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『跳躍者の時空』(フリッツ・ライバー) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 「SF史上最高の猫」、ガミッチが活躍(したりしなかったり)するシリーズ5篇を含む全10篇を収録したフリッツ・ライバーの短篇集。猫たち、魔女、亡霊、そして幻想が織りなす魔法の物語。単行本(河出書房新社)出版は2010年1月です。

 『SFが読みたい!2011年版』においてベストSF2010海外篇第9位に選ばれたフリッツ・ライバーの短篇集です。SF色はほとんどなく、基本的に魔法と幻想が支配するダーク・ファンタジー作品が収録されています。

 まず前半は、作者の飼い猫をモデルとした「ガミッチ」が登場するシリーズ。いつの日か(たぶんコーヒーを飲めるようになったとき)自分は人間になるのだと信じていた仔猫時代を描く『跳躍者の時空』、いたずら盛りの若猫時代を描いた『猫の創造性』、この辺まではごく普通の猫小説。

 しかし、『猫たちの揺りかご』で宇宙人が登場、『キャット・ホテル』と『三倍ぶち猫』では魔女が登場して、一気にダーク・ファンタジーめいてきます。今や立派に成獣したガミッチが頼もしいこと。

 『『ハムレット』の四人の亡霊』は、古い劇場を舞台としたゴーストストーリー。「ハムレット」上演中に、役者が楽屋で死んでいることが判明。死後一時間が経過していた。では、彼が担当していたはずの「亡霊」を舞台上でさきほど演じたのは誰なのか。ウィジャ板は一つの名前をつづる。「S. H. A. K. E. S. P. E. A. R. E」と・・・。

 ちょっとしたひねりはありますが、それも含めていかにもオーソドックスな作品。どこに向かうのかさっぱり分からず途方に暮れるような他の短篇に比べて、安心して読めます。

 『骨のダイスを転がそう』は、サイコロ博打で死神に挑戦した一人のギャンブラーの物語。全体を漂っている「夢の中にいる感覚」が生々しく、思わず引き込まれます。もちろん夢オチだということは予想できますが、その処理も巧みで、にやりとさせられます。

 『冬の蠅』は、ある一家(夫、妻、子供)が夕食後にリビングでそれぞれの空想にふける話。客観的に見れば微笑ましい一家団欒の場なのですが、夫の空想があまりに強烈で(世界を闇から操る秘密結社への入会を勧誘されるシーケンスとか)、現実と虚構が入り混じっておかしなことになってゆきます。

 『王侯の死』は、作者自身の過去を織りまぜたと思しき青春小説。若くて、頭がちょっと良くて、生意気で、自分たちを新人類だと思っていて、SFを読まない世間を馬鹿にしていて、仲間うちでの小賢しい会話をクールだと信じていて、うわっ、なにこの既視感。

 話そのものは、一定の歳月ごとに現れる謎めいた友人が軸となって展開してゆき、SFっぽい(というよりオカルト妄想的)オチに辿り着きますが、プロットよりも細かい描写や会話に惚れ込んでしまう作品。個人的にはけっこう好み。

 最後の『春の祝祭』は、またもや魔女が活躍する奇妙なファンタジー作品。ある嵐の夜、厳重に隔離された研究所に住む数学者の部屋に、謎めいた美女が忽然と現れる。お勉強は得意だが女性にはさっぱり縁のない貧相な(SF読者の多くが感情移入しやすい)主人公は、その美女と(部屋に二人っきりでいても何をしていいやら分からないので)他愛もないゲームを始めるのですが・・・。

 かなり強引に読者を引きずり回した挙げ句に窓から突き落として知らんぷりするような作品ですが、どうにも憎めないというか、忘れがたい作品です。

 全体に、B級SFと、B級ホラーと、B級ファンタジー、それに通俗的オカルトをほどよく混ぜて、そこに魔法のような文章をつけてみたところ、レベルの高い幻想文学が出来上がってしまった、というような。どの作品にも、どこか奇妙なユーモアが漂っているのもいい感じです。

[収録作]

『跳躍者の時空』
『猫の創造性』
『猫たちの揺りかご』
『キャット・ホテル』
『三倍ぶち猫』
『『ハムレット』の四人の亡霊』
『骨のダイスを転がそう』
『冬の蠅』
『王侯の死』
『春の祝祭』


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