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『重力で宇宙を見る 重力波と重力レンズが明かす、宇宙はじまりの謎』(二間瀬敏史) [読書(サイエンス)]

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1979年に初めて重力レンズ現象が見つかって以来、発見される重力レンズ現象の数は増え続けています。銀河による強い重力レンズ現象に限っても、すでに100を大きく超えていて、今後もその数はどんどん増え続けるでしょう。銀河団の強い重力レンズにいたっては、1つの銀河団中に100を超える強い重力レンズでできたイメージが発見され、銀河団の詳細な質量分布を知ることができます。
 強い重力レンズに限らず、重力レンズは大小様々な天体の質量分布を直接観測できます。そのため、X線、可視光、赤外線、電波などの観測と組み合わせることで、これまで経験的にしかわからなかった天体の質量と明るさの関係など、天体の性質をより正確に、より詳細に解明することができるのです。現在では重力レンズ現象は珍しい現象でも何でもなく、天文学に不可欠な研究手段であり、「重力レンズ天文学」という分野になったといえます。
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単行本p.203


 ついに直接検出に成功した重力波、そして重力により光の進路が曲がることを利用した重力レンズ。暗黒物質やインフレーションの痕跡を観測できる重力天文学の基本原理を解説してくれるサイエンス本。単行本(河出書房新社)出版は2017年10月です。


 本書でも大きく取り上げられている重力波検出、その詳細については次の本がお勧めです。

  2016年07月21日の日記
  『重力波は歌う アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち』
  (ジャンナ ・レヴィン:著、田沢恭子・松井信彦:翻訳)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-21


 重力波の直接検出、その後の展開、重力レンズの発見、重力レンズ望遠鏡とその目標など、「重力で宇宙を見る」重力天文学の基礎を解説してくれるのが本書です。全体は十個の章から構成されています。


「第1章 物理学の金字塔・重力波初検出のすごさ」
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合体する前の2つのブラックホールの質量は太陽質量の36倍と29倍でした。それらを足すと65倍になります。一方、合体してできたブラックホールの質量は太陽質量の62倍です。このことは、太陽3個分の質量が「消えた」ことを意味しています。衝突から合体、そして一つのブラックホールに落ち着くまでの時間が0.2秒、その間に太陽3個分の質量が消えたのです。消えた質量は、いったいどこへ行ったのでしょうか。
 実は消えた質量こそが、1000億個分の銀河が出すエネルギーになったのであり、そのエネルギーを伝えたのが重力波でした。
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単行本p.23

 世界中を駆けめぐった「重力波の直接検出に成功」というニュース。その意義と、重力波の発生源について解説します。


「第2章 そもそも重力とは何か」
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3次元空間が曲がるというイメージは、その中に物質を置くと周囲の空間(時空)が「動く」ということです。
 したがって物質がなくても、時空が運動する可能性が出てきます。時空の運動というのは、たとえば空間が伸びたり縮んだりすることです。
 1915年に一般相対性理論を完成させたアインシュタインは、翌年すぐにそのことに気がつきました。そして時空の曲がり、すなわち重力が波として空間を伝わることを発見しました。これが重力波です。
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単行本p.46

 一般相対性理論からその存在が予言される重力波。その理論的基礎を解説します。


「第3章 すでに「発見」されていた重力波」
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 ハルスとテイラーは重力波そのものを観測したわけではなく、重力波の放出によって連星パルサー(中性子星連星)の公転軌道が短くなっていることを見つけました。ですが、それが理論予言と一致しているのであれば、重力波の存在はもはや疑う余地のないものであり、間接的にではありますが、重力波を「発見」したことになるのです。
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単行本p.63

 直接検出よりもずっと前に「間接的」に発見されていた重力波。研究者たちが重力波の存在を確信していた理由について解説します。


「第4章 重力波の観測の歴史」
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改善後の本格的な観測を再開しようとしていた直前、テスト観測の最中だった9月14日に、重力波GW150914が検出されたのです。1965年頃のウェーバーから約50年、1984年頃のLIGOプロジェクトの立ち上げから約30年という歳月が流れていました。この間、LIGOプロジェクトに参加した研究者は、なんと1000人を超えています。
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単行本p.82

 重力波を直接検出しようとする試みの歴史を紹介します。日本のプロジェクトKAGRAについても解説されます。


「第5章 これからの重力波観測」
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 O2の終了後、レーザーのパワーを120ワット以上に上げるなど干渉計の大幅なグレードアップをおこなう予定で、感度はさらに上がり、3×10のマイナス24乗の達成が目指されています。これによって、ブラックホール連星は年に100個程度検出でき、中性子星連星系の場合は5億光年まで検出できると考えられています。
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単行本p.99

 その後の重力波観測への挑戦が解説されます。各地で進められている重力波望遠鏡プロジェクト、それらをつないだ国際ネットワークの構築、次世代重力波望遠鏡の計画など。


「第6章 重力波が答える宇宙の謎」
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 こうした問題を解決するためにも、インフレーション膨張時に生成される原始重力波を検出することが重要です。原始重力波のエネルギーがわかれば、インフレーションがいつ起こったのかがわかります。さらに、重力波のスペクトル(波長ごとの強度)を測定することで、インフレーションがどんなメカニズムによって起こったかの情報が得られます。それによって、数十以上あるインフレーション理論のモデルのどれが正しいのかを絞り込んでいけるのです。
 つまり原始重力波を検出することは、インフレーション膨張の様子を「見る」てとであり、ビッグバン以前の宇宙を「見る」ことになります。
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単行本p.129

 一般相対性理論の検証、原始重力波と呼ばれる「インフレーション膨張の痕跡」を観測することによる理論モデルの絞り込みなど、重力波観測によって何が分かると期待されているのかを解説します。


「第7章 重力レンズとは何か」
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重力によって光の速度が遅くなるのです。すると、光学レンズと同じように、重力が像を拡大したり、ゆがめたりする現象を引き起こすのではないか、という予想が当然出てきます。
 しかし、重力による光の曲がりはごくわずかなので、実際に重力によるレンズで遠くの天体を拡大するためには、莫大な質量と気の遠くなるような長い距離が必要でしょう。実際にそんなことは起こるのか、天文学者は長い間確信が持てませんでした。
 そころが1979年、重力によるレンズ現象が発見されたのです。
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単行本p.138

 重力レンズが引き起こす現象の発見など、重力レンズの基礎を解説します。


「第8章 重力レンズ研究の歴史」
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 のちに『サイエンス』の編集長に「この論文はマンドル氏をなだめるために書いたものです。ほとんど科学的価値はありませんが、少なくともあの哀れな男は喜んでいるでしょう」と手紙を送っていることからもわかるように、アインシュタインはこれを重要な研究とはまったく思っていませんでした。しかしアインシュタインが書いた論文ということで、それ以来、重力レンズによってつくられたリング状のイメージはアインシュタイン・リングと呼ばれるようになったのです。
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単行本p.166

 重力レンズの予想から実際の発見に至るまでの紆余曲折を解説します。


「第9章 暗黒物質と暗黒エネルギーが支配する宇宙」
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現代天文学における最大の謎が、正体不明の物質とエネルギーである暗黒物質と暗黒エネルギーです。その正体に迫る上で、重力レンズを使った観測に注目が集まっているのです。
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単行本p.170

 重力天文学の活躍が期待されている二つの課題、暗黒物質と暗黒エネルギーについて基礎を解説します。


「第10章 重力レンズで見る「宇宙のダークサイド」」
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 望遠鏡の口径は、大きければ大きいほど光を集める能力が大きく、また分解能も高まります。しかし、地球上の望遠鏡で大きさを追求するのは、もう限界でしょう。遠い将来には、月面に望遠鏡を設置することも考えられています。しかし、そんなことを待つまでもなく、もっともっと大きな望遠鏡を使うことが私たちにはできます。
 それは、自然がつくってくれる望遠鏡、すなわち銀河団による「重力レンズ望遠鏡」です。銀河団の質量分布が正確にわかっていれば、それによる重力レンズの性能や性質がわかり、光学レンズと同じように望遠鏡として使うことができるのです。
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単行本p.195

 重力レンズ望遠鏡による暗黒物質と暗黒エネルギーの観測について、その意義と概要、そして今後の展望を解説します。



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