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『ミッキーマウスはなぜ消されたか』(安藤健二) [読書(教養)]

 小学生がプールの底にミッキーマウスを描いたところディズニーから抗議が来て消すはめになった、という噂ははたして事実なのか? 代表的な封印作品『ウルトラセブン 第12話』のビデオを流出させたのは幼女連続殺人犯、宮崎勤なのか? 涼宮ハルヒには意外なモデルがいた? 

 諸般の事情により再放送も再販も出来ない作品、何らかの事情により黙殺された形になった事件、あまり知られてない事実、世間に流布している奇妙な風説、といったテーマを調査する安藤健二さんのルポ最新刊。

 2008年に出版された単行本『封印されたミッキーマウス』の文庫化ですが、全体の半分近くを新ネタと差し替えた「完全版」です。文庫版(河出書房新社)出版は2011年10月。

 「収録された原稿は玉石混交だった。(中略)過去の単行本の焼き直しのような原稿も交じっていて、お世辞にもまとまりのある書籍とは言いがたかった。このままでは読者に申し訳ない。今回の文庫化に当って、半分近くの原稿を差し替えることにした」(文庫版p.4)

 というわけで、単行本からいくつかの原稿を削り、新たに四本の新ネタを加えた文庫版です。単行本については2008年05月11日の日記を参照して下さい。ここでは追加された新ネタについて簡単にご紹介します。

 まずは『封印された観光地』と題して、福島第一原発から30キロ圏内にある遊園地の現状を取材したルポ。普通に「東日本大震災の被災地」として取材してもいいのに、どうしても「封印」っぽい物件を求めてしまう著者。

 続いて『涼宮ハルヒのモデルは角川春樹?』ですが、これはもうタイトルからしてものすごく怪しい。発端は、角川春樹の愛人の名前が「キヨ」だと知ったこと。

 「ハルキ&キヨ」、「ハルヒ&キョン」。な、何と、アニメ化されて大ヒットしたライトノベル『涼宮ハルヒ』シリーズの主人公と語り手の名前とほとんど同じじゃないか。これはノストラダムスが予言していた通りなんだよ、な、なんだってーっ。

 いやそれは偶然、というか駄洒落みたいなものだと思うのですが、著者の妄想は止まりません。じゃ主要登場人物の残り二人は・・・。タイムトラベラー、朝比奈みくるは、もちろん『時をかける少女』。では超能力者、古泉一樹は、そうか『幻魔大戦』。いずれも角川映画の代表作じゃないか!

 映画と云えば、第二巻『涼宮ハルヒの溜息』でハルヒが映画を撮影するけど、あのときハルヒのせいで様々な奇跡やら超常現象やらが起こる。映画撮影中に何度も現実改変を引き起こした(と主張している)角川春樹、自分のことを神だと宣言したり宇宙人と交信したりしている角川春樹そのものだ。涼宮ハルヒのモデルは角川春樹だったのか。とすれば。

 「新作放映までのドタバタも含めて、「ハルヒ」のメディアミックスの不可解な迷走が、こう考えると簡単に説明できてしまう。角川グループに残る角川春樹の呪縛が、「ハルヒ」シリーズの命運を左右していたのだろうか」(文庫版p.152)

 もちろん著者も「何の根拠もない妄想」と自分で書いていますが、この展開は何だかお馴染みのパターン、トンデモから陰謀論への三段跳びをほうふつとさせるものがあります。というか、そのもの。ネタとしては面白いのですが、やはり著者には取材してつかんだ事実を元にした記事を書いて欲しい。

 残りは『タイガーマスク騒動はパチンコ台の宣伝だったのか?』と、『「ひぐらしのなく頃に」は殺人犯を育てる悪魔のコンテンツなのか』の二本。これは世間に流布している噂やら憶測記事やらの内容を調査したルポで、けっこう読みごたえがあります。やはり著者が自分の足で調べ回って愚直に苦労する、というのがいい。

 巻末に付いている深町秋生さんの解説が熱い。著者の作品を「ハードボイルドな一匹狼の探偵小説に近い」と評し、その味わい深さを説明。その上で、こう断言するのです。

 「ちょっとググればタダで情報が得られるという深刻な安易さがはびこる現代において、本当に必要なのは、預金通帳とにらみ合いながら、愚直に真実を追い求める彼のようなジャーナリストなのだ」(文庫版p.192)

 というわけで、これからも、預金通帳とにらみ合いながらの地道な調査により封印物件や都市伝説の謎を解いてゆくルポを期待したいものです。


タグ:安藤健二
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