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『11 eleven』(津原泰水) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 ホラー、SF、幻想小説が一体となった11の完璧な物語たち。傑作ぞろいだった『綺譚集』をもはるかに超える素晴らしい最新短篇集です。単行本(河出書房新社)出版は2011年6月。

 帯に「最高傑作」、「完璧」、などと興奮気味に書いてありますが、読み終わってみればまさにその通り。その恐るべき完成度に感服しました。何しろどれもこれも飛び抜けており、凡作が一つもないという、これは奇跡の一冊といってよいでしょう。

 小人、シャム双生児、牛女などのフリークが集まった見世物一座、くだんの予言、パラレルワールドといった要素を組み合わせて、グロテスクで、美しく、哀切極まりない世界を作り上げた感動作『五色の舟』。

 失踪した娘の心に迫ろうと、電源の延長コードを次々と継ぎ足しながら闇に足を踏み入れてゆく父親の心境を生々しくえがいた『延長コード』。

 他人の身代わりとなって戦地に赴いた男の数奇な人生を、驚くべき筆力をもって高密度に凝縮して語ってみせる『土の枕』。

 大型犬の飼育を題材に、静かな狂気を見せつける衝撃作『クラーケン』。彫刻家の視界に現れたモデルの「顔」が、次第に近づいてくる恐怖『微笑面・改』。脳内埋め込み型デバイスにより顕現する奇妙な愛の形を扱った『テルミン嬢』。

 どの作品もホラー要素あるいはSF要素を濃厚に含みながら、あくまで幻想小説として有無を言わさない迫力。そういった要素を含まない短篇としては、爽やかな青春小説『キリノ』、そして見事なレトリックで読者を翻弄し、とどめの一行で感嘆させる『琥珀みがき』の二篇が収録されていますが、どちらも読みごたえたっぷり。

 というわけで、収録作すべてが傑作としか云いようがないレベル。ホラー、SF、幻想小説、どのジャンルの読者にも自信を持ってお勧めできます。SF読者としては、今年の日本SF短篇集ベストは本作で決まりではないかと、そう思いました。

[収録作品]

『五色の舟』
『延長コード』
『追ってくる少年』
『微笑面・改』
『琥珀みがき』
『キリノ』
『手』
『クラーケン』
『YYとその身幹』
『テルミン嬢』
『土の枕』


タグ:津原泰水
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『アリア』(ジル・ロマン振付)、『80分間世界一周』(モーリス・ベジャール振付)、『ダフニスとクロエ』(ジャン・クリストフ・マイヨー振付)、『シェエラザード』(ジャン・クリストフ・マイヨー振付) [映像(コンテンポラリーダンス)]

 7月のNHK BS プレミアムシアターは、「ダンス特集」ということで、7月16日の23時30分から翌日3時30分まで、モーリス・ベジャール・バレエ団の公演を二本、モナコ公国モンテカルロ・バレエ団の公演を二本、計4本を放映。録画しておいてやっと鑑賞しました。

 まずは、ベジャールの衣鉢を継いだジル・ロマン振付の『アリア』。

 ミノタウルスの姿に託して人の奥底に潜む獣性を描いたと思しき作品で、そのクールな演出と妙な滑稽さがほどよく調和しており、感心させられます。変に演出に頼らず、がんがん踊らせるところも素敵。ジル・ロマンの作品を観るのははじめてですが、けっこう気に入りました。

 次は、ベジャールの遺作『80分間世界一周』で、これはベジャール作品に影響を与えた各国のダンスを次々と披露しながら、ベジャールの人生を回顧するという楽しい作品。この舞台、以前に市販映像を観たときに感想を書いてます。詳しくは2009年03月15日の日記を参照して下さい。

 そして、ジャン・クリストフ・マイヨー振付によるモンテカルロ・バレエ団の『ダフニスとクロエ』と『シェエラザード』。バレエ・リュス演目の再振付なんだそうですが、何というか、最初から最後まで、男女入り乱れてひたすらいちゃつくだけ、という油断すると脳捻転を引き起こしかねないお馬鹿な舞台。

 ラヴェルの名曲が流れるなか、ダフニスとクロエが互いを見つめ合う。古典バレエのような美しい光景ですが、しかしその背景のスクリーンに二人の脳裏で展開している妄想(裸体ですよもちろん)が映し出されてしまう。

 リムスキー・コルサコフの名曲が流れるなか、女主人と戯れる金の奴隷は、股間から手をつき出してぴょんぴょん跳びはねるし。

 以前に市販映像で『シンデレラ』を観たときも思ったのですが、マイヨーの作品は楽しく、セクシーで、お馬鹿。全体的にやりすぎ感が強く、官能的なシーンも即物的すぎて思わず笑いが出てしまう(狙ってるのがありあり)、下品になる半歩手前で何とか美しさを保っているという感じ。どこかうっすらと狂気が漂っているような気がするのも印象的。

 シャープなダンス、華麗で目にも鮮やかな群舞、誰にでも分かり易いシンプルで効果的な演出。全体のレベルが高いので、お馬鹿エロが目立って笑いを誘ってしまうという、好みがあえばハマるに違いない作風ではないでしょうか。

『アリア』

振付: ジル・ロマン
出演: フリオ・アロザレーナ、ジュリアン・ファブロー、エリザベット・ロス、カトリーヌ・ズアナバール、ダリア・イワノワ、ダフニ・モイアッシ、シャルル・フェルー
収録: 2009年5月、ローザンヌ・ボーリュ劇場

『80分間世界一周』

振付: モーリス・ベジャール
出演: ジル・ロマン、エティエンヌ・ベシャール、カトリーヌ・ズアナバール、ダリア・イワノワ、ダヴィッド・クピンスキー、ジュリアン・ファヴロー、レアーヌ・コドリントン、エリザベット・ロス、ジュリアーノ・カルドーネ、ダフニ・モイアッシ、ドメニコ・ルヴレ、カテリーナ・シャルキナ、オスカー・シャコン、アレッサンドロ・スキアッタレッラ、那須野圭右、オクタヴィオ・デ・ラ・ローサ、マーティン・ヴェデル、エミール・デルベ、フリオ・アロザレーナほか、ルードラ・ベジャール・バレエ学校の生徒たち
収録: 2008年2月、パレ・デ・スポール

『ダフニスとクロエ』

振付: ジャン・クリストフ・マイヨー
出演: アンハラ・バジェステロス、ジェローン・ヴェルブルジャン、ベルニス・コピエテルス、クリス・ローラント
収録: 2010年11月6日、モンテカルロ歌劇場

『シェエラザード』

振付: ジャン・クリストフ・マイヨー
出演: ベルニス・コピエテルス、ジェローム・マルシャン、レアルト・デュラク、オリヴィエ・ルセア、アレクシス・オリヴェイラ、ジェオルジェ・オリヴェイラ、ステファン・ボルゴン、ジェローン・ヴェルブルジャン、クリス・ローラント、アシエ・ウリアゼレカ、小池ミモザ、エロディ・プナ、キャロリン・ローズ
収録: 2010年11月10日、モンテカルロ歌劇場


タグ:ベジャール
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『アルカロイド・ラヴァーズ』(星野智幸) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“星野智幸を読む!”、第8回。

 少しずつ植物毒を盛って夫を衰弱死させてゆく女、二人を見張る獰猛なベンジャミンの木。人間であることの原罪に苦しみ植物回帰を目指す彼らがついにたどり着いた楽園とは。単行本(新潮社)出版は2005年1月です。

 植物の実として生まれ落ち、ひたすら恋とまぐわいと殺し合いにふけり、死んではまた実る。永遠にそれを繰り返す楽園にいた子供たち。その一人が罪を犯し、罰として楽園を追放され、現世に堕ちて女として生きることを強いられる。

 彼女は、種から生まれた男を見つけて結婚し、彼に少しずつ植物毒を盛ってゆく。全てを受け入れて衰弱してゆく夫。そんな二人の様子をうかがう獰猛なベンジャミンの木。

 奇妙な三角関係の果てに夫は植物状態となり、彼女はパトロンとなった語り手に依頼して自分を庭に埋めてもらい、植物として、「骸骨の木」として再生することを願うのだったが・・・。

 とにかく植物楽園の濃厚で官能的な描写が強烈で、酩酊感をもたらします。それに比べると、人間としての生活は精気に欠けたぐずぐずの苦しみだというのも納得できて、いつしかヒロインの植物回帰願望に共感するようになるのには驚かされました。男・女・植物という分かりにくい三角関係もすんなり受け入れさせる、その巧みな筆さばきは見事です。

 というわけで、植物の獰猛さに満ちた、アルカロイド毒素で脳中枢をやられるような、驚異の幻想小説です。個人的には、『ファンタジスタ』や『ロンリー・ハーツ・キラー』のような、国や社会のあり方をめぐる大きな話よりも、こういう小共同体を観念的に官能的にねちこく描く作品の方がこの作者らしいという気がしてなりません。


タグ:星野智幸
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『こんなに厳しい! 世界の校則』(二宮皓:監修) [読書(教養)]

 各国の中学高校の校則には、日本人から見ると奇妙に感じられるものが多々あります。「休日に宿題をしてはならない」(ドイツ)、「マイナス18度以上であれば、休み時間は外に出なければならない」(フィンランド)、「通学カバンの中に小説・漫画を常備しておくこと」(ベルギー)。

 これらの背後にある文化や社会状況、そして教育理念とは何か。校則を通じて世界の文化的多様性を学べる素敵な一冊。新書版(メディアファクトリー)発行は2011年6月です。

 日本の校則は厳しい、などと漠然と思っていましたが、本書を読むと、決してそうではないことに気づきます。もっと厳しい校則、凄みのある校則がいくらでもあるのです。

 「マイナス18度以上であれば、休み時間は外に出なければならない」(フィンランド)。これは修行や精神鍛練ではなく、マジで子供の耐寒機能を高めて冬でも生きてゆけるようにするための校則なのだそうで、フィンランドの寒さ恐るべし。

 「毎朝、6時55分に国家斉唱を行わなければならない」(メキシコ)。日本の子供たちが0655など見て、朝がきたー、おれ、猫、などとやっているときに、メキシコの子供たちは学校に集合して国歌斉唱をやらなければならないのです。厳しい。

 校則から感じられる本気っぷりも日本の比ではありません。

 「盗撮や罵言・差別用語を用いることは、微罪ではなく、刑法201条に抵触する」(ドイツ)。いじめは犯罪、などと比喩的にいうのではなく、有無を言わさず警察に通報し、法のさばきにゆだねます、と宣言。さすがドイツは本気だ。

 「国家の非常事態の際は生徒会の効力は停止される」(韓国)。これも本気というか、平時でも何かと撃沈されたり砲撃されたりしている国の危機感がひしひしと伝わってきます。

 「面会は週に1回、男性は家族しか認められない」(マレーシア)。「自宅から持ってきたものを他の生徒に売ってはならない」(ケニア)。「恋を語り合ってはならない」(中国)など、生活や規律の厳しさがうかがえる校則も。

 単に「世界のオモシロ校則集」みたいな雑学本として読んでも楽しいのですが、解説を読むことで、各国の文化や社会背景、そして教育理念がよく分かって勉強になります。

 「休日に宿題をしてはならない」(ドイツ)。「すべてのおかずを食べること」(フィンランド)。「通学カバンの中に小説・漫画を常備しておくこと」(ベルギー)。「先生の机を全員で取り囲んではならない」(タイ)。「教師にあだ名をつけたり、教師がいないところで直接教師の名前を用いたりしない」(中国)。

 さっと読んだだけでは意味不明な校則も、それがどのような教育理念や社会通念に基づいて何を目的として定められているのかを理解することで、なるほど、納得できるようになります。異文化理解の練習になるかも知れません。他国のことが奇妙で愚かに感じられるときは、だいたい理解不足が原因となっていることが多いものです。

 通読して感じるのは、どの国も教育には本気で力を入れているんだなあ、ということ。具体的な現実の問題に対処するため、教育理念を貫くため、社会的要請に応えるため、文化的伝統を守るため、理由は様々ですが、子供をきちんと育てることこそ国家の基礎、という強い信念が伝わってきます。

 ひるがえって自分が中高生だった頃の校則を思い出すと、何となく、教師の支配力を守るためのような、あるいは奴隷根性の足りない生徒をあぶり出して制裁を加えるためのような、そんな変な校則も多かったような気がしてなりません。今は違うのでしょうか。


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『火事場泥棒地震詐欺、その他』(笙野頼子) [読書(随筆)]

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第57回。

 「新潮」2011年8月号に掲載された2ページの随筆です。内容は、震災後の近況報告などが中心。原稿料は全額寄付とのこと。

 タイトルにある「火事場泥棒」というのは、「みんなが悪い自分も悪い」という本来は謙虚な声の主語を盗んでゆく泥棒のこと。

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 「みんな」、「自分」等の一般的な、簡単な主語に物事を帰結させると、直接の責任者が隠れてしまうのだ。判りやすい表現になり納得だけ発生し、終始感まで出て」(p.211)
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 「地方に原発を押しつけておいて、電気の恩恵だけは享受していた東京都民」の一人として、私も反省すべきだとは思うのですが、しかし、そういうことを声高に、どこか得意気にいう声に、かの「一億総懺悔」の響きを感じて、妙ないらだちを感じてしまうのです。

 被害者に「自主的に」反省させ責任をとらせて、直接やっていた連中をなにげなく免罪した上、すでに総括済という雰囲気を作って事象の分析評価をも封じてしまう。「わたしたち誰もが」加害者なのだから、これは「文明災」なのだから、みたいな大仰なことをいって、物事を変えるための地道な議論をさせないようにする。

 そういう嫌な構図がまかり通っている様子を、「火事場泥棒」という言葉でずばり表現してくれました。寛容で真心がこもっているはずの言葉に何でこうもいらつくのか不思議でしたが、ああそうか、盗まれていたのか。

 主語泥棒防止の呪文用例もついてますので、気になる方は「新潮」2011年8月号のp.230~231で確認してみましょう。

 一方、タイトルの「地震詐欺」が指しているのは、地震の不安につけ込むリホーム詐欺のこと。作者のところにもやってくるらしく、「海神の生贄とか人柱になれお前ら」(p.231)。怒りのあまりちょっと金毘羅はいって、祟りが、怖。

 詐欺といえば、放射能排出食品詐欺なんてのもありますね。それから、再稼働しないと(電力不足で)子供や高齢者など社会的に弱い立場の者から死んでしまうぞ、という、これは詐欺というより人質たてこもり犯みたいな、そんな言説も横行してたり。

 他に、被災者の尊厳無視のマスコミ態度、都知事の「天罰」発言、webちくまの連載の件、立教大学大学院特任教授としての授業のこと、そして女流文学賞辞退に関するツイート鼠からのいちゃもんへの回答など。

 こまめで丁寧な随筆で、何度も「申し訳ない」という謝罪の言葉が挟み込まれ、読者も心痛を覚えます。粗暴犯、泥棒、詐欺などの片棒を担いでいる言説ばかりが目につく昨今、そうでない言葉を読める幸福をかみしめずにはいられません。


タグ:笙野頼子
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