SSブログ

『スーパーアース』(井田茂) [読書(サイエンス)]

 太陽とは別の恒星を周回する惑星、いわゆる系外惑星の探査が驚くべき発展を遂げている。大質量の木星型惑星に続いて、今や地球より重い固体型惑星「スーパーアース」の発見ラッシュ。そこに海はあるのか、そして生命は。系外惑星探査の最新状況を分かりやすく解説してくれる知的興奮のサイエンス本。新書(PHP研究所)出版は2011年6月です。

 少し前まで、他の恒星系に属する惑星を発見するというのは極めて困難で、おそらくは不可能だろうと考えられていました。

 バーナード星に惑星があるらしい、と発表されたときにはSF関係者一同大いに盛り上がり、一時はやたらと「バーナード星人が地球にやってくる話」など書かれたわけですが、その後、誤りと判明。ああ、やはり探査機を送って調べる以外に系外惑星を見つけることは出来ないのか、それでは何万年もかかってしまう、と落胆したものです。

 ところが、天文観測技術の進歩とは素晴らしいもので、質量が大きく中心星に近い軌道を周回している惑星なら検出できるところまで精度が向上。ホットジュピターやエキセントリックジュピターと呼ばれる木星型惑星が次々と発見されたのには驚きました。大喜びしつつも、まあ大質量の巨大ガス惑星でないと発見は無理だろうなあ、本当は地球みたいな惑星を見つけたいんだけど、などと勝手なことを。

 ところが今や観測技術は信じられないほどの発展を遂げ、ついに地球より重い固体型惑星「スーパーアース」、さらには地球とさほど変わらない質量の「アース」を見つけることが出来るようになったというからこれは凄い。

 グリーゼ581星系にはスーパーアースが五個も発見され、しかもそのうち三つには表面に海があるかも知れない、といった最新のトピックも出てきて、血圧が上がりそう。

 さらには、系外惑星の組成やら、大気の成分やら、地表の様子、そして、そして、生命活動の痕跡まで、地球にいながらにして調べることが出来るようになったというから、これはもうぶったまげる他はありません。す、げ、えっ!

 興奮して前置きが長くなりましたが、本書はこの興奮に満ちた系外惑星探査の現状を一般向けに分かりやすく解説してくれる新書です。

 前半は系外惑星探査の歴史、スーパーアースが続々と発見されるに至った経緯がまとめられています。後半は、恒星系(系外惑星)の誕生シナリオを詳しく解説し、そして系外惑星における生命の存在可能性、そしてその痕跡(バイオ・マーカー)の観測といった、わくわくする話題が登場。

 付録として、ドップラー法、トランジット法、重力レンズ法、といった系外惑星探査に用いられる技術の解説がついています。この付録を最初に読んでおくことを強くお勧めします。用語が本文に頻出しますし、それぞれの技法がどのような長所短所を持っているのか知っておいた方が、話の流れを理解しやすくなります。

 「系外惑星は数々の魅力的な謎をもちながら、それらに対して、こう考えてみたらいいかな、こういう観測もできそうだとか、特別な天才でなくてもあれこれチャレンジできる。プロの卵の大学院生でも世界から注目される発見をしたり画期的な理論を提出できたりする。そしてそれらは生命の謎につながっていたりする。科学者にとって、こんな楽しい研究分野はそうそうあるわけではない」(新書p.83)

 「ペガスス座51番星の惑星が発見されるまでは、系外惑星を観測しようとする研究者は世界で10人もいなかった(中略)。関連論文も年に10本発表されるかどうかという非常に牧歌的な感じだった。それが今では毎月のように世界各地で国際会議が開催され、参加者はどの会議も100人を超える盛況ぶりだ。関連論文は一日に何本も発表され、全部はとても把握しきれない」(新書p.41)

 この分野の研究者たちの興奮と熱気がひしひしと伝わってきます。自分たちがとてつもない大発見時代に生きている、という実感に読者も身が震えてきそうです。

 「米国では学生も次々と系外惑星の研究を自らの専門に選ぶようになってきている。ヨーロッパでも状況は似ていて、若い研究者や学生が系外惑星の研究をスタートさせ、系外惑星を研究する人の数は急激に増加している」(新書p.40)

 と盛り上げておいて、

 「日本では、経済効果に無縁な新しい基礎科学分野が発展するのは難しい状況になっているので、この分野の研究者も学生も欧米に比べたら、あまり増えていないのが残念だ」(新書p.40)

 というように、悔しさをにじませつつ、政治にイヤミをぶつけたり。気持ちはよく分かります。予算を、もっと予算を。

 というわけで、「太陽系から××光年離れた恒星系に地球に似た惑星を発見」みたいなニュースが新聞やネットニュースを騒がせることが多い昨今、どうやってそんなことが分かるのか基本だけでも知りたい方、わずか数年でがらりと状況が変わってしまうような急激な発展をしている研究分野における現場の興奮を垣間見てみたい方、あとハードSFのファンにもお勧めできる、知的興奮に満ちた一冊です。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: