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『アルカロイド・ラヴァーズ』(星野智幸) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“星野智幸を読む!”、第8回。

 少しずつ植物毒を盛って夫を衰弱死させてゆく女、二人を見張る獰猛なベンジャミンの木。人間であることの原罪に苦しみ植物回帰を目指す彼らがついにたどり着いた楽園とは。単行本(新潮社)出版は2005年1月です。

 植物の実として生まれ落ち、ひたすら恋とまぐわいと殺し合いにふけり、死んではまた実る。永遠にそれを繰り返す楽園にいた子供たち。その一人が罪を犯し、罰として楽園を追放され、現世に堕ちて女として生きることを強いられる。

 彼女は、種から生まれた男を見つけて結婚し、彼に少しずつ植物毒を盛ってゆく。全てを受け入れて衰弱してゆく夫。そんな二人の様子をうかがう獰猛なベンジャミンの木。

 奇妙な三角関係の果てに夫は植物状態となり、彼女はパトロンとなった語り手に依頼して自分を庭に埋めてもらい、植物として、「骸骨の木」として再生することを願うのだったが・・・。

 とにかく植物楽園の濃厚で官能的な描写が強烈で、酩酊感をもたらします。それに比べると、人間としての生活は精気に欠けたぐずぐずの苦しみだというのも納得できて、いつしかヒロインの植物回帰願望に共感するようになるのには驚かされました。男・女・植物という分かりにくい三角関係もすんなり受け入れさせる、その巧みな筆さばきは見事です。

 というわけで、植物の獰猛さに満ちた、アルカロイド毒素で脳中枢をやられるような、驚異の幻想小説です。個人的には、『ファンタジスタ』や『ロンリー・ハーツ・キラー』のような、国や社会のあり方をめぐる大きな話よりも、こういう小共同体を観念的に官能的にねちこく描く作品の方がこの作者らしいという気がしてなりません。


タグ:星野智幸
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