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『ハリー』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

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「教えて。どうしたらいいの、わたしがいなくなるためには、クリス……」
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『ソラリス』(スタニスワフ・レム、沼野充義:翻訳)より


 2019年2月2日は、夫婦でKARAS APPARATUSに行って勅使川原三郎さん振付によるダンス公演を鑑賞しました。佐東利穂子さんがソロで踊る60分の作品です。


 原作はもちろんスタニスワフ・レムの『ソラリス』およびタルコフスキー監督による映画版です。語り手であるクリス・ケルヴィンの心理トラウマ(妻ハリーが自殺した)を元にソラリスの海によって構成された存在、ハリーを、佐東利穂子さんが踊ります。

 ハリーは人間ではないし、死ぬことも出来ない(死のうとしてもソラリスの海によって自動再構成されてしまう)。そもそもクリスの記憶を元に構成された存在なので、ハリーのコピーですらない。そういったことを本人が知ってしまったことから始まる苦悩を、思わず身震いが出るほどの迫力で踊ります。


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 彼女はすっかり白くなった手を握り締め、胸に押し当てた。「何も知らない、ハリー以外のことは、何にも! ひょっとしたら、わたしがそんな振りをしているだけだと思っているの? 振りなんかじゃない、聖なるものにかけて、これは振りなんかじゃないの」
 最後のほうの言葉はうめき声になっていた。彼女は床に崩れ落ち、むせび泣いた。
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『ソラリス』(スタニスワフ・レム、沼野充義:翻訳)より


 巧みな照明と超絶的な動きにより、無重力空間で浮いているように感じられたり、身体が不可解な変形をしたり、瞬間移動したり、苦悩する人間として共感できるかと思えば次の瞬間には理解できない人外存在に見えたり。ハリーという存在をダンスで見事に表現してゆきます。

 というより、実際には存在しない、身体表現に過ぎないハリーが、目の前にいて、どんな人間よりも強烈な存在感を放っている、という状況こそがまさにハリーとしか言い様がなく。勅使川原三郎さんはソラリスの海。

 『ペトルーシュカ』では勅使川原三郎さんが踊る「心が宿ってしまった人形の苦悩」に衝撃を受けましたが、佐東利穂子さんによるハリーも恐ろしい。泣けるのに恐ろしい。身体が心から離れて勝手に動き出す様など、観ているだけで鳥肌が立つようです。


 この公演のもとになった勅使川原三郎さん演出によるオペラ『ソラリス』も観てみたいと思いました。次のKARAS APPARATUS公演は『白痴』、その次は『ストーカー』と、立て続けに東欧・ロシアの文学(および映画)作品が続きます。



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