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『ダイニングテーブルのミイラ  セラピストが語る奇妙な臨床事例』(ジェフリー・A・コトラー、ジョン・カールソン) [読書(教養)]

 自分のことをターミネーターだと思い込んでいる男性。幽体離脱して自分を治療した女性。浮気が不安で妻をロープで木に縛りつけて一晩中監視した男性。死んだ母親を密かにミイラ化してこれまで通り生活を共にしていた家族。米国の著名セラピスト32名が「これまでに出会った最も奇妙な事例」について語った驚異のインタビュー集。単行本(福村出版)出版は2011年8月です。

 「あなたがこれまで出会った中で最も奇妙な事例について教えて下さい」

 米国の著名セラピストにこの質問を投げかけたところ、返ってきたのは奇妙奇天烈な事例の数々でした。症例そのものが奇妙この上ないクライアントもいれば、治療の過程で見られた印象的なドラマ、あるいはセラピスト自身が巻き込まれた事例もあります。

 ある男性は、自分はターミネーターであり、彼が収容されている精神病院は極秘の研究施設だと信じていた。セラピストは、あなたの正体はターミネーターではなく実はアーノルド・シュワルツェネッガーであると説得し、同意した彼に「模範的な患者」を演じるという難しい課題に挑戦してみろとけしかけることで、彼を現実に適応させることに成功した。

 ある家族は、母親が死んだという事実に耐えられず、彼女を密かにミイラ化してこれまで通り普通に生活していた。朝はミイラと食卓を囲み、夜になるとベッドにミイラを運んで夫が一緒に寝ていた。家族は精神的にも社会的にも全く正常であった。

 ある女性は、母親から激しい身体的虐待を受け、父親からは性的虐待を受け続けた結果、三歳にしてアルコール依存症に陥るという悲惨極まりない幼児期を過ごしていた。

 ある男性は初体験でラバとセックスしたせいで、その後に女性数千人(!)、男性200人(!)とセックスしたにも関わらず、ラバを見ると欲情してしまうのが悩みだった。

 別の男性は、片足の女性とのセックスにしか満足できなかった。なぜかとインビューアーが尋ねると、セラピストはこう答えた。「それは言わぬが花でしょう」

 また別の男性は、妻が浮気するのではないかという不安から、彼女を拉致して沙漠に連れ出し、ロープで木に縛りつけて一晩中監視した。

 ある夫婦は深く愛し合いセックスもうまくいっていたが、それでも悩みは尽きなかった。夫も妻もそれぞれ同性愛者であり、異性との性交は変態的なものだったせいである。

 別の夫婦はひたすら夫婦喧嘩を続け、セラピストの言うことを完全に無視した。セラピストが匙を投げて治療を打ち切ると言うと、二人で抗議してきた。彼らは、他人の目を気にせず思いっきり罵倒しあう機会を奪われたくなかったのだ。

 ある女性は自分の脈が痛くて仕方ないと訴えた。催眠術をかけると、彼女は幽体離脱して外側から自分の肉体の「感度」を調整した。痛みは完全に消えた。

 あるクライアントは、自分は火星人であると主張し、わけのわからない宇宙語を話した。困ったセラピストが同僚に相談してみると、彼も同じように意味不明な言葉を話すクライアントを抱えて困っていた。そこで二人のクライアント同士を合わせてみたところ、二人は意気投合して嬉しそうに宇宙語で会話し始めた。二人のセラピストにとって彼らの会話は全く意味不明だった。

 さらには、セラピストを敵視して徹底的に反抗してくるクライアント、セラピストに対して訴訟を起こすクライアント、あるいは悲惨極まりない境遇から驚異的な精神力で回復したクライアントなど、本当に様々な事例が挙げられています。

 これら奇妙な症状を読むだけでも充分エキサイティングですが、治療をめぐるドラマの数々を通じて、人間の心というものの多様さ、不思議さにしみじみと感じいることになります。また、米国におけるセラピーの現場を垣間見るという点でも興味深いものがありました。

 オリバー・サックスの著作が気に入っている方、心理療法やカウンセリングに興味がある方、自分の悩みがあまりにも突拍子もないので誰にも相談できないでいる方、単に奇妙な話が好きな方、どなたにもお勧めできる一冊です。ただし、そのテーマからしてどうしても性的な話題(近親相姦、獣姦、性的虐待、異常性癖など)も多く含まれていますので、そういうのが苦手な方は避けた方が無難かも知れません。


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