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『NASA 宇宙開発の60年』(佐藤靖) [読書(教養)]

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 NASAはこれまで、厳しい時代環境のなかにあっても宇宙開発の新たな展開を次々と世界に示してきた。幾多の予算削減を乗り越えてスペースシャトルや国際宇宙ステーションを完成させ、太陽系の無人探査を進め、宇宙科学分野に革命をもたらしてきた。だが近年、これまでにも増して米国の宇宙政策の安定感が失われるなか、NASAは果たして今後も宇宙開発を通じて人類に夢を与え続けることができるのだろうか。これまでのNASAの歩みを振り返ることで、NASAの未来を読む手がかりとしたい。
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Kindle版No.65

 アポロ計画、スペースシャトル、ISS国際宇宙ステーション、そして様々な観測衛星。60年に渡って宇宙開発をリードしてきたNASAは、どのように運営されてきたのか。巨大組織としてのNASAの歴史を概説した一冊。新書版(中央公論新社)出版は2014年6月、Kindle版配信は2015年2月です。


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NASAという組織がそもそもどのように成立し、これまでどのように発展して現在にいたるのかについては、一般にはあまり知られていないのではないだろうか。日本のニュースなどからは、NASAの成果はみえてもその組織の実態はみえにくいからである。NASAは米国の軍事ミッション、あるいは秘密のベールに覆われたミッションも担っているのではないか、と考えている人もいるかもしれない。(中略)
本書ではNASAの現在までの歴史全体を視野におさめ、政治・行政と科学技術とが複雑に交差するその組織的性格をバランスよく描くことを目指した。
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Kindle版No.3108、3129


 宇宙開発の分野で数々の偉業を成し遂げてきたアメリカ航空宇宙局、NASA。その知られざる内幕を詳細に紹介してくれる本です。厳しい予算制限、政治や軍事との絶え間ない確執、巨大組織マネージメントの苦悩、そして技術的課題。全体は5つの章から構成されています。


第1章 NASAの誕生 ----米国の新たな挑戦
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 1958年10月1日、NASAは初代長官キース・グレナンの下で発足した。(中略)
 グレナンは、陸軍や海軍の組織のNASAへの移管を進めつつ、長期的にNASAの技術能力を高めることを視野に入れて宇宙計画を立てるべきであるという信念を持っていた。
 すなわち、スプートニク・ショック後の米国内の動揺に過剰反応して短期的目標に振り回されるのではなく、秩序ある宇宙計画を構想しようとしたのである。
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Kindle版No.539、694

 第1章では、NASAがどのような経緯と目的のもとに誕生したかが詳述されます。キース・グレナンが打ち立てた基本方針、政治的基盤を築いたジェームズ・ウェッブ。歴代長官がどのようにNASAを導いていったのかがよく分かります。


第2章 アポロ計画 ----超大国の意志と創造力の結晶
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その歴史に残る文化的価値を考えるとき、アポロ計画は超大国たる米国が強い意志と情熱をもって完成させた、経済的価値に置き換えることのできない創造力の結晶だったといえるだろう。
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Kindle版No.1191

 第2章では、有人月面着陸を目指すアポロ計画がどのようにして遂行されたのかが、NASA内部における組織マネジメントを軸に語られます。


第3章 スペースシャトル ----成熟期NASAの基幹システム
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 チャレンジャー号事故は、まさにNASAという組織で政治と技術とが関わり合うなかで発生した惨事であった。技術開発の現場では問題の深刻度を認識していたが、政治的要請に基づく圧力が開発組織全体に浸透し、十分な対応を阻んだ。そして、重要な意思決定の局面でも政治的考慮が技術的考慮を圧倒し、それが事故につながったのである。
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Kindle版No.1481

 弱体化する政治的基盤、厳しい予算制限、そして二回におよぶスペースシャトルの大事故。その背後にあった組織上の問題。アポロ計画終了後、成熟期に入ったNASAの苦悩が語られます。


第4章 国際宇宙ステーション ----変容する国際政治の象徴
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ISS計画は、それが長年にわたって推し進められた動機も、それが生み出した成果も、すぐれて政治的なものであったといえる。ISSに参加する一六ヵ国は、長期間にわたって持続的に協力し、天空上に国際協調の象徴である巨大な構築物を造り上げた。それが、スペースシャトルなどの打上げ費用や運用終了時までに必要なすべての費用を含め総額1500億ドルとも見積もられる支出に見合う成果であったかどうかは、評価の分かれるところである。だが、政治文化、経済状況、技術水準のいずれの面でも大きな相違を抱える国々が、それぞれ独自の貢献を果たしてこの大事業を成し遂げたことは、人類史上に深く刻まれるはずである。
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Kindle版No.2069

 冷戦の終結とともに激変する国際関係のなかで、ISS国際宇宙ステーション計画は何を目指したのか。国際協調のもとに人類が初めて軌道上に築いた巨大建造物をめぐる紆余曲折を追います。


第5章 無人探査と宇宙科学 ----人類の知識領域の拡大
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 NASAは設立以来これまで、JPL及びゴダード宇宙飛行センターを中心に、全米あるいは世界の科学者コミュニティと協力しながら、宇宙科学の幅広い分野への貢献をなしてきた。天文学や地球科学の分野ではもちろん、近年では宇宙や生命の本質に関わる科学的知識を大きく拡大してきている。有人宇宙飛行部門ではやや方向性を見失っているNASAも、宇宙科学の分野では変わらず存在感を示しているといえる。
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Kindle版No.2799

 レンジャー、マリナー、サーヴェイヤー、ヴァイキング、ヴォイジャー、パイオニア、ガリレオ、カーシーニ。今なお私たちの心を高揚させる惑星探査機計画の数々、あるいはハッブル宇宙望遠鏡に代表される宇宙観測装置。宇宙科学の劇的な進歩をリードしたJPLとゴダード宇宙飛行センターの歴史が取り上げられます。


 というわけで、全体を通読すると、「人類最後のフロンティアに向かって果敢に挑戦し続ける科学者たちの砦」でもなく、「軍産複合体と癒着した官僚組織」でもなく、ましてや「異星人の存在を隠蔽している陰謀組織」でもない、リアルなNASAの姿が見えてきます。宇宙開発史、巨大組織運営論などに興味がある方にお勧めです。


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NASAの組織形態は分権化の動きも一部あったのであるが、全体的にみれば官僚化と集権化が進行し、組織運営が非効率的で硬直的なものになってきた。(中略)
 最近のNASAは明瞭なミッションを失い、長期的な方向性も定まらない。再び冷戦期のように世界を圧倒する成果を次々と出せるようになることは考えにくい。それにもかかわらずNASAという組織のブランドはいまも健在である。(中略)多くの人々がNASAに人類の夢を見、NASAに輝かしい組織であり続けてほしいと願っているからではないだろうか。そのような人々の希望と信念が、NASAに対する政治的支持の一つの背景となっているように思われる。
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Kindle版No.3048、3071、3080


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