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『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』(工藤美代子) [読書(随筆)]

 怪異に出会いやすい「体質」のノンフィクション作家が、自身が体験した奇妙な出来事の数々を語った実話怪談エッセイ。単行本(メディアファクトリー)出版は2011年5月です。

 タイトルに思わず笑ってしまうのですが(やはり「もし化け」とか呼んでほしいのでしょうか)、内容はじんわり怖い怪談集です。いわゆる聞き取り「実話系」怪談集とちょっと違うのは、全てのエピソードが著者自身の体験談であり、それをノンフィクションの手法で書いてあるということ。

 病院の廊下に、白衣を着た人たちが全員無言のままぎっしり立っていた。無人の病室から夜な夜な唸り声が聞こえてくる。入浴中、浴槽の底から女の髪の毛が大量に浮いてきた。深夜、家の前の坂道を女の子がゴムボールをつきながら通る。死んだ裏のおばさんの姿をときどき見掛ける。そして、三島由紀夫の自殺と川端康成の死との間にある奇妙な因縁。

 一つ一つは他愛もない、ありがちな怪談ネタに過ぎないのですが、読んだ後でじんわり薄気味悪くなってきます。特に派手な展開があるわけでもなく、怖がらせようという演出意図も感じられないところが、何だか妙に気にかかるのです。夜中にふと思い出す率高し。

 個人的には、作中に何度か登場する著者の母親がいい味出してるなと思います。

 「いいたくないけどね、あんたがね、裏のおばさんの姿を見掛けたとか、夜中に笛の音を聞いたなんていうたびに、あたしゃ心配してるんだよ。頭がどうにかなっちゃったんじゃなかって」(単行本p.131)

 そりゃ確かに心配でしょう。ちなみに、その母は死んだ後もちょくちょく電話をかけてくるそうで、たぶん、この世に幽霊なんていないんだからね、あんた変なこと書くんじゃないよ、と娘に説教したいんだろうなあ。

 同じ著者には『日々是怪談』という怪異体験エッセイもあって、これもけっこう怖いというか不気味な体験談が収録されています。個人的には『日々是怪談』の方が好き。まずはそちらを読んで、気に入ったら「もし化け」も読んでみる、という順序がいいかと思います。


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