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『セメント怪談稼業』(松村進吉) [読書(オカルト)]

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「……なるほど確かに、仰る通り。御尤もな話です……。でもね、ちょっと待って。だとしてもですよ----やっぱりあの人の云ってることは滅茶苦茶だよ! ハハッ、頭おかしいんじゃないかなあマジで! 意味わかんない、SFって何だよ。SFって何だよ!」
 SFって何だよッ! と、私は声に出して三回叫んだ。
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Kindle版No.1107

 『「超」怖い話』でも『東京伝説』でもない、まったく新しい怪談実話系を創り出せ、何かあるだろ、ほらお前の好きなSFとか。
 師、平山夢明より厳命を受けた松村進吉は、あまりの高いハードルに七転八倒。はたして怪談実話の新ジャンルを創り出せるのか。怪談作家の生活を赤裸々に描いた恐怖と笑いと感動の怪談系私小説。単行本(角川書店)出版は2014年11月、Kindle版配信は2014年11月です。


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 あなたが誰かに「怖い話」を聞いたとする。
 するとそれはまず「超常現象」の話である率が最も高く、その次に多いのが、「やっぱり人間が怖い」系統の話である筈だ。それらはどちらも今現在、毎月数冊のペースで出版され続けている、鉄板の恐怖ジャンルである。
 そして今回私が登ることにした山は、それらの峯とは確かに、山系を異にしているという確かな自信、あるいは自負があった。
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Kindle版No.1427


 既存の怪談実話とは違う、新しい方向性を打ち出した短篇集です。収録されている作品には、大きく分けて「恐怖体験談の聞き取り作業、それ自体が怪異となって著者を巻き込んでゆく」というメタ怪談、そして怪談作家としての生活をテーマとした怪談系私小説、という二つのパターンがあります。どちらも面白い。


『ある隧道の件』
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「気持ち悪いんだ俺は。なんで第一発見者が、俺らが毎日顔を合わせてるTさんの、親父さんなんだ。しかもそれがなんで今、俺らに知らされたんだ。お膳立てが良過ぎる。おかしいと思わないのか」
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Kindle版No.263

 ごく普通の怪談実話だと思わせておいて、次第に雲行きが怪しくなってゆき、やがて著者自身が怪異にすり寄られてゆくような展開が素敵です。


『気色悪い声の件』
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 正直もう、これについては何回も書かない方がいいのではないかと躊躇いを覚える。そんな心底厭な予感を、聞く者に与える声だった。
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Kindle版No.322

 取材での録音データに入っていた奇怪な声。それを聞いてみたいという相手に媒体を渡したのだが……。ありがちな「幽霊の声」怪談かと思いきや、予想外の展開に仰天することに。


『掘ったら出るの件』
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 ----だったらその線路は一体何なのか、と私は訊ねた。しかし監督は首を振るばかり。
 さあ、それがわからん……。ずーっと昔のやつやとしても、埋設処理もされんと残ってんのはおかしいし。大体僕が覗いた時、レール光ってたからな。今でも何かがあそこを走ってんのは、確かなんや。
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Kindle版No.574

 建設業者が掘り出してしまった奇妙なもの、というテーマで語られるいくつかの怪談。そこに建築現場で働いている著者自身の体験談が混ざってゆき……。


『ある病院の件』
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 専門学校をふたつも中退するという親不孝ぶりからも明らかなように、私は自分が何者であるのか、何をもってして生きれば良いのかがわからなくなっていた。
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Kindle版No.880

 安置した遺体の周囲に残る子供の足跡。ありがちな病院怪談と思わせておいて、話は著者の青春時代へと遡り、次第に私小説へと移行してゆきます。


『第三の実話の件』
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「そうだ。全く新しい切り口。今まで誰も書いたことがない、怪談というモノに対する新たな概念を、黒木と松、それぞれが作り出すんだ」

「それはたとえば幽霊話がメインの『「超」怖い話』であるとか、異常者による犯罪にスポットを当てた『東京伝説』であるとかいった、既存の平山さんの作品のフォローから脱して、新たなジャンルの恐怖譚を創造せよ、という理解でよろしいでしょうか」

「そうそう、新ジャンル。そういうことだよ」

「幽霊でも猟奇でもないとしたら、それはたとえば具体的に、どんなものが」

「だからそれを考えろって云ってんだよ俺は。何かあんだろ? 自分の得意なフィールドでやりゃいいんだ。松の場合で云やぁ何だあの、クッチャクッチャした、幻想小説? とかさ。……あっ、あとSF? そういうのが好きなんだろ?」
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Kindle版No.1041、1062

 本書の白眉となる私小説。師匠から「怪談実話の新ジャンルを創り出せ」と命じられた著者は、苦悩しながらも果敢に挑戦します。果たして結果はどう出るか。ユーモラスな描写に包んで、作家としての覚悟を書いた印象的な短篇です。


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 一度発生してしまった恐怖には、原因など関係ない。彼らは心底怯え、「気が狂いそうなほど」の恐怖を感じたと語っている。
 だから、間違ってない----。
 これが、私の結論だ。これこそが「第三の実話」なんだ。
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Kindle版No.1462


『狸に化けるの件』
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「俺が集めた限りでも、徳島市内で二十か三十、狸の仕業としか思えない怪異がある。民話じゃなくて、現代の体験談で、だぞ。(中略)ハッキリ云って日本昔話。常識的に考えて、信じろって云うのが無理なレベル。正直笑ってしまうし、だから俺も今まで、どこにも書かなかった」
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Kindle版No.1747

 かつて狸に化かされたことがある著者は、狸の着ぐるみを装着してご当地ヒーローを目指すのであった。奥さんがいい味出してます。


『猫どもの件』
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猫を好きになるというのは紛れもなく、一種の呪いだ。こんなに苦しい思いをするくらいなら、初めから猫など好きにならなければよかった。(中略)
いつしか、彼らの短い生が失われる日が来ても、あるいは私という人間が消え去ってしまっても、その時お互いが触れ合っていたという事実だけは、この世界のどこかにしっかりと刻み込まれたように感じ、ほとんど痛みと見分けのつかないような強烈な多幸感に、胸を貫かれるのだ。
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Kindle版No.2004、2016

 野良猫を見捨てることが出来ず、すぐに保護してしまう著者。すでに十匹もの猫に囲まれて暮らしているが、もちろんすべての猫を救うことなど出来ない。猫を見殺しにしなければならない、その無常観、罪悪感。だがしかし、それでも猫を触るたびに「永遠」を感じ、痛みに等しいような幸福感に貫かれる。
 猫好きの苦しみと喜びをストレートに描いた私小説。泣けます。


『ある姉妹の件』
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何か私とは違う、異質な内部構造をした生き物という感覚が拭えない。
私は端的に云えば、彼女に怯え始めていた。
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Kindle版No.2240

 いつもの通り、怪異体験談を聞き出している著者。だが次第に気づいてゆく。目の前にいる女性、彼女はどこか異常だということに。幽霊と猟奇を融合させた気味の悪い怪談。


『廃墟を買うの件』
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「……だからつまり、この廃墟は正直な話、進ちゃんが普段本に書いてる類の物件じゃないかってことですよ」
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Kindle版No.2537

 多数の飼猫たちの安全を確保するため、そして妻の身近に迫る危険を回避するため、新居を捜す著者。紹介されたのは「廃墟」のような物件、しかも、出るわ、出るわ、どうやら心霊まみれ。だが、妻は落ちつき払って言う。「あなたが決めた場所に間違いはない、任せる」と。

 この話に限らず、随所に出てくる器が大きい奥さんが非常に好印象で、いい相手と結婚したものだなあ、またその魅力を的確に表現してのけるものだなあ、と感心させられます。

 というわけで、いわゆる怪談実話を求めている読者には向いていませんが、怪談作家が書いた私小説として素晴らしく、恐怖と笑いと感動の混ぜ方が巧みで飽きません。懐の深い奥さんがいることだし、十匹の猫を抱えて新居探しをするし、狸の着ぐるみでウケをとろうとして盛大にスベるし、ここはひとつ町田康を目指して欲しいものだと、個人的に期待しています。


タグ:松村進吉
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『光文社古典新訳文庫 駒井稔編集長が熱く推奨する「今こそ読まれるべき古典」79冊』(光文社古典新訳文庫編集部) [読書(教養)]

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世界文学全集や思想書の全集とは違う「21世紀の新・教養主義」の確立がわたしたちの目標です。今こそ読まれるべき古典作品は何かということを、編集部が考え続けてきた結果がここにあります。
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Kindle版No.6

 創刊から9年。すでに200冊をこえる古典新訳を刊行してきた光文社古典新訳文庫から、編集長自ら厳選した「今読むべき79冊」を紹介するカタログ(無料)。Kindle版配信は2015年4月です。


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残念ながら文学といえば「衰退」の一語で片づけられてしまう風潮があるのは確かです。しかし実際には、現在進行形で目を見張るような変化を遂げつつあるのです。
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Kindle版No.805


 幼い頃、書店のカウンターに置いてある「文庫総目録」を手に入れるのが楽しみでした。各出版社が、自社が出している文庫本について、それぞれ「あらすじ」や「内容紹介」を書いたリストをぎっしり詰め込んだ、無料のカタログです。

 子どもの小遣いでは到底買えない大量の文庫本。その一冊一冊についての内容紹介そのものが楽しく、勝手にストーリーを想像して妄想に耽ったり。特にハヤカワ文庫と創元推理文庫の文庫総目録は、まさに宝でしたね。何度も何度も読み返したものです。

 本書は、あの頃の気持ちがふつふつと蘇ってくるような「光文社古典新訳文庫」の内容紹介カタログです。編集長が選んだ一冊一冊について、内容紹介、新訳では何が新しくなったのか、なぜ今読むべきなのか、などを熱く語ります。


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翻訳家の皆さんにお願いしているのは、手加減のない文章で、ということです。
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Kindle版No.225

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人生は短い。だからこそ、長編小説を読むのです。
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Kindle版No.578

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日本の読者にほとんど読まれていないことが本当に惜しい。読了後に人間観がまるで変わってしまう小説なんてそうざらにはありません。
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Kindle版No.697

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世界文学とは、もはや読むべき価値のある古典作品のリストではなく、言語の別を超えたまったく新しい文学のありようなのだ。
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Kindle版No.812


 というわけで、読み進めるうちに読書欲が高揚しまくる一冊。何しろ無料なので、とりあえずダウンロードしておくことをお勧めします。他の出版社からも、同じような「厳選お勧め文庫本カタログ(熱い推薦文付き)」が電子書籍で出ると嬉しいなあ。



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『NASA 宇宙開発の60年』(佐藤靖) [読書(教養)]

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 NASAはこれまで、厳しい時代環境のなかにあっても宇宙開発の新たな展開を次々と世界に示してきた。幾多の予算削減を乗り越えてスペースシャトルや国際宇宙ステーションを完成させ、太陽系の無人探査を進め、宇宙科学分野に革命をもたらしてきた。だが近年、これまでにも増して米国の宇宙政策の安定感が失われるなか、NASAは果たして今後も宇宙開発を通じて人類に夢を与え続けることができるのだろうか。これまでのNASAの歩みを振り返ることで、NASAの未来を読む手がかりとしたい。
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Kindle版No.65

 アポロ計画、スペースシャトル、ISS国際宇宙ステーション、そして様々な観測衛星。60年に渡って宇宙開発をリードしてきたNASAは、どのように運営されてきたのか。巨大組織としてのNASAの歴史を概説した一冊。新書版(中央公論新社)出版は2014年6月、Kindle版配信は2015年2月です。


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NASAという組織がそもそもどのように成立し、これまでどのように発展して現在にいたるのかについては、一般にはあまり知られていないのではないだろうか。日本のニュースなどからは、NASAの成果はみえてもその組織の実態はみえにくいからである。NASAは米国の軍事ミッション、あるいは秘密のベールに覆われたミッションも担っているのではないか、と考えている人もいるかもしれない。(中略)
本書ではNASAの現在までの歴史全体を視野におさめ、政治・行政と科学技術とが複雑に交差するその組織的性格をバランスよく描くことを目指した。
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Kindle版No.3108、3129


 宇宙開発の分野で数々の偉業を成し遂げてきたアメリカ航空宇宙局、NASA。その知られざる内幕を詳細に紹介してくれる本です。厳しい予算制限、政治や軍事との絶え間ない確執、巨大組織マネージメントの苦悩、そして技術的課題。全体は5つの章から構成されています。


第1章 NASAの誕生 ----米国の新たな挑戦
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 1958年10月1日、NASAは初代長官キース・グレナンの下で発足した。(中略)
 グレナンは、陸軍や海軍の組織のNASAへの移管を進めつつ、長期的にNASAの技術能力を高めることを視野に入れて宇宙計画を立てるべきであるという信念を持っていた。
 すなわち、スプートニク・ショック後の米国内の動揺に過剰反応して短期的目標に振り回されるのではなく、秩序ある宇宙計画を構想しようとしたのである。
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Kindle版No.539、694

 第1章では、NASAがどのような経緯と目的のもとに誕生したかが詳述されます。キース・グレナンが打ち立てた基本方針、政治的基盤を築いたジェームズ・ウェッブ。歴代長官がどのようにNASAを導いていったのかがよく分かります。


第2章 アポロ計画 ----超大国の意志と創造力の結晶
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その歴史に残る文化的価値を考えるとき、アポロ計画は超大国たる米国が強い意志と情熱をもって完成させた、経済的価値に置き換えることのできない創造力の結晶だったといえるだろう。
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Kindle版No.1191

 第2章では、有人月面着陸を目指すアポロ計画がどのようにして遂行されたのかが、NASA内部における組織マネジメントを軸に語られます。


第3章 スペースシャトル ----成熟期NASAの基幹システム
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 チャレンジャー号事故は、まさにNASAという組織で政治と技術とが関わり合うなかで発生した惨事であった。技術開発の現場では問題の深刻度を認識していたが、政治的要請に基づく圧力が開発組織全体に浸透し、十分な対応を阻んだ。そして、重要な意思決定の局面でも政治的考慮が技術的考慮を圧倒し、それが事故につながったのである。
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Kindle版No.1481

 弱体化する政治的基盤、厳しい予算制限、そして二回におよぶスペースシャトルの大事故。その背後にあった組織上の問題。アポロ計画終了後、成熟期に入ったNASAの苦悩が語られます。


第4章 国際宇宙ステーション ----変容する国際政治の象徴
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ISS計画は、それが長年にわたって推し進められた動機も、それが生み出した成果も、すぐれて政治的なものであったといえる。ISSに参加する一六ヵ国は、長期間にわたって持続的に協力し、天空上に国際協調の象徴である巨大な構築物を造り上げた。それが、スペースシャトルなどの打上げ費用や運用終了時までに必要なすべての費用を含め総額1500億ドルとも見積もられる支出に見合う成果であったかどうかは、評価の分かれるところである。だが、政治文化、経済状況、技術水準のいずれの面でも大きな相違を抱える国々が、それぞれ独自の貢献を果たしてこの大事業を成し遂げたことは、人類史上に深く刻まれるはずである。
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Kindle版No.2069

 冷戦の終結とともに激変する国際関係のなかで、ISS国際宇宙ステーション計画は何を目指したのか。国際協調のもとに人類が初めて軌道上に築いた巨大建造物をめぐる紆余曲折を追います。


第5章 無人探査と宇宙科学 ----人類の知識領域の拡大
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 NASAは設立以来これまで、JPL及びゴダード宇宙飛行センターを中心に、全米あるいは世界の科学者コミュニティと協力しながら、宇宙科学の幅広い分野への貢献をなしてきた。天文学や地球科学の分野ではもちろん、近年では宇宙や生命の本質に関わる科学的知識を大きく拡大してきている。有人宇宙飛行部門ではやや方向性を見失っているNASAも、宇宙科学の分野では変わらず存在感を示しているといえる。
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Kindle版No.2799

 レンジャー、マリナー、サーヴェイヤー、ヴァイキング、ヴォイジャー、パイオニア、ガリレオ、カーシーニ。今なお私たちの心を高揚させる惑星探査機計画の数々、あるいはハッブル宇宙望遠鏡に代表される宇宙観測装置。宇宙科学の劇的な進歩をリードしたJPLとゴダード宇宙飛行センターの歴史が取り上げられます。


 というわけで、全体を通読すると、「人類最後のフロンティアに向かって果敢に挑戦し続ける科学者たちの砦」でもなく、「軍産複合体と癒着した官僚組織」でもなく、ましてや「異星人の存在を隠蔽している陰謀組織」でもない、リアルなNASAの姿が見えてきます。宇宙開発史、巨大組織運営論などに興味がある方にお勧めです。


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NASAの組織形態は分権化の動きも一部あったのであるが、全体的にみれば官僚化と集権化が進行し、組織運営が非効率的で硬直的なものになってきた。(中略)
 最近のNASAは明瞭なミッションを失い、長期的な方向性も定まらない。再び冷戦期のように世界を圧倒する成果を次々と出せるようになることは考えにくい。それにもかかわらずNASAという組織のブランドはいまも健在である。(中略)多くの人々がNASAに人類の夢を見、NASAに輝かしい組織であり続けてほしいと願っているからではないだろうか。そのような人々の希望と信念が、NASAに対する政治的支持の一つの背景となっているように思われる。
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Kindle版No.3048、3071、3080


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『正方形的郷愁』(阮義忠) [読書(随筆)]

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八十張方正經典影像
再現一九七〇至九〇年代
台灣的人文風景

80枚の正方形の写真によって
70年代から90年代における台湾の
人や風景があざやかに蘇る
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 春の台湾旅行で手に入れた写真集。台中の誠品書店で購入しました。単行本(遠流出版公司)出版は2015年2月です。

 不勉強にして中国語が読めないもので、せっかく台湾の書店を訪れても、とりあえず写真集や絵本、一部のコミックなど、眺めているだけで何とかなる本ばかり手にしてしまいます。

 今回、台中で購入したこの写真集は、80枚の正方形のモノクロ写真を収録した一冊です。1976年に撮影された古びた家門の写真から始まって、70年代、80年代、90年代に台湾各地で撮影された人物や風景の写真を経て、再び1976年に撮影された台北市中華路の俯瞰写真で終わるという構成。

 風景写真もいいのですが、個人的には人物写真に惹かれます。老人、若者、職業人、赤子を抱いた母親、犬、子どもたち。様々な人々が気合の入った表情で写っています。

 おそらく台湾人が見ると強い郷愁の念にかられるのでしょうが、日本人である私が見ると、不思議な既視感(昭和感)と郷愁と異国情緒が複雑に入り交じった感慨を覚えます。

 『給未來的郷愁』という台北の現在を写したモノクロ写真集から抜粋されたと思しき写真が12枚、付録として収録されています。現在の台北で撮影されたものなのに、びっくりするくらいノスタルジックで驚きます。

 意外な発見もあます。例えば台北の路上に"BNE WAS HERE"というステッカーが張ってあるのに気付きました。ちなみに撮影場所は台北市延平南路71號、撮影日時は2014年12月30日です。


タグ:台湾
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『テメレア戦記VI 大海蛇の舌』(ナオミ・ノヴィク、那波かおり:翻訳) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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ローレンスにも復帰したいという思いはあった。それはたとえ軍の階級や社会的地位は戻らなくとも、せめてテメレアといっしょに自分たちが役に立てる場所に戻りたいという欲求だった。世界の果てのような土地のわびしい石に腰かけて天を呪うことなど、望むわけがない。
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単行本p.33

 オーストラリア大陸に流刑されたローレンスとテメレア。彼らは大陸奥地の砂漠へ遠征に出かけるが、そこは未知の危険と脅威に満ちていた……。19世紀初頭、ナポレオン戦争当時の欧州を舞台に、テメレアと名付けられた漆黒のドラゴンとその乗り手であるローレンスが活躍する人気シリーズ『テメレア戦記』、その第6巻。単行本(ヴィレッジブックス)出版は、2015年3月です。


 手堅い歴史小説に「人類は何千年にも渡ってドラゴンを飼い馴らし空軍戦力として活用している」という魅力的な設定を持ち込み、「もしもナポレオンに“空軍”が与えられたら、どんな戦略、戦術を見せてくれたか」という問いに対して、大胆な空想と緻密な考察によって、まるで史実を読んでいるかのようなリアリティと説得力のある回答を示した『テメレア戦記』。

 「歴史小説+仮想戦記+ドラゴンファンタジー」という離れ業を軽々とやってのけた上に、単純に「テメレア、けなげで可愛い!」キャラ小説として読んでも充分に楽しめるという、お勧めのシリーズです。

 さて今巻は、ローレンスとテメレアが流刑地であるオーストラリア大陸に上陸した直後から始まります。劣悪な社会状況やトラブルに悩まされ、散々な目にあう不遇なローレンスたち。


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 このニューサウスウェールズ植民地に足を踏み入れた瞬間から、ローレンスは衝撃に打たれた。この緑豊かなうるわしい土地で、まさかここまで悪寒と胸苦しさを覚えることになろうとは思っていなかった。男も女も、日が沈むまえから飲んだくれ、千鳥足で街を歩いていた。多くの住民にとって雨露をしのぐ場所は粗末な小屋かテントしかなく、あばら屋すらも不法占拠されていた。
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単行本p.43


 植民地における政治的トラブルから逃れるように、大陸奥地に向かう遠征隊の役目を引き受けたローレンス一行。当初の予定ではシンプルな偵察任務だったのに、途中で貴重なドラゴンの卵を盗まれたことから、雲行きがどんどん怪しくなってゆきます。

 盗人を追って未開の大陸の奥地へ奥地へと砂漠を進んでゆくうちに、たちまち欠乏する水と食糧。地図はなく、方角も分からない。気が付いたときには、戻ることさえ不可能に。


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ローレンスが広げるなんの印もついていない巨大な大陸の地図を見ていると、テメレアはやりきれない気持ちになった。一行はすでに、探索が進められている海岸線から遠く隔たった、この大陸のどまんなか、地図上ではぽっかりとあいた空白でしかない未知の領域に入っている。
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単行本p.215


 山火事から猛烈な嵐まであらゆる大自然の脅威が襲い掛かり、さらには謎めいた怪物までが攻撃してくる。一人また一人と減ってゆく探検隊のメンバー。衰弱したテメレアに情け容赦なく吹きつけてくる砂漠の熱風。


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この国の広大さを、こういう土地に分け入るまでは、本当の意味でわかっていなかった。そう、この奇妙さも
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単行本p.289


 遠征なのか追跡なのかそれとも遭難なのか、もうよく分からなくなった強行軍の途中でいくつかの卵が孵化し、新たなドラゴンがメンバーに加わることに。それはすわなち食糧不足が深刻化することだった。果たして一行の命運やいかに。

 最後にちょっと予想を超えた展開が待っています。


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ぼくにはわからないよ。世界じゅうの海を支配できないからって、なんで一介の小国が不平を唱えるんだろう? 地球の真裏にある海まで欲しがっちゃって。
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単行本p.420

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わたしはきみに耐えろとは言いたくない。いままさに侮辱的な行為を受けようとしている国は----正確にはきみの生まれた土地ではないが、きみの原点であり、きみが心から大切に思う国であるにちがいない。わたしがこれ以上ないほど不本意だということを、どうか信じてくれ。
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単行本p.428


 たとえ政府から不当に扱われようとも英国軍人としての誇りを捨てないローレンス、二つの「母国」の狭間で苦悩するテメレア。二人の絆が試練にさらされる時がついにやってくる。

 というわけで、シリーズ後半の導入部という印象が強い、地味めの第6巻。新ドラゴンも加わり、最終巻である第9巻を目指して物語はスケールを増してゆきます。残り3冊か……。


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