SSブログ

『妖怪探偵・百目2 廃墟を満たす禍』(上田早夕里) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

--------
もうじきこの街は本物の戦場になる。自分で自分の身を守れない者は死ぬ。何もできないのであれば、一日も早く、この街から立ち去りなさい。
--------
Kindle版No.3969

 人間と妖怪が危うい均衡を保ちつつ共存している「真朱の街」。そこに迫り来る新たな脅威を前に、人も妖怪も、それぞれの思惑で動き始める。短篇『真朱の街』を構想新たに発展させた連作シリーズ第2弾。文庫版(光文社)出版は2015年4月、Kindle版配信は2015年4月です。


 軌道上の太陽発電衛星から、再生医療や遺伝子工学、人工知能に至るまで高度なテクノロジーが実用化されており、その一方で妖怪に対抗するための陰陽道や呪術もまた普及しているという、いかにも「異形コレクション」を源流とする歪な世界にある「真朱の街」、妖怪と人間が打算と駆け引きによって共存している街。

 この街で探偵業を営んでいる絶世の美女妖怪・百目と、彼女に寿命を吸われつつ文字通り命を削って働いている助手の相良邦雄。二人は今日も怪事件に挑んだり、挑まなかったり。

 というのんびりした話をもう少し続けるのかと思っていたのですが、いきなりの急展開に驚かされます。

 街に迫る大妖怪〈濁〉と、妖怪殲滅を目指す陰陽師、播磨遼太郎。彼と協力して街の「浄化」を目論む警察。組織と妖怪との間で板挟みとなって苦しむ刑事。播磨遼太郎の真意を探ってゆく百目と相良邦雄。様々な矛盾を抱えた登場人物たちが、それぞれに悩みながら動き始めます。


--------
 自分から背負ったものの、どんよりとした気持ちがのしかかる。こうやって僕は徐々に人間世界から遠ざかる。妖怪じみた存在になっていく。
--------
Kindle版No.232

--------
 心は人間のままでも、身体的な意味では、おれは妖怪に近い存在になってしまったのではないか。
--------
Kindle版No.491

--------
このまま放置しておけば、〈濁〉は真朱の街の中で、どんどん肥え太っていく。そして、周囲に、黒い穢れを撒き散らすようになるだろう。手に負えないほど〈濁〉が巨大化する前に、我々は、どうしても奴を倒さねばならん。
--------
Kindle版No.659

--------
人生の何を犠牲にしても構わない。〈濁〉を倒せるなら、どんな酷いことだってやり抜いてみせる。
--------
Kindle版No.3333

--------
自分の知らないところで、妖怪を殲滅する作戦が着々と進行している。では、いずれ自分は、百目や牛鬼とも闘わねばならないのか。撃てるのか、あの銃で彼らを。
--------
Kindle版No.565

--------
とりあえず一発ぐらいは殴らせろ。そのあとなら話を聞く。
--------
Kindle版No.3791

--------
私は〈見ること〉が生き甲斐で、そこには、見つめる対象の本質を暴きたいという気持ちがあるだけよ。
--------
Kindle版No.356


 いつもの通り、唯一の正義はなく、多様な価値観がぶつかり合うなかからドラマが展開してゆく作品です。陰惨なエピソードも多いのですが、いい意味でも悪い意味でもさばけたというか、いい加減というか、迷いがないというか、そういう妖怪たち(含む相良邦雄)のおかげで、全体としては明るい印象を受けます。ときにユーモラスなシーンも。

 著者にしては珍しい楽屋ネタもさりげなく混ざっていたり。

--------
とうの昔にうちの常連客になってるぞ。〈伯爵〉って呼ばれて皆から慕われている。ホラー小説のアンソロジーを編纂して、人間からも喜ばれているぐらいだ。
--------
Kindle版No.3711

 このシリーズや「オーシャンクロニクル」シリーズを世に出すきっかけを作った〈伯爵〉ですが、妖怪酒場にまで出入りしていたとは。


タグ:上田早夕里
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: