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2017年を振り返る(3)[小説] [年頭回顧]

 まずは笙野頼子さんですが、2016年に出版された『植民人喰い条約 ひょうすべの国』に続いて、2017年は『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神』が大きな話題となった年でした。この偉大なる二冊のかげに隠れてしまった感はありますが、『猫道 単身転々小説集』(笙野頼子)も素晴らしい短篇集です。猫との関係を描いた作品を集めた一冊で、笙野頼子さんの著作を初めて読むという方にも最適。みなさん最初に手を出すらしい『笙野頼子三冠小説集』よりも、「笙野頼子 最初の一冊」として個人的にお勧め。

 さらに2017年には、人でないものたちが集う図書館を描いた楽しい『S倉極楽図書館』がアンソロジーに収録されました。また小説ではないのですが、憲法テーマのエッセイ『ガラス細工の至宝』、ヘイトカウンターデモに参加した体験を描いた『九月の白い薔薇 ――ヘイトカウンター』、北原みのりさんによるロングインタビュー『「フェミニズム」から遠く離れて』、が発表されました。個人的には『「フェミニズム」から遠く離れて』は必読だと思います。


2017年03月16日の日記
『猫道 単身転々小説集』(笙野頼子)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-16

2017年08月03日の日記
『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神』(笙野頼子)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-03

2017年06月13日の日記
『図書館情調』(日比嘉高:編、笙野頼子、三崎亜記、他)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-13

2017年04月24日の日記
『ガラス細工の至宝』(笙野頼子)(『私にとっての憲法』(岩波書店編集部:編)収録)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-04-24

2017年12月07日の日記
『九月の白い薔薇 ――ヘイトカウンター』(笙野頼子)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-12-07

2017年12月25日の日記
『「フェミニズム」から遠く離れて』(笙野頼子)(『日本のフェミニズム since 1886 性の戦い編』(北原みのり責任編集)収録)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-12-25


 町田康さんは、救済を求め穢土を彷徨うというこれまでのテーマを突き詰めたような、町田版旧約聖書ともいうべき長篇小説『ホサナ』が話題となりました。愛犬スピンクの死という衝撃を伝える『スピンクの笑顔』も刊行され、二冊を合わせ読むことで涙ぼろぼろ。とにかく両方読んでほしい。

 また、大阪魂を回復すべく粉もんを拵えてはわやになる連作短篇集『関東戎夷焼煮袋』や、猫の猫たるゆえんを描く短篇『諧和会議』は、とにかく楽しい。そして2016年に発表されるや大きな話題となった『宇治拾遺物語』(町田康:現代語訳)の、伊藤比呂美さんをして「町田コロス!」と言わせたあの名訳がどのようにして出来たのかを解説する『みんなで訳そう宇治拾遺』も印象に残りました。


2017年07月06日の日記
『ホサナ』(町田康)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-06

2017年11月29日の日記
『スピンクの笑顔』(町田康)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-29

2017年04月04日の日記
『関東戎夷焼煮袋』(町田康)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-04-04

2017年06月14日の日記
『ニャンニャンにゃんそろじー』(町田康、他)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-14

2017年02月08日の日記
『作家と楽しむ古典』(池澤夏樹、伊藤比呂美、森見登美彦、町田康、小池昌代)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-08


 矢崎存美さんは、人気の「ぶたぶた」シリーズ新作二冊に加えて、新しいシリーズを二つ立ちあげました。今後の展開が楽しみです。


2017年07月11日の日記
『海の家のぶたぶた』(矢崎存美)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-11

2017年12月12日の日記
『ぶたぶたラジオ』(矢崎存美)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-12-12

2017年10月16日の日記
『NNNからの使者 猫だけが知っている』(矢崎存美)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-16

2017年12月26日の日記
『繕い屋 月のチーズとお菓子の家』(矢崎存美)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-12-26


 これまで主にミステリを書いてきた両角長彦さんは、自身の体験も活かした一般小説『メメント1993 34歳無職父さんの東大受験日記』で新境地を開拓。個人的には、ひりつくようなサスペンスと意表をつくどんでん返しが印象的なギャンブル小説『臓器賭博』がお気に入り。


2017年01月19日の日記
『ブラッグ 無差別殺人株式会社』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-19

2017年02月02日の日記
『臓器賭博』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-02

2017年02月13日の日記
『人間性剥奪』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-13

2017年03月06日の日記
『解決人』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-06

2017年11月09日の日記
『メメント1993 34歳無職父さんの東大受験日記』(両角長彦)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-09

2017年06月08日の日記
『短篇ベストコレクション 現代の小説2017』(日本文藝家協会:編、両角長彦、三崎亜記、森絵都、姫野カオルコ、他)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-08


 昭和を舞台に、塾を経営する一家の家族史を描く長篇『みかづき』(森絵都)は熟練の面白さで、いずれ朝ドラになるのではないでしょうか。

 明るく力強いフェミニズムに支えられた『おばちゃんたちのいるところ』(松田青子)は、奇想を含む楽しい連作短篇集。斉藤倫さんとヒグチユウコさんの絵本は、子供たちに何が本当に大切なことなのかを考えさせてくれます。


2017年03月30日の日記
『みかづき』(森絵都)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-30

2017年01月12日の日記
『おばちゃんたちのいるところ』(松田青子)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-12

2017年10月10日の日記
『クリスマスがちかづくと』(斉藤倫、くりはらたかし:イラスト)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-10

2017年08月15日の日記
『せかいいちのねこ』(ヒグチユウコ)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-15


 特筆すべきなのは、文芸誌『たべるのがおそい』の3号と4号が安定して刊行されたことです。どの号も傑作アンソロジーといっても過言ではないレベルの作品が集まっており、しかも1号と4号からそれぞれ芥川賞候補が出るという快挙。見逃してはいけないと思う。


2017年04月18日の日記
『たべるのがおそい vol.3』(星野智幸、最果タヒ、山尾悠子、他、西崎憲:編集)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-04-18

2017年10月19日の日記
『たべるのがおそい vol.4』(町田康、宮内悠介、他、西崎憲:編集)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-19


 海外文学では、「ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン」が4ページにまたがってひたすら続くという壮絶なラリーが多大なるインパクトをもたらすパク・ミンギュの『ピンポン』、魔術的なまでに冴えた小説技法を駆使して「差別も暴力も虐待もなくならないこの世界で傷はどうしたら癒せるのか」という問いと祈りに正面から向き合うトニ・モリスンの『神よ、あの子を守りたまえ』、そして映画化されたことでも話題になったジミー・リャオの美しい絵本『星空』が印象に残りました。翻訳者の方々に心から感謝します。


2017年07月26日の日記
『ピンポン』(パク・ミンギュ、斎藤真理子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-26

2017年07月20日の日記
『神よ、あの子を守りたまえ』(トニ・モリスン、大社淑子:訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-20

2017年01月24日の日記
『星空』(幾米、ジミー・リャオ、天野健太郎:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-24



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