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『死んでしまう系のぼくらに』(最果タヒ) [読書(小説・詩)]

 「意味付けるための、名付けるための、言葉を捨てて、無意味で、明瞭ではなく、それでも、その人だけの、その人から生まれた言葉があれば。踊れなくても、歌えなくても、絵が描けなくても、そのまま、ありのまま、伝えられる感情がある。言葉が想像以上に自由で、そして不自由なひとのためにあることを、伝えたかった。」(『あとがき』より)

 人に知られないよう、親に見られないよう、隠れて必死にノートに書きつけた、苦しい苦しい切ない感傷、痛々しい思い込み。いわゆるポエムの可能性をまざまざと見せつける鮮烈な詩集。単行本(リトルモア)出版は2014年9月です。


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遅くでいいから、愛してほしかった。わたしがしんでも、わたしが目の前に永遠にあらわれなくても、愛してほしかった。どこかでラッパの音がする。きみのほほに風がたどりつく。そのとき、どこにもいない、知らないわたしのことを、ぎゅっとだきしめたくなるような、そんな心地に一生なって。愛はいらない。さみしくないよ。ただきみに、わたしのせいでまっくろな孤独とさみしさを与えたい。
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 『夢やうつつ』より


 思春期の、全身からあふれるような過剰な感傷を懸命に書きつけた、当人にとって切実きわまりない言葉。いわゆるポエムと呼ばれるものに憧れます。いいなあ、と思う。ちゃんと、ポエムを読みたい。

 そして今、願いはかないました。極上のポエム集が出版されたのです。正確にはポエムを題材とした詩集ということになるのでしょうが、ポエムを前にして細かいことはもういいんですよ。あふれる想いと言葉がぎゅっと詰まった一冊が、本屋で買えるのですよ。


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しにたくなること、夢を失うこと、希望を失うこと、みんな死ねっておもうこと、好きな子がこっちを向いてくれないことが、彼女の不誠実さゆえだとしか思えないこと。当たり前なのかもしれない。
きみはそれでもかわいい。にんげん。生きていて、テレビの影響だったとしても、夢を見つけたり、失ったりしていて。
きみはそれでもかわいい。
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 『きみはかわいい』より


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ビル、海、山、光のさす窓のさっし、カーテン、ゆれることでみえる風や、わたしたちの肉体。大丈夫、こんなものはいつだって、数億年で作り直される。きみは死んだらおしまいだから、だから私は何度だって、死ぬなっていうし、世界を憎もうっていうよ。
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 『2013年生まれ』より


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才能は死のまえでは無力なの。あしたがこないからその人はもうなにも作れないの、思わないの、感情がわかないの。雨の日なのか晴れの日なのかも気づかないで、ただぽかんと過去があるの。そのひとが昔にいたという過去だけになり、まるで丸い円を、運動場に書いた、ただそれだけの過去と同じになる。
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 『LOVE and PEACE』より


 多かれ少なかれ誰もが感じたことのある感傷を、変にひねらずごくストレートに書いてあるのに、これが、めちゃめちゃ鮮烈。何これ。これが、ポエム。

 さびしい、せつない、好き。そういった言葉をあえて使わず、それらと結びついた感情を切々と表出してみせたかと思うと、ときにそういった言葉をぽんと無造作に置いてみたり。翻弄されます。


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「きみのいっていることがなにひとつわからない」と言われることに、さみしさは感じても恥ずかしさを感じる必要はなくて、あおい星がぜんぶ、わたしのことを毎日、理解してくれない。食べたいもの、見たいもの、すべて裏切られて浮かぶ、白い雲のことを思う。愛されたいと叫ぶことで無意味になるたくさんの本当の欲求、お金が欲しい、認められたい、あたたかいおふとんのなかで飽きるまで眠りたい。
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 『孤独ドクドク』より


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愛情といえばなにもかも許されるのは、愛情がうつくしいという前提があるから。絵の具をふんだんに使って、てんてんで光を表現したその表面と、ゆらゆらと不規則に、動くその愛の定義はただの虫みたいだったけれど、ふみつぶされることはない。殺虫剤で死ぬのに。
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 『お絵かき』より


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美しい人がいると、ぼくが汚く見えるから、
きみにも汚れてほしいと思う感情が、恋だとききました
人が死んだニュース 飛んでいく蚊
愛について語る人間は、
なにか言い訳がしたくて仕方がないだけ。
死ねっていう声を、録音させてください
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 『カセットテープの詩』全文引用


 こうして書き写しているだけで感傷的な気持ちになってしまいます。思春期、とーの昔に終わってて、正直、助かった。でも今、まさに思春期の渦中にいる人は救われないので、そういう人はどうか自分でもポエムを書いてみて下さい。どう書けばいいかは、本書を読めば、たぶんわかります。作品の並びも親切だし、「あとがき」にはポイントがきちんとまとめられています。ポエムの教科書としてもお勧めです。


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私達のこのセンチメンタルな痛みが、疼きが、
どうかただの性欲だなんて呼ばれませんように。
昔、本で読んだ憂鬱という文字で、かたどられますように。
夜のように私達の心は暗く深く、才能豊かであるように。
くずのようだと友を見ています。
軽蔑こそが、私達の栄養。
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 『文庫の詩』全文引用


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死者は星になる。
だから、きみが死んだ時ほど、夜空は美しいのだろうし、
ぼくは、それを少しだけ、期待している。
きみが好きです。
死ぬこともあるのだという、その事実がとても好きです。
いつかただの白い骨に。
いつかただの白い灰に。白い星に。
ぼくのことをどうか、恨んでください。
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 『望遠鏡の詩』全文引用


タグ:最果タヒ
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