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『ハロワ!』(久保寺健彦) [読書(小説・詩)]

 大企業でないと嫌、女の人事担当なんてお断り、働く喜びが欲しい。身勝手な要求に固執したり、面接途中で泣き出したりする困った求職者たち。就職相談員としてハローワークで働くことになった青年が、理不尽に翻弄されながらも、仕事に恋にひたむきに取り組む姿を描き、さわやかな感動を呼ぶ連作短篇集。単行本(集英社)出版は2011年10月です。

 ハローワークに通ってくる求職者たちと窓口で向き合う就職相談員という「仕事の仕事」。それは決して楽ではありません。本気で就職する気があるのか疑問に思えるような態度の求職者。変にプライドが高いか、世間知らずか、意地になっていて、無茶な要求に固執する求職者。さらには自暴自棄になってとんでもないことを仕出かす求職者まで。

 しかし、何しろ相手の人生がかかっているのですから、どんな場合でも求職者と真剣に向き合い、二人三脚で乗り越えることが求められます。かと云って見込みの薄い求職者にこだわり過ぎると容赦なく自分の「成績」が下がり、そこは嘱託に過ぎない身、いつ失業して窓口の向こう側にまわるはめになるか、分かったものではありません。

 このハードな仕事に就いた一人の青年を主人公に、就職をめぐる様々な出来事を書いた連作です。求職者と諍いを起こしながらも少しずつ信頼関係を築いたり、とても就職は無理だと思われた求職者が意外な実行力であっさり職を手にしたり。様々なドラマが展開します。

 前半、いくつかの話でパターンに慣れてきたところで、後半では恋愛が発展することもあって、最後まで大いに楽しめます。一人の青年が仕事に恋に悩みながら成長してゆくという、いわば王道的な物語をベタに感じさせず、さわやかな感動に持ってゆく手際は見事。

 デビュー以来ずっと「子供」の成長物語を書いてきた印象のある久保寺さんですが、『オープン・セサミ』あたりから大人が主人公となる話が多くなって、しかもやっぱり根は爽やかな成長物語だったりして、とても嬉しい。これから書かれる作品にも期待したいと思います。


タグ:久保寺健彦
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