SSブログ

『ぼくのネコにはウサギのしっぽ』(朽木祥:文、片岡まみこ:絵) [読書(小説・詩)]

――――
 おねえちゃんは、ものすごく“でき”がいい。なんでもできる。勉強も一番だし、ピアノもじょうずで、かけっこも速い。去年もおととしもリレーの選手だった。今年もたぶんそうだ。六年生のチャンピオンなのだ。
 だけど、ぼくの“でき”はすごく、ふつう。勉強もふつうだし、ピアノはバイエルでやめてしまった。サッカーも、試合に出られたり出られなかったり。かけっこは、ようち園のときから、いつだって三着だ。
――――
単行本p.6


 出来のいい姉が拾ってきたのは、ものすごく美しい猫。それに対してぱっとしない「ぼく」が選んだのは、やっぱりぱっとしない猫。でも、この子にはウサギのしっぽがついている。他にはいない、たいせつな、ぼくのネコ。自分や動物、それぞれのかけがえのなさを教えてくれる絵本。単行本(学習研究社)出版は2009年6月、Kindle版配信は2009年6月です。


 ペットが中心となる三つのお話しを収録した絵本です。最初の『ぼくのネコにはウサギのしっぽ』は猫、残り二つの話は犬、を扱っています。


『ぼくのネコにはウサギのしっぽ』
――――
 もし、このネコがメグくらいきれいだったら、もし、おねえちゃんがたのんだら、もし、ぼくが日曜テストで一番がとれるくらいできがよかったら、お父さんは「いいよ」っていうんじゃないだろうか。ぼくは自分でも信じられないくらいはらがたってきた。
 お父さんといいあううちに、ぼくは泣きだしてしまって、ついでに、わけのわからないことをわめいていた。
「とりかえてくればいいんだ、もっとかわいいネコにさあ。ついでに、よそからもらってきたらいい。おねえちゃんのコピーみたいな四年生をさあ。」
 家じゅうが、しんとした。
――――
単行本p.16

 不細工だろうが賢くなかろうが、自分の猫は世界一。猫の優劣を競うことほど無意味なことはない。だったら、自分だって、そうじゃないだろうか。他人と比べては劣等感に悩んでいる子供たちに、本当のプライドとは何かを教えてくれる物語。


『毒物110番』
――――
 大声で、「ダン、ダン!」とよぶと、家のうら手から、ダンが元気よく、かけてきた。
 ぼくは、ほっとした。だが、ダンが口になにかくわえて、ふりまわしているのに気がついた。
 白い粉のようなものが、おしろいをはたいたように口のまわりについている。
 わわわ。ゴキブリ用の毒えさだ! ホウ酸だんごだ!
 うそだろ。
 猛毒だからぜったいさわらないようにって、お母さんに何度もいわれていた、ホウ酸だんご!
 ぼくはあわててダンを追いかけた。
――――
単行本p.40

 一人で留守番をしているとき、飼い犬のダンが毒を食べてしまう。どうしよう、親に電話しても間に合わない。とっさに「毒物110番」に電話した「ぼく」だったが……。いきなり命を守る責任が降りかかってきたとき、逃げずにたった一人で立ち向かえるだろうか。勇気と責任の物語。


『おたすけ犬』
――――
おもちゃで遊んでいたミイの首にひもがまきついて、死にそうになっていたのに、人間はだれも気がつかなかった。
 ぐっすり寝ていた平吉が、がばっと起きあがると、めずらしくうるさくほえたてて知らせたのだ。そのときミイは、もう白目を出していた。
「あと三分おそかったら、助からなかったよ。声も出なくなっていたのに、よくわかったよなあ」と、獣医さんも感心していたそうだ。
 おかげでミイは命拾いした。でも、ちっともありがたいと思っていなくて、なにか気に入らないとすぐ、平吉にネコパンチを食らわせたり、追っかけたりするんだって。それでも、平吉は「すいません」という顔のまま、おっかなそうににげまわるだけ……。
――――
単行本p.77

 近所の卓ちゃんの飼い犬、平吉はとても賢い。「わたし」の飼い犬が困っていたり、ネコが死にそうになったときも、さっと助けてくれた。でも、平吉は偉そうにしない。たれ目で、たれ耳で、まゆが八の字で、いつも「すいません」っていう顔で、ネコにも道をゆずってやるんだって。優しさとはどういうものかを教えてくれる物語。



タグ:絵本
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ: