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『アッコです、ドモ。』(高橋章子) [読書(随筆)]

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 髪振りみだして仕事して、これまた髪を振りみだして遊びまくり、タバコ吸って酒飲んで、たくさんの素敵な仲間たちと知り合ったビックリハウスの10年間。そんな品行方正なる清い生活の中で書きためた原稿たちをまとめたのが、この本です。
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Kindle版No.2002

 70年代後半から80年代前半を駆け抜けた伝説のサブカル投稿誌「ビックリハウス」。アッコ編集長が赤裸々に語る、あの時代。単行本(筑摩書房)出版は1983年3月、文庫版(講談社)出版は1992年6月、Kindle版配信は2015年3月です。


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「ビックリハウス」やってたこと? 自分のためになったよお、すごく。とにかく世の中にハラ立ってしようがないからさ。それを真っ向から言うと全学連になっちゃうじゃん。遊びで言いたかったの、「世の中ヘン!」ていうのを。もう最初からそう。
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Kindle版No.307

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私の嗅覚で、「ビックリハウス」に来る投書を選ぶのね。教わったことじゃなくて、ホントに自分で感じた、だから言いたくてしようがなくて言っちゃったっていうのは、出ちゃうのね、投書に。ホントに面白いと思ってないのに「こんなの書いたら載るかなー」なんて送ってきたのは、もうクサくてどうしようもない。
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Kindle版No.244

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 投書はいま、中っくらいのダンボール箱に一杯来るよ、一日に。読むの大変だよー。投書がいっぱいあるから編集ラクでしょ、なんて言われるけど、とんでもハップンよ。
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Kindle版No.253


 ビックラゲーション、全国流行語振興会、御教訓カレンダー、面コラ、おもこ、そしてエンピツ賞。こうしてコーナー名を思い出すだけでも、懐かしさが込み上げてきて、思わず感傷的になってしまう「ビックリハウス」。青春、だった。

 終刊が1985年というから、もう30年前になるのか……。私も一所懸命に読んでいましたが、他人にそう言うのはなぜか非常に恥ずかしい。「月刊OUT」の愛読者だったと告白するよりも恥ずかしい。


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 先だって『ビックリハウス』に、こんな投書がきた。「産休あけの保健の小田切先生が、授業中にボウルに母乳をしぼり出し生徒に飲ませたので、大変に驚いた」
 さぞかし大変に驚いたことと思う。投稿者は、17歳のフクちゃん。
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Kindle版No.366

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「僕、ヒロシっていいます。僕……受験生なんです」 という電話が、編集部で仕事中の私の所にかかってきた。カセットにとるから「ヒロシ君、がんばって!」と3回言ってくれと、彼は暗くて重い声でポツポツと言うのだった。
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Kindle版No.557


 今、フクちゃんやヒロシ君は、どこでどうしているのだろう。そして、あー、何だったんでしょうね。あの時代。


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 渋谷公園通りに、人が溢れる。
 ウチの隣のおばサンなんかにとっては、公園通りとパルコは“ナウさの象徴”である。(中略)
パルコ前にいるヤツなんか「ヘイ♪ カノジョ♪」と声をかけてくるしサーファーみたいでナウイのだ。(中略)
 夜になるとPARCOのネオンがPから順に点滅する。渋谷の街を見おろすように“パーこ、パーこ”と点滅する。
 今日も、街では色んなことが起きている。
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Kindle版No.1341、1380、1403

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「年とった女が、事務所でチョロチョロしてても、カワイクないんだよ。ヘタに経験つんでるからウルセェしよぉ」
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Kindle版No.1803

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ムサビ(武蔵野美大)に通っていた頃のことだ。入学歓迎コンパの席で、意識不明になった。
 学食の湯呑茶碗でくみかわすこのコンパ、まずは手始めにビール→二級酒→焼酎→サントリーレッド→茅台酒、と続く。このコース順になみなみとつがれたアルコールを、新入生はただひたすら飲み流していくんである。ダメになった人間は戸外へ這い出し、吐く。吐いて、また湯呑の前にもどって、飲む。
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Kindle版No.1451

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 で、なんか作るわねぇとか言って2~3品ツマミを作って、ベーコンを1切れ口に入れたところまでは覚えてる。その次の瞬間には床にあお向けになって股を閉じたり開いたりしながら あ、おまんた、おまんた と歌っていたらしい。
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Kindle版No.1496


 今だったら一発アウト、通報ものの所業がまかり通っていた、ナウい時代。今の若者には理解できないかも知れないし、理解しなくてもいいんだけど、そんな時代を知らずに済んで良かったと、もろもろ感謝して頂きたいものです。

 さて、そんな頃に「ビックリハウス」の編集長をやっていたアッコさんはいったい何者なのか。どんな風に育ってきた人なのか。


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 ちゅーワケで、めちゃくちゃ嬉しくなって、ヨーロレイヒイ~♪
 というような文章を、私は書いたりするんである。ウチの母などは「くだらない。読みにくい。ほかに、あんな風に書いてる人なんて居ない」とカンジの悪いことを言い「嫌いだわ、ママ」と、おそろしい一言でトドメをさす。
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Kindle版No.1609

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 夜遊びしちゃいけない! と、育てられたのだ。なにしろ、我が家は両親共にマジメな教育者なんだから。それが、こーだ。私から夜遊びをとったら、残るのは自分で言うのもナンだが美しさだけだ。
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Kindle版No.1551

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そもそも当時、私は対人恐怖症におちいっていたからなのである。繊細な神経が為に、大学卒業後、しばし人が怖くて人前へ出られず、自室にとじこもって悶々とする日々であった。(中略)
 で、この状態はあまり気分のいいものではなかったので、逆療法をほどこすことになる。つまり人前に出ることで、このやっかいなものを打破することにしたのである。凡人には出来ないことだ。
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Kindle版No.1669、1672


 両親ともに教育者。厳格な家庭に育ち、社会に出るのが怖くて引きこもっていたという意外な過去。思い切ってバイトに出たら、そこがビックリハウス編集部。で、あとヨロシク、という感じで、気が付いたら編集長の座を押し付けられていた、と。

 そうして、こんな生活になるわけです。


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 数軒にわたるハシゴは序の口だ。レコーディング中の歌手をスタジオに訪れる。開店中のラーメン屋を求めて夜食ツアーを開始する。ピンポンしに行く。スポーツというのは夜やると、あれほど不健康でイイものはない。
 すっかり明けてしまった大通りを、登校を急ぐ学生共とすれ違いながら家路につく。部屋に着いてパンツを取りかえて味噌汁を飲みながら1~2時間ウトウトすると、さて、出社だ。こんなことを幾日も幾日も、続ける。
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Kindle版No.1518


 というわけで、その昔ハウザー(ビックリハウスの愛読者)だった人やイカれたあの時代を懐かしむ人にお勧め。


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 ヤッホー。おい、どーだ、このヤロめ。充実の一冊であったろーが。ドモ。
 などと書いていると、なんか『ビックリハウス』の編集後記を書いてるような気分になってくるのだった。(中略)
 この本は、今まで書いてきたものの中から特に才気の感じられる優れた作品を厳選し、一冊にまとめたものです。(中略)
読む人を飽きさせまいとする、このプロの気配り。感動せざるを得ない次第です。(中略)
底に流れる作者のスルドイ洞察力は、“時”なんか超越してるもんね。幾度も読み返し、生涯のバイブルにすることが望まれます。
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Kindle版No.1971


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