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『超常現象を科学にした男  J.B.ラインの挑戦』(ステイシー・ホーン) [読書(オカルト)]

 透視やテレパシーなどのESP(超感覚的知覚)現象を科学的に研究し、近代超心理学の草分けとなったデューク大学のジョゼフ・バンクス・ライン教授。学界からはキワモノ扱いされ、オカルトビリーバーからは「心霊現象を無視している」と非難され、板挟みに苦しみながらも最後まで科学的な態度を崩さなかった彼の人柄を活き活きと伝えてくれる伝記です。単行本(紀伊國屋書店)出版は2011年7月。

 超能力や超心理学の話題が出てくるとき、やたらと話の枕に使われるライン教授。その名は広く知られていますが、実際に彼がどのような研究を行い、どのような人生を送ったのか、そもそもどんな人なのか、その詳しいところはあまり知られてないようです。

 本書は、そのライン教授の伝記です。

 翻訳は、ASIOS (Association for Skeptical Investigation of Supernatural : 超常現象の懐疑的調査のための会)メンバーにして、ASIOS『謎解き』シリーズでは「呪われたホープダイヤモンド」、「ナスカの地上絵」、「ストーンヘンジ」、「ギザの大ピラミッド」、など懐かし人気ネタを鮮やかに解説してくれたナカイサヤカさん。

 監修は、『トンデモ超能力入門』で超心理学がいかに厳格な科学的研究であるかを静かに熱く語って読者を感嘆せしめた明治大学の石川幹人先生。

 このお二人がからんでいる超心理学の本なんだから、面白くないはずがありません。

 本書の前半では、時代背景と共にライン教授が行ったESP研究について語られます。テレパシー実験で統計的に有意な結果が得られ、また安定して高スコアを出す「能力者」が見つかるなど、画期的な成果が得られた研究初期の熱気が伝わってきます。同時に、個人出資者や支持者の期待はESPではなく死後生存(つまり霊の存在)にあった、といったことも明らかにされます。

 後半になると、ESP研究が停滞してしまったため、話題はライン教授やその弟子たちがからんだ様々なオカルト事件に移ってゆきます。霊媒、生まれ変わり、ポルターガイスト、超能力捜査官、ESPの軍事利用、遠隔透視スターゲイト計画まで。特にポルターガイスト事件については詳しく語られ、お好きな方ならどきどきしてくるはず。というかそれは私。

 前半と後半でかなりテイストが違っています。格調高いサイエンス本や科学者の伝記を好む読者には前半を、「いかがわしい」オカルト話が大好きな読者には後半を、それぞれお勧めします。ちなみに私は両方ともお気に入り。

 ライン教授も印象的というか、キャラが立っています。「好戦的な改革活動家」(単行本p.79)であり、「研究対象に向けるあふれんばかりの情熱」(単行本p.83)の持ち主だが、著名な懐疑主義者マーティン・ガードナーをして、「たいへんまじめな人で、その仕事は軽視できないほど注意深くまた巧妙に企画されており(中略)真剣な扱いをうけるだけの値打ちがある」(単行本p.91)と言わせるほど厳格な姿勢で研究に取り組んだライン教授。

 特に後半を読むとよく分かるのですが、ライン教授は決してオカルトビリーバーではありませんでした。

 「ラインは天水桶や生まれ変わり、UFOやその他、当時世間の人々の空想力を夢中にさせている奇妙な出来事には心を動かされなかった。それらはほとんど、でっちあげ事例、幻覚、希望的観測と断じられるのだ」(単行本p.135)。

 「結果的にライン夫妻は、そう信じることで追い詰められることになる。テレパシーとPKの可能性があるかぎり、死後生存の証明は曖昧になり、ラインの支援者や他の超心理学者たちとの確執を生み続けることになったからだ」(単行本p.143)

 「死後生存の問題は切り捨てるという、この点では彼と周囲の科学者たちは一致していたのだが、世の人々は死後生存に強い興味を持ち続けた。科学者たちの信念は揺るがなかったが、世間では同じくらいしっかりと死後の世界が信じられており、このふたつの信念が対立すると、ほぼ例外なく科学が負けた」(単行本p.251)

 幽霊なんていない、心霊現象は全てテレパシーとPK(念力)で説明できる。そういう立場を貫いたため、出資者を失い、研究資金に困り、研究仲間が次々と去ってゆくという逆境に追い込まれるライン教授。しかし、それでも、頑固というか一徹というか科学者魂というか、生涯その姿勢を変えることはなかった。そんなところに、ぐっ、ときたり。

 個人的に気に入ったエピソードの一つが、かのティモシー・リアリーにそそのかされて研究メンバーたちといっしょに幻覚剤を試すシーン。

 「酩酊していたラインは、唐突に皆に向かって、実存主義についての論文を朗読してほしい人はいないかと尋ねた。そんなものは誰も聞きたくなかったが、ほとんどのメンバーは答えることさえできなかった。ラインは構わずに朗読をはじめた」(単行本p.226)

 幻覚剤でトリップして、実存主義の論文を朗読しはじめる教授。リアリーが、駄目だこりゃ、と思って去って行ったのも無理はないというか、いい味だしてるなあ、ライン教授。

 巻末には石川先生による「解説」がついていて、本文の補足やその後の展開についての情報が提示されています。巻末にある索引、参考文献、年表は充実しており、超心理学の入門書としても使えそうです。

 というわけで、キャラの立った科学者の伝記としても、オカルト本としても、超心理学の入門書としても、読みごたえがあります。大量の資料にあたって書かれた真面目な労作でありながら、適度にいかがわしい話題も含み、でも読者を馬鹿にしてない、そういうバランスのとれた「超能力やポルターガイスト」の本を求めている方にも、まさにぴったりの一冊でしょう。


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