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『おぞましい二人』(エドワード・ゴーリー、柴田元幸:翻訳) [読書(小説・詩)]

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一晩の大半を、二人はさまざまなやり方で子供を殺すことに費やした。
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 1960年代の英国で実際に起きた、五人の子供が殺された事件を題材にした寒々しい絵本。原著の出版は1977年、翻訳版絵本(河出書房新社)出版は2004年12月です。

 見開き右ページにイラスト、左ページに原文(英語)と日本語翻訳が掲載される、という構成の絵本です。絵はすべてモノクロ。異様に細かい極細の短線が常軌を逸した密度でびっしり描き込まれ、光景全体が影に覆われているような寒々しい印象を与えます。

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自己啓発協会主催の、十進法の害悪をめぐる講演会で二人は出会い、たがいに似た者同士であることを一目で悟った。
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その年の秋、二人は自分たちの一生の仕事に乗り出すことに決めた。
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 主人公は、いわゆる精神病質者であるハロルドとモナ。二人は共謀して子供を殺すようになります。淡々とした文体でそっけなく書かれた文章が、内容の不穏さを印象づけます。

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一晩の大半を、二人はさまざまなやり方で子供を殺すことに費やした。
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その後の二年間で、さらに三人の子供を殺したが、どのときも一番最初のときほど胸が高まりはしなかった。
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 実際の事件では、犠牲者は五名。それなのになぜ、さらに三人(three more)、なのでしょうか。原文を見て、一番最初(the first one)、二年間(two years)、と呼応させるためだと気づいて、とても嫌な気分になりました。

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やがて四月のある日、市電に乗っていて、ハロルドのポケットから何枚かのスナップ写真がこぼれ落ちた。
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二人は同じ車で病院に連れていかれたが、その後二度と顔を合わせることはなかった。
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 殺害シーンも、写真の内容も、語られないし、絵にも描かれていません。明らかにされないその光景を、読者は自分で想像することになります。

 うすら寒い物語、救いのない結末。内容そのものは、快楽殺人、猟奇殺人事件としてはいっそ凡庸といえる定型的なものですが、冷淡な文章と絵の暗さから、一種異様な重苦しさが伝わってきます。

 子供が読めばトラウマもの。正直、子供に読ませたい絵本だとは言いにくい一冊です。絵本という形式をとった大人のための文学作品というべきでしょう。読了後、裏表紙をじっと見ていると、次第に気が変になってゆくような心地がします。

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モナは著しく衰え、生涯の大半、ひたすら壁の染みを嘗めて過ごした。
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八十二歳で、あるいは八十四歳でモナは死んだ。
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タグ:絵本
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