『土漠の花』(月村了衛) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]
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通信手段はすべて奪われている。敵の急襲に連絡する暇さえなかった。真相は闇の中だ。相手は全部計算の上でこの国際的暴挙を実行したのだ。
--------(中略)
武器は残弾数九の89式小銃一挺のみ。ナイフの一本もない。通信機も携帯端末もすべて取り上げられた。しかもいつまた敵が襲ってくるか分からない。
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単行本p.23、36
『機龍警察』シリーズを始めとして、『一刀流無想剣 斬』『黒警』『コルトM1851 残月』など痛快娯楽小説を次々に発表している著者による、ソマリアで紛争に巻き込まれた自衛隊員の壮絶な戦いを描いた長篇。単行本(幻冬舎)出版は、2014年9月です。
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それがアフリカの現実だ。最早他人事でもなんでもない。自分はこの地で、彼らと同じく、大切な人々を失った。皮肉なことに自分は----日本の自衛隊は、今初めて彼らの痛みを共有した。逆に言うと、分かっているつもりでいながら、これまではすべてが他人事でしかなかったのだ。
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単行本p.168
紛争地ソマリアで捜索救助任務についていた自衛隊の分隊が、偶然に現地の女性を保護したことから猛烈な攻撃を受ける。急襲を生き延びたわずか数名の隊員は、女性を連れたまま逃避行を続けるはめに。なぜ、どうして救援が来ないのか。このまま自力で拠点まで辿り着かなければならないのか。
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もしや----もしや自衛隊は自分達を見捨てたのではないだろうか。もしくは、見捨てざるを得ない理由があるのか。
自分達の知る由もないどこかで、そんな決定が下されている----想像するだに恐ろしかった。
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単行本p.108
つのる疑心暗鬼。だが思い悩む余裕もなく、背後から、口封じのために彼らを殲滅する必要がある敵兵たちが追ってくる。執拗な攻撃、その圧倒的な戦力差。通信手段も、移動手段も、武器も、水も食糧も医薬品もない彼らの前に無情に広がる土漠。
「土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える」
自衛隊がはじめて直面する実戦という極限状況の中で、全員の覚悟が試されようとしていた……。
というわけで、いつもの通り、圧倒的な面白さを誇るジェットコースター小説です。とにかく展開がスピーディで、始まって10ページ進まないうちに事件が起き、すぐに銃撃戦、格闘戦、カーチェイス、爆発。終わらない危機また危機。薬莢地を埋め尽くし、砲撃大地を揺るがす。はたして徒手空拳の彼らに、この地獄を生き残るすべはあるのか。
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できれば実行せずに済ませたかった危険な賭けだ。しかし最悪をはるかに通り越した現在の状況下では他に手はない。
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単行本p.263
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何かを躊躇していたら死ぬ。それだけは確信できた。
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単行本p.251、
ぎりぎりまで追いつめられたわずか数名の自衛隊員が、ソマリア民兵と国際テロ組織戦闘員から構成された敵の大集団を、真正面から迎え撃つ。
どう考えたって荒唐無稽、しらけてしまいかねない展開なのに、ツボを心得たキャラクター造形、巧みに張られた伏線、滑らかな視点移動などのテクニックを駆使して、そうと感じさせないまま、先へ先へと駆り立ててゆく手腕には舌を巻きます。すごい。
ここぞという場面で繰り返される「土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える」という言葉が、ラストシーンで、別の、もっと大きな意味を与えられたときには、熱い感動が読者を包むことに。
というわけで、集団的自衛権の行使容認により自衛隊が海外で実戦に参加する可能性が高まっている現在、これまでもハズレのない面白さで読者を確実に満足させてきた月村了衛さんがタイムリーな題材に挑んだ長篇です。話題の『機龍警察』シリーズが気に入った方はもちろん、痛快な軍事アクション小説を求めている方すべてにお勧めします。
通信手段はすべて奪われている。敵の急襲に連絡する暇さえなかった。真相は闇の中だ。相手は全部計算の上でこの国際的暴挙を実行したのだ。
--------(中略)
武器は残弾数九の89式小銃一挺のみ。ナイフの一本もない。通信機も携帯端末もすべて取り上げられた。しかもいつまた敵が襲ってくるか分からない。
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単行本p.23、36
『機龍警察』シリーズを始めとして、『一刀流無想剣 斬』『黒警』『コルトM1851 残月』など痛快娯楽小説を次々に発表している著者による、ソマリアで紛争に巻き込まれた自衛隊員の壮絶な戦いを描いた長篇。単行本(幻冬舎)出版は、2014年9月です。
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それがアフリカの現実だ。最早他人事でもなんでもない。自分はこの地で、彼らと同じく、大切な人々を失った。皮肉なことに自分は----日本の自衛隊は、今初めて彼らの痛みを共有した。逆に言うと、分かっているつもりでいながら、これまではすべてが他人事でしかなかったのだ。
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単行本p.168
紛争地ソマリアで捜索救助任務についていた自衛隊の分隊が、偶然に現地の女性を保護したことから猛烈な攻撃を受ける。急襲を生き延びたわずか数名の隊員は、女性を連れたまま逃避行を続けるはめに。なぜ、どうして救援が来ないのか。このまま自力で拠点まで辿り着かなければならないのか。
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もしや----もしや自衛隊は自分達を見捨てたのではないだろうか。もしくは、見捨てざるを得ない理由があるのか。
自分達の知る由もないどこかで、そんな決定が下されている----想像するだに恐ろしかった。
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単行本p.108
つのる疑心暗鬼。だが思い悩む余裕もなく、背後から、口封じのために彼らを殲滅する必要がある敵兵たちが追ってくる。執拗な攻撃、その圧倒的な戦力差。通信手段も、移動手段も、武器も、水も食糧も医薬品もない彼らの前に無情に広がる土漠。
「土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える」
自衛隊がはじめて直面する実戦という極限状況の中で、全員の覚悟が試されようとしていた……。
というわけで、いつもの通り、圧倒的な面白さを誇るジェットコースター小説です。とにかく展開がスピーディで、始まって10ページ進まないうちに事件が起き、すぐに銃撃戦、格闘戦、カーチェイス、爆発。終わらない危機また危機。薬莢地を埋め尽くし、砲撃大地を揺るがす。はたして徒手空拳の彼らに、この地獄を生き残るすべはあるのか。
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できれば実行せずに済ませたかった危険な賭けだ。しかし最悪をはるかに通り越した現在の状況下では他に手はない。
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単行本p.263
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何かを躊躇していたら死ぬ。それだけは確信できた。
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単行本p.251、
ぎりぎりまで追いつめられたわずか数名の自衛隊員が、ソマリア民兵と国際テロ組織戦闘員から構成された敵の大集団を、真正面から迎え撃つ。
どう考えたって荒唐無稽、しらけてしまいかねない展開なのに、ツボを心得たキャラクター造形、巧みに張られた伏線、滑らかな視点移動などのテクニックを駆使して、そうと感じさせないまま、先へ先へと駆り立ててゆく手腕には舌を巻きます。すごい。
ここぞという場面で繰り返される「土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える」という言葉が、ラストシーンで、別の、もっと大きな意味を与えられたときには、熱い感動が読者を包むことに。
というわけで、集団的自衛権の行使容認により自衛隊が海外で実戦に参加する可能性が高まっている現在、これまでもハズレのない面白さで読者を確実に満足させてきた月村了衛さんがタイムリーな題材に挑んだ長篇です。話題の『機龍警察』シリーズが気に入った方はもちろん、痛快な軍事アクション小説を求めている方すべてにお勧めします。
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