰ってこなかったじゃないですか。
 でもあの日、あの〈開花〉は見事でした。テレビとモニターと監視カメラの赤いランプが一斉に消えた夜、花をぱっと開いて一度に咲き出した赤い花は、本当にきれいでした。ベランダの外に顔を突き出して赤い花びらがいっぱい揺れる花壇を見下ろしながら、私は初めて、姉を理解できるような気がしました。
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単行本p.169

 検閲のないネットワークを広げようとする非合法活動により逮捕された姉。なぜ姉がそんな危険な活動に身を投じたのか理解できない語り手。だが姉と仲間が撒いた種(文字通り)はあちこちに散らばって一斉に開花する。ネットがすべて監視と検閲の対象となっている国で、匿名性が守られたフリー無線ルータを街のあちこちにゲリラ的に設置してまわる非合法ハクティビストたち、というサイバーパンク英雄神話を改めて語り直す物語。




『秋風』
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「……どうして?」
 しばらくしてから私が聞いた。昔と同じように。私はあの子の声が聞きたくて、いつも自分の方から先に話しかけていた。どうして嘘の報告をしたの。どうして私を引き止めないの。どうして一緒にここを出ていかないの。どうして私を愛さないの。どうして私を愛しているの。
 あなたの大切なナダルのトマト畑を死の影のように覆う霧雨を見ながら、〈気温二十五度。晴〉と記入する時、あなたは何を考えていたの。
――――
単行本p.241

 農業生産に特化、最適化された惑星で、農作物の出荷量が減少を続けている。もしや作物が密輸業者に横流しされているのではないか。事態を重くみた本社は、腕利きの監査員をその惑星に送り込む。だが語り手である監査員はその惑星の出身だった……。恒星間航行を独占する巨大企業、それにより支配されている宇宙を舞台とした連作のひとつ。





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超常同人誌「UFO手帖5.0」掲載作品『超常現象のとらえにくさ』を公開 [その他]

 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌「UFO手帖5.0」(2020年11月刊行)に掲載された作品を追加しました。

『超常現象のとらえにくさ』
http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/SpBookInvitation06.html


 ちなみに「UFO手帖5.0」の紹介はこちら。

2021年02月09日の日記
『UFO手帖5.1』 雑誌「ムー」で紹介されました&重版・通販再開
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2021-02-09


 なお次号「UFO手帖6.0」は、2021年11月23日に開催される第33回文学フリマ東京にて頒布予定です。

UFO手帖6.0 予告
https://spfile.work/ut6/teaser6.0/





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『SFマガジン2021年10月号 ハヤカワ文庫JA総解説PART2』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2021年10月号は、ハヤカワ文庫JAが1500番を迎えた記念号ということで、前号にひきつづき総解説PART2が掲載されました。




『鎧う男』(平山瑞穂)
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 ライターを自称する男が言うには、その機器が何点か、隠然と業界内に出まわっているらしい。ある伝手でそれを入手した彼も半信半疑だったのだが、好奇心に抗えず、この町まで来て青点を追っていったら、たしかに本人と思われる人物と遭遇した。(中略)僕はその黒っぽい機器をためつすがめつせずにはいられなかった。話が本当だとして、いったい誰が、なんの目的でそんなものを作ったというのか。
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SFマガジン2021年10月号p.228

 有名な音楽プロデューサーが、業界から姿を消して秘かに郷里の町に戻っているらしい。彼の居場所を表示するという謎デバイスを手に入れた語り手は、真偽を確かめようと彼に接近するが……。謎めいた導入から悪夢めいた心理サスペンスにずぶずぶとはまってゆく作品。




『年年有魚』(S・チョウイー・ルウ、勝山海百合:翻訳)
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 私はもう魚を焦がさないし、常に余りがあることを確かめる。清明節にあなたのお墓を掃除するときに持っていくお供えには、塩サバも入れる。謝罪と、あなたを奪った魚に対する個人的な復讐のために。
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SFマガジン2021年10月号p.293

 年年有魚。毎年お金が残るゆとりのある生活ができるようにと願いを込めて、春節に魚料理を食べる中国の風習。だが文字通り毎年魚がやってくるとしたら……。とんでもない奇想を使って、米国で暮らす中華二世の文化的アイデンティティーの問題をあぶり出す作品。




『環の平和』(津久井五月)
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 交感の相手を特定の二人に固定すれば、全体ネットワークを環状にできる。ちょうど、両手を繋いで環をつくるように。人の環の中では全員が平等で、全員が間接的に繋がり、よって全員の思考が多様なままで調和する――。そんな考えを妄言と切り捨てなかった人々がいた。
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SFマガジン2021年10月号p.308

 〈環の平和〉、意識と意識を環状遠隔接続することで人類の調和が生まれるのではないか。壮大な理想を求める実験に参加した人々は、それぞれランダムに選ばれた二人の他人とテレパシー的な交感で意識をつなげる。結果として出来上がる巨大な意識の〈環〉は、世界を少しでも良い方向に変えることが出来るのだろうか。ネットワークの発展が皮肉なことに人々の分断を深刻化させている現代、新たなネットワーク構築の思考実験を扱った作品。




『時間の王』(宝樹、阿井幸作:翻訳)
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 俺は時間の王か、それとも時間の囚人かと自分に問い掛ける。取り戻した時間は俺の思うまま自由に飛び回れる空か、それとも俺を監禁する檻か。
 時間は果てしなく長く、年月は数え切れない。俺は時間の中で王になる、永久に。
 ある日、それまで思い出さなかった日付に到着し、事態に新たな変化が生じるまでは。
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SFマガジン2021年10月号p.336

 事故により意識不明の重体となった語り手は、自分の人生における様々な瞬間に意識が跳ぶ『スローターハウス5』のような時間体験をすることになった。記憶と異なる行動をとることで一時的な“歴史改変”は可能なのだが、別の瞬間に意識が跳んだ後で戻ってくると、改変した結果は消えてしまう。人生の様々な瞬間をあちこち跳び回るうちに語り手はある女性を愛するようになるのだが……。時間SFとロマンスという王道的メロドラマ、と読者を油断させておいて意外な結末にもってゆく作品。





タグ:SFマガジン
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『モーアシビ 第41号』(白鳥信也:編集、小川三郎・北爪満喜・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第41号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第41号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――


 『季節を待って』(島野律子)
 『鼓動』(北爪満喜)
 『雲』(小川三郎)
 『PUMA』(森ミキエ)
 『斑の朝』『関数夜』(森岡美喜)
 『さっぴらい』(白鳥信也)

散文

 『北爪満喜詩集『Bridge』 嘘を〈まこと〉にする愛の歳月』(阿部日奈子)
 『バルトの歪んだ大きな真珠~ラトビア・首都リガ』(サトミセキ)
 『送電線下伐採』(平井金司)
 『わが青春の日記(その一)』(清水耕次)
 『風船乗りの汗汗歌日記 その40』(大橋弘)
 
翻訳

 『幻想への挑戦 15』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
――――――――――――――――――――――――――――

 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com




――――
眠れなくてぐにゃりとした視界に
小さな苺が実っている
ここでは暮らせない蛇の苺は
誰にも食べられずに
夢の後ろのテールランプ 灯す
ぐにゃりとして
苦しみはにゅるっと
握りしめられずに
指のあいだから逃げていく
しゃがみこんでしまった膝に
草には朝露が輝いて
まだ蕾の仏の座が教えを説く
道には
これから花開くものがいっぱいさ
――――
『鼓動』(北爪満喜)より




――――
蜘蛛の想いというものが
わかってしまうときがある。
家のなかや家の外で
音もさせずに暮す蜘蛛の
ただひとつだけの真実が
私の胸で膨れ上がって
そのまま破裂させてしまうような
そんなときが時折あって
めちゃくちゃになって気が付くと
遠くをながめていたりする。
今まで何を想っていたのか
すっかり判らなくなっていて
きっとまた私はずっと
ここに座って
雲をながめていたのだと思いだす。
――――
『雲』(小川三郎)より




――――
私はPUMA上昇気流に乗る
宇宙から見下ろす地球 大気圏 一層目は皮膚 潤いを取り戻し 二層目は布 汗と熱を吸い込んで 三層目は空気 広大なものへ溶け込んでいく 生から死へ流れる時間 私はまだここにいる PUMA私は疾駆する 骨格と血と筋肉を獲得して この大空は故郷の大陸へと続く Tシャツでは覆いきれない肉体の森林へ つややかな毛並の草原へ シシャモやメザシに未練はない 四肢に力をためると痩せた薄っぺらなカラダに精気が甦ってくる 太陽に向かってジャンプした
――――
『PUMA』(森ミキエ)より




――――
茫々と冷たい風が吹きすさぶそのなかを
沢水をけって狼が走る
木々を猿が飛ぶ
小石の多い乾いた川の
ずっと見えない底を流れる
蝦夷の言葉の記憶だろうか

農道は舗装され
オオバコやスカンポが刈り払われてもなお
呼吸し生きている
さっぴらい
おいのざわ
どこまでも走るがいい
口から口へ
耳から耳へ
流れ続ける響きの川となって
――――
『さっぴらい』(白鳥信也)より





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