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『パオロ・マッツァリーノの日本史漫談』(パオロ・マッツァリーノ) [読書(教養)]

 戦前の新聞一面は全て広告だった。「××が日本を滅ぼす」亡国論350冊の傾向分析。日本人の知らない土下座の作法。低温殺菌牛乳80年論争。読めない変な名前を子供につけるのは平安・鎌倉時代からの伝統。

 こんなごく「小さな」歴史認識問題を楽しく研究した一冊。謎の自称イタリア人、反社会学の不埒な研究者、パオロ・マッツァリーノ氏による反社会学シリーズ最新作です。単行本(二見書房)出版は2011年9月。

 帯に「ググってもわからない日本の歴史!」と書いてある通り、本書は「昔の新聞を丹念に調べれば、ネットからは知りようがないこんな面白いことが分かるんだぜ」ということを具体的に教えてくれます。

 そこで明らかにされるのは、教科書には載らないような、庶民的で、せこくて、ささやかな、小さな歴史。でも、そういう歴史こそが面白くて、今を生きる上で役立つんじゃないですかねえ。

 というわけで、こんな感じのトピックがずらりと並びます。

・クールビズは昭和初期から始まっていた。

・「笑顔の絶えない家庭」という妙な言葉はいつ頃から使われてきたのか。

・読めない変な名前を子供につける馬鹿親は、平安・鎌倉時代からの伝統。

・低温殺菌牛乳をめぐる論争はかれこれ100年近く続いている。

・日本人はいつから謝罪会見が大好きになったのか。

・意外と知られていない土下座の歴史と正しい作法。

・戦前の新聞の第一面はすべて広告。記事は一本も掲載されてなかった。

・これまで唱えられた「××が日本を滅ぼす」という亡国論はいくつあるか。

 調べ始めると次から次へと面白い事実が見つかる様子が実に楽しい。例えば、戦前の新聞広告の突拍子もなさ、「いや、それはないから」と呆れるしかない言いがかりのような亡国論の数々、昭和26年ごろまでは低温殺菌牛乳が主流だったという事実など。

 単に面白おかしい雑学にとどまらず、物事の考え方や調べ方について地に足ついたことが色々と学べます。同時に、世の中の「大きなこと」を偉そうに論じる方々に対するイヤミも忘れてはいません。

 「自分の頭の良さを過信する思想家や批評家は、地味な捜査をめんどくさがり、華々しい推理だけで理論を構築したがる手抜き迷探偵です。具体的・客観的な証拠を集める過程をおろそかにしたぶんを、ご自分のちっぽけな経験と教養と推論で埋め合わせ、そそくさと抽象化してしまいます。その結果、人を煙に巻くだけの、もやっとした推理がはびこるんです」(単行本p.77)

 「どうでもいい歴史や思想を語って国を憂うヒマがあったら、自分の身の回りに目を向けるべきです。小さな問題を解決しようと体を張らない人間に、国が滅びるなどと大口叩く資格はありません。デカい思想を語るだけの思想ヒーローは、実際には世の中を一ミリも動かしてないのです」(単行本p.284)

 辛辣ですが、共感を覚えます。ネットの情報だけで世の中わかった風なことを云うのは愚かなことで、やはり図書館に通って地道に調べることが大切なのだということがよく分かります。課題レポートに取り組む大学生の皆さんに是非とも読んで頂きたい本です。


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