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『プラスマイナス 130号』 [その他]

 『プラスマイナス』は、詩、短歌、小説、旅行記、身辺雑記など様々な文章を掲載する文芸同人誌です。配偶者が編集メンバーの一人ということで、宣伝を兼ねて最新号をご紹介いたします。

[プラスマイナス130号 目次]

巻頭詩 『発掘』(深雪)、イラスト(D.Zon)
詩 『川花戸』(島野律子)
随筆 『福の生まれるところらしい』(島野律子)
詩 『堀のなかの扉』(島野律子)
詩 『百花繚乱』(多亜若)
詩 『くぐる腕を出して』(島野律子)
詩 『風の声』(琴似景)
詩 『アンチエイジング』(深雪)
随筆 『一坪菜園生活 十八』(山崎純)
詩 『大阪のおばちゃん』(深雪)
随筆 『香港映画は面白いぞ 130』(やましたみか)
イラストエッセイ 『脇道の話 69』(D.Zon)
編集後記
「あのときあのひと」 その3 琴似景

 盛りだくさんで定価300円の『プラスマイナス』、講読などのお問い合わせは以下のページにどうぞ。

目黒川には鯰が
http://shimanoritsuko.blog.so-net.ne.jp/


タグ:同人誌
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『世界一のトイレ  ウォシュレット開発物語』(林良祐) [読書(教養)]

 家庭における温水洗浄便座の普及率は71パーセント。今やすっかり日本人の生活に馴染んだ「温水でお尻を洗う」という習慣。それを支えてきた技術はどのように開発されたのか。TOTOの技術者が語るウォッシュレット開発の現場。新書(朝日新聞出版)出版は2011年9月です。

 「おしりに当って快適に感じる温度は何度か。開発者たちは実験室にこもり、お湯の温度を0.1度ずつ上げながらおしりにお湯を当て続けた。(中略)1日16時間、交替でデータを取り続けた」(新書p.18)

 「角度は43度であることが導き出された。どんなおしりでもしっかりお湯が届き、かつ、おしりにぶつかったお湯がノズルにかかりにくいという、まさに「黄金律」であることがわかったのだ」(新書p.18)

 簡単に作れそうな気がする温水洗浄ですが、やはり技術開発というのは厳しい。水温コントロール、耐久性、衛生面、もちろんコスト。私たちがちゃーっと気持ちよくお尻を洗うために、こんな苦労を重ねていたとは。

 本書はウォッシュレット開発の歴史を軸に、トイレ文化の創造という理念をどのように追求してきたのかを、TOTOの技術開発現場にいた技術者が語ってくれる一冊です。

 入社して初めて関わった給湯器の開発から、米国での文化の違いによる苦労話まで、著者自身の思い出。サイホン、サイホンセット、フラッシュバルブ、シーケンシャルバルブなど便器の基本技術の解説。便器の形態がどのように進化してきたかの図解。読み進めるうちに、便器の改良がいかに「生活の質」を高めるかが自然と理解できます。それはまさに文化。

 「2002年、NAHBリサーチセンターが便器の洗浄性能のテストを行い、結果、TOTOの製品が1位から3位までを独占した」(新書p.81)

 世界一の性能を誇る技術も、生活習慣の違いのせいで米国ではなかなか受け入れられないという現実。挫折感を味わった著者は、「世界で通用する、革新的でスタイリッシュなウォッシュレットを作りたい」(新書p.100)という思いを胸に抱き帰国。そしてはじまる次世代ウォッシュレット開発への挑戦。

 ここ、燃えますね。

 「しっかりと当たる強い吐水と、水をセーブする弱い吐水を1秒間に70回以上繰り返して水玉を連射、2倍の洗浄力を可能にする洗浄方式が生まれた。これは「ワンダーウェーブ洗浄」と命名された」(新書p.108)

 「抗菌作用を持つ「光触媒タイル」の実用化に成功した。(中略)さまざまな材料の表面に分子レベルで水膜を形成する現象「超親水性」を発見、世界で初めて商品化する」(新書p.110)

 「7種類ほどの原料の組成を変えては実験を続け、半年のあいだに何と2000種以上もの試作品がつくられた。(中略)こうして、釉薬の上にもう一層、ナノレベルに平滑なガラス層を設けることで汚れをつきにくくした新素材「セフィオンテクト」が誕生した」(新書p.114)

 「数ミリ単位の試行錯誤が続き、通常、3~4回で完成する試作品の型枠を数十回も作り直してもらった。(中略)この洗浄方式は、幾重にも円を描いて、便鉢部分を洗う姿から、「トルネード洗浄」と命名された。そして、この技術は、のちのちさらなる節水型トイレの開発にとって、大きな基盤となってゆく」(新書p.118)

 さらに技術開発は「新ワンダーウェーブ洗浄」、「超節水4.8リットル洗浄便器」、「ツイントルネード洗浄」、「電解除菌水ノズル洗浄」、「ワイドビデ洗浄」と続いてゆきますが、もう何だか特撮ヒーローものの「必殺技特訓シーン」を連想させる迫力。高揚感を覚えずにはいられません。

 印象的なのは、女性開発者の活躍。IT業界だと技術開発の現場は男性が幅を利かせていることが多いのですが、そこは主要購買層が女性であるトイレ。女性技術者が最前線に立ちます。

 「ノズルが清潔だと言い張るのなら、舐められますか? 私たち女性は、舐めることができるくらいきれいじゃないと、清潔だと言わないんです」(新書p.156)

 「「おしり洗浄の水で目を洗えますか?」(中略)ビデは粘膜を洗うので、もっとやさしく洗わなければいけないということを表現した言葉だ」(新書p.160)

 ビデに関する男性開発者の甘い認識を叩きのめし、厳しく指導する彼女たちの活躍。かっこいい。

 というわけで、技術開発の現場における熱気と興奮が伝わってきます。普段あまり気にも留めないトイレ空間や便器に、これほどまでのハイテクと工夫が投入されていたとは。読了後、トイレに入る度に便器をしげしげと眺めてしまう、忘れがたい印象を残してくれる好著です。


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『使い分けるパソコン術  タブレット、スマートフォンからクラウドまで』(たくき よしみつ) [読書(教養)]

 タブレットPC、ネットブック、スマートフォン、クラウドサービス、SNS。次から次へと登場する新しいデバイスやサービス。使いこなし以前に何が何だか分からなくなって疲れてしまった方のために「こういう人にはこのデバイス/サービスは不要」と言い切ってくれる指南本。ブルーバックス新書(講談社)出版は2011年09月です。

 雑誌を読んでもネットを見ても、このデバイスは買いだ、このサービスはこう活用せよ、みたいな情報ばかりで、困ったりうんざりしたりしている方のため、デバイスやサービスの選び方、もっとはっきり言えば「自分には不要だと割り切る」ための考え方を説明してくれる指南本です。

 第1章では、iPadをはじめとするタブレットあるいはスレートは「誰にとって不要か」を解説します。「iPadで誰もががっかりさせられる点 -こんなこともできないの?」という見出しで、何が出来ないか、どういう人には向いてないか、ということが解説されています。

 第2章では、タブレットとネットブックのどちらを選ぶか、という話題。タブレットとネットブックを比較して、こういう人はタブレットではなくネットブックを選んだ方がいい、ということを指摘してくれます。

 第3章では、スマートフォンの話題。「本当に必要としている人がどれだけいるのか?」という見出しで、携帯電話とタブレットを持つのとスマホだけにするのではどちらが良いかという議論から、iPhoneとアンドロイドはそれぞれどんな人に向いているか、といった議論まで。

 第4章はレンタルサーバとクラウドサービスをどう使い分けるか、第5章はブログ/フェイスブック/ミクシィ/ツィッターをどう使い分けるか。それぞれのサービスの特性と、何に向いているのかを具体的に解説します。

 著者は福島県川内村に住んでおり、自宅は福島第一原発から25Km圏内。ツィッターから情報を集めつつ避難し、あちこちに離散した知人とはミクシィで連絡をとりあって、といった生々しい体験談を元に解説されており、迫力があります。

 良くも悪くも著者の事情や私見が前面に出されているため、内容そのものは役に立たない読者も多いかも知れません。しかし、デバイスやサービスとつきあってゆくための自分なりの方針を考える上で、参考になると思います。

 そもそも、デバイスやサービスは「自分が楽をするため」、「自分が幸せになるため」に存在するものですが、ややもすれば「使いこなすこと」それ自体が目的化して、そのために忙しくなったりイライラしたり時間を無駄にしたり、といった悲しいことになりがち。

 「自分にとってこのデバイス/サービスは不要」と割り切って、あえて無視するという姿勢も大切ではないかと考えさせられました。


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『気候工学入門  新たな温暖化対策ジオエンジニアリング』(杉山昌広) [読書(サイエンス)]

 こうしている間にも着々と進行している地球温暖化。CO2排出を抑制するための努力は間に合うのか。もし間に合わない場合、もはや人類に打つ手はないのだろうか。いや、実は最後の切り札が残されている。それがジオエンジニアリング、気候工学である。地球大気システムに人為的に介入して、温暖化に対抗するのだ。

 というわけで、本書は、新たな温暖化対策として議論されている気候工学についての解説書。その必要性、歴史、技術的説明、コストや課題、議論の概要まで、気候工学をめぐる状況と論争の全体像を包括的に示してくれます。単行本(日刊工業新聞社)出版は2011年5月。

 全体は10章に分かれています。

 まず最初の1章から3章では、気候工学の必要性と歴史が示されます。温暖化ガス排出を抑制しても温暖化が充分に緩和されるとは限らないことから、最後の手段として、あるいは保険として、気候工学の研究を進めておくべきであることが示されます。一方で、その実施、あるいは「実験」に対する慎重論も強いことが分かります。

 「地球温暖化の科学をまとめる国際機関である「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)も、次期報告書で気候工学を1つのテーマとして取り扱うことが決まった。(中略)CO2等の削減による対策が、危険な気候変動のリスクを避けるのに手遅れになる可能性が出てきたからだ」(単行本p.6)

 「気候工学の重要性を支持している科学者で、現時点での「実施」を支持している人はほぼ皆無であろう。現状の科学的知見では、効果や副作用などについて未解明な点が多数あり、不確実性が大きすぎるからである」(単行本p.23)

 続く4章から6章は、気候工学で検討対象となっている技術の概説です。大きく二つの方向があり、一つは太陽からの光を遮ることで地球を冷やす技術、もう一つは大気中の二酸化炭素を除去する技術です。

 太陽光遮断技術としては、宇宙空間に巨大な太陽光シールドを展開するといったSFファン大喜びの壮大なアイデアから、成層圏へのエアロゾル散布といったやろうと思えばすぐにでも実現できそうな技術もあります。

 大気中の二酸化炭素除去としては、鉄粉を散布して海洋プランクトンの活動を活性化しCO2吸収を加速してやる方法、化学プラントにより直接的に大気に含まれる二酸化炭素を吸着固定する方法などが試みられています。

 成層圏エアロゾル散布は驚くほどコストが安価で、大富豪なら個人資産で実現可能だとか、ローター船と呼ばれる特殊船舶1500台が海水を吸い上げて細かい霧にして空中散布することで、塩分が凝固し「雲の種」となって雲量が増加、温暖化を防ぐことが出来る、などなど、知らなかった話が次々と登場してわくわくさせてくれます。

 もちろん、うまい話ばかりではありません。

 「太陽放射管理を急に停止した場合、CO2の温室効果が急激に現れ、地球温暖化が非常に速いスピードで進行するようになる。これは「終端問題」と呼ばれる」(単行本p.72)

 例えば、成層圏エアロゾル散布をいったん始めたら数百年から数千年に渡って続けなければならず、途中で止めたら一気に破綻してしまうという、何だか薬物中毒みたいな副作用にしょんぼり。大気中の二酸化炭素濃度を下げる対策と合わせて実施しないと取り返しがつかないことになるわけです。

 7章から9章は、様々な気候工学技術のメリット・デメリットを総合的に評価し、どのように取り組むべきかについての議論にフォーカスします。問題点を解決するためにもどしどし研究すべしという立場の専門家もいれば、そのような研究はせっかくのCO2排出量抑制の努力に水を差しかねない、実験を試みるだけで地球環境に取り返しの付かないダメージを与えかねない、として反対する立場の専門家もいます。

 全くの余談ですが、ケムトレイル(政府や軍が空中に毒物をまいているという陰謀論)を語る文脈で、よく「温暖化対策と称して」という表現が出てきて、意味がよく分からなかったのですが、どうやらこの成層圏エアロゾル散布のことを指しているらしいということが本書を読んではじめて分かりました。なお、本書でもこれについてp.142の註釈10でちょっとだけ触れられています。

 最後の10章では、気候工学の議論や研究を社会がどのようにして管理すればよいのか、気候工学のガバナンスについて語られます。さらに巻末には、本格的に勉強したいという読者のために様々な資料が提示され、豊富な参考文献が付いています。

 文章や構成はやや堅めで、いかにも学術論文を連想させます。また沢山の情報を詰め込んでいるためか、余談や気晴らしといったものがなく、ひたすら生真面目に書かれており、読んでいて気疲れしてくる読者もいるかも知れません。

 ただ、それを差し引いても、今のところ日本語で読めるジオエンジニアリングの一般向け解説書が他にないということもあって、この技術やそれをめぐる論争に興味をお持ちの方にとっては必読の一冊と云えるでしょう。


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『奇跡なす者たち』(ジャック・ヴァンス) [読書(SF)]

 その魅力的な異世界構築の技で幾多の作家に影響を与えてきたSF界のグランドマスター、ジャック・ヴァンス本邦初の短篇集です。編集と翻訳は浅倉久志さん。単行本(国書刊行会)出版は2011年9月。

 これまで刊行されていなかったのが不思議な「ジャック・ヴァンス傑作集」です。1950年発表の『フィルスクの陶匠』から、1966年発表の『最後の城』まで、八篇の短篇が収録されています。

 さすがに50年代に発表された短篇はいかにも古色蒼然たる「骨董SF」と感じられますが、60年代発表の二篇、『月の蛾』と『最後の城』は、今読んでも新鮮です。

 『月の蛾』は、全住民が常に仮面を付けて素性を隠して生活し、言葉はすべて楽器の調べに乗せて儀礼的・様式的に語られるという、奇妙な異文化の星に赴任してきた駐在官の物語。

 極めて個人主義的で、他人に素顔をさらすのが最大のタブーという、この異文化が驚くほど巧みに語られます。読者が充分にこの文化風俗に慣れたところで、発生する奇怪な事件。外世界から侵入した犯罪者が、誰かを殺してその人物に成りすましたらしい。ところが、誰もが仮面をかぶっているため、被害者が誰なのか分からない。

 話の展開はミステリ風ですが、読者に推理の手かがりは与えられません。あくまで特殊な文化圏でないと成立しない奇妙な事件を楽しむという趣向でしょう。最後の痛快な逆転劇は、伏線の張り方も含めてお見事で、さすが代表作の一つだと感心させられます。

 『最後の城』はヒューゴー/ネヴィラ両賞受賞作品。人類の末裔たちが城にこもって暮らしている遠未来。労働や技術は全て奴隷化した異星種族に任せ、自分たちは貴族を名乗って優雅に暮らしていたが、あるとき技術担当の奴隷種族が反乱を起こす。

 次々と城が襲われ住民が殺されているという報を受けながらも、紳士たるものそのような下賤なことでうろたえて品位を落としてはならじとばかり、パーティやら催しやらを止めない貴族たち。

 反乱を鎮圧しようにも、奴隷なしでは機械のメンテナンスすら出来ず、武器を扱うことも出来ず、対策会議を開いては互いに名誉だ品格だと空疎な言い合いを重ね、そもそもなぜ反乱など起こしたのだ、けしからん、これは我々に対する侮辱ですぞ、などと被害者ぶって憤りを表明するばかり。

 やがて反乱軍が隣の城を落としたとの知らせが入り、ここがいよいよ最後の城となったにも関わらず、何をどうしていいやら困惑し、それまでの日常をただ続けて、したり顔で他人を批判している限り、自分は大丈夫、と自らを偽ってわざと平然としている貴族たち。だが、現実を受け入れた少数者は、反撃のための行動を開始したのだった。

 作者によると、本作の設定は「日本の伝統社会における様式的主従関係」に着想を得ているそうですが、今読むと「日本の現代社会」を皮肉っているとしか思えません。

 この二作が飛び抜けて気に入りましたが、表題作『奇跡なす者たち』もまずまずです。科学技術が失われて呪術が台頭した異世界を舞台に、呪術をベースとした攻城戦をリアルに描いた作品で、後半の展開は後に書かれる『最後の城』にそっくり。科学的手法の「再発見」により呪術の限界を超えるというプロットは今では定番となっていますね。

 あとは『音』。月が交替するたびに赤・青・緑と強烈な原色に染め上げられる異星の風景。不時着した主人公は、その星で奇怪な現象の数々に遭遇する。全ては幻覚なのか、それとも理解を超えた異星存在とのコンタクトなのか。色彩感あふれる奇怪な幻想譚です。

 ジャック・ヴァンスといえば異世界の風景、異文化の描写に定評がありますが、こうして短篇集を通読してみると、なるほど確かに、納得させられます。50年代から60年代へ。SF基礎教養として、SF読みであればおさえておくべき一冊。

 なお、国書刊行会より、レムに続いて「ヴァンス・コレクション」が刊行される予定だそうで、購入すべきか迷っている方は本書で相性を確認してみるというのもよいでしょう。

[収録作]

『フィルスクの陶匠』
『音』
『保護色』
『ミトル』
『無因果世界』
『奇跡なす者たち』
『月の蛾』
『最後の城』


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