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『日本人が成功すんなら、アジアなんじゃねぇの?』(豊永貴士) [読書(教養)]

 今まさに高度経済成長真っ只中。地価も年商も急上昇中、しかも日本人なら簡単に思いつくような小さな商機がいっぱい。まずは日本人相手のビジネスからスタートしてよし。だから英語ダメでも無問題。さらに円高と最強パスポートが強力な武器に。さあ、今こそチャンス、沈みゆく日本を脱出してアジアで稼ごう、と煽りまくる本。単行本(KKベストセラーズ)出版は2011年10月です。

 アンコールワット遺跡の近くで「土産物クッキー」を売るだけで年商2億円。蚊取り線香や100円ライターをいち早くアジアに持ち込んだ人は大成功。タイ、ベトナム、カンボジア、シンガポール、インドネシア。高度成長中のアジア圏には、手にした金を使いたくて仕方ない人と、日本には普通にあるのに現地にはない便利なモノやサービスがいくらでも存在する。ビジネスチャンスだ。

 しかも、日本人は圧倒的に有利。タイなら日本人というだけで給料2倍、カンボジアでは国を叩き売るような外資優遇策を受けられる。円高で生活費はどんどん安くなっているし、日本のパスポートならどこにでも行ける。何より、高度経済成長のときに何がどうなるのか、既に経験済の日本人なら先読みも簡単。そして言葉は(英語も)まるでダメでも大丈夫。

 そこの君、日本で仕事に苦労するくらいならアジアで稼いでみないかっ!

 という煽りでいっぱいの本です。いやー、煽ること煽ること。あちこちに「ここだけの話」とか「えらいことです」とか巨大フォントでどかーんと書いてあり、このいわゆるフォントいじりがものすごくいかがわしい雰囲気をかもし出しています。

 もちろん、ただ煽るだけではなくて、具体的にタイで現地採用を狙う方法、ベトナムで起業するノウハウ、「明るい北朝鮮」ことシンガポールのビジネス環境、中小企業がカンボジアに進出すべき理由、といった具合に国別に具体的なことを教えてくれる上に、現地で成功した日本人へのインタビューが載っています。

 起業といっても現地法人を設立してどうのこうのという話ではなく、いきなりこういうレベルで持ちかけてくるのが凄い。

 「(海外旅行中に)日本なら普通にあるけど、アジアのその国にはないものを見つけたら、今度はそれを日本から持ってきて、スーパーの担当者にお小遣いをあげながらいってみる。(中略)試しでいいから、これをお店に置いて、売ってみてよ。売れたら儲けの半分は、あなたのお店にあげるから」(単行本p.207)

 「そんな感じで、見事に商談成立。(中略)そんな小さなことで、と思うかも知れないけど、これで大成功している人がいっぱいいるのが、今のアジアの現実だ。(中略)」(単行本p.208)

 読んでいると、日本で就職に苦労したり、リストラに怯えながら残業するのがアホらしくなってきます。文章は気さくというか雑というか軽薄というかブログっぽいというか、とにかく若い人に読んでほしいらしく、実に読みやすくなっています。

 というわけで、就職のことを考えると気が重い大学生の皆さん、仕事が嫌だが転職する勇気もない社会人の方々、子供の将来を憂えている親御さん達、読んでみるとよいかと思います。

 まずは興味半分でいいから本書に目を通して、その気になってきたらもう少し真面目な『アジアでハローワーク』(下川裕治)を読み、とりあえず現地視察にでも行ってみるかという気になったら『日本を脱出する本』(安田修)で各国の外国人就労制度について調べる、という手順が個人的なお勧めです。


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