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『モーアシビ 第34号』(白鳥信也:編集、川上亜紀・小川三郎・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第34号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第34号 目次]
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『神無月に (2017年10月)』(北爪満喜)
『沼に水草』(小川三郎)
『折り返す、七月』(川上亜紀)
『境界』(森ミキエ)
『護岸』(島野律子)
『美しい時間』(森岡美喜)
『ノウサギとテン』(浅井拓也)
『とぜん』(白鳥信也)

散文
『熊楠をさがして熊野古道を歩く』(サトミセキ)
『福次郎さんと砂防ダム』(平井金司)
『灰色猫のよけいなお喋り 二〇一七年夏』(川上亜紀)
『風船乗りの汗汗歌日記 その33』(大橋弘)
『よくぞ飽きずに』(清水耕次)

翻訳
『幻想への挑戦 8』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com


『神無月に (2017年10月)』(北爪満喜)
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神無月に
大空の目は白い巨大な渦をともなって近づいてくる
多雨の朝 風はまだ
砂の上のみずたまりに
雫のざわめきが歓声となって昇るここ
雨の流れの広がりは 深まりうねり川となり
速まり削り合流する
砂上の水は
いつか遥か高見から見下ろしたシベリアの大河のうねり
ミクロになって一粒の砂に捉まり
河岸で雨水の流れを見つめる
見飽きなかった子どもの私が笑いだすと
声に誘われ 巨大な渦の雲の目をくぐり
笑いながら駆けてくる限りない天を守る童子の気配が
解き放たれてくる
――――
モーアシビ第34号p.3

 雨の流れの広がりは 深まりうねり川となり/速まり削り合流する
 視点の移動変化、言葉のリズム、それらを巧みに活かしながら、台風接近にともなう気配やざわめきを描き出した作品。


『沼に水草』(小川三郎)
――――
私の腹に広がる波紋は
妊婦のそれにも似ているもので
しかし私の痛みではなく
ふくらはぎから
沼へと抜けた。
泥がごくりと喉を鳴らして
水がむんと匂い立った。

私はまるで力が抜けて
なにを思って生きてきたのかいつからここに来ていたのかさえ
別段気にならなくなった。
上下左右も硬い柔いも
ひとつのものに感じられた。
――――
モーアシビ第34号p.10

 泥がごくりと喉を鳴らして/水がむんと匂い立った。
 詩誌『Down Beat』でもおなじみ、小川三郎さんの変身譚。


『折り返す、七月』(川上亜紀)
――――
わたしは白い紙を折る
山折り 谷折り 折り返す
色々な折り紙のことはもう忘れているので
できあがるのは不格好な鶴や四角い箱だけ

それでもまた折り返し
      折り返して
         戻ってくるこの場所

鶴は空に飛ばしてしまって
箱には豆を入れておこうか

七月の色を探せ
残された時間のために

どこかで絹糸を燃やすにおいがして
振り返るわたしの頭越しに最初の太陽の光が届く
――――
モーアシビ第34号p.14

 七月の色を探せ/残された時間のために
 七月初日。年の半ばを過ぎた折り返し地点にいる、そのことの切実さが胸を打つ作品。


『灰色猫のよけいなお喋り 二〇一七年夏』(川上亜紀)
――――
 こんどの自分の治療が終わったらやりたいことっていうのを飼い主はノートにわざわざ書き出していたからこのあいだちょっと覗いてみたら「ピンクのシャツを着たい」とか「阿佐ヶ谷カフェめぐり」とかそんなどうでもいいことばっかり。ボクは偉大な詩人や作家の猫として後世に語り継がれることはまるでなさそうだから、今のうちに自分で語っておくことにしたの。人生は百年、猫生は二十年の時代。飼い主は「阿佐ヶ谷の黒猫著棒茶房のマスターが飼っていた黒猫さんは二十歳までとても元気だったそうだよ」なんてボクに言うけど、飼い主にももう少し頑張ってもらわなくちゃ。だってボクのカリカリと缶詰めを買いに行くのは飼い主の仕事なんだから。ほらガンバレ飼い主、ゴハンは寝て待つ!ピンクのシャツでも何でも好きにすればいいのよまだ若いんだしね。
――――
モーアシビ第34号p.58

 ほらガンバレ飼い主、ゴハンは寝て待つ!
 作者の飼い猫が大いに語る、来歴、日々の生活、そして命。


『風船乗りの汗汗歌日記 その33』(大橋弘)
――――
 日曜日、日曜日。でも掃除が終わらないので実家に。父が買ったサイクロン式「的」掃除機がヒジョーに扱いにくい。本体もパイプもシースルーなのでごみの溜まり具合がわかるのはいいが、吸入力が弱い。長いパイプ部分から本体に肝心のごみが吸い込まれていかない。そういうわけでゴキブリの死骸が「通路」でぐるぐる回転している様をいつまでも見せつけられるのだった。俺はこの掃除機を初めて使うので、ゴキのやつは勝手にここまで入り込んで死んだか、相当以前に父がやったのかのいずれかだ。家の中で跳梁跋扈していたバチじゃとは思うが、そう思うことも含めて失笑を禁じ得ない。もっとも、回転され過ぎてしだいに死骸がバラバラになりはじめ、刻一刻と世の無常が明らかになってきたので止めると、御器被りの死骸はパイプ下部で倒立するような形態に。この掃除機を使うのはやめ。
――――
モーアシビ第34号p.61

 「坂道をいろいろ殺しあいながら下りゆくかな秋のゆうぐれ」
 「やばい。でもゆっくりやろうおれたちもしょせんは割れるビスケットだし」
 生活の細部を描く身辺雑記と短歌の組み合わせ。やたらと本を買うのがちょっとうらやましい。



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