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『魔女の世界史』(海野弘) [読書(オカルト)]

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 20世紀の新しい魔女の運動が大きな大きな波となるのは、1970年代である。ニューエイジ、フェミニズム、ネオペイガニズム(新異教主義)などの中で、新しい魔女のカルト、結社が活発に動きはじめる。
 新しい魔女運動は、パンク・ロック、ゴシック、ファッション、SF、コミックなどへと波及し、サブカルチャー、カウンター・カルチャーの世界をつくり上げる。
--------(中略)
 それらのさまざまな現象は、これまでばらばらに扱われてきた。私はそれを〈魔女カルチャー〉として一つにくくってとらえてみたい。
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Kindle版No.169、174


 19世紀末に現れた新しい魔女のイメージは、フェミニズムやニューエイジ、近代オカルティズムとも連動しながら、70年代に新魔女運動(ネオペイガニズム)として花開いた。その影響は〈ゴス〉文化を通じて現代にも息づいている。現代〈魔女カルチャー〉の起源と変遷を追った一冊。新書版(朝日新聞出版)出版は2014年7月、Kindle版配信は2014年9月です。


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 かつて魔女はおぞましい、醜悪なイメージをして描かれていた、それはある紋切り型の姿の繰り返しにすぎなかった。だが〈世紀末〉は、そのおぞましさを描きながらも、誘惑的で、魅惑的な姿として登場してくるのだ。
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Kindle版No.164


 近代オカルティズム、ニューエイジ思想、フェミニズム運動、ネオペイガニズム、SFファンダム、パンクロック、〈ゴス〉カルチャー。これまで個別に(そしてしばしば男性中心に)語られてきた様々なサブカルチャー、カウンターカルチャーの歴史を、それらを相互に結びつけてきた女性中心の異端運動〈魔女カルチャー〉を中心に眺めてみる力作。

 全体は4つの章から構成されています。

 最初の「第一章 世紀末----魔女の図像学の集成」では、19世紀末に魔女の図像学が形成されたことを解説します。ここに現代〈魔女カルチャー〉の起源が置かれるのです。


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写真という複製的、視覚的メディアと汽車、汽船といった交通技術によって、世界中の、あらゆる時代のもののイメージを集めることが可能となった。
--------(中略)
 それによって、19世紀末に、魔女の図像学が形成された。そのことがなにを意味するかというと、世界中の魔女のイメージを、画家やデザイナーが自在に引用して使えるようになり、〈魔女〉は、世界の共通の視覚言語として表現できるようになったのである。
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Kindle版No.338、342


 画一的で紋切り型の古くさい森の老婆から、例えば男を誘惑して破滅させる美女といった新しいイメージへ。様々な芸術や文学に題材として取り上げられた新しい魔女のイメージは、やがてキリスト教文化圏においてそれまで抑圧され無視されてきた女性たちが、自らを解放するための武器となってゆきます。

 続く「第二章 新しい魔女運動」は本書の中核となるパートで、1970年代の新魔女運動の大きな流れを解説します。

 まず、フェミニズム、魔女研究、近代アートという三本の糸が合わさって下地が作られてゆき、やがてウーマン・リブ(女性解放運動)が新しい魔女を生み出してゆきます。


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60年代の反体制運動、ビート・ジェネレーション、学生の反乱、ヒッピー運動の中でフェミニズムが点火され、魔女が目覚めるのである。
--------(中略)
1970年代の〈魔女〉はフェミニズム(政治的で、社会に働きかけ、オープンである)と新魔女運動(閉鎖的な信仰グループ)の両極とその中間という三つのグループに大別される。中間グループは学術、芸術を通して両者をつないでいる。
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Kindle版No.1222、1310


 これまで別々の文脈で語られてきたフェミニズム運動と新魔女運動。両者の間にフェミニストアートを置いてみると二つの運動が切り離せないほど密接につながっていることが明らかになる、という指摘には強い説得力が感じられます。

 そしてまた、新魔女運動とサブカルチャーとの結びつきについても解説されます。


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 歴史的に暴力による傷(肉体的であり精神的である)に悩んできた女性は、〈癒し〉を求めていたのである。
 かつてそのような〈傷〉は、古代の女神、中世の魔女によって癒されてきた。そして〈ニューエイジ〉において、魔術的な癒しの復活が望まれたのである。
--------(中略)
〈ニューエイジ〉は、1960~70年代のドラッグ・カルチャー、サイケデリック・アートなどのサブカルチャー、アングラ文化と重なっている。この雑多で曖昧なくくり方は、1970年代の魔女カルチャーがフェミニズムに接しつつ、もう一方でサブカルチャーに深く根を下ろしていることを明らかにしてくれる。〈魔女〉はサブカルチャーの中を縦横に飛びまわり、独自のカルチャーを形成していく。
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Kindle版No.1329、1336


 こうして、70年代には様々な魔女カルトが台頭します。それらの母体となったのは、近代オカルティズム秘密結社でした。


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 19世紀末の英国を中心とした秘密結社“黄金の夜明け団”はフリーメーソンや薔薇十字会など古くからの秘密結社の統一または混合であった。そしてここからさまざまなグループが分かれてゆく。最も過激なアレイスター・クロウリーは、ジェラルド・ガードナーに大きな影響を与え、ガードナーは新魔女運動(ネオペイガニズムまたはウィッカ)の先駆者となった。
--------(中略)
ウィッカのグループは〈ニューフォレスト・カヴン〉といわれ、第二次大戦下でひそかにつづけられていた。
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Kindle版No.1430、1455

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 もう一つの別なルートを開いたのはダイアン・フォーチュン(ヴァイオレット・ファース)であった。
--------(中略)
 1922年、ダイアン・フォーチュンは〈フラタニティ・オブ・インナー・ライト〉、内なる光の同胞団(内光協会)をつくった。このグループはイギリスでかなり大きくなり、いくつかに分裂した。その一つは〈ペイガン〉を名乗った。
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Kindle版No.1433、1438

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コ・メーソンズも新魔女術運動の起源の一つとなった。女性も入れるメーソンはアニー・ベザントによってフランスからイギリスにもたらされた。神智学にいたアニーは、ブラバツキー夫人の後継を争って、C.W.リードビーターに敗れたので、コ・メーソンズで活動した。
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Kindle版No.1441


 新魔女運動、ネオペイガンを中心に近代オカルト史を再整理してみると、これまでのオカルト史がいかに男性中心主義にとらわれていたかが痛感されます。

 個人的には、ネオペイガニズムとSFとの関係について、興味深く読みました。


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 SF文学の発達は、新魔女運動への大きな刺激となった。なぜなら、地球上の今の生活だけでなく、さまざまな別世界、パラレル・ワールドについて想像することは、今の生活のルールが絶対的ではなく、相対的であることを考えやすくしたからである。それは現実に縛りつけられていた想像力を解放した。
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Kindle版No.1600


 SFファンダムから実際に異端教会が作られ、それが新魔女運動の様々なグループを結びつけていた、といった話には、どきどきさせられます。


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最初はSFマニアの集まりだったが、1968年、ゼルたちは、ガードナー派のボビー・ケネディ、キャロライン・クラークなどに出会い、クラフトのシステムを学び、ウィッカとハインラインのリバタリアン哲学を結びつけ、勢力を広めた。彼らの関係誌“グリーン・エッグ”は1971年から76年にかけて、ネオペイガンの交流誌として読まれた。
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Kindle版No.1576


 ウィッカとハインラインという組み合わせにはびっくり。新魔女運動があらゆる周辺文化を吸収してゆくそのパワーが印象的です。こうして、巨石遺跡を崇めるドルイド復興運動、北欧神話のオーディンを崇拝するオーディニストなど北方ゲルマン系ネオペイガン、といった具合に、どんどん「習合」して多様性の幅を広げてゆきます。


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 ネオペイガンは、あくまで、ヨーロッパ、アメリカを枠づけてきたキリスト教神学への反抗であった。
 ルイスが指摘しているのは、1970年代のネオペイガンは、自分の派以外の、反キリスト教勢力の組織と連帯する道を開いたことである。それまでの薔薇十字やフリーメーソンなどのオカルト派は、それぞれ孤立し、連帯することはなかった。
--------(中略)
〈ニューエイジ〉の時代には、さまざまな団体、組織、グループがあらわれたが、メンバーはかなり重なっていた。つまり一人であちこちの会に入っているケースが多かったのである。
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Kindle版No.1679、1684


 複数の秘密結社やカルトを掛け持ち活動してもOK、というかむしろそれが普通。その緩さというか、おおらかさというか、コミュニティと連帯を重視する姿勢には驚かされます。

 その後、シャーマニズム(託宣、憑依、チャネリング)が加わり、またヴードゥーなど南米民間宗教が取り入れられたりと、新魔女運動は発展というか混沌を深めてゆくのですが、このあたりで次の章の紹介に進みたいと思います。

 「第三章 ゴス----現代の魔女カルチャー」では、現代の魔女カルチャーとしての〈ゴス〉に焦点が当てられます。


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 21世紀には、〈ゴス〉といわれる、雲のように曖昧なサブカルチャーが漂っている。それは私の考える〈魔女カルチャー〉の核ともいえる現象なのである。
--------(中略)
私は〈ゴス〉を、新魔女運動が、サブカルチャー、さらにはポップ・カルチャーに展開されたものと考えている。
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Kindle版No.1783、1946


 現代の新魔女運動、〈ゴス〉はどのような歴史を持っているのでしょうか。


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 グラム・ロックは、セックスとジェンダーの常識を覆えそうとした。〈ゴス〉は、パンクの中でも、グラムのその点に強く反応した部分であり、その意味で、1970年代の新魔女運動の中にあったのである。
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Kindle版No.1868

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〈ゴス〉は、1970年代のパンクから出発するが、一旦消えかけて、1990年代後半からインターネットというニューメディアの時代の中で復活するのだ。
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Kindle版No.1847

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〈ゴス〉は雲のように輪郭が曖昧で、掴みどころがない。融通無碍でなんでも吸収できる。その特徴によって、一方では、サブカルチャー的、アングラ的で、反主流的なところがある。たとえば、性の区別も曖昧で、両性的、同性的、倒錯的で、妖しい魅力を放っている。しかしその一方、サブカルチャーであるのに、商業化、大衆化されて、メインストリームと対抗するような一般的人気を博す面もある。
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Kindle版No.1850

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それでも〈ゴス〉は反体制的なサブカルチャーであることを深く意識している。なぜなら〈ゴス〉は魔女の文化であり、男性中心のメインストリームへの反抗の姿勢を持っている。
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Kindle版No.1859


 こうして、インターネットを利用して復活した現代の新魔女運動である〈ゴス〉は、カウンター・カルチャーでありながら大衆文化に強い影響を与えて広がってゆきます。新魔女運動は消えたのではなく、今もなお発展し続けているのです。

 最終章「第四章 新魔女100シーン」では、文学、アート、ファッション、ゴスなど、様々なカルチャーを代表する世界中の「現代の魔女」を100名取り上げて紹介します。本書を読んで〈魔女カルチャー〉に興味を持った方は、ここを出発点にして学んでゆくとよいでしょう。

 なお、100名のうち、人形作家として取り上げられているのは一人だけです。


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〈人形〉はゴスの重要なアイテムの一つである。人の形をした人でないものは、西洋人形からロボットまで、超自然的なものへの想像をかきたてる。可愛いが怖い人形が夢魔のように彷徨っている。パラボリカ・ビスで開かれた林美登利個展でもそのような異形人形が見られた。あどけない女の子の唇が針金で閉じられている。「ドリーム・チャイルド」と題されている。
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Kindle版No.2306


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