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『MM9 - invasion -』(山本弘) [読書(SF)]

 本格怪獣小説『MM9』の続編がいよいよ登場。東京に来襲する脅威の侵略宇宙怪獣、迎え撃つはおなじみ気特対と全裸少女怪獣ヒメ。だが多重人間原理によって物理法則を超越する宇宙怪獣を前にヒメは倒され、秋葉原を破壊した宇宙怪獣はついに気特対本部に迫る。果たして人類に打つ手はあるのか。単行本(東京創元社)出版は2011年7月。

 直球の怪獣小説でありながら、「巨大怪獣という存在」にハードSF的に理屈をつけてしまう、という離れ業で読者をあっと言わせた前作から4年、再び大型怪獣災害が日本を襲う。今度は侵略宇宙人が送り込んできた宇宙怪獣だ!

 前作が連作短篇集だったのに対して、本作は長篇。一つのストーリーをじっくりとえがきます。いわばテレビ版に対する劇場映画版という感じ。

 ヒメを輸送していた自衛隊のヘリが、宇宙から飛来した謎の火球に衝突して湖に墜落。不思議なテレパシーに導かれて現場にやってきた主人公の少年は、湖底から怪しい光と共に浮かび上がってきた怪獣ベムラー(仮名)と、巨大化した全裸少女怪獣ヒメとの戦いを目撃。変身を解いたヒメを保護して自宅に連れ帰るはめに。

 今作のヒメにはM78星雲(仮名)からやってきた宇宙人が憑依しており、頭も良くなって、テレパシーで会話も出来るようになり、全裸幼女から半裸少女へと着実に成長しています。八つ裂き光輪も自在に出せるようになり、巨大化には時間制限(もちろん3分間)がついて、「がおっ」という叫び声も、読者の脳裏では「じゅわっ」とか変換されるくらい、様になってきました。

 ストーリー展開ですが、まず前半はですね、主人公の少年が全裸のヒメにどきまぎしたり、母親に見つかりそうになって必死に隠したり、幼なじみの女の子が二人に気付いて「何、あの娘、許せないわ」とか言って尾行してきちゃったり、迷いのないラノベ調、ラブコメ路線です。

 個人的には、前作のようなシリアスな働く大人たちの物語の方がいいと思うのですが、ここは目をつぶって、というか目をつぶると読めないので、気をそらしながらストーリーを追います。

 後半に入るとラノベ調は影をひそめ、どんどん緊迫感が増してゆきます。気特対のシーンも多くなり、ついに宇宙怪獣が来襲。危うし東京スカイツリー。恐るべき冷凍光線で破壊される秋葉原。ビル街のど真ん中で自衛隊との激戦。巨大化したヒメが戦いを挑むも、宇宙怪獣の冷凍光線に倒される。ついに気特対本部に迫る宇宙怪獣。その背後には、これまで決して怪獣に蹂躙されたことのない皇居が。

 本格怪獣小説としてまさしく王道的な展開となります。素晴らしい。東京スカイツリーを最初に倒す怪獣は何だろう、という疑問にもついに答えが出ました。

 読みながら疑問に思えてしかたなかったのは、ヒメが「スペシウム光線」を持ってないこと。なぜ、あえて封じたのか。クライマックスでその謎が鮮やかに解けます。ヒメがとっさの判断で使った攻撃手段で、宇宙怪獣に決定的な打撃を与えるシーンは実に感動的で、ああそうか、スペシウム光線を封じたのは、このシーンのためだったのか、と納得。これ、長く語り継がれるであろう名シーンだと思います。

 前作に比べるとハードSF色は抑え気味ですが、例によって「地球にやってくる宇宙人や円盤が物理法則を無視する理由」とか、「なんで宇宙人はやたらと地球を侵略したがるのか」といった長年の謎を、多重人間原理を応用して「合理的」に説明してみせ、SF読者を楽しませてくれます。

 個人的には、冷凍光線の原理を疑似科学的アイデアで説明してのけ、さらにその応用で「宇宙怪獣に自衛隊のミサイル攻撃が効かない理由」まで理屈をつけたり、あるいは宇宙から落下してくる怪獣(レーダー波に対するステルス能力あり)を発見するための光学観測手段とか、そういったネタが気に入りました。

 そうやって何でも小理屈をこねて合理化するかと思えば、怪獣ファンの魂に触れる事柄については理屈抜きに「それが怪獣というものなのです」(単行本p.235)と言い切ってしまう、そのセンスの良さには脱帽です。

 というわけで、東京のど真ん中で宇宙怪獣が豪快に大暴れする小説、と聞いて読みたいと思う人にとってはハズレなし、読む気にならない方は読まなくて正解、まさしく誤解のない一冊。さらにシリーズは続きますので、これからの展開が楽しみです。


タグ:山本弘
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