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『SFマガジン2014年11月号 特集:30年目のサイバーパンク』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年11月号はサイバーパンク特集ということで、海外短篇を3篇、翻訳掲載してくれました。


『パパの楽園』(ウォルター・ジョン・ウイリアムズ、酒井昭伸訳)

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「この計画はね、莫大な利益につながる可能性があるのよ。世の中の人々は完璧な子供を育てたいの。悪い影響から隔離して、暴力と無縁の状態で育てたいの」
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SFマガジン2014年11月号p.32

 おとぎの国めいた無邪気な世界で家族と一緒に楽しく暮らしている少年。だが、次第に「妹」の様子がおかしくなってゆく。外見は変わらないのに、自分より早く成長してゆくように思えるのだ。

 徹底的に無害化された生育環境に閉じ込められた子供の悲劇。極端な育児パターナリズムがサイバーテクノロジーと結びついたときに引き起こされる事態を風刺した短篇です。


『水』(ラメズ・ナム、中原尚哉訳)

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 まわりからはその他さまざまな広告が、通行人たちのネットワーク化された脳に働きかけている。(中略)利益獲得可能性の最大化は、現代のミネラルウォーターのボトルにとってつねに最優先の課題なのだ。
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SFマガジン2014年11月号p.40、44

 身辺のあらゆるモノがセンサと無線アクセス機能を備え、自らを売り込むスマート商品と化した社会。脳インプラントには全感覚没入タイプの広告が絶え間なく流れ込み、人々の欲望をひたすら刺激し続ける。広告を遮断するためには、莫大なお金を払わなければならないのだ。

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なにかまちがってると思わない? インプラントを安価に手にいれるために、脳に広告を挿入することを承諾するなんて
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SFマガジン2014年11月号p.38

 IoT技術によるスパム広告に支配された未来社会を描く短篇。メガコーポに対して攻撃を仕掛けるスーパーハッカーというプロットは古めかしいサイバーパンクそのものですが、現代的な問題意識と軽快なノリで大いに楽しめます。今回の翻訳作品のうちでは個人的に最もお気に入り。


『戦争3.01』(キース・ブルック、鳴庭真人訳)

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 その時、戦争ははじまった。そしてその時終わった。
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SFマガジン2014年11月号p.55

 勃発から終戦までわずか数ミリ秒で完結した現代の「戦争」。しかし、それは誰にとっての戦争なのか。本当に私たちは敗北したのだろうか。

 誰もが高度にパーソナライズされた拡張現実を生きている時代の「戦争」のあり方を通じて、フィルタリングされた情報のみに接することからくる現実感覚の希薄化や偏見の先鋭化といった現代の病理を風刺した短篇。


タグ:SFマガジン
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