『現代詩手帖2015年5月号 【特集】SF×詩----未知なる詩の世界へようこそ!』(河野聡子、最果タヒ) [読書(SF)]
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初めて現代詩をいくつか読んだときに、こんな自由なことがあるのか、と思ったんです。詩なら私は本当に何でもできるんだ、無敵だな、と思ったわけですが、これが私の中で立ち位置的にSFにたいへん近かった。
(中略)
問題は、SFを成り立たせている構造や思想をいかにすれば詩の言葉にできるかということであり、なぜ私がこう考えるかというと、SFを成り立たせている思想は、詩を成り立たせる思想とほとんど同じだと私が信じているからです。
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河野聡子
現代詩手帖2015年5月号
現代詩手帖2015年5月号は特集「SF×詩」ということで、様々なSF詩を掲載してくれました。執筆陣も豪華で、SF読者にもお勧め。SFマガジン6月号といっしょに購入しましょう。
[目次](特集部分のみ)
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◎鼎談
「世界観を変える力」(増田まもる、水無田気流、河野聡子)
◎改訂訳
『太陽の到来』(『レンズの眼』より)(ラングドン・ジョーンズ、増田まもる訳)
『ストレンジ・ボーイズ』(『デッドボーイズ』より)(リチャード・コールダー、増田まもる訳)
◎作品
『偽『初夢』から『SF』の方へ』(天沢退二郎)
『次元の孤独』(最果タヒ)
『まつりびとれいこんまれいいち』(水無田気流)
『シャッフル航法』(円城塔)
『女人結界』(広瀬大志、伊藤浩子)
『橡』(酉島伝法)
『La Poèsie sauvage』(飛浩隆)
◎エッセイ----詩とSF
『詩・科学・SF/三位一体説』(荒巻義雄)
『《短詩型SF=SF詩》論 SF詩への歴程』(天瀬裕康)
『言葉というSF』(髙塚謙太郎)
◎論考----SF詩論
『「未来」と「回帰」 SFと詩の〈岬〉に向かって』(生野毅)
『林美脉子という内宇宙(ドキュメント)』(岡和田晃)
『いかなるボウイ的存在が、はるかの高みからそれを聞こうぞ? トレイシー・K・スミス『LIFE ON MARS 火星の生命』を読む』(波戸岡景太)
『英語圏のSF詩』(橋本輝幸)
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『太陽の到来』(『レンズの眼』より)(ラングドン・ジョーンズ、増田まもる訳)
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われらはここにいる太陽よ荘厳なる太陽よわれらは汝の光線を待ち受けるわれらを舐める汝の舌を太陽よわれらは呼び求めるわれらの肉体を圧する汝の怒り来たらんことを汝の毒をもちてわれらを浄めよ太陽よ死に至る激情の魔力ある太陽よ力強き太陽よ合一の栄光に満ちた太陽よ太陽よ太陽よ
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現代詩手帖2015年5月号p.32
『ストレンジ・ボーイズ』(『デッドボーイズ』より)(リチャード・コールダー、増田まもる訳)
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目立った特徴? メタセクシャリティだ。超越的性質だ。抗暗示的だ。狂ったリズムのいたずら、サイボーグ、ドール。こちらダゴン、暗黒物質に支配された宇宙の向こう側から呼びかけている。火星、応答せよ、ハロー?
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現代詩手帖2015年5月号p.35
『偽『初夢』から『SF』の方へ』(天沢退二郎)
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もちろんそこに何があるはずも
何もないはずも、それさえも
あるはずなどありはしなかった
ただひとつ、ここで明白になったのは
これはもはや決して「初夢」などではなくて、
それは「SF」と称する他はないものだった。
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現代詩手帖2015年5月号p.39
『次元の孤独』(最果タヒ)
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きみのことを好きだけれど、
明日も好きかはわからない そんな冷え冷えとした感性が、
あなたの脳を快感まみれにするくせに。
優しい人などいない世界は、光が鋭くて朝焼けが美しい。
きみの守りたいものが消え失せていくのが、青春で、人生の
スパイスならば
それ、死ねってことじゃないのかって。
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現代詩手帖2015年5月号p.41
『まつりびとれいこんまれいいち』(水無田気流)
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圧縮じざい の かみひろい
かみのまにまに しみがはう
しみはうるひ にかみがまう
かみのふざいはでふぉとなり
たいえきかみが やまをなす
いどうしんでんてんかします
いどうさいだんとうかします
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現代詩手帖2015年5月号p.43
『シャッフル航法』(円城塔)
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初期に開発されたシャッフル・ドライブが、アウト・シャッフルを採用していたことは我々にとって幸いであった。何故なら、いわゆるイン・シャッフル・ドライブが経巡る宇宙の数は、カードの総数、すなわち可能な宇宙の総数と同じ、52であることが知られているからである。これはあまりに膨大な数字であり、我々には想像することさえ叶わない。
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現代詩手帖2015年5月号p.54
『女人結界』(広瀬大志、伊藤浩子)
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偉大なる呪術者と讃えられた
「雄鳥の喉」シク・タエは
多変量下にあるおれの因子の一つ一つを
「水掻き雛」で結合する
その解析モジュールに関しては疑いの余地はなく
おれは反映する死後のパターンにおいて
混沌とする火と水の境界で降雨の規則性にあてがわれる
人は空を形成するための思考する器官である
人は魚を成長させるための不具合な性器である
人は鉱物を分離するための連鎖的情報であり
人は雨を循環させるための意識的言語の堆積物である
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現代詩手帖2015年5月号p.63
『橡』(酉島伝法)
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わたしたち幽霊は、月面の広大なクレーターの中央丘に寄り集まっていた。その数は二千名ばかり。頭上でゆっくりと回転している翠緑色の地球に、これから飛び降りようというのだ。
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現代詩手帖2015年5月号p.68
『La Poèsie sauvage』(飛浩隆)
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♯禍文字は数ある野良の詩集でももっとも風変わりであり、とびきり危険だった。書字空間においてこれに接触しようとし、そのまま「死んだ」者は少なくない。かれらは書字空間の外部から電子的代理人を差し向けてその「詩」を読もうとしたのだが、そのまま昏睡状態となった彼らの肉体の脳は、いまも全力を挙げてその「詩」の計算の一部を担っている。らしい。「らしい」というのは、だれもそれを確かめたがらないからだ。犠牲者たちは現実に陥入した「詩」の一部であるとして、軍の病院で厳重な監視下にある。
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現代詩手帖2015年5月号p.80
初めて現代詩をいくつか読んだときに、こんな自由なことがあるのか、と思ったんです。詩なら私は本当に何でもできるんだ、無敵だな、と思ったわけですが、これが私の中で立ち位置的にSFにたいへん近かった。
(中略)
問題は、SFを成り立たせている構造や思想をいかにすれば詩の言葉にできるかということであり、なぜ私がこう考えるかというと、SFを成り立たせている思想は、詩を成り立たせる思想とほとんど同じだと私が信じているからです。
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河野聡子
現代詩手帖2015年5月号
現代詩手帖2015年5月号は特集「SF×詩」ということで、様々なSF詩を掲載してくれました。執筆陣も豪華で、SF読者にもお勧め。SFマガジン6月号といっしょに購入しましょう。
[目次](特集部分のみ)
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◎鼎談
「世界観を変える力」(増田まもる、水無田気流、河野聡子)
◎改訂訳
『太陽の到来』(『レンズの眼』より)(ラングドン・ジョーンズ、増田まもる訳)
『ストレンジ・ボーイズ』(『デッドボーイズ』より)(リチャード・コールダー、増田まもる訳)
◎作品
『偽『初夢』から『SF』の方へ』(天沢退二郎)
『次元の孤独』(最果タヒ)
『まつりびとれいこんまれいいち』(水無田気流)
『シャッフル航法』(円城塔)
『女人結界』(広瀬大志、伊藤浩子)
『橡』(酉島伝法)
『La Poèsie sauvage』(飛浩隆)
◎エッセイ----詩とSF
『詩・科学・SF/三位一体説』(荒巻義雄)
『《短詩型SF=SF詩》論 SF詩への歴程』(天瀬裕康)
『言葉というSF』(髙塚謙太郎)
◎論考----SF詩論
『「未来」と「回帰」 SFと詩の〈岬〉に向かって』(生野毅)
『林美脉子という内宇宙(ドキュメント)』(岡和田晃)
『いかなるボウイ的存在が、はるかの高みからそれを聞こうぞ? トレイシー・K・スミス『LIFE ON MARS 火星の生命』を読む』(波戸岡景太)
『英語圏のSF詩』(橋本輝幸)
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『太陽の到来』(『レンズの眼』より)(ラングドン・ジョーンズ、増田まもる訳)
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われらはここにいる太陽よ荘厳なる太陽よわれらは汝の光線を待ち受けるわれらを舐める汝の舌を太陽よわれらは呼び求めるわれらの肉体を圧する汝の怒り来たらんことを汝の毒をもちてわれらを浄めよ太陽よ死に至る激情の魔力ある太陽よ力強き太陽よ合一の栄光に満ちた太陽よ太陽よ太陽よ
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現代詩手帖2015年5月号p.32
『ストレンジ・ボーイズ』(『デッドボーイズ』より)(リチャード・コールダー、増田まもる訳)
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目立った特徴? メタセクシャリティだ。超越的性質だ。抗暗示的だ。狂ったリズムのいたずら、サイボーグ、ドール。こちらダゴン、暗黒物質に支配された宇宙の向こう側から呼びかけている。火星、応答せよ、ハロー?
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現代詩手帖2015年5月号p.35
『偽『初夢』から『SF』の方へ』(天沢退二郎)
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もちろんそこに何があるはずも
何もないはずも、それさえも
あるはずなどありはしなかった
ただひとつ、ここで明白になったのは
これはもはや決して「初夢」などではなくて、
それは「SF」と称する他はないものだった。
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現代詩手帖2015年5月号p.39
『次元の孤独』(最果タヒ)
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きみのことを好きだけれど、
明日も好きかはわからない そんな冷え冷えとした感性が、
あなたの脳を快感まみれにするくせに。
優しい人などいない世界は、光が鋭くて朝焼けが美しい。
きみの守りたいものが消え失せていくのが、青春で、人生の
スパイスならば
それ、死ねってことじゃないのかって。
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現代詩手帖2015年5月号p.41
『まつりびとれいこんまれいいち』(水無田気流)
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圧縮じざい の かみひろい
かみのまにまに しみがはう
しみはうるひ にかみがまう
かみのふざいはでふぉとなり
たいえきかみが やまをなす
いどうしんでんてんかします
いどうさいだんとうかします
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現代詩手帖2015年5月号p.43
『シャッフル航法』(円城塔)
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初期に開発されたシャッフル・ドライブが、アウト・シャッフルを採用していたことは我々にとって幸いであった。何故なら、いわゆるイン・シャッフル・ドライブが経巡る宇宙の数は、カードの総数、すなわち可能な宇宙の総数と同じ、52であることが知られているからである。これはあまりに膨大な数字であり、我々には想像することさえ叶わない。
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現代詩手帖2015年5月号p.54
『女人結界』(広瀬大志、伊藤浩子)
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偉大なる呪術者と讃えられた
「雄鳥の喉」シク・タエは
多変量下にあるおれの因子の一つ一つを
「水掻き雛」で結合する
その解析モジュールに関しては疑いの余地はなく
おれは反映する死後のパターンにおいて
混沌とする火と水の境界で降雨の規則性にあてがわれる
人は空を形成するための思考する器官である
人は魚を成長させるための不具合な性器である
人は鉱物を分離するための連鎖的情報であり
人は雨を循環させるための意識的言語の堆積物である
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現代詩手帖2015年5月号p.63
『橡』(酉島伝法)
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わたしたち幽霊は、月面の広大なクレーターの中央丘に寄り集まっていた。その数は二千名ばかり。頭上でゆっくりと回転している翠緑色の地球に、これから飛び降りようというのだ。
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現代詩手帖2015年5月号p.68
『La Poèsie sauvage』(飛浩隆)
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♯禍文字は数ある野良の詩集でももっとも風変わりであり、とびきり危険だった。書字空間においてこれに接触しようとし、そのまま「死んだ」者は少なくない。かれらは書字空間の外部から電子的代理人を差し向けてその「詩」を読もうとしたのだが、そのまま昏睡状態となった彼らの肉体の脳は、いまも全力を挙げてその「詩」の計算の一部を担っている。らしい。「らしい」というのは、だれもそれを確かめたがらないからだ。犠牲者たちは現実に陥入した「詩」の一部であるとして、軍の病院で厳重な監視下にある。
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現代詩手帖2015年5月号p.80