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『知らなかった(川上亜紀『チャイナ・カシミア』解説)』(笙野頼子) [読書(随筆)]

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 川上亜紀、ひとつの世界をずっと生きて変わらない、その編み目に狂いはなく欺瞞はなく、そこにはいきなり生の、真実の「小さい」感触が入ってくる。それはさまざまな世界に読み手を導く。
 ポメラを使い、猫に語らせ、飛行機の中でメモをとっていた。
 雲の上に、という言葉を本当に言葉の雲の上にいるように書くことができた。その言葉は今も同じように読める。生きてからも死んでからも作品は変わらない。ただ、もっといて欲しかった。
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単行本p.165


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第124回。


 「ただ、もっといて欲しかった」。川上亜紀作品集『チャイナ・カシミア』単行本に収録された笙野頼子さんによる解説。単行本(七月堂)出版は2019年1月です。


 自分との共鳴から川上亜紀さんについて語ってゆきます。その切実さ、真摯さ、そして「直球でそのままに文学を生きるしかない」身体。


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 『群像』新年号の拙作(短編小説)、「返信を、待っていた」に川上亜紀さんの詩集『あなたとわたしと無数の人々』を引用させて貰った。自分の文章とは一行開け、きちんと離して引いた。それでも書いていて彼女がまだ生きているような感じがした。というのも、詩集を読んでいてここを引用しようと写していたとき、ふいに、私は彼女に似てしまったからだ。一行離しても距離のない体温、イメージの切実さがそこに生きていた。
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単行本p.149


 ちなみに『返信を、待っていた』(笙野頼子)の紹介はこちら。

  2018年12月10日の日記
  『返信を、待っていた』
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-12-10


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 彼女の手紙を読んでから作品を読んだ。どっちにしろどこかしら私に似ていた。だって、多くの「文学的な人々」は傑出するほど、文学的に見えることを忌避しようとする。ところが私たちと来たら、なぜか……直球でそのままに文学を生きるしかない身体を持っていた(当時私はまだその理由に気付いてなかった)。
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単行本p.153


 作品解説をはさんで、川上亜紀さんの評価と追悼があふれ、静かな悲しみに満ちてゆくのです。


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だが、そこに現実が、目の前が、同時代が入るものを彼女なら書けた。なおかつ、現実との交錯が淡々として、或いは静謐の中に、生命が満ちるものを、なおかつ社会への批評のある、夢的毛糸編みを。
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単行本p.162



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